難解!攻めすぎ!?よるドラ『きれいのくに』プロデューサーの狙い | FRIDAYデジタル

難解!攻めすぎ!?よるドラ『きれいのくに』プロデューサーの狙い

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本章は第4話から!? 『いだてん』『あまちゃん』『ハゲタカ』を手掛けたCP訓覇圭氏の新たな“冒険”とは

こんなに難解な連続ドラマ、これまで存在しただろうか――それが「よるドラ」(NHK)が月曜に移動して一発目の作品となる『きれいのくに』を最初に観たときの印象だった。 

第1話を観てもよくわからず、第2話でもやっぱりわからず、第3話でようやくわかってきたと思ったら思いがけない展開となり、「本章」が始まったのはまさかの全8話のうち第4話である。

番組公式サイトを見ると、「誰しもが抱える容姿へのコンプレックスにまつわるジュブナイルSF! 高校生たちが暮らすのは、ほとんどの大人が”同じ顔“をした不条理な国――”青春ダークファンタジー“」とあるが、そもそもこの世界観が見えてくるのは第3話ラストあたり。しかも、最初はドキュメンタリーのようにカメラに向かって喋る吉田羊や蓮佛美沙子が登場して、「あれ? 何を観ているんだっけ」と混乱してしまう。にもかかわらず、グイグイ惹きこまれていく。何故こんなにも難解なドラマを?

この問いに対し、「どうでしょうか……やったことのない挑戦を沢山しているので、どういう風に視聴されるかという予測がつかず、キリキリする思いです」と語ってくれたのは、同作の制作統括で『いだてん』『あまちゃん』や『ハゲタカ』など数々の話題作を手掛けてきた訓覇圭氏だ。 

『きれいのくに』(NHK総合)毎週月曜 よる10時45分から11時15分

コロナ禍、動画配信…テレビの“ルール”“ストライクゾーン”も変わっているはず

「本来、ドラマにジャンルがあるのは当然で、普通は最初に考えることなんですが、これは言ってみればノンジャンルのドラマなんですよ。 

何故ノンジャンルにしたかというと、作家の加藤拓也さんのクリエイティブを最大限発揮してもらうため、彼の持っているエネルギーをアウトプットしてみたかったためです」(訓覇圭氏 以下同)

脚本・監督を手掛ける加藤拓也氏は、17歳のときにテレビやラジオの構成作家を始め、18歳でイタリアに渡り、映像演出と演劇を学んできた後、「劇団た組。」を立ち上げた、まだ27歳の若き演出家である。

「もともと加藤さんの舞台がすごく魅力的で、今までのジャンルではとらえられないような異彩を放っていると思っていて、加藤さんで『よるドラ』をということはコロナの前から始まっていました。ただ、コロナで中断し、世の中の気分が大きく変わったことで、『改めて他に何かやってみたいことありますか?』とご相談したんです。 

それに、配信の影響が、コロナによってよりはっきりと見えてきたため、テレビのストライクゾーンもきっと変わっているんだろうなと思ったことは大きいです。 

それがどういう変化なのか、ゾーンが広がっているかもしれないし、テレビを見るルール自体も変わっているかもしれないし。 

「よるドラ」の枠には、日頃テレビをあまり観ない人にも観てもらいたいというミッションあるので、結果を恐れず、加藤さんと一緒にこれまでとちょっと違ったゾーンに球を投げてみようと思ったんです」 

それにしても、「本章」が始まるのが前半終わりの第4話という大胆な構成は、どのように決まったのか。

「これは加藤さんのアイディアで、コロナ中断後の企画メモを初めて見たとき『最初の15分くらい序章があって、1話のラストで高校生編が始まるんですよね』と聞くと、『いえいえ、序章が3話まであるんですよ』と言うんです(笑)。 

普通はダメですよね(笑)。 

ただ、やったことがないという理由でやめるのが嫌で、それをやってみたらどう見えるんだろう? その構成をお客さんになんとか受け入れてもらえるには? と加藤さんのアイディアを活かす方法を必死で考えました。公式サイトでも、こういう構造になっていると書いてしまうのはつまらないし、本章は高校生の物語だということをネタバレしないように表現するハードルは非常に高かったです」 

アナログと、最新技術AI

第1~2話で大いに混乱した要因として、「説明の少なさ」と共に、同じ人物の30代・40代を蓮佛美沙子と吉田羊が演じていることもあった。同じ髪型にしているとはいえ、二人の容姿も喋り方もあまりにそっくりで、境界線がわからなくなってくるのだ。

「第1話は僕のすごく好きな作りで、人の過去にさかのぼっていく構成になっています。構成的な仕掛けでどこまでカタルシスに行き着くかやってみた感じで、そこに役者さんたちも面白がって、のってくれました。 

スタートは吉田羊さんで、その芝居を起点として、吉田羊さんの読みを聞いて蓮佛さんが寄せていくかたちでしたが、蓮佛さんが意識的に強烈なアプローチをしてくれているんですよね。 

また、全体の構成でいうと、3話までの序章の部分は非常にアナログな志向で、実際に3人の役者さんが同じ人物を演じ、3話以降はデジタルにAIを使って同じ顔を大量に作っています。主題は同じで、全く違うアプローチをしているわけです」 

それにしてもこれだけ説明が難しい物語の企画を、局内でどのように通すのだろうか。

「企画の決定はネタと人の順番もときどきですが、今回は加藤さんというクリエイターを起用することが最初にありました。あとは荒唐無稽な発想ですが、『AIを使って、みんなが同じ顔をしているファンタジーの世界をやってみよう』と。 

ただ、そもそもファンタジーは、日本の実写ではあまり得意じゃないジャンルだと思うし、AIを使ってどのくらいの表現がやれるのかも試行錯誤だったので、企画通過のポイントはそこでした。なので『3話までは別の話で』といった部分はフォーカスされずに通ったんです(笑)。 

ただし、挑戦する意気込みだけがあっても、それがうまくいかなければ、自分だけのことではなく今後の表現が当然狭まってしまう空気にもなるし、その結果はとても怖いですよね。 

だけど最近の日本のテレビドラマがどうしても同じところで繰り返している、停滞しているという印象があって、自分たちの責任を痛切に感じていて。 

では、どうやったらこれまでと違う魅力をこの先提示できるのか、テレビが生き残っていけるのか、NHKは伝統的に表現に対して自由で寛容な文化がありますが、そのトライアルにつながるようなことに、特に『よるドラ』では挑んでいけたらと思っています」 

稲垣吾郎、加藤ローサ、キャスティングの理由 

ところで、AIで大量に登場する同じ顔の大人たちを、稲垣吾郎、加藤ローサにオファーした理由はどんなことだったのか。

「世界に同じ顔が溢れている状態を誰にやってもらうかは、ドラマのトーンを決める最大のポイントなので、一番悩みました。 

高校生のお父さんお母さんもやってもらうから、ある程度の年齢である必要があるし、美容手術が10年くらい前に流行したということで、トレンド感も必要だし。さらに、ポップな感じが良いからということで、もうゴロー(稲垣吾郎)さんしかいないなと。 

それから、ゴローさんとは別のタイプで、画的なバランスを想像しつつ、高校生の二人がコンプレックスを持つような美しさというところから加藤ローサさんにお願いしました」

さらに、実際に演じてもらった印象について、こう付け加える。

「同じ顔が溢れている世界には、まず怖い、不気味という印象があるわけですよね。 

だから、少しユーモアがあって、安心感もどこかにあって、そこは『ゴローさんだから観ていられる』という部分がキャスティングの一番のキモでした。 

実際、ゴローさんはこちらの意図や、台本の世界観や、どういった挑戦なのかなどを100%的確につかまれていて感激しました。受けていただけるかどうかも非常にチャレンジングでしたが、本当に良かったです」 

AIはチコちゃんと同じ技術 

ちなみに、このAI、実は『チコちゃんに叱られる!』(NHK)のチコちゃんの顔の表情を担当している会社が手掛けているものだという。

「AIと、実はチコちゃんで培った技術の両方使っているんですよ。 

まずゴローさんとローサさんお二人の顔のデータをとり、街に溢れる同じ顔を演じていただいている別の大勢の役者さんの輪郭にAIがデータを読み込ませていく作業なんですが、その合成が非常にうまくいく場合と、アングルなどによって難しい場合とがあって、すごく大変な作業をやってもらっています。 

ビックリですよ。アフレコなど一切使わず、実際に演じている方の声や表情などのお芝居はそのままに、顔のパーツだけゴローさんに替えて、AIで再現しているわけですから。 

お芝居している人が動いたのと同じく、AIで、皮膚や筋肉、普通に喋っている口の動きなども再現しているんです。 ただし、あまりたくさん撮影してしまうと、処理がおいつかないので、1話につきゴローさんやローサさんを合成する顔はいくつまでみたいに計算しながらやっています」 

不思議なのは、みんな稲垣吾郎のパーツのはずなのに、輪郭や髪型が違っていることで、そうは見えないこと。結局、顔の印象とは? そもそも「似ている」とは?と観ているうちにどんどん混乱してくる。

ちなみに、一番大変だったのは、メインの高校生5人のうちの一人で、両親の希望で生まれる前に遺伝子操作が施された「中山」を演じる秋元龍太朗だという。

「秋元さんの実際の顔がそのまま映るシーンはなく、全て秋元さんのパーツをゴローさんに撮影後にAIを使って替えているわけですが、そのために撮り方など制限がいろいろあるんですよ。速い動きとか、角度によって弱いところがあるんですが、ご本人の芝居を阻害しないかたちで、現場でも調整してもらっています。 

ちなみに、高校生役は全員オーディションで選んでいて、秋元くんは純粋にお芝居や中山という役の表現が決め手だったんですが、不思議と結果的に目の位置などのバランスがゴローさんの配置と近くて、どことなく似ているんですよ」 

新しいのか? 古いのか?

実は一番の見どころとして、訓覇氏は、高校生たちの芝居を挙げている。

「高校生たちはゴローさん・ローサさんに作っていただいているファンタジーの中で生きていますが、その心情自体は古いのか新しいのか。 

『これ、俺の若い頃と変わんねえじゃん』と思うこともあって、古くも新しくもある、ある意味普遍的な感情がすごく生で、リアルで。そういうニュアンスをあまり見たことのないタッチのお芝居で表現したくて、そこが実は最大の挑戦で、すごくリハーサルに時間をかけて、新鮮な肌触りが生まれるよう大事に撮っています」

確かに、「親に『色気づいた』と言われるのが嫌で、野球部を引退した後もずっと坊主頭にしている」とか、「自分の容姿を気にしていると思われたくない」とか、誰もが若い頃に一度は抱いたことのある感情が、高校生たちの芝居と思えないやり取りを通して、生々しく胸に蘇ってくる。

日本の連ドラでは珍しいファンタジーの世界観や、観たことのない複雑な構成、AIの技術など、珍しさ・新しさが随所に盛り込まれる一方で、昔からずっと変わらない10代の感情がリアルに表現された『きれいのくに』。日本だけでなく、海外の人にも観てほしい、そしてその感想をぜひ聞いてみたい作品だ。

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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