“愛でる”から“共感”へ…「中年ドラマ」が静かに変化するワケ

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自分の小さな世界と、その周辺の人々とのつながりをリアルに描いた『おじさまと猫』と『その女、ジルバ』が話題

仕事熱心で家事が全くダメなヒロインと家事全般が完璧なおじさん家政夫を描いた多部未華子主演の『わたしの家政夫ナギサさん』(TBS系)や、シブく紳士的で仕事もできるイケオジの“推し(カワイイもの)”への愛を描いた眞島秀和主演の『おじさんはカワイイものがお好き。』など、昨年は空前の“おじかわブーム”などと言われていた。 

そうした流れの中で、社会現象ともなった『半沢直樹』続編では、かつて敵として立ちはだかった大和田(香川照之)が、半沢と共闘する展開が描かれ、ツンデレぶりなどに「カワイイ」という声が続出していたほどだ。 

これはあくまで女性たちがおじさんを「可愛い」「癒される」と言って愛でる目線だろう。そうした流れの原点であり頂点ともいえるのが、おじさんたちのワチャワチャを愛でる第1シリーズの『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(2017年/テレビ東京)だ。 

Ⓒ「おじさまと猫」製作委員会

『おじさまと猫』1~3話を今すぐ読むならコチラ

しかし、そうした対象(おじさん)から距離を置いた視点ではなく、自身と重ね合わせて共感してしまうのが、桜井海による同名コミックを原作とした草刈正雄主演の『おじさまと猫』(テレビ東京)である。 

ドラマを観たことがない人にとっては、カワイイ猫をおじさんが「カワイイ」と愛でる様子を、女性たちが「カワイイね~」と愛でる作品に見えるかもしれない。ところが、実際に観てみると、全く違う。

世界的なピアニスト・神田冬樹(草刈)は、約1年前に妻を亡くし、ステージにあがれない状態のまま失意の底にあった。そんなとき、友人の勧めなどもあって、ふと訪れたペットショップで1年近くも買い手がつかずに売れ残っていたブサイク猫と出会う。これが、なんとぬいぐるみ(声は神木隆之介)で、最初は視聴者から「不気味」「気持ち悪い」などの批判も少々あがっていた。

ところが、そうした批判の声はすぐに絶賛に変わっていった。これまで愛されたことがなかったブサイク猫は、ペットショップにいた頃は食欲もなく、ずっと俯いていたが、自分を愛してくれる人と出会い、自分の居場所を得て、「ふくまる」という名をもらったことなどから、みるみる可愛くなっていく。初めての「留守番」で、鏡にうつった自分を見知らぬ者と認識して格闘したり、ペットショップの勧めで去勢手術を経験したり。

その一方で、ピアノから遠ざかっていた冬樹は、音楽教室で子どもたちにピアノを教え始め、ふくまるの写真をきっかけに、子どもたちや同僚たちと交流するなど、完全に閉ざしていた世界が徐々に広がっていく。さらに、そんな冬樹をきっかけに、子どもの頃にピアノに挫折して遠ざけていた同僚が、コンプレックスを解消できたり、一方的に冬樹をライバル視して敵意を持っていたピアニストが自身の誇りを取り戻したり、そうした出会いをきっかけに、冬樹自身もピアノと再び向き合い、楽しさを思い出したりする。

愛されることによって「生きる」実感を得る猫と、そんな猫との暮らしで、妻を亡くなった喪失感を乗り越え、希望を得て再生していくおじさんとの物語なのだ。

しかも、誰にも選ばれずに俯いていた猫の姿が、ピアノの「天才」と呼ばれて他の子と遊ぶことを母に禁止されていたために、友達が全くいなかった少年時代の自分と重なって見えたことが、猫を飼うきっかけだったこと。また、そんな自分にただ一人声をかけてくれたのが、現在まで続く親友で……と、人間と生きものが交錯し、過去と現在とがリンクしながら、様々な人・生きものの「希望」や「再生」が描かれていく。実によくできたヒューマン&キャットドラマなのである。

『その女、ジルバ』では、池脇千鶴が非常にリアルな40代女性を演じて共感を呼んでいる(写真:アフロ)

一方、池脇千鶴が非常にリアルな40代女性を演じていることで話題となっているのが、有間しのぶによる同名コミックを原作としたオトナの土ドラ枠『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)だ。

主人公である新(池脇)はアパレル会社で売り場販売をしていたが、「姥捨」と呼ばれる倉庫勤務に異動させられ、沈んだ気分で40歳の誕生日を迎える。しかし、人生終わりモードになっていたところ、街中である貼り紙に目を留める。そこには「ホステス求ム! 40才以上」と書かれていたのだ。

「40才以上⁉」と驚いた新は、超熟女バー「OLD  JACK&ROSE」に思い切って飛び込み、そこから新たな人生がひらけていくという物語だ。

この世界では「シジューなんてまだ若い!」と言われ、「小娘」「ピチピチ」「ギャル」扱いされる。まるで竜宮城か、はたまた桃源郷にでも迷い込んだような幸福感だが、居心地が良いのは「若者扱い」されるからばかりじゃない。

この店で働く人々は皆、行き場がなかった人たちばかりで、だからこそ人の痛みをよく知り、優しく明るく、非常にパワフルである。そんな人たちとの交流により前向きに変わっていく主人公と、そこから影響を受け、変わっていく倉庫勤務の同僚・上司たち。それぞれに立場も経歴も異なる人々がたどり着いたシジューの葛藤や苦しみ、そこからそれぞれに見つける希望や再生が描かれていく。

思えば、よしながふみの同名人気コミックを原作とし、安達奈緒子が脚本を手掛けた『きのう何食べた?』(2019年)も、月2万5千円の食費でつつましく暮らす男性同士のカップル・弁護士のシロさん(西島秀俊)と美容師のケンジ(内野聖陽)の物語を描いていたが、単に二人の可愛さを愛でる物語ではなかった。それは、彼らが40代~50代で、原作上でも着々と年齢を重ねていることもあり、家族のこと、老いた親の病気のことなど、様々な問題が噴出する。当たり前の日々を過ごすことが、実は非常に難しいからこそ、「共に食事をする」ことを何より大切にし、そこで日々再生を繰り返す物語となっていたのだ。

ちなみに、『おじさんは可愛いモノがお好き』だって、中年男性のちょっぴり切ない日常と恋模様を描いた光石研主演の『デザイナー渋井直人の休日』だって、女性に「カワイイ」と言われるための作品ではなかった。本来は、純粋に好きだと思うモノ・ことには、年齢や性別など関係ないと感じさせる中年たちの物語なのである。

昨年くらいまでは「おじさん=カワイイ」という流れで語られがちだった中年ドラマ。しかし、そこで描かれている中年の悲しみや苦しみ・葛藤を、傍から見て「カワイイ」と楽しむ気分から、『おじさまと猫』や『その女、ジルバ』をきっかけに、自身の問題として重ね合わせて観る気分に世の中が変わってきている気がする。 

別に仕事で誰かと戦わなくても良いし、悪を成敗しなくても良いし、恋愛しなくても良い。自分の小さな世界と、その周辺の人々とのつながりを大事に描くリアルな中年ドラマは、今後さらに増えるのではないだろうか。

■『おじさまと猫』1~3話 ©Umi Sakurai/SQUARE ENIX

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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