『おちょやん』もう一つの主人公は「時代とエンタメの変遷」だった | FRIDAYデジタル

『おちょやん』もう一つの主人公は「時代とエンタメの変遷」だった

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コロナ禍のエンタメ界と重なる…波瀾だらけ、苦難だらけの「大器晩成ヒロイン」 

杉咲花主演のNHK連続テレビ小説『おちょやん』が、いよいよ5月14日に放送終了となる。 

これは、「大阪のお母さん」と呼ばれて広く愛された上方女優・浪花千栄子を題材とし、八津弘幸が脚本を手掛けるオリジナルの物語だ。 

終盤に来て急に評価を上げたように思われがちだが、そもそも『おちょやん』は圧倒的不利な状況からのスタートだった。 

コロナ禍の影響で、開始時期がなかなか定まらず、いつ撮影が中断されるかもわからず、終了時期も断定できないことが、特に朝ドラにおいていかに困難であるかは想像に難くない。 

何故なら毎朝・半年間放送される朝ドラは、他に類を見ない物理量があるため、最初に「年表」を作り、主人公がどの段階で上京、結婚・出産などをし、どのあたりで戦争が起こるかなどの出来事をあらかじめ決めるケースが多いと言われるためだ。 

そんな中、トータルのボリュームが見えない未曽有の困難な状況下に置かれていたことは、今思えば実に『おちょやん』らしいとも思う。 

実在のモデルが存在する朝ドラの場合、視聴者はゴールを知っているだけに、いつ主人公が夢を実現するのかを見守る。その点、『おちょやん』の人生は、稀に見る困難だらけの道で、いつまで経っても女優として開花する気配が見えてこなかった。ここで一気に振り返ってみよう。 

(写真:アフロ)

ラスト3週間で手に入れた、「女優としての成功」と「家族」

まず序盤に視聴者を夢中にさせたのは、働かず、女を選び、子どもを口減らしで奉公に行かせた父・テルヲ(トータス松本)のクズぶりである。

しかし、それに負けない子役時代の毎田暖乃演じる千代のたくましさは、この物語をしみったれたお涙頂戴にしない痛快さがあった。

そして、本役の杉咲花にバトンタッチしてからは、そのテンポの良い喋りが高評価を得たが、その一方でなかなか進まない展開に苛立ちを覚える視聴者もいた。

週のサブタイトル「うちのやりたいことて、なんやろ」で、本題に入るかと思ったら、お世話になった「岡安」の女将・シズ(篠原涼子)への恩返しに奮闘、シズの初恋相手との別れがたっぷりと描かれる。

千代がひょんなことから「代理」として引っ張られて舞台の上にあがっても、女優としての輝きを見せるわけではなく、緊張で手が震えるわ、セリフは頭から抜けるわ、散々だ。

さらに、テルヲの借金のカタにとられ、別の店に売り飛ばされそうになっていた千代を、シズや旦那さん、岡安の仲間たち、千代を見下し、挑発することも多かったお嬢様・みつえ、道頓堀の乞食たちが総力戦で逃がす。

みんなに背中を押してもらい、流れ着いた京都でカフェー「キネマ」の女給をしながら女優を志すが、女優としてスカウトされたのは詐欺だったり、劇団「山村千鳥一座」では座長の世話係で雑用をさせられるばかりだったり。しかし、舞台「正チャンの冒険」で急遽ピンチヒッターとして主演を務め、好評を博した後、一座は解散。鶴亀撮影所の大部屋女優となる。

いよいよ女優の才能が開花するのかと思いきや、パッとせず。そこから道頓堀本社に配置転換し、幼馴染の一平(成田凌)と共に「鶴亀新喜劇」の立ち上げに参加。後に夫婦となり、一座のおかみさんポジションになる。

あれ? 「大阪のお母さん」になるって、こういうことだっけ?……途中、そんな疑問が浮かんだ人もいただろう。

一座の中では何度も揉め事があり、戦争によって芝居ができない時期があり、テルヲの死あり、別れた弟との悲しい再会・永遠の別れあり。さらに、幼い頃から一番の理解者だった一平が、よりによって一座の女優と不倫し、その女性が妊娠していることが発覚し、離婚……。

かつて自分を捨て、女を選んだ父のように、夫もまた不倫相手と子どもを選び、ようやく手に入れたと思った「家族」を失った千代は、孤独のどん底に落ち、芝居も出来ない状況になる。

みんなに愛される「喜劇女優」としての道が一向に見えず、次々に小さな種火が消され、ついには完全に燃えカスとなったように見えた千代。

しかし、そんな千代を人間として、女優として再生させてくれたのが、かつて自分を追いだしたはずの父の再婚相手・栗子(宮澤エマ)だった。そして、自分が芝居をするたびに花籠を毎回贈ってくれていたのも栗子で、千代の芝居を観ることを生きがいにしてずっと見守ってくれていたことが判明する。さらに、栗子が読み書きをできないことを知り、三味線だけを持って嫁に来た当時を思い出し、自分と同じ境遇だったのではないかと考え、恨みが消えていく。

そんな折、ラジオドラマ「お父さんはお人好し」の母親役に抜擢され、人気となり、いよいよ「大阪のお母さん」になる。かつて鶴亀撮影所では、映像に声がのらないため、「声は要らない」と注意され続けていた千代が、声の芝居を武器に成功するわけだ。

と同時に、栗子と、自分の姪と暮らすことで、ついに「本当の家族」を手に入れる千代。なんとラスト3週間で、夢だった「女優」としての成功も、家族も手に入れる。なんて波瀾だらけ、苦難だらけの「大器晩成ヒロイン」なのだろう。

NHK連続テレビ小説『おちょやん』公式HPより

コロナ禍の影響を受けて、どんどん変化する現在のエンタメの世界と重なる 

朝ドラには、『カーネーション』をはじめとして、情熱溢れる主人公が夢を真っすぐ追いかける物語が多数存在する。一方、1990年代~2000年代の作品を中心に、次々に職を変えながら、何でも上手くいき、周りからチヤホヤされる物語も実は多い。その点、『おちょやん』は夢もぼんやり、人生は苦難だらけで、話が一向に進まなかった。 

主人公は口減らしで奉公に出されたり、父の借金取りから逃げたり、劇団に入ったり、喜劇の一座立ち上げに加わったり、離婚したりと、舞台が何度も転々とする。

しかも、「居場所」が定着しない理由は、ほとんど誰かの都合によるもので、そのときどきで身の回りの人たちの問題に首を突っ込みながら生きていく。

しかし、実は時代の無常な流れと、そこに身を任せて生きるヒロインが見てきたエンタメの変遷と、そこに生きる人々の不屈な精神こそが、本作のメインテーマなのではないか。

道頓堀の芝居茶屋が廃れていき、ジャズ喫茶など他の仕事を始める者もいて、大衆演劇が作られていく過程で、女形は伝統芸能のものと化し、「女優」や「喜劇」が台頭していく。

また、いがみ合っていた芝居茶屋同士が、時を経て、その子らが夫婦になり、手を結ぶ日が来る。しかし、その幸せも戦争が奪っていく。

その一方で、一生恨みが消えないと思っていた宿敵が、最終的に自分にとっての「家族」で「居場所」になる。

長い時間をかけて手に入れた「女優」としての成功も、家族という居場所も、実はもともと本人が夢見ていたカタチではない。しかし、その時々で様々な人と関わりながら懸命に生き、流され続けてきたことで、たどり着けた、拾うことができた幸せだ。

これはコロナ禍の影響でどんどん変化する現在のエンタメの世界とも重なっている気がする。 

先の見えない時代に、どんなに懸命に生きていても、うまくいかず、諦めなければいけなかったこと・やむを得ずに手放してしまったものがある人はたくさんいるだろう。 

「なりたいもの」「やりたいこと」を真っすぐ追求するのではなく、障害にぶちあたりつつも、求められるままに流され、やがて思いがけないかたちで喜劇女優として大成する『おちょやん』。 

これは、困難だらけで進む道の先も見えない現代を生きるエンタメ界の人々に、懸命に生きていれば、いつか幸せな場所に流れ着くという大きな希望を与えてくれる物語だと思うのだ。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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