『ゾッキ』『裏ゾッキ』が「歴史に残る」映画になったワケ | FRIDAYデジタル

『ゾッキ』『裏ゾッキ』が「歴史に残る」映画になったワケ

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映画『裏ゾッキ』全国公開中 ©2020「裏ゾッキ」製作委員会

映画には神様がいる。どんな芸術表現にも偶然やめぐりあわせはつきものだが、現実の人間を使い巨大なプロジェクトを組む実写映画という表現は、とりわけ「偶然」という神のみぞ知る要素が命運を決める分量が多い。映画『ゾッキ』と『裏ゾッキ』は、その映画の神様に愛されたとしか思えない作品になっている。

蒲郡市の鈴木市長が、ホテルのパーティー会場を埋め尽くした関係者を前に、勝鬨のような大声で乾杯の音頭を取る。百人を超える満場の観客から歓声が上がる。

「……これで作る映画、『ゾッキ』ですからね」

苦笑いしながら、三人の共同監督の一人である山田孝之が小声でつぶやく。

「みんな、原作読んでるのかな…… 」

もう一人の共同監督である斎藤工も、不安気に答える。愛知県蒲郡市とのコラボ、タイアップで撮影された映画『ゾッキ』。その撮影・制作に密着したドキュメンタリー映画『裏ゾッキ』の一場面だ。

話題を呼んだアニメーション映画『音楽』の原作者としても知られる蒲郡市出身の大橋裕之のマンガ作品を、竹中直人、山田孝之、斎藤工という三人のスター俳優が共同監督した『ゾッキ』は、松田龍平、竹原ピストル、吉岡里帆、柳ゆり菜、松井玲奈、満島真之介と、いったい主演映画を何本撮れるだろうかという豪華な俳優陣でも話題を呼んだ。

映画『ゾッキ』メインビジュアル ©️ 2020「ゾッキ」製作委員会 (C)Hiroyuki Ohashi / KANZEN 2017

確かに俳優陣も、そして監督も豪華だ。俳優として活躍する三人の共同監督の信頼関係がなければ、到底集められないメンバーだろう。だが『ゾッキ』のストーリーラインそのものは、派手なお祭り映画ではない。平穏な街の中の不条理、日常と非日常が隣り合った「奇妙な世界」を描いた原作であり、映画もそれを三人の監督が再構成する。

『裏ゾッキ』のインタビューで地元とのズレを危惧していた斎藤工はたぶん、優しい人間なのだろう。「町おこしで映画を誘致したい」という地元の声に応えて企画が決まる。契約上も、道義上も何も問題はない。だが、朝ドラやアニメ作品が地元にもたらすような『聖地巡礼』『知名度アップ』の効果と、この映画『ゾッキ』が目指す方向は明らかにズレている。

だからと言って、『ゾッキ』を朝ドラのように作り直すことは原作の否定になる。監督として腹をくくる一方、『裏ゾッキ』でインタビューに答える斎藤工は、地元の人々のことを気にかけ続けているように見えた。

©2020「裏ゾッキ」製作委員会

このドキュメンタリー映画『裏ゾッキ』が撮影された理由のひとつには、映画の方向性と町おこしというギャップを埋める目的もあったのだろう。映画『ゾッキ』はあくまで原作を基盤に『奇妙な世界』を作る。同時に、街の風景や人々の温かさはメイキング映画『裏ゾッキ』で全国に知ってもらう。ドキュメンタリー監督、篠原利恵を迎えて制作風景を撮影した背景には、そうした地元へのフォローの意味も当初あったのではないかと思うのだ。

だがその思惑を超えて、ドキュメンタリー映画『裏ゾッキ』は大きく化ける。それはこのドキュメンタリーが撮影した、映画『ゾッキ』が蒲郡ロケを行った2020年1月〜2月という時期に鍵がある。その時期に愛知県の地方都市でカメラを回し続けたことにより、この映画は偶然にも、製作者の意図を超える形で『歴史』を撮影することになってしまったのだ。

「心配なのは、コロナウィルスだよね。まあここ(蒲郡市)にいる限りは心配ないとは思うけど」

『裏ゾッキ』の撮影風景の中で、山田孝之監督はそうつぶやく。2020年2月はじめ、中国での感染が話題になり、横浜港でダイヤモンドプリンセス号が大きな注目を集めていたとはいえ、国内では東京ドームでコンサートが開催されていた時期だ。この時点で新型感染症がどれほどの規模で日本を動かすことになるか、予想していた関係者はほとんどいなかっただろう。

『裏ゾッキ』のカメラは偶然にも、『2020年1月から3月』という、新型感染症が劇的に社会を動かすそのプロセスを、ドキュメンタリー映画として撮影していたのである。『裏ゾッキ』がドキュメンタリー映画として神がかっている、映画の神様が降りたような記録映画になっているのは、カメラを回す監督たちですら自分たちが今、何を撮影しているのか気がつかないまま、歴史の瞬間を撮影していることだ。

©2020「裏ゾッキ」製作委員会

映画ロケの下見に山田孝之や斎藤工が街を訪れる1月、街の人々はまだ多くがマスクをしていない。当時、東京ですらライブハウスで満場の観客が歓声をあげ、欧米諸国は遠いアジアの話としてとらえていた。『裏ゾッキ』は愛知県蒲郡市という地方都市に、世界史に残る感染症が徐々に押し寄せてくるそのプロセスを偶然にも記録映画として撮影している。定点撮影の防犯カメラが巨大災害の映像を残すように。

素顔で街を歩く蒲郡の町の人たち、東京から来た斎藤工に感激して握手を求め「めっちゃいい人!」とはしゃぐ女子高生たちの映像は、今僕たちがいる社会ではもう見ることができない。

もしも『ゾッキ』の撮影スケジュールがあと1〜2ヶ月後に設定されていたら、緊急事態の中で東京から来た数十人の集団が愛知県で映画を撮影することなど許されなかっただろう。もしも2019年の年末に撮影されていたら、なんの変哲もないメイキングビデオになっていただろう。

2020年2月26日、当時の安倍総理が会見を開き「スポーツや文化イベントの自粛」を要請し、EXILEやPerfumeはコンサート開演数時間前に観客たちに中止を告げた。そのわずか2日前の2月24日に、映画『ゾッキ』は偶然にも蒲郡市ですべての撮影を終えクランクアップしているのだ。

©2020「裏ゾッキ」製作委員会

カメラは映画クランクアップの後も、定期的に蒲郡の街を訪れ、地元の製作委員会の人々を撮影する。もう、マスクをせずに蒲郡の街を歩く人間は一人もいない。「(コロナは)ここにいるかぎり心配ないだろうけど」と山田孝之監督が語ったわずか数十日後、蒲郡市内で感染が確認された男性が自宅待機要請を無視して飲食店を訪れ、報道とともに街の飲食産業は巨大なダメージを受ける。

映画撮影が行われていた1−2月とは別人のように変わり果てた街の人々の表情をカメラは映しだす。それが許されたのは、『裏ゾッキ』が街おこしのための記録映画として信頼を築いていたからだ。事件のあとで「撮らせてください」と依頼しても決して撮影できない深い街の内部に、ドキュメンタリー監督である篠原利恵は偶然踏み込むことを許される。

2020年、日本中で無数の映画が撮影中断に追い込まれた。だがあのタイミングで、俳優ではなく街の人々を偶然撮影していた映画はそうそうない。記録映画の神様が導いたとしか思えない、変容する街の風景を篠原監督は撮影する。まるで透明な怪獣が踏み荒らすかのように荒廃していく街を撮影した『裏ゾッキ』は、フィクションとして日常と非日常の亀裂を描いた『ゾッキ』と文字通り表裏一体の作品になっている。

何がこうした偶然を導いたのかはわからない。だがこの『ゾッキ』『裏ゾッキ』の両作品が、ひとつの街が巨大な災害に襲われ、そして再び歩き始めるプロセスを記録した 他に類を見ない作品になっていることは間違いない。

©2020「裏ゾッキ」製作委員会

『裏ゾッキ』の中で斎藤工監督が、この作品で映画デビューすることになった九条ジョー(驚くほど雰囲気のある怪優で、斎藤工は彼を発掘した監督としても名を刻むかもしれない)に、激励の意味をこめて「映画史に残る作品になると、本気で思ってます」と語りかける場面がある。その言葉はたぶん嘘にはならない。

「2020年、世界的な感染症が押し寄せた時に、偶然街を撮影していた映画とそのメイキングがあるんだよ」と、後世の人々はこの両作品を参照することになるだろう。その作品を映画館で見た、というのもまた歴史のひとつだ。

多くの人がこの両作品を映画館で見てほしいと思う。僕がこの映画を見た渋谷アップリンクはその二日後に歴史に幕を閉じたが、他の映画館たちはまだ生きているし、観客たちによって生きることができるのだから。

 


ドキュメンタリー映画『裏ゾッキ』
アップリンク吉祥寺・ シネマジャック/ベティ・ 神戸元町映画館ほか全国順次上映中
撮影・編集・監督:篠原利恵
音楽:重盛康平 題字:大橋裕之
出演:蒲郡市の皆さん、竹中直人、山田孝之、齊藤工 ほか
ナレーション:松井玲奈
主題歌:竹原ピストル「全て身に覚えのある痛みだろう?」(ビクターエンタテインメント)

製作:映画「裏ゾッキ」製作委員会 企画:伊藤主税、山田孝之 プロデューサー:牧有太 撮影:藤枝孝幸
制作:テレビマンユニオン 制作協力:and pictures
配給:イオンエンターテイメント 支援:映画「ゾッキ」製作委員会/映画「ゾッキ」蒲郡プロジェクト委員会 後援:蒲郡市
©2020「裏ゾッキ」製作委員会
公式サイト:https://ura.zokki.jp

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