女児向けアニメ『プリキュア』が大人女子にも人気な理由 

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奇しくもコロナ禍の現代にも重なる「生きる」「絆」「思いやり」というテーマや、「地球のお医者さん」というモチーフに、「癒やされる」という声も

2004年にスタートした女児向けアニメ『プリキュア』シリーズ。その通算17作目にして15代目のプリキュア『ヒーリングっどプリキュア』(テレビ朝日系)が、本来のターゲット・女児だけではなく、なぜか大人の女性たちを夢中にさせている。 

特に登場するたび、Twitterのトレンド入りを果たすのは、敵キャラの美少年・ダルイゼンで、「美しすぎる」「ダルイゼン君かっこいいなあ」「ダルイゼンさますき!」「ダルイゼン君過去一で悪くて好き かっこいい」などの声が続出しているのだ。 

©ABC-A・東映アニメーション

また、「生きる」「絆」「思いやり」をテーマに、「地球のお医者さん」をモチーフとしたことが、奇しくもコロナ禍の現代にも重なったことで、「癒やされる」「地球のお手当てしてほしい」という声もある。こうした反響をスタッフはどうとらえているのだろうか。

今回がプリキュア初参戦というプロデューサーの東映アニメーションの安見香氏は言う。

「プリキュアシリーズの流れの中で、18年の『HUGっと!プリキュア』では「未来」や「子育て」を、19年の『スター☆トゥインクルプリキュア』では「宇宙」「多様性」をテーマにしていたので、今回は身近なところで『地球』を感じられるテーマにしようと思いました。 

オリンピックイヤーなので、スポーツ関連も含め、いろいろと検討しましたが、本来は世界中からたくさんの人がやってくるはずだろうというところで、むしろ人間のコアである“人と人との思いやりのつなげあい”を改めて見せたい、と。 

当然、世の中がこんな風になるとは誰も思っていなかったですが、コロナ禍が始まったばかりの頃にはよく『プリキュアが世の中をお手当してくれれば良いのに』と言って下さる方もいて、そのような形で励みにしていただけたのはありがたいと感じましたし、とても支えになりました」

とはいえ、コロナが拡大したときにはすでにアフレコは1クール分ほど終了し、シナリオは佳境に差し掛かる段階だった。そのため、作風でコロナを意識することはなく、むしろ「地球を蝕む“ビョーゲンズ”自体をコロナウイルスと重ねて見られないようにすることを心掛けた」と、同じくプリキュア初参戦のプロデューサー・ABCアニメーションの安井一成氏も言う。

ビョーゲンズである “ナノビョーゲン”が、地球上のあらゆるものに存在する精霊「エレメントさん」を取り込み進化する先で、次の段階として人間を取り込むことは最初から決まっていたが、「体内に入るのではなく、あくまでファンタジーとしてとりこむ、包みこむという表現方法は死守すること。何らかを想起して悲しい思いをする方がいないようにと、出来る限り細心の注意を払った」(安見氏)という。

本作は、シリーズディレクターを池田洋子氏、シリーズ構成を香村純子氏、キャラクターデザインを山岡直子氏が務めているように、メインスタッフが女性中心というのも大きな特徴だ。 

「女性目線は強いと思います。打ち合わせでは、男はほぼ僕一人。だから、女子会みたいな感じで、おやつを食べながらみんなで打ち合わせするんですが、女性の心の機微など、細やかなところを特に大事にしていて。 

シリーズ構成の香村さんのこだわりも強くあって、『〇〇はこんなこと言う・言わない』という線引きが明確にあるんですよ」(安井氏) 

「女性スタッフが集まったのは偶然ですし、ジェンダーの良し悪しはないですが、確かに本読みの感覚が合わせやすい部分はありました。香村さんが良いと思うこと・嫌だと思うことに対して、経験してきているものが女性同士ではフィットしやすかったのかもしれません。 

『こういう言い方をすると他人の気に障るだろう』とか『この子が嫌な言い方をしていることになってしまわないだろうか』といった細かいところに感覚の一致があり、それがキャラクター造形の細かい点で共有できた実感はありました」(安見氏)

©ABC-A・東映アニメーション

絶賛の声が多いのは、主人公・花寺のどか/キュアグレースの「圧倒的主人公」感だ。といっても、明るく元気なドジっ子のようなステレオタイプのヒロインではない。周りの人にかける言葉の優しさ、他者の心に寄り添える共感力の高さ、繊細な感受性、諦めない心の強さなどに対して「自分史上一番推せるプリキュア」「一番応援したくなるヒロイン」という声が多数あるのだ。

「今回は、元気で明るいまさに!という主人公像というよりは、『ひとの気持ちが分かる子にしたい』というのは、みんなに共通した目標でした。また、思いやりをあらわすうえで、セリフだけではなく、本人たちの行動自体から滲み出るほうが、より伝わるだろうと。 

ただ、キャラクターを作っていくとき、のどかを身近に感じてほしいがゆえ、なるべく「普通の子」という設定を目指したのですが、『普通の子ってどういう見た目なんだろう、この子は何が好きなんだろう』ということが逆にひとつのハードルだったのかなと思います」(安見氏)

©ABC-A・東映アニメーション

また、のどかには幼少期、病気で長期間入院していた過去がある。このような特徴を持っているのは、おそらく初めてのことだが……。

「これから始まる物語のビハインドストーリーとして病気だったことはあるが、今は健やかであり、前向きだということを大事にしています」(安見氏)

しかし、このビハインドストーリーによって、「病気だった経験から、命を誰より大事に考える」「自分が医師などみんなに助けてもらったから、誰かを助けたいという思いが強い」「入院生活が長かったから、初めて出会うことが多く、いろんなことに新鮮な喜び・驚きを感じる」「体を動かしてきた経験値がないから、走ることなどが不得手」「病気と闘ってきたから、諦めない気持ちが誰より強い」といった様々な要素が説得力を持ち、深みのある魅力的なキャラクターになっているわけだ。

「のどかは基本的には『助けてあげたい』とは言わないんですよね。『~してあげたい』ではなく、『~したい』と思うから、する。 

運動ができないのも、運動音痴というわけじゃなく、これまで経験がないだけ。初めてやることが面白くて仕方ないから、自然と前向きになるんです。優しさにイヤミもない。本当にいい子になったなあと思います」(安見氏)

また、本作の大きな特徴として、主人公たちがプリキュアになる経緯が「自分の意思」によること、共に闘う「ヒーリングアニマル」との関係性が、守る・守られるではなく、あくまで「パートナー」であることも挙げられる。

「私も安井さんもプリキュアにかかわるのが初めてなので、『プリキュアって何?』と考えるところからスタートしたんです。 

突然のプリキュアという使命を自然に受け入れることも定石としてはあって、そういう伝統の良さももちろんあると思うのですが、今回は“地球のお手当て”をすることになるので、より納得した上でならなくてはダメなのだろう、と。 

また、お医者さんはヒーリングアニマルで、その手助けをするのが人間なんですよね。その絆を描く上で、危険な闘いになることをヒーリングアニマルたちはわかっているから、『この子で大丈夫だろうか。やる意思があるか』という部分はしっかり描きたいと思い、1~2話連続で一人の子のお話にし、想いを伝えあって納得した上で、そこで改めて変身するというかたちになりました」(安見氏)

©ABC-A・東映アニメーション

ところで、登場するたび、SNSで毎度盛り上がるのは、敵キャラで、ビョーゲンズの幹部の一人「ダルイゼン」だ。暗緑色のショートヘアに青白い肌、常に無気力かつクールで、斜に構えた美少年。進化後には美しさに磨きがかかり、「もはや美少女」という声もある。

また、人気の理由はビジュアルや気だるい雰囲気ばかりではない。ダルイゼンは、グレースのモチーフである「花」型のピアスを耳につけていること、オープニングでも対峙するシーンが描かれていること。さらに、同じ口グセ「生きてるって感じ」を、のどかはポジティブに、ダルイゼンはネガティブに、真逆のニュアンスで発することなどから、浅からぬ「因縁」が感じられていた。

しかも、メガビョーゲンの一部が幼い頃ののどかを宿主として成長した後に出てきた存在がダルイゼンで、のどかが長期間入院生活を強いられることになった原因不明の病気の原因でもあったことが発覚する。そうした二人の「因縁」も含め、視聴者の反響につながっているのだが、安井氏は率直な感想を次のように語る。

「作り手としては嬉しいところもありますが、そこを目標にしていたわけじゃないのになあ、と。我々はあくまで女児向けに作っていますし、子どもたちに悪いヤツだと思ってもらえることがまず大事なんですよ」

また、このキャラが誕生した経緯について、安見氏はこう説明する。

「最初から敵の誰かとのどか・グレースに因縁、結びつきがあるというのは香村さんの中で決まっていたことでした。 

敵のキャラクターにはわかりやすい性格を持たせたいと思っていて、やる気のない感じ、自分さえ良ければ良いと思っているダルイゼンと、『キングビョーゲンさま大好き』のお姉さま・シンドイーネ、筋肉ムキムキでちょっとおバカだけどやる気はあるグアイワルを決めた時点で、お子様にも親御さんにも見やすいようにしたかったので、見た目的には人型にしたかったんです。 

その3人は男・女・男と決まっていて、グアイワルがムキムキなので、ダルイゼンはイケメンにしたいなと。 

キャラクターデザインの山岡さんとシリーズディレクターの池田さんと私とで『イケメンとは』というところから話し合い、若めの少年で世の中を気だるげに見ている雰囲気の子はどういう子か、色々と検討しながら『こっちのほうがかっこよいのでは?』なんて会話をしつつ、黒髪っぽく、目はちょっと気だるく涼し気にスッとのびている感じなどになりました。ただ、彼は地球を蝕む人ですからね。肌の色などは別世界の存在、という雰囲気が出るように、決めていきました。」(安見氏)

©ABC-A・東映アニメーション

また、後半に入り、「何度聞いても笑ってしまう」と話題なのが、プリキュアたちが発する「アメイジングお手当て」というパワーワード。いったいどのように生まれたのか。

「最後の盛り上がりにおいて、新しい浄化アイテム『ヒーリングっどアロー』を手に入れてさらに強くなる展開が描かれるのですが、アイテムの見た目を見ながら、みんなで『最上のお手当て』について、悶々と考えました。 

スペシャルとかスーパーとかウルトラ、マーベラスとか…いろいろあると思うのですが、素敵感が一番あるのは『アメイジング』かなと。 

たどり着いたのは偶然でしたが…グレース(のどか)という言葉の入る、『アメイジング・グレイス』という歌もあるから、ちょうど良いかもね、と。『アメイジングお手当て』は、必殺技ではないし、討伐ではなくあくまでも浄化ですから、優しい言葉にしたい。“最上の浄化”という意味をこめました」(安見氏)

残り放送回はあと7話。最後に、今後の見どころを語ってもらった。

「僕、1~2話では、プレビューをしながら号泣していたんですよ。僕はこの作品を子どもたちに見せたい作品ナンバーワンにしたいと思ってやってきました。実際、そういう作品になっていると思います」(安井氏)

「それぞれのキャラが時間軸を経るごとに芯が通っていく、納得できる人物に成長していく物語でもあると思っています。この1年間見守っていただいてきた彼女たちが、それぞれの思いを重ねたうえで、どういう道を選ぶのか。 

それは、この子たちが一生懸命考えてのものだと思いますので、あたたかい目で見守っていただけると、とっても嬉しいです」(安見氏)

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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