長野のローカル番組で徳川家光の「本物の絵」が発見されるまで | FRIDAYデジタル

長野のローカル番組で徳川家光の「本物の絵」が発見されるまで

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元祖「ヘタウマ画伯」徳川家光、渾身の作!? その価値と魅力を専門家に聞く

徳川家光といえば、参勤交代、鎖国など、江戸幕府を強権的政策でゴリゴリに強化した3代目将軍とイメージを持つ人が多いだろう。しかし、そんな彼が実は、元祖「ヘタウマ絵」の画伯だったことをご存知だろうか。

そんなヘタウマ絵の”お宝“が、長野のローカル局・テレビ信州の夕方の情報番組『ゆうがたGet!』(11月3日放送分)の鑑定コーナーで、発見された。

徳川家光《竹に雀図》 個人蔵 「最初、『なぜ長野県に家光の絵が?』『しかも、こんなヘタな絵を?』などと、信じていませんでした(笑)」と番組プロデューサー
徳川家光《竹に雀図》(部分) 個人蔵

家光の絵が描かれた掛け軸で、長野市在住の男性が所持していたものという。弱弱しい筆使いで竹と雀を描いているその絵は、お世辞でも上手とは言えないモノに見える。とはいえ、「将軍の絵」で「値段はつけられない」そうだ。

失礼ながら、なぜそんなお宝がローカル局の夕方の番組で発見されたのか。同番組を直撃すると、プロデューサーの高木真一郎氏が経緯について語ってくれた。

「もともと『ゆうがたGet!』ではこれまでも単発で鑑定コーナーをやっていたんですが、昨年11月からレギュラーで月1回のコーナーになりました。 

というのも、長野では日曜昼に放送されている『開運!なんでも鑑定団』の視聴率が20%近くと大人気であること、長野には歴史好きの人が多いことなどから需要が見込めるという狙いがあったのです。 

とはいえ、『なんでも鑑定団』に出てくるような由緒あるものはないだろう、と誰もが思っていました。実際、これまでは壺や掛け軸、骨とう品、戦争のときの剣、バッジ、Nゲージ、亡くなったおじいちゃんの不用品などが持ち込まれ、出ても3万円とか10万円とかがせいぜいだったんです」(『ゆうがたGet!』プロデューサー高木真一郎氏 以下同) 

そんな中、同鑑定コーナーを監修する長野市の古美術店「浄福堂」の西村敏郎氏が、長野市の男性から預かっていたモノとして、真贋の鑑定を番組に持ち込んだのが、件の掛け軸である。

「掛け軸は竹と雀を描いた作品で、徳川家光の絵だというのです。 

所有者は長野の男性で、信濃美術館の元職員で古美術店を開いていた父親(故人)が残した、『公方(将軍)』と書かれた桐の箱を押し入れで見つけたそうで。西村さんは、本物の可能性が高いというのですが、私たちは最初、『なぜ長野県に家光の絵が?』『家光は書でしょ? 絵なんて描くの?』『しかも、こんなヘタな絵を?』などという具合で、信じていませんでした(笑)。 

それでもディレクターがかなり真面目な顔で『本物かもしれません。取材に行かせてください』と言うんです。 

『それにしたってヘタすぎるだろう』と言いつつ、家光の絵を研究する第一人者で府中市美術館(東京都)の学芸員・金子信久さんに問合せし、掛け軸の絵の画像や箱、覚書(由緒書き)を送って見てもらったところ、『本物かもしれない』と。ただ、肉眼で見るまでは真贋は言えないということで、実際に番組に来てもらい、鑑定を行いました」 

テレビ信州の夕方の情報番組『ゆうがたGet!』(11月3日放送)の鑑定コーナーで発見されたお宝(画像提供:テレビ信州)

その結果、「家光の絵」と判断され、番組は大騒ぎに。

同番組レギュラーの峰竜太なども最初は「家光の絵? うそつけ」などと言っていたが、鑑定結果が出ると驚きのあまり席を離れてウロウロし、担当したディレクターは感極まって涙……という事態になった。

なんと鑑定コーナーのレギュラー化から9回目の放送で、誰も予想しない「お宝」が発掘されてしまったのだという。

「画像を送ってもらった時点で、状況証拠的なものが説得力ある内容だったため、本物の可能性はあると思っていました。 

紙に筆で描かれた筆遣いのタッチや雰囲気がそれらしいことに加え、箱がその時代のものであること、金襴などの表装が非常に立派であること、『魁庵』という方が書いた作品の伝来に関する『覚書』にある『竹雀絵 伝:徳川家光公 筆』という言葉、さらに一番大切なのが徳川家に関わりのあった高田藩(現在の新潟・上越市)に由来するという説明が、家光の作品としてふさわしいものだったことです」

そう語るのは、府中市美術館の学芸員・金子信久さん。

覚書によると、高田藩主を務めた大名・榊原家に伝わり、さらに高田藩領内の大地主・保阪家にわたったものだという。それが後に手放され、巡り巡って長野市の骨とう屋さんにわたったという経緯は、大いに考えられるそうだ。

奇しくも新しいお宝が発見された「家光の絵」だが、実は近年、ひそかに人気急上昇中なのだ。

その大きなきっかけの一つとなったのが、先の「お宝鑑定」を手掛けた学芸員の金子さんが携わった府中市美術館の「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(2019年3月16日~5月12日)である。

実は自分もプライベートでこの展覧会に2回足を運んでおり、「家光絵」にすっかり魅せられ、図録と共に家光絵のバッグやバッヂなどのグッズを買ったくらいだ。だから、今回、長野のローカル番組で「新作」が発見されたというニュースには、かなりワクワクしたのだが、そもそも金子さんは、なぜ「家光の絵」に着目したのだろうか。

「もともと家光の絵として確認されているのは、20点程度。 

広めの画面にちんまりと小さく小鳥だけ描いたり、かすかすの墨と極細の筆で繊細に弱弱しく兎の絵を描いたりした絵が非常に面白く、好きだったんですが、本格的に研究するようになったのは『へそまがり日本美術』の準備からなんですよ。 

というのも、家光の絵は余技で描いたものですから、美術史の研究の中で、家光をわざわざ研究する人はおそらくゼロでしたので(笑)。 

しかし、このヘタウマ感は現代に価値を問い直しても良いのではないかと思い、展覧会のゲストのつもりで考えていました」(府中市美術館の学芸員・金子信久さん 以下同)

この展覧会は本来、寒山拾得図のように不可解さで人を惹きつける禅画や、しっかりした形に描くことを避けているような「ゆるい」味わいを持つ俳画、あえて朴訥に描く南画など、意図的に歪に描いたり、素朴・稚拙に描いたりした作品に惹かれる「へそ曲がりの心」を楽しむという意図のもの。

そうした意味で、どこまで意図的なのか、あるいは本気なのかわからない家光のヘタウマ絵は、あくまで「ゲスト」だったわけだが、これがまさかの大評判となる。

「SNSの反響がとにかくすごくて、驚きましたね。完全にこの展覧会のスターでした。 

ゲストのポジションから一気に主役の座を奪ってしまった感じで、図録の表紙も家光絵になりましたし、グッズも大変ご好評いただきました」 
徳川家光《兎(うさぎ)図》個人蔵 《木兎(みみずく)図》とともに、来秋開催予定の展覧会で公開予定だ
徳川家光《兎(うさぎ)図》(部分)個人蔵
徳川家光《木兎(みみずく)図》養源寺(東京都文京区)蔵
徳川家光《木兎(みみずく)図》(部分)養源寺(東京都文京区)蔵

そんな金子さんから見て、長野で発見された「お宝」の印象は?

「力作だと思います。家光の絵はこれまで広めの画面にちんまりと小鳥だけ描いているようなものが多かった中、小鳥に加えて竹も丁寧に描き込んでいるのは初めてではないでしょうか。 

しかも、竹の描き方も、濃淡がついていて工夫されていますし、ずいぶん気分がのっていたんじゃないかと思います。 

ただ、家光は鳥をよく描くんですが、足がうまく描けないのは一つの特徴で、この絵でも竹にのっているつもりなのか、なんなのか、よくわからないことになっています。 

細い線で細かく描き込んだ兎やみみずくの絵と違い、描き方は大まかですが、滲み出てくる、思わず笑ってしまうような和む雰囲気は共通していますよね」

ちなみに、家光が自分の描いた絵を大名などにあげていたというのは、当時の記録に残っているそうだ。この絵をもらった瞬間の大名たちの反応が気になるが……。 

「ありがたい一心だったはずです。他の大名に喜んで見せている記録もありますから。 

後で見てから『あ……』と思った可能性はなくはないですが(笑)。 

家光にとっては、絵をあげるという行為は、武士同士の主従間で信頼関係を作る上での大事な道具だったのではないかと思います」

では、家光の絵は、実際に上手いのか下手なのか。また、その価値は?

「家光が本当にヘタだったのかどうかはわかりません。 

なぜなら、家光のまわりには狩野探幽をはじめ一流の画家たちがいたわけですし、手ほどきを受けることも当然できたはずですから。 

実際、江戸時代に絵を描いた大名はたくさんいて、狩野派みたいに描こうとしている人もいるんですが、いわゆる本職とはやっぱり違う。 

その点、手本のモノマネをするのではなく、自由に自身の思うように描いているのは、『上様だから、これでいいんだ』『特別なんだ』という思いのあらわれの気もします。 

また、美術的価値という観点では、現代アートを見ればわかるように、作品の価値というのは、単純な技術の上手さだけではありません。価値や魅力は、最終的には、その作品を取り巻く『目』が生み出すものです。 

例えば、かつてお茶の世界などでは、朝鮮で雑器として作られたものが、日本に輸入されると、日本の人たちは素晴らしい味わいを感じて、高い美術的価値を持つ、といったこともありました。そういったことを考えてみても、家光の絵には、今、『あの将軍が描いたおかしな絵』という、現代ならではの美術的価値もあるといえます」 

殿さまがどういうつもりでこれらのヘタウマ絵を描いたのか、本気だったのかどうかは、現代に生きる誰にもわからない。しかし、それがどういうわけか、私たちの心に響いてしまうのは事実。

おそらくそこには、江戸幕府で幕藩体制を固めた硬派中の硬派の将軍が、画面の隅に小さく、ちまちまと細く繊細な絵で鳥や兎を描いているというギャップに惹かれる部分もあるだろう。

府中市美術館は来秋に開く展覧会で、今回長野で発見された「竹と雀」も公開する予定だ。ちなみに、この「お宝発見」に刺激を受け、現在、テレビ信州『ゆうがたGet!』には一獲千金を目指す人たちの鑑定依頼のお手紙が多数きているという。コロナ禍でどこにも行けなそうなこの1月、ちょっと家の押し入れでも探ってみるか……。

 

金子信久 慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。福島県立博物館学芸員を経て、府中市美術館学芸員。著書に『江戸かわいい動物』『日本おとぼけ絵画史』『作家別 あの名画に会える美術館ガイド 江戸絵画篇』『鳥獣戯画の国』(いずれも講談社)、『かわいい江戸の絵画史』(監修、エクスナレッジ)など。

『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』著・編:府中市美術館
  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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