赤木ファイルに学術会議問題…日本の「知る権利」に起こった大問題 | FRIDAYデジタル

赤木ファイルに学術会議問題…日本の「知る権利」に起こった大問題

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早大・岡田教授×開示請求クラスタWADA氏が指摘する「いま目の前にある危機」

「東京都 情報公開制度運用見直し」というニュースが、6月3日、NHKで報じられた。特定の人から頻繁に請求があったり、対象となる文書が膨大になったりすることで、業務に支障が出ているとして、開示請求を受け付けない基準を設けることを検討しているのだという。これはNHK独自のスクープだが、そもそも本来は誰にでも公開されるべき公文書の開示に制限を設けるのは、「知る権利」を侵害するものではないのか。 

そこで、本サイトにご登場いただいた“開示請求の鬼”で「開示請求クラスタ」のWADA氏と共に、法学者で早稲田大学大学院法務研究科の岡田正則教授にお話を伺いに行った。実は岡田教授は、日本学術会議任命拒否問題で、任命拒否された学者の一人でもある。 

小池都政になり、それまでは紙きれ1枚に議論の概要・結論が書かれた文書で済んでいたものが、誰の発言かなど全て詳細に記録することを求められるようになったという(写真:アフロ)
小池都政になり、それまでは紙きれ1枚に議論の概要・結論が書かれた文書で済んでいたものが、誰の発言かなど全て詳細に記録することを求められるようになったという(写真:アフロ)

就任時は、風通しの良い都政をアピールしていた小池都知事だったが…

――東京都が特定の人について開示請求の制限を設けるというニュースについて、どう思われましたか。

岡田正則(以下 岡田):実に意外ですね。というのも、小池(百合子)さんが都知事になった際、私は東京都開発審査会の会長をやっていまして、風通しの良い都政にするためにどんな文書も全て公開するということを小池さん自身がしきりにアピールし、そのことで事務局が非常に苦労していたのを見てきたからです。 

具体的に言うと、これまでは紙きれ1枚に議論の概要・結論が書かれた文書で済んでいたものが、誰の発言かなど全て詳細に記録することを小池都政では求められるようになったのです。 

私は逆に、そこまですると、委員の自由な発言や活発な話し合いがセーブされてしまうという問題点を指摘していたくらいで、今回の開示請求の制限に関する検討という話は、それとは逆向きのことなので、どういう背景なのか不思議に感じています。

WADA:そもそも請求しなくても、公式文書は誰でも閲覧できる状態にしておくわけにいかないのでしょうか。

岡田:審議会の会議録など、少しずつはオープンになってきているんですが、微妙な行政判断により何らかの支障が出そうだというものには、請求が来たらしぶしぶ公開する対象にしていることは間違いないですね。 

岡田教授自身の「日本学術会議の任命拒否理由」開示請求の結果に関して 

――東京都に対してではないですが、岡田教授ご自身は日本学術会議の任命拒否理由について、4月26日に開示請求を出されたそうですね。

岡田:内閣官房の3機関(内閣総務官、内閣官房副長官補、内閣情報官)と、内閣府の1機関(内閣府大臣官房長)に対して開示請求を行いました。 

そのうち2つは5月21日付けと、1つは延長後の6月23日付けで「全部を開示しないことに決定した」として「不存在」、つまり情報がないという通知がありました。 

そして、内閣府大臣官房長からは30日延長後に、6月21日付けで「保有個人情報の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することと決定しました」という通知があったんです。

――「開示拒否」とはどんな理由なのでしょうか。

岡田:存否を答えること自体が、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼす恐れがある情報を開示することとなるということです。 

しかし、少なくとも本人に対して情報を隠す理由にならないと考えられますし、いかなる支障があるのかが説明されていませんし、実際に支障が生じるとは思えません。 

また、内閣官房の中で開示対象となった情報や文書がやりとりされたことは確実であるにもかかわらず、「不存在」としているわけですから、これは事後的に文書等を廃棄したか、または内閣府大臣官房長のもとに集約されたかのいずれかですが、いずれにしろ公文書管理の在り方として疑義があり、説明が必要だと思います。 

「本来裸にしなきゃいけない国や公共団体はどんどんベールで隠されていく」「情報は、権力を維持する重要な手段」という岡田正則教授。写真は、学術会議問題に関しての日本外国特派員協会での記者会見
「本来裸にしなきゃいけない国や公共団体はどんどんベールで隠されていく」「情報は、権力を維持する重要な手段」という岡田正則教授。写真は、学術会議問題に関しての日本外国特派員協会での記者会見

世界の趨勢に逆行している日本の情報公開、個人情報保護制度

――例えばデンマークなどでは「ガラス張りの政府」とよく言われていて、王室の経費は洋服代まで国民に提示されていると聞きます。そもそもなぜ日本ではそれができないのでしょうか。

岡田:情報は、権力を維持する重要な手段なんだと思います。マイナンバーで個人のほうは情報をどんどん吸い上げられ、丸裸にされていくのに、本来裸にしなきゃいけない国や公共団体はどんどんベールで隠されていく。しかも、個人情報のほうにコントロールする権力を及ぼすようになってしまっているのは、世界の趨勢から逆行しているのが今の日本なんですよね。

――知る権利などにおいて、違法にはならないのでしょうか。

岡田:それについては、憲法上の権利なのか、法律や条例によって作られた権利なのかというかなり根の深い論争があるんですよ。 

国側としてはあくまでも法律や条例によって作られた権利で、その範囲で保障すればいいとして情報公開、個人情報保護の請求権をとらえています。 

個人情報に関しては、憲法13条の個人の尊重により、プライバシーは守られるという議論が以前から判例でありますが、情報請求公開ということになると、「知る権利」という主張に対して「それは法律上作られた請求権だ」という議論になるわけです。 

WADA:判例上はまだ知る権利は認められていないんですか。 

岡田:はい。憲法上の権利としては、あくまでも政治参加の便宜として法律の範囲で作られているとしているわけです。 

今やグローバル化の時代ですから、国際水準に合わないと企業活動も安心してできないので、プレッシャーはあるはずなんですよ。そもそも日本の情報公開、個人情報保護制度も、国際的なプレッシャーが影響し、国側は21世紀に入る前後にしぶしぶ仕組みを整えたくらいですから。

――状況的に見ると、中国などと似ている部分が出てきた気もします。

岡田:それだけ、国の権力が危ない状況にあるということだと思います。ただ、中国の場合、中国共産党が表に出て権力を振るうみたいなことがあり、ウイグル、香港の問題ではっきりと見えますが、アメリカもヨーロッパも似た状況にあります。 

世界共通の現象として、今まで法制度や最低限のルールとして守ってきたことを、権力側が侵害してきているのです。なぜかと聞かれる度に、公開しない、文書を破棄する・改ざんする。トランプ・前米大統領もいろいろやってきましたが、外部に出さず、出そうとしたら潰してきたわけですよね。 

デジタル庁は通常の行政機関ではなく「内閣総理大臣直属で内閣府と並ぶ存在」

――世界共通の現象として同じ方向に向かっているのはなぜですか。

岡田:1つはデジタル化のもとで、誰でもが様々な情報にアクセスできるようになり、情報管理が国家でも非常に重要な位置付けになってきたことがあるでしょう。 

にもかかわらず、社会のほうではリークや侵入、ハッキングもあるので、国家自体が危ない状況になっているわけです。 

でも、逆にこれを戦略として使えば、マスコミを締め上げて脅してコントロールできるという情報戦略なんだと思います。 

だからこそデジタル庁は、普通の行政機関じゃなく、内閣総理大臣直属で、内閣府と並ぶ存在なんです。内閣総理大臣直属で行政全体をトップダウンでコントロールできるように作ったのがデジタル庁で、大統領的な首相という位置づけや権力を狙ったものだと思います。 

WADA:同じことを「人」で行っていたのが、内閣人事局でしたね。人事を完全に掌握してしまったのと同じように、今度は情報を掌握するということですね。

――でも、そうすると、情報の存在する場所は文書ではなく、個人の頭の中になってしまい、「情報は存在しない」ということになりそうです。

岡田:今までも行政で共有する文書にならなければ公開対象にならないとして、切っていましたから。それぞれが勝手に作ったけど、「個人用のメモ」とされると、請求しても「文書不存在」とされてきたわけです。しかも、現政府は、公文書の改ざんや廃棄をしていますし、実際にはあるものも「ない」と言っています。隠す範囲を広げているのが現状なのだと思います。 

WADA:トップダウンがすごく多くなるのは、国として危機にあるわけですよね。 

岡田:決断するからにはちゃんと材料や見通しを持って、それでついてこいと言う必要があるわけですよ。にもかかわらず、今は「口出しするな」「根拠はない」「説明しない」「黙って従え」という流れです。 

第二次世界大戦の時に似ているという人もいますが、実際、結果の被害だけ耐え忍んで受け入れろと言われているのが、コロナ禍の中でのオリンピック開催ですよね。 

行政の中ではきちんと法律は守って運用するという前提なのに、行政や会計の監視・チェックの制度が底抜けしてしまっているんです。これは非常に危険な状況だと思います。 

岡田正則(おかだ まさのり)1957年生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。金沢大学助教授、南山大学教授などを経て、現在、早稲田大学教授。

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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