“戦うお姉さん”に憧れて…45作目「戦隊シリーズ」脚本家の告白
『機界戦隊ゼンカイジャー』の脚本担当・香村純子氏インタビュー
1975年誕生のスーパー戦隊シリーズ45作の記念作『機界戦隊ゼンカイジャー』が、3月7日にスタートする。
今回は“人間”ヒーロー1人と、4人の“ロボット”ヒーローからなる異色の戦隊だ。
脚本を担当するのは、『動物戦隊ジュウオウジャー』(2016年~2017年)、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー(通称 ルパパト)』(2018年~2019年)に続いて、スーパー戦隊のメインライターを務めるのは3作目で、現在『ヒーリングっど♥プリキュア(通称 ヒープリ)』のシリーズ構成を手掛けている香村純子氏。
特撮界でいま注目の香村純子氏に、『機界戦隊ゼンカイジャー』を執筆するきっかけや、これまでの経歴などについて伺った。

“戦うカッコいいお姉さん”に憧れてスーパー戦隊の脚本家を目指す
幼い頃からスーパー戦隊シリーズのファンだったという香村純子氏。1976年生まれの彼女にとって、一番古いスーパー戦隊シリーズの記憶は『電子戦隊デンジマン』(1980年)というが、そもそもなぜスーパー戦隊に惹かれたのか。
「物心つくかつかないかのうちからスーパー戦隊をずっと観ていた理由は、たぶん私がずっと“戦うカッコいいお姉さん”に憧れていたからだと思います。
好きなスーパー戦隊はたくさんありますが、特に好きだったのは『電撃戦隊チェンジマン』(1985年)と『超獣戦隊ライブマン』(1988年)と『未来戦隊タイムレンジャー』(2000年)。
なぜかというと、チェンジマーメイドとブルードルフィンと、タイムピンクがメチャクチャ好きだからです。これらのキャラに共通しているカッコいいお姉さん像の特徴は、賢い、頭が良い、冷静というところです」(香村氏 以下同)
スーパー戦隊シリーズは幼少期から一筋に憧れていた道だが、スーパー戦隊以外に興味がなかったわけではない。高校・大学時代には演劇部に所属し、脚本などを担当することもあった。
「私はテレビっ子だったので、それなりにドラマはいろいろ観ていました。
でも、一番影響を受けたのは、三谷幸喜さんのお芝居ですね。生で観たことはないんですが、衛星放送でやっていたのをビデオにとって部活内でまわして見せてもらいました」
卒業後は地元・愛知で就職。しかし、「スーパー戦隊の脚本を書きたい」という気持ちが強まり、25歳のときに上京。東映アニメーション研究所の実写コースでシナリオを2年間学んだという。

スーパー戦隊シリーズ45周年の記念すべき作品の脚本担当が決まって…
記念作に抜擢されていることから、香村氏に寄せられる期待の大きさがうかがえるが、 さらに“特撮を手掛ける女性脚本家”“会社員を経て脚本家になった経歴”などの共通点から、スーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズを多く手掛けて「信者」も多数いる小林靖子氏と重ね合わせて語る人も多い。
「ある日、東映のプロデューサーの白倉(伸一郎)さんからの着信がスマホにあったんです。それまではパーティの場でご挨拶したくらいの接点しかなかったので、謎の着信でしたが、その後すぐに『実は来年の戦隊を~』というメールをいただいて。
『来年の戦隊でちょっと変わったことをしようと思っています』というお話でした。“変わったこと”の内容は、“人間が一人であとはロボ”ということ。
最初に聞いたときは『え~~っ!』という感じで、すぐに『いいですね』とはなりづらかったんですが、パッケージは変わっている半面、中身は真っすぐに戦隊らしくやりたいということでした」
人間1人+ロボ4人というのは、これまでにない斬新な構成だが、この5人のビジュアルは歴代スーパー戦隊がモチーフになっている。自分や子どもになじみあるヒーローに「再会」できるチャンスでもあるわけだ。
「モチーフがどう決まったかはおそらくビジュアル的な判断からです。また、『全力全開』というコンセプトも、先に『ゼンカイジャー』というタイトルが決まったところから。決まっていく順番は意外といろいろなんですよね(笑)。
この作品に関わる人たちの知恵の結晶で、歴代のレジェンドの技が出てきますが、すべてにおいてまるっきり当時と同じ武器が使えるわけではないので、イメージを寄せて作っています」
ところで、香村作品の一つの特徴とも思えるのは、主人公が強さと熱さ、真っすぐさ、自分の正義を持っていること。また、主人公に重い運命や枷を背負わせたり、因縁の関係性を描いたりすることと、その一方で家族愛や仲間、友情をストレートに描くことなども挙げられる。
こうした作風やキャラクター設定へのこだわりを問うと、本人はテレもあってか、淡々とこう答える。
「主人公のキャラクターは、私のこだわりというよりも、設定やモチーフから決まっていくことが多いんですよ。例えば、ジュウオウジャーだったら、動物が好きな人がいいだろうとか。ヒープリの場合、設定が決まってきた中で、『だったら、結びつきがあったほうが良いね』と決まって行った感じです。
作風などは客観的に見たらいろいろあるのかもしれませんが、自分が軸にしようと思っているものがあるわけではないです。ただ、『家族』は、小さな子にとって一番小さな社会の単位なのかなとは感じていますね」
『ルパパト』において「ギャングラー」が好きという人がいたり、『ヒープリ』でダルイゼンに萌える人がいたりと、敵の描き方がカッコいいという声も多い。また、『ルパパト』で朝加圭一郎が、『ヒープリ』でダルイゼンが、SNSに度々トレンド入りしていたが、心がけている点とは。
「敵は、スーパー戦隊の場合、どうしても爆発して亡くなる人たちなので、やむを得ずそれをせざるを得ない“『悪い人たち』にしないといけないな”とは思っています。背景がある場合でも、それはそれとして、“立ちはだかる理不尽な脅威”として書きたいなと。
特にSNSを意識しようということではなく、観ている人が引っかかるポイントがあるほうが良いよね、ということは話します。そういう引っかかりが文字として出るのが、SNSなのかなと。(コツは?)打ち合わせで誰かが『これ、面白いね』と言ってくれることを大事にすることですかね? と言いつつ、思いもよらないところで盛り上がってもらえることも多いので、やっぱりよくわからないです(笑)」

特撮の脚本を作るうえで重要だった「オモチャ」の存在
ところで、幼少時から好きだった特撮を実際に仕事にしてみて、初めて知ったことは?
「世間一般のイメージだと脚本家さんが全部お話を考えていると思われそうですが、実はそんなことはございませんということ。『こんなにたくさんの人との会議で決まっていくんだな』と実際に作品に携わって初めて知りました。
『今回はこのオモチャをメインでやって下さい』と言われることも多く、作品にもよりますが、年々大変になっている気はします。オモチャの特性も決まっていて、それを脚本に反映させることもあります。
そもそも物語を年間全部決めることはなくて。結末も決まっていなくて、やってくるオモチャも料理しつつ、物語をつなげていく感じです。だから、描いているうちに思いがけない方向にいくこともたぶんあるし、オモチャから生まれてくる発想は多いと思います。
ただ、私はほぼスーパー戦隊の現場で育ててもらったようなものなので、もともとそういうものだと思っているふしがあるんですが(笑)。(オモチャが出ない作品は?)どうですかねえ、まだ経験がないので(笑)。やってみたい気持ちもなくはない(笑)」
香村氏が影響を受けた人に挙げるのは、同じ女性で会社員経験もある小林靖子氏と、同郷で同じ中学出身の荒川稔久氏。
同じタイミングで、荒川氏がメインライターを務める『魔進戦隊キラメイジャー』と、香村氏の『ヒーリングっど♥プリキュア(通称 ヒープリ)』が放送されていたのは、なんだか不思議なご縁だ。

ところで、いまなぜ特撮の女性脚本家が重用されるのか。
小林靖子氏の作風と香村純子氏の作風において、よく指摘されるのは、「人物の深い描写」「人物が背負ってきた運命や枷を描くこと」「友情を色濃く描くこと」「人間関係を丁寧に描くこと」など。
ちなみに、東映では2003年、2005年、2017年と過去3回脚本家職の募集を行っており、そこから特撮を手掛ける女性脚本家に、金子香織里氏(『ヒープリ』『魔進戦隊キラメイジャー』など)、下亜友美氏(『魔進戦隊キラメイジャー』など)などが「芸術職契約研修者(脚本家職)」として輩出されている。
特撮系の女性脚本家は、着実に増えているようではある。
最後に、『機界戦隊ゼンカイジャー』の見どころを教えてもらった。
「一番の見どころは、一人の人間と、他はみんなロボということ。
ロボだから起こることもあるし、ロボだからといって特別じゃなく、人と同じように接することで生まれるものもある。ロボな人たちが日常になじんでワイワイやっていく様を見せたいなと思っています。人間とロボはたぶん意外とすっとなじみます(笑)。
今年は、メンバー5人が揃うまでちょっと話数をかけてやっておりますので、ぜひそこも見ていただけたらと思います」
取材・文:田幸和歌子
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。