綾瀬『天国と地獄~』で光る「うっかり八兵衛」溝端淳平の存在感 

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鈍感さと聡明さ、純粋さとテキトーさとが同居する特異な魅力

森下佳子脚本×綾瀬はるか×高橋一生出演で、数字・評判ともに絶好調のTBS日曜劇場『天国と地獄~サイコな2人~』。 

捜査一課の刑事・望月彩子(綾瀬)と殺人事件の容疑者・日高陽斗(高橋)の魂が入れ替わる物語ということは、最初からわかっていた。 

そこに彩子の「ただの同居人」で、清掃&便利屋をするフリーターの陸(柄本佑)も、どこか怪しげな存在感を放つ一方で、頼もしさも見せ始めている。

そんな中、スリリングな展開の渦中の中で、ただ一人、コメディリリーフとしての重要な役割を担っているのが、彩子の後輩で「Theゆとり」のバディ・八巻を演じる溝端淳平だ。 

入れ替わった彩子(魂は日高)に違和感を覚える敏感さを見せつつも、いつもより落ち着き払った彩子の様子に「なんか、いいっすね!」と思わず赤面してみせる呑気さは絶品だ。

しかも、そこでいったん視聴者をズッコケさせておいて、第一話ラストシーンでは、日高の姿になった彩子がいる家を訪問。インターホン越しに、彩子が八巻との会話で使っていた上司や八巻のあだ名などを質問し、2人が入れ替わっている事実を確認するというファインプレーぶりを見せた。

しかも、入れ替わりの事実に気づいてからというもの、自由に動くわけにいかない日高(彩子)の代わりに、八巻が駒となって暗躍する。

ところが、入れ替わる前に日高が愛用していた革手袋が発見されると、その指紋やDNAから日高(彩子)が逮捕されてしまうため、すり替えを頼まれたものの、すり替えのときに右側と左側を間違えてしまう八巻。

さらに、彩子(日高)が卵焼きの味の好みの変化を呟くと、「味覚は体に引っ張られるから、望月さんの好みになるっていうか」と、致命的なうっかり発言をする。

そうした数々のうっかりぶりと、愛されキャラぶりに、「来週もどうか生き延びて」などと、心配の声が続出していたくらいである。

それにしても、溝端淳平がこの作品で担っている役割は本当に大きい。 

先述したように、コメディリリーフとしての役割が、まず一つ。 

そして、常識的には考えられない2人の“入れ替わり”という世界観を違和感なく成立させる役割。

これは、物語の出発点となる部分だけに、最初に入れ替わりをスムーズに受け入れる素直すぎる感性の持ち主という存在が必要で、そこに説得力を持たせることができるのは、溝端淳平が演じるからだと思うのだ。

さらに、溝端演じる八巻は、単に笑いを提供するだけでなく、主人公を助けつつも、危機に陥れる厄介なアクシデント要員・言ってみれば「うっかり八兵衛」的役割も担っている。

ザックリ分けると、『古畑任三郎』(94年)の、おっちょこちょいで捜査の役に立たない「今泉くん」(西村雅彦)、『踊る大捜査線』(97年)の「スリーアミーゴス(北村総一朗、斉藤暁、小野武彦)、『TRICK』(00年)の「カツラ」「ズレてる」の言葉に敏感な警部補・矢部(生瀬勝久)などとも同系譜だろう。

『天国と地獄~サイコな2人~』では、彩子(綾瀬)の後輩で「Theゆとり」のバディ・八巻を演じる溝端淳平。数々のうっかりぶりと、愛されキャラぶりに、「来週もどうか生き延びて」などと、心配の声が続出(写真:アフロ)

溝端淳平、現在、31歳。昔から変わらない、爽やかで整った、クセのない顔だが、「どこかヌケた好青年」「うっかり八兵衛な後輩」ポジションにおいては、彼はもはやベテラン、「名人芸」の域に入っている。

象徴的なのは、天海祐希主演の『BOSS』(2009年)シリーズ。今から10年以上前にすでに溝端は、正義感が強く、元気が取り柄でドジな後輩・花形一平として魅力的な「ドジっ子」ぶりを発揮していた。ムードメーカーで、天海祐希を最初に「BOSS」と読んだ人懐こい番犬感もあり、同僚たちからは「やる気茶屋」と呼ばれていたのが、なんだか懐かしい。

また、近年では、戸田恵梨香主演の朝ドラ『スカーレット』で、ヒロイン・喜美子(戸田)が女中として働く下宿・荒木荘に住む医学生で、「初恋の人」圭介役を演じていた。

イケメンで、優等生で、誠実で、おおらかだが、ちょっと薄味だと思っていたところ、近所に越してきた泉田あき子(佐津川愛美)に一目惚れするところから、魅力が一気に大幅増となる。

あき子を好きになってしまった惚けた表情とポーズは、一瞬で視聴者を爆笑させる威力を放っていたのだ。

しかも、圭介が「い・が・く・せ・い」という事実を喜美子があき子の父に伝えたところ、あき子の態度が豹変。突然荒木荘を訪ねてくる展開となり、圭介は会う前から「チュー」のことを心配するのだった。

こんなにも優等生で、奥手で、鈍感で、未成熟な「残念イケメン」ぶりが似合う俳優は、そうはいない。

また、長年にわたって、溝端淳平の素の魅力が見られたのは、『誰だって波瀾爆笑』(日本テレビ系列)だ。

スタジオを飛び出し、ゲストの仕事やプライベートの密着ロケなどをすることが多かったが、際立っていたのは、相手との距離がものすごく近いこと。渡辺裕之が登場した回(2009年5月10日放送分)では、「なんて呼んだら良いですか?」といきなり聞き、渡辺がよりによって「アニキ」と言ったことから、番組中ずっと「アニキ!」と連呼する妙な展開になっていた。

また、『99プラス』(日本テレビ系/2008年9月23日放送分)で、ナイナイと戸隠登山対決をしたときには、じゃれ合いつつも、岡村に頭上で屁をこかれるという奇跡を起こしている。

また、『めちゃ×2イケてるッ!』内コーナー「近くへ行きたい」(フジテレビ系/2010年5月15日放送分)では、「マツコとイケメンの街をゆく。」企画で、「マツコがデビュー当時から目をつけていた」ということで呼ばれ、マツコ・デラックスの隣でちっちゃくなっていたものの、後に膝に座らされるという珍場面が見られた(『シバトラSP』の番宣も兼ねていたのだが)。

日本テレビ「誰だって波瀾爆笑」公式サイトより

溝端淳平のパブリックイメージともいえる「明るさ」「おおらかさ」「育ちの良さそうな感じ」「おっとりお坊ちゃん感」は、『天国と地獄~』で演じる「Theゆとり」八巻をはじめ、様々な作品の様々な役柄に生かされている。

しかし、実際にインタビューする機会をいただいた折に感じたのは、非常に目配りが細やかで、気遣い屋で、お話が上手く、サービス精神旺盛な方だということ。

また、その一方で、「いつも元気だね、明るいね、悩みとかないでしょと言われることが多い」と言いつつ、「最近は、そういう風に思われてもいいやと思えるようになった」という本音も漏らしていたことが強く印象に残っている。

第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリとボルテージ賞を受賞し、歴代受賞者で最多となる40社からスカウトされ、上京した「エリート」。しかし、そのルックスから「明るい」「元気」「爽やか」「育ちが良さそう」「悩みが無さそう」などのイメージを持たれ続けてきたことに、苛立ちや疲労を感じたことも多かったのかもしれない。

しかし、そうしたイメージを引き受け続け、作品・役柄・あるいは場面で求められるモノを的確に、期待以上に表現し続けてきたからこそ、他の誰にも演じられない『スカーレット』の圭介や、『天国と地獄~サイコな2人~』の八巻の魅力にたどり着いたのだと思う。

『天国と地獄~』という作品において、八巻が果たしている役割は数多く、それを成立させているのは、間違いなく溝端淳平の表現力・演技力だ。自信と誇りを持って、最高に可愛い「うっかり八兵衛」を見せてほしい。 

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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