世界の台所探検家・岡根谷実里が「各国のレシピ」で伝えたいこと | FRIDAYデジタル

世界の台所探検家・岡根谷実里が「各国のレシピ」で伝えたいこと

海外旅行もできぬ今、世界の台所を通じて、文化や生活などの「リアル」を伝えてくれる1冊に心躍る

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これまでに訪問した国/地域は60以上、NHK『世界はほしいモノにあふれてる』はじめ、多くのメディア出演や記事執筆をしてきた「世界の台所探検家」の岡根谷実里さん。

クックパッドに入社し、勤務と並行して「台所探検家」として活動している岡根谷さん。各国の食卓を通じて、リアルな生活や文化を紹介している

彼女が初の著書『世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる』(青幻舎)を出版した。世界各地の台所を巡り、現地の人と一緒に料理をし、食事を通して体験したリアルな暮らしと文化のストーリーを多くの写真とともに紹介している。さっそく本人に著書完成に至る経緯と出版後の反響について話を伺った。

紛れもないドキュメンタリー

岡根谷さんは、長野県生まれで東京大学大学院工学系研究科修士修了後、料理レシピ投稿・検索サービスのクックパッドに入社。勤務を続ける一方で「世界の台所探検家」として海外を個人で飛び回ってきた。また、小中学校の授業で料理教室や講義なども行っている。

今回発売された書籍内で紹介されている訪問先は、インドネシア、タイ、インド、中国、オーストリア、コソボ、ブルガリア、モルドバ、ウクライナ、キューバ、コロンビア、スーダン 、ボツワナ、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンの16の国と地域。オールカラーで、著者が撮影したリアルな現地写真もふんだんに掲載、また現地家庭で教わったレシピも13品紹介されている。

「自分の経験してきたことを一冊の本にしたいとは思っていたんですが、なかなか実現できるチャンスはなかった。そんな折、昨年の3月に編集者さんから連絡をいただいたんですね。その方は、私が出演したNHKの『世界はほしいモノにあふれてる』を観てくれていて、世界の家庭に私が飛び込んで受け入れられている姿が印象に残っていたのだそうです。以前彼は編集プロダクションに勤務していて、クライアントの作りたいものを形にする仕事をされていたのですが、出版社に転職したことで“これからは好きな本を作れるから”と、その第一弾に私の本を選んでくれたんです」

ヨーロッパのウィーンでは74歳のエリザベートおばあちゃんからチョコレートケーキのレシピを教わる岡根谷さん

初の著書ということもあり、執筆作業では編集者からの修正依頼もしばしば。彼からの指摘は岡根谷さんにとっても納得させられることばかりだった。

「ああ、そうだったのか、と気づかされることが多かったですね。自分では“これは既知だろう”と思っていたことが、実は読者にとっては既知ではないということを教えられました。それが最初わからなくて。例えばコソボだったら、そもそもコソボはアフリカの国なのか、ヨーロッパの国なのかわからないということは前提であると。

導入の描写というか、ディテールを表現できるように工夫しました。そんなの今まで書いてなかったですよ。また、なんでそこの家庭を訪れたのかとか、読む人が気になるような旅の導入を入れるべきだという発想もなかった。それをすごく指摘されましたね。台所探検の旅は、自分では意識していない出発前から始まっていたんですね」

『台所探検』の名前の通り、この本は単に世界の料理を紹介したものではない。まさに「探検」してきた事実を著者の興味津々な視線で綴った紛れもない「ドキュメンタリー」だった。

タイ北部に住む少数民族アカ族の村で、山の知恵を知るアカ族の夫婦と野草料理を作り、2008年に独立した「世界で最も若い国」のひとつ・コソボで、「アルバニア山岳部の料理・フリア」をお母さんと作りながら、歴史に翻弄された民族を想う。

ブルガリアでは、赤いパプリカを大量に焼く一家総出のイベント「リュテニツァ作り」に参加。ウクライナでは、なんでもないただのじゃがいも料理が家庭に笑顔を生み出していることを知り、キューバの台所では、社会主義国家の庶民の生活を台所で目の当たりにする。

「食卓を囲む瞬間はみんなが笑顔になる」

——岡根谷さんの探検記は、まさにその真実を証明してくれている。

レシピで現地の台所へ思いを馳せる

コロンビアの朝の定番ドリンク『チョコラテ』。ポイントはチーズが入っていること!温かさで溶け出してホッとする味に(撮影:石原麻里絵 (fort) )

『世界の台所探検』は、オールカラーで岡根谷さん自身が各地で撮影した写真も300枚以上使われ、この本のために撮影された料理レシピの写真も掲載されていて目でも楽しめる1冊となっている。

「私としては、モノクロの文字だけの本にするつもりだったんです。新書みたいなイメージ。ところが、青幻舎さんは主に芸術系の本を出している出版社だったこともあり、すごくビジュアルを活かしてくれた。デザイナーさんも細部までこだわって提案してくれました」

レシピを入れたのも理由があった。本を読んで「どういう料理なんだろう、どういう暮らしなんだろう」と思った読者に、「もう一歩踏み込んでもらいたい」、という意図があったからだと言う。

「実際“こうやって食べるんだ”とか、“こういう味なんだ”ともう一歩気持ちが現地に近づくことをやりたいと思っていました。それは編集者さんからの提案だったんですが、すごく良かったですね。驚いたのが、本を読んだたくさんの方が実際に作ってくれているんですよ。TwitterとかInstagramなど、実際に作った写真と共に楽しそうな声が寄せられます。

最もよく作っていただいているのが、インドネシアの『ココナッツオイルとタイミニャのサンバル』。ココナッツミルクを煮詰めてオイルとタイミニャに分離させ、このタイミニャをニンニクや唐辛子とともに炒めて“ひき肉そぼろのようなおかず=サンバル”を作るというもの。日本に暮らす私たちにとってまったく馴染みのないものだから、興味が惹かれるのだと思います。

キューバ全土の家庭で毎日のように食される『フリホーレス』。米・豆・油などの生活のための最低限の食料は配給されるため、すべての人が平等に食べることができる国民的料理なのだ(撮影:石原麻里絵 (fort) )

あと意外に多かったのがキューバの『フリホーレス』、黒インゲン豆のスープですね。キューバ音楽を愛する根強いキューバファンの方が懐かしんで作ってくれるみたいです。それからコロンビアの『チョコラテ』。ふわっふわに泡立てたホットチョコレートなのですが、これも手軽ということもあって、結構作られています。みなさん、写真もアップしてくれているんですよ。そうやって寄せられた料理写真を現地家庭に送ると、とっても喜んでくれました」

読者の反応はどうだったのだろう?

「旅に出たくなった、というのはもちろんあるんですけど、予想していなかった感想もありました。“面白くてワクワクして一気に読んでしまいました”という人がいる一方で、“読むとホッとするから毎日少しずつ読んでいます”という人たちもいました。特に受験前の高校生が、ちょうど受験勉強の大変な時期に、“本を買いました!”って連絡をくれて、“さすがにまだ読んでないよね、積んであるよね”と言ったら、“いや、今自分が何のために勉強をやっているのか、今は目先のことになってしまいがちだけど、将来何をするかということに引き戻してくれるし、頑張る目標を見せてくれる。そしてこれを読むと受験でザワザワした気持ちが落ち着いて一日終えられる。だから1日一章ずつ読んでいます”と言ってくれて。

インドではお手伝いさんを雇う家庭が多く、台所ではお手伝いさんが食事中に熱々のプーリー(揚げパンのようなもの)を運んできていた。スパイスをたっぷり使っていながらも体に優しい料理が印象的

“ああ書いてよかった”と思いました。私が書いているのは変わらない日常なんです。紛争があるような社会でも、食卓を囲むあったかい時間、穏やかな時間ということを書いているので、その安心感が伝わったのだと思います。ワクワクする旅という側面もありつつ、変わらない穏やかな暮らしという面もあって、2つの読まれ方をしているのかな」

新たな「台所」を求めて探検は続く

岡根谷さんは、今年3月付で7年間勤務してきたクックパッドを退職することを決めた。

「自分の活動が増えてきて、もっと本腰を入れて活動していきたいと思ったんです。今までやってきた方法以外の発信もしていきたい。“世界って楽しいんだよ”ということを、特に子供たちに向けて。まだ具体的にはなっていないのですが、例えば台所探検を擬似体験できるようなことなのか、プログラムを作っていくのか、そういうことにも挑戦したいなと思っていますね」

海外に行けない現在、岡根谷さんは新たな台所探検も考えている。

「異文化って日本の国内にもありますよね。日本に住む外国の方のことも、台所探検を通して身近な存在にしていきたい。まだ考え中ですが、台所探検家としての様々な活動と発信を考えています」

先日も岡根谷さんは、オンラインで日本の中高生とスーダン人が料理を通して交流するワークショップなども開催している。

「新たな日常」が始まりだした現在、「世界の台所探検家」も新たな一歩を踏み出しているのだ。

こちらはブルガリアでの1枚。食卓では誰もが笑顔。美味しい料理を前に、家族とともに過ごすときは海外でもかけがえのない時間のようだ
  • 取材・文小泉カツミ写真(料理)石原麻里絵 (fort)

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