吉祥寺でコロナ療養施設の中に保育園が!? なぜそんなことに? | FRIDAYデジタル

吉祥寺でコロナ療養施設の中に保育園が!? なぜそんなことに?

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オリンピック開催を見据えて…「病床使用率」の調整?

開会式まで1ヵ月、新規感染者数は下げ止まり傾向にある中、国民の意向は無視されたままにオリンピック開催に向けて着々と準備が進められている。 

そんな「準備」の一環とも思われる一方的な施策が、今Twitterなどで話題になっていることをご存知だろうか。それは6月末から、武蔵野市の認証保育園「ポピンズナーサリースクール」の入っている施設・吉祥寺東急REIホテルが、新たなコロナ陽性者の療養施設として指定されたこと。これが、同保育園に子どもを通わせる保護者の間で「本当に安全なのか」と不安を呼んでいるのだ。 

保護者の一人で、Twitterアカウント(@hogosya_202106)「コロナ陽性者と保育園を同じ施設に入れないで」を開設し、保護者達に匿名アンケートなどを行っているAさんは、こう憤りを語る。

「安全安心と言いつつ、それを決めた人たちはそこに自分たちの子供は預けていないため、他人事なのだろうと強い怒りを感じています。 

私たちは武蔵野市やと東京都に経緯や安全確認の説明を求めました。一度、保護者向けに説明会が開かれましたが、十分な説明はなされていません。 

追加説明会の開催や代替案の提案等、まずは誠実にご対応いただくことを切に願います」(Aさん 以下同) 

2016年の就任時から「待機児童ゼロ」など子育て支援策の充実を図ってきた小池知事だが…。写真は、同年に都庁内に開設された「とちょう保育園」の開所式(写真:アフロ)
2016年の就任時から「待機児童ゼロ」など子育て支援策の充実を図ってきた小池知事だが…。写真は、同年に都庁内に開設された「とちょう保育園」の開所式(写真:アフロ)

保護者の了解なしで突き付けられた「決定事項」

事の発端は、5月25。東京都福祉保健局から突然、武蔵野市に住む住民宅に、コロナ陽性者の施設開設に関するチラシが投函されていた。その内容は「決定事項」として書かれた簡素なもので、宿泊療養施設を新たに設ける必要性についても、なぜ保育園のあるホテルが選ばれかについても、一切記載がなかった。

そこで翌朝、Aさんがチラシに記載されていた東京都福祉保健局に電話で詳細を問い合わせをしたところ、保護者宛の詳細説明の日程を「ポピンズナーサリースクール吉祥寺」(以下保育園)と調整中であること、出入り等ゾーニングをしっかり行うことを伝えられたという。

しかし、保育園側に問い合わせると、この時点で施設長はじめ先生方は誰も把握しておらず、「どんなチラシなのかも知らないので、共有してほしい」と言われ大きな矛盾が発覚。

その後、 保育園「ポピンズ」本社から保護者宛にニュースリリースが配布され、保育園側から東京都側へ反対の申し入れをすると説明された一方で、保護者向けの説明会の日程調整が行われた。

説明会は6月4に、東京都福祉保健局、武蔵野市、東急ホテルズ、保育園、保護者たち出席のもと同ホテルで開催されたが、その説明会で配布されたのは、すでに配布されているチラシの他に、目次や説明会の席順、ゾーニング案の平面図のみ。保護者が必要とする詳細は記されてはいなかった。Aさんが憤る。

「東京都からは、都全体で宿泊療養施設3000室を目指したいが、現在2830室で目標に達していないという数値と、宿泊療養施設が東京都の東側に偏っており、多摩地区には現在のところ八王子にしか施設がないので武蔵野市にも増やしたいことなどが、ただ紙を読みあげるだけで説明されただけでした。武蔵野市からはベビーシッター利用支援事業の案内がなされただけで、30分ほどで終了。 

その後、質疑応答に移りましたが、説明会はあくまで『決定事項』を伝える場であり、再検討するつもりがないと言われたのです。 

しかし、そもそも東京都が事前に募集していた宿泊療養施設は“一棟貸し”が条件でした。にもかかわらず、複数のテナントが入っているこのビルがなぜ選ばれたのか。その点を保護者の方が質問したところ、『八王子の宿泊療養施設では、飲食店テナントが入っているが、問題なく運営できているので、ホテル側も同様の対策で運用可能と考えている』と、全く納得の行かない回答でした……」

また、東京都の病床使用率、宿泊施設使用率についての質問に対しては、「病床使用率は34%、宿泊療養施設使用率は33%」という回答があったという。急ピッチでワクチン接種が進められているなか、現状3割程度の使用率でありつつも、さらに療養施設を増やそうとしているのは、オリンピック開催を見据えてのことととらえられても仕方ないだろう。

さらに、空調が保育園フロアと宿泊療養施設フロアでつながっていないから安全だ、と東京都職員から説明されるが、詳しく問いただすと「ホテル側から聞いている」「図面も確認したが、東京都側で理解できる人間はいないので、ホテルの申告をそのまま受託した」といった説明がなされたそうだ。つまり、東京都側では、何のチェックもしていなかった、ということだろうか。

しかも、この経緯については、武蔵野市側と東京都の認識・説明にズレがある。

食い違う東京都と武蔵野市の説明

東京都では「武蔵野市長の要請もあった」と説明しており、6月11に「経緯」の説明として北多摩南部保険医療圏の6市町から、同医療圏における宿泊療養施設の確保について要望が出されたこと。それとともに、陽性が判明した多摩地域の患者から身近な地域での療養を望む声が都に寄せられたという説明や、ゾーニングの説明、入退所数の報告や、ホテル内の空調、入所者の外出防止等について、ペーパーでの回答が寄せられた。ちなみに、要望があり、検討したという追加の説明会は開かないという回答である。

しかし、これらを問題視したAさんがつてをたどり、武蔵野市議を通じて、6月11に急遽、松下玲子・武蔵野市長と昼前に面会したところ、「東京都の事業であるため、武蔵野市の承認は必要ない」「2020年5月に東京都多摩保健所が所管する本市を含む6市町連名で、域内での宿泊療養施設の確保を要請したのは事実だが、その時点では条件に該当する施設はないと東京都から断られ、終了したと思っていた」といった説明があったという。つまり、武蔵野市から依頼したわけではない、ということだ。

奇しくも同日の6月11日午後にFridayデジタルが武蔵野市に問い合わせた時点では、「担当者が席を外しているので、折り返す」と言われ、夜9時過ぎに「担当者が出張に行っていた」という連絡があった後、メールで回答が送られてきた。

そこには4月22日に質問状を東京都の担当部長に提出し、本日(6月11日)以下のような要望を行ったところです」とし、保護者向けに追加の説明の機会を設けることや、可能な限り関係者の理解を得ること、密接な情報共有を図り、協議に応じることなどが書かれていた。しかし、基本的には「本市に伝えられたのは、選定された後になりますので、実施主体である東京都にお尋ねください」という回答である。

その回答をもとに、6月14に東京都福祉保健局に取材を申し込んだが、回答期限を21日昼まで延ばしてほしいという連絡があった。コロナ対応で忙しいのはわかるが、回答に1週間かかるとは…。

Aさんは言う。

「保護者に行ったアンケートや、登園時に保護者の方に伺った中では、『一方的な通知のあり方が信じられない』『不安がある場合、仕事を辞めて子どもをみろというのか』といった憤りの声が多数あがっていますし、『どんなに反対があっても強行するつもりなんだろう』という諦めの声も出てきています。 

実際、安全が確保されていないことから、すでに保育園を辞めた方もいらっしゃいます。なぜ追加で迅速に説明会を開催してもらえないのか。また、保育園が入っている施設を、誰が、いつ療養施設にすると決めたのかをぜひ説明してほしいです。 

問い合わせをした際、電話での口頭対応のみですが、都の福祉保健局担当者の方は『小池百合子知事も承知している』とおっしゃっていました。なぜ子を持つ親の不安にもう少し寄り添っていただけないのか、本当に残念でなりません」 

急ピッチでワクチン接種が進められているなか、現状3割程度の使用率でありつつも、さらに療養施設を増やそうとしているのは、オリンピック開催を見据えてのことととらえられても仕方ないだろう
急ピッチでワクチン接種が進められているなか、現状3割程度の使用率でありつつも、さらに療養施設を増やそうとしているのは、オリンピック開催を見据えてのことととらえられても仕方ないだろう

取材申し込み後の急展開 

そこから事態は急展開を迎える。6月16日、保育園「ポピンズ」本社を通じて、保護者に「内覧会」として追加説明会の案内が来たのだ。ポピンズに取材したところ、この説明会について武蔵野市から連絡があったのは、14日。Fridayデジタルが武蔵野市に取材依頼を行ったのが11日。そこから武蔵野市が東京都に要請を行ったというのも11日。さらにFridayデジタルが都に取材依頼をしたのが14日。まさか取材があったことをうけて慌てて説明会が組まれたのだろうか。

もしそうだとしたら、保護者に対して何らかの配慮がなされたのだろうか。そこで、追加説明会後に再びAさんに取材したところ、こんな報告があった。 

とりあえず宿泊療養施設は6月末までに開設されることが決定したようです。補償もないです。状況は何一つ変わらない説明会でした。 

転園の支援などをするのかどうかについて『保護者に一方的に不利益を強いるだけで何もしないと言うことか?』と東京都福祉保健局の職員に聞いたところ『そもそも安全安心な保育が可能なのですから、安心して継続登園いただけます(転園は必要ない)』と回答になっていないことを繰り返すだけでした。 

東京都こども基本条例についても触れましたが、これまた職員から『そもそも安全なのだから幸せの侵害などしていない』とかなりキツめに言われましたね……『法的にも』『保健所的にも』問題ないと確認しました、と言っていました。 

ゾーニングや吸排気ルート等の説明もありましたが、階段同士は石膏ボードで区切られているだけ、4階と3階を繋ぐ階段に至ってはパーテーションで区切るだけ、となんともお粗末なものでした。 

警備員は2名。人感ライトと監視カメラがあるし、そもそも入りたくて入っている人たちなので脱走はしません、とのこと。性善説に立ちすぎており、他県での過去の脱走事例も見て見ぬふりをしている印象ですあれなら、成人女性である私だったとしても逃げることは容易だと思います」

その後21日に東京都から送られてきた回答には、一ヵ所だけ太文字・アンダーラインつきで書かれている部分があった。それは、保護者になぜ「決定事項」として説明したのかという問いに対する以下の回答である。

「国の『新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養のための宿泊施設確保・運営業務マニュアル(第5版)』では、活用するホテルが決定した段階で、周辺の住民や近隣企業に対しては、感染拡大防止に十分な対応を講ずるものであることを含め、市町村と協力して丁寧に説明し、理解を求めると記載されています

武蔵野市は東京都に聞けと言い、東京都は「国のマニュアル」を出してくる。誰も責任をとりたくない現在のコロナ対応の縮図が、ここに見える気がした。

 さらなる療養施設については、賛否はあれど必要性についての理解は一定以上はあるだろう。今回のケースで問題なのは、「子どもたちにかかわることで、保護者に不安があること」「事前の説明がなかったこと」「保護者に対して、その不安を解消させるだけの経過説明がなかったこと」だ。経緯を見る限り、やはり配慮不足であったことは否めないのではないだろうか。

「東京都の話だから」「知らない保育園の話だから」でスルーしていると、同様の問題はここから様々な地域・様々な場面で勃発する気がしてならない。

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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