1月期3本のドラマが描いた「認知症との付き合い方」のリアル

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『俺の家の話』『にじいろカルテ』『監察医 朝顔』の中で描写された、それぞれの「認知症」

1月期ドラマで目立った特徴として、エンタメ作品でありながら「認知症」に何歩も踏み込んだ秀作が3本もあったことを挙げたい。宮藤官九郎脚本×長瀬智也主演の『俺の家の話』(TBS系)と、岡田惠和脚本×高畑充希主演の『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)、そして根本ノンジ脚本×上野樹里主演の『監察医 朝顔』(フジテレビ系)だ。 

私事で恐縮だが、医療ライターとして認知症の専門医を取材してきた経験と、小学校低学年の頃から同居の祖母が認知症(当時はこの名前はなかったが)を患っていた経験から、この3作がいかに素晴らしかったかを振り返ってみたい。とはいえ、認知症には個人差がかなりあり、一面に過ぎないことはご容赦いただきたい。

(イラスト:まつもとりえこ)

『俺の家の話』が描く“リアル”

まずは『俺の家の話』が描くリアル。「能楽」保持者の父・寿三郎(西田敏行)への反発から17歳で家出したが、父の危篤の知らせで戻ってきた寿一(長瀬)は、父の介護と能の稽古に励む。最初は認知機能テストで野菜の名前が出てこない程度だったが、症状が重くなるにつれ、能の言葉が出てこないときまであるようになる。

さらに終盤で印象的だったのは、寿三郎が以前よりも険しい表情と強い口調で寿一に対して「お前になんか継がせない」「はなっからお前になんか期待していない」と言うこと。これは能にかけてきた思いや覚悟・誇りからではあるだろうが、その表情には認知症の影響も見える気がしてならない。

認知症に伴って現れる怒りっぽくなるなどの心理的行動的な症状は「BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)」といい、その要因は大きく分けて4つあるという。1つ目は、腰痛や膝痛、歯痛、血糖や血圧の不安定など、「体調の悪さ」。特に認知症の症状が重くなると、痛みや不快感の理由や状況を自分では把握できなくなり、イライラすることがあると考えられている。

2つ目は「心理的な要因」。もともと嫁姑関係や親子関係があまり良くない場合など、相手は良かれと思ってやったことでも、それが原因でイライラすることがあることが指摘されている。3つ目は「環境的な要因」。例えば、骨折で入院する場合などにも、「なぜ骨折したか」「なぜ入院しなくてはいけないか」が理解できず、環境の変化に混乱して怒り出すケースだ。そして4つ目は、「レビー小体型認知症」や「行動障害型前頭側頭型認知症」など、脳の病気そのものによる影響である。

これらを踏まえて考えると、余命わずかで体調は悪いし(1の要因)、跡継ぎとして期待していた寿一が家を出たときの悲しさや寂しさ・怒りなどの感情が認知症によって蘇る部分もあるだろう(2の要因)。能に対する思いだけでなく、やはり認知症により感情的な部分が増幅されている気がしてしまうのだ。

それでいて、孫の秀生が能に強い関心を示すこと、才能が感じられることが嬉しくて仕方ないようで、秀生がやってくるのを心待ちにする面もある。実際、認知症を発症しても、自分の特技や趣味のことになると記憶などがクリアな状態になる人は多数いるし、予防や進行を遅らせるために、脳の海馬に刺激となる「趣味」や「コミュニケーション」が良いことは広く知られている。単なる孫の可愛さだけでなく、寿三郎にとっては秀生の存在が明らかに良い刺激になっているのだ。

その一方で悲しいのは、ケガをした寿一にかわって、寿限無が寿三郎の風呂を買って出た際、寿三郎がこっそり「(寿一とは)なんか違うから嫌だ」と言ったこと。寿限無はそもそも寿三郎が女中だった母に産ませた子どもであることを知らずに「芸養子」として育った。その事実を知った後、反抗的な態度もとったが、和解したはずだったのに。寿限無が怒るのは当たり前。というか、怒りよりも深い「悲しみ」だろう。

しかし、残酷なことに、ここにも認知症の影響があるように見える。寿三郎の場合は体が不自由になっているとはいえ、認知症によって入浴を億劫がる傾向は指摘されている。しかも、寿限無の風呂を「なんとなく違うから嫌」と言うのも、これまた酷い話だが、寿三郎が感じる関係性の薄さからきている気がするのだ。こんな話を聞いたことがある。

「認知症を患った祖母は、最初に嫁である母を忘れて『おばさん』と呼んだり、夕方になると『もう遅いから帰れ』と怒ったり、『お金をとられた』と言ったりするようになったのに、症状がさらに進行して家族の誰のこともわからなくなってからは、母について『このおばさん、誰か知らないけど、すごく親切なんだよ』と言っていた」

寿限無の気持ちを考えると本当に腹立たしいが、寿限無が誰よりずっとそばにいて、ひたすらに能の稽古に励んできたことを知らない寿三郎ではない。その思いはきっと最終話では報われるはずだと信じている。

『監察医 朝顔』が描いた“日常”

また、『監察医 朝顔』の描き方に唸らされたのは、認知症が「暮らしの障害」だということ。

朝顔(上野)の父・平(時任三郎)は、手袋を忘れ、次に手袋を忘れたことも忘れるようになる。心配した朝顔が休みをもらって父の所に行くと、自分の名前や生年月日、血液型まで書かれた付箋や張り紙が溢れていた。後にカレーの作り方がわからず困っている場面も描かれていた。実際、道がわからなくなる、道具の使い方がわからなくなるなどは非常に多いケースだ。

ただし、平の場合、一番幸いだったのは朝顔(上野)と桑原(風間俊介)に、アルツハイマー型認知症の診断を受けたことを告白できたこと。なぜならインテリジェンスの高い職業の人などは上手く隠せてしまって、一人で抱え込み、症状を悪化させることもあるといわれるからだ。また、朝顔が結婚したことも、娘を産んだことも忘れてしまうが、そんな平のために朝顔と桑原は二度目の結婚式を挙げる優しさも素晴らしい。

さらに、圧巻だったのは、朝顔の長女・つぐみの卒園式の際の時任三郎の演技である。桑原に声をかけられても無表情のまま腰を下ろし、朝顔に声をかけられてもやっぱり無反応。しかし、「つぐみ、もうすぐ出てくるからね」と言われると、かすかに朝顔の方に目を動かす。「お父さん、今日、調子良いみたい」「そうなんだよ。やっぱり卒園式だからかな」と夫婦はやりとりする。

ここでは認知症がかなり進行している状態が描かれていたが、実際、認知症の症状は固定された状態ではないというのが現実だ。誰もが日によって体調が優れない時もあるように、認知症は日によって、良いときも悪いときもあるし、時間帯によっても変化する。状態が悪いときには、周りに薄い膜がはっているように、声が「音」としては届いても「言葉」として届かないようなときもあるのだ。しかし、そんな中、平が朝顔の抱いている赤ちゃんに手をのばし、表情をやわらげたり、つぐみの歌う様子に目を潤ませたりする様子には胸が熱くなった。

『にじいろカルテ』が導き出した認知症ケアの“最良の答え”

最後に『にじいろカルテ』。雪乃(安達祐実)が患っているのは「まだら認知症」という病気で、何か月かに一度、自分自身が誰かを思い出せなくなり、夫のことも忘れてパニックになってしまう。そんな彼女が第7話で「結婚式の記憶がない」と顔を曇らせると、真空(高畑)が村のみんなを招集して、雪乃たち夫婦の結婚式を提案するのだ。岡田惠和ならではの“シビアな現実”と”ファンタジー“が共存する世界観が、奇しくも認知症ケアにおいて最良の答えを導き出したことは驚くべきことだ。

というのも、認知症の人が時折見せる混乱や怒りなどの激しい言動は、実は周囲の人の言動に対する二次的言動とも考えられているからだ。例えば、ご飯を食べたのに、認知症本人は「まだ食べていない」と言うとき。家族は「さっき食べたでしょ!?」と怒るが、本人には食べた記憶がないから「ウソをつかれている」と不安や恐怖心を抱き、怒り出すことになる。これは何も不思議なことじゃなく、私たちも身に覚えがないのに「貸したお金、返してよ」と言われたら混乱するのと同じなのだそうだ。

つまり、周りの人にとって事実であっても、本人の記憶になければ「本人にとっては事実ではない」ということ。こうした状況では、相手に認めさせようとしても、相手を混乱させるだけで、逆効果となる。そのため、例えば「ご飯を食べていない!」と言われたら、「そう? 私の勘違いだったかも」などといったん受け入れ、話題をさりげなく変える。

あるいは、“本人の世界の事実”を受け止め、「まずは一緒にお茶でも飲もうか」などと話を合わせてあげること。ときには「その世界の住人になりきること」を勧める医師もいる。これはまさしく岡田ワールドの優しさではないか。

大切なのは、認知症になったからといって別人になるわけではないこと。その日、そのときで良いときも悪いときもあること。プライドも感情もあるということ。以上3作はいずれも認知症の症状のみでなく、接し方などにもたくさんの学びが詰まっていた。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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