リアルすぎて重い…40代女性の苦悩を描く漫画が教えてくれるもの | FRIDAYデジタル

リアルすぎて重い…40代女性の苦悩を描く漫画が教えてくれるもの

作者・雁須磨子さんインタビュー&試し読みを公開

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徹底したリアリティで40代女性を描く『あした死ぬには、』

1月期『その女、ジルバ』に続き、4月期では『大豆田とわ子と三人の元夫』、『生きるとか死ぬとか父親とか』『ソロ活女子のススメ』など、40代女性を主人公に据えたドラマが増えている。

 これらは坂元裕二のオリジナル脚本による『大豆田~』を除き、漫画もしくはエッセイを原作とした作品だが、40代女性を描く徹底したリアリティで高い評価を得ている漫画がある。 

「このマンガがすごい!2020」オンナ編第3位選出、第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に選出、「マンガ大賞2020」2次ノミネートもされた雁須磨子氏の『あした死ぬには、』だ。

『あした死ぬには、』©雁須磨子/太田出版

40代の女性たちが直面する様々な変化と問題

これは、42歳独身・映画宣伝会社勤務の本奈多子(ほんなさわこ)を中心に、40代の女性たちが直面する働き方の変化や友人との付き合い方の変化、更年期障害や親子の問題などがオムニバス形式で描かれている作品。

2018年3月28日から太田出版のwebメディアで連載されており、単行本はすでに3巻まで発売されているが、そこに登場する人々は、まるでどこかで見られたり会話を聞かれたりしていたのではないかと思うほどのリアルさだ。

それにしても、いったい何故、40代女性を主人公に? 著者の雁須磨子氏は言う。

「自分が40代になってすぐに主人公と同じように夜寝ている間に動悸がするようになって、『これは死ぬ可能性があるな』『このまま目が覚めないこともあるのかな』と思ったんです。そのとき初めて自分が不慮の事故など以外の理由で死ぬことを想像したんですね。 

私はもともとあるあるモノを描くのが好きなので、等身大の40代女性の作品を描けたら良いなと思っていたんですが、更年期障害というものが自分にどんな風に訪れるかに興味があったこともあり、それも込みで描いてみるともっと広がるんじゃないかと思いました」(雁須磨子さん 以下同)

©雁須磨子/太田出版

タイトルについて

ドキリとするほど強いタイトル『あした死ぬには、』は、自身の体に起こった変化をもとに決めたものだと言う。

「20代や30代だと、死はもっとセンセーショナルなものか、あるいはおじいちゃんおばあちゃんや親のものという感覚があると思うんですね。 

40代でも、もちろん死はまだまだ早いけど、その一方で、自然な成り行きとして死ぬ人も普通に出てくる。自殺にしても、20代30代だと突然でも、40代だと病気とか長い付き合いの果ての死で、センセーショナルじゃない、日常と地続きの中で誰かが死んでいって、自分もそう遠くないみたいな感覚があると感じたんです」

朝起きても疲れがとれているどころか、起き抜けに体が一番痛かったり、仕事においても、これまで当たり前にやれていたペースがきつくなったり、大事な仕事の前になかなか寝られず、気づいたら寝落ちして飛ばしてしまったりという描写は、なんだか身につまされる。

しかも、体力の低下に合わせて、ゆるやかに働き方を変えていくことは現実には案外難しく、部署や職場を変えたり、仕事そのものを変えたりする人も、おそらく40代くらいで多いのではないか。

さらに、久しぶりに連絡をくれた友達と、気合を入れて会ったものの、すぐに元の関係に戻れたりする一方で、長年の友人とちょっとした衝突でケンカしてしまったりするのも、40代女性にとっては「あるある」だと思う。

「どれも自分の体験がもとになってはいるんですが、実は友人と言い合いになったときに、自分の我を通してみようっていうのも、私の場合、40代になってからあったことなんですね。 

昔なら性格的にそこまで自分の我を通すことはなかったんですが、『長い付き合いだからわかっているでしょ?』というのと、『これは言ってもいいのでは』という感じで、ちょっと我を通してみたんです。 

それは、トシをとったからなのか、そこまでの関係性や歴史があるからなのか、たぶんそれら全部が折り重なったモノだとは思うんですが、その次の日に読んだ(40代の心身の変化が書かれた)本の中に『我慢できなくなって、我を通すようになる』と書いてあったんですよ(笑)。 

それを読んで『ああ、言っちゃったよ!』と思いました(笑)。ひざが痛くて、『40代 ひざ』で検索すると、『内側が痛いですか?』といった質問が出てきて、『ああ、もう決まっていることなんだ!』と思ったこともありますし。更年期でイライラしやすいのも、ホルモンの影響だとか、漫画を描くために自分で調べたことが、実際に現実で起こるので、これはシステムなんだとわかると、ちょっと安心もするし、面白いなと思うんです」

自身が体験した辛さなども、客観的な視点で面白がってみせる雁氏。

©雁須磨子/太田出版

「考えるのがヘタ」だという登場人物

しかし、描かれているものはかなりシビアで、なかでも胃が痛くなるほどリアルなのは、20代の頃に上司に騙されて不倫に陥り、会社にもいられなくなった挙句、気づいたら引きこもりの40歳になっていた女性・鳴神沙羅の話だ。

彼女は勉強が特別できないわけでもないし、頭が悪いわけでもない、ただ「考えるのがヘタ」だという人物である。

「どのキャラも私自身の中にあるもので、私の場合、文字や絵、漫画にすると考えられるんですが、自分の中で『これ以上考えられない』『無理』という状態になる人はいると思うんです。 

普通の人が考えながら前に進んでいるところ、グルグル同じところをまわってしまうような人。みんなの3倍走っているのに、結局同じところをまわっているだけで進んでいない、進む気はないようなことは自分にもありますね」

しかも、鳴神沙羅は、母一人子一人で暮らしていたが、母親がある日倒れてしまう。これは現代社会問題ともなっている、80代の親が50代の引きこもりの子どもの生活を支える、いわゆる「8050問題」とも重なる状況だ。

「あの展開にするのは、最初から考えていました。でもお母さんが倒れた後に、鳴神さんがどうなるのか、その変化は私にもあまり想像できないんです。全部投げ出してどこかに行くのも、嫌だ~!って言ってただその場で自滅するのも、せっせと頑張って過ごすのも、どれもアリじゃないですか。 

正解があるものではないので、どの選択肢も考えられると思うんですよ。私の場合、エピソード単位で考えていて、お話の筋道をあまり決めないので余計にどう進むかわからないのですが」 

©雁須磨子/太田出版

どの登場人物も生々しいほどにリアル

それにしても、どの人物も生々しいほどにリアルだが、モデルとしている人物などもいるのだろうかと聞くと……。

「基本的には全部自分の中にあるものですが、これまで出会ってきた人たちはたぶんいろいろなキャラにエッセンスとして入っていて、それは『やらないこと』を軸に考えている気がします。 

この人はこういうことは言わない、しないという基準で考えるほうが、キャラクターがわかりやすくなる気がするんですよね。 

あとは、お母さんの性格、長女の性格など、ポジションが持つ性格、ポジションが言うセリフはどうしてもありますが、私はそれぞれ役割の性格はあまり持たせずに、みんな私の友達みたいな感覚で描いています。 

ただ、本来はキャラクターの役割って大事なんですけど、私の場合、それをしないで全員に少しずつ感情移入するから、お話が全然まとまらない(笑)。そこが自分の漫画の欠点だと最近気づきました(笑)。 

リアルだと100万回同じ話をしたりしますし、何もしないまま10年過ぎたなんてことあるじゃないですか。 

でも、漫画だとそれはダメなんだなと思い、担当編集のU村さんに『こっちに行ったほうが良いんじゃないの?』とあかりを灯してもらい、誘導してもらいながら進んでいけたらと思っています」

©雁須磨子/太田出版

女性にとっての40代とは

自身の中にある様々な要素を注入しつつ、自身の体験を交えてリアルに描く40代女性たち――作品を通して改めて感じた、女性にとっての40代とは?

「40代は、体力の壁が大きく立ちはだかってきて、仕事でもポジションが変わったり、親がトシをとることで家庭内の自分のポジションが変わったりする時期ですよね。 

一人っ子で親も1人の場合には、完全に一人になる可能性もあって。親が生きている以上は親が70代や80代で、自分が40代でも50代でも変わらないですが、親が亡くなると誰かの「子ども」ではなくなるし、かといって「親」でもないし。 

それまでと同じように生きているつもりでも、変化せざるを得ないことがたくさん起こって、それでもまだ力業で変化させられるのが40代なのかもしれないと思います」

©雁須磨子/太田出版

力業での変化がギリギリできる時期が40代? と尋ねると、雁氏は静かに、言葉の重さとは裏腹に明るい表情でこう語った。

「たぶん30代までは普通に泳げていて、周りが空気だと思っていたくらいだと思うんです。でも、気づいたら周りが川になっていて、濁流みたいなところに急にカヌーで行かされて、それでもなんとか頑張って戻ってこられるという感じですかね。 

起きると肩が痛いし、目も悪くなるし、すべてにおいてパフォーマンスが落ちていくし、流行りなどに乗り切れないし。急に濁流の中に来ていて、『辛い』『無理』『漕げない』『私のボート、なんかちっちゃい……』という思いはあるけど、それでも頑張って漕ぎ続けなきゃいけないという感じですね」

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『あした死ぬには、』雁須磨子

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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