世界中でも希有な漁港 「深海魚の町」戸田は、マジでキモ面白い | FRIDAYデジタル

世界中でも希有な漁港 「深海魚の町」戸田は、マジでキモ面白い

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戸田の象徴的深海魚、ゲボウ
戸田の象徴的深海魚、ゲボウ

鎌倉時代、源頼朝の息子・源頼家が謀反を起こして幽閉・殺害された伊豆の山寺・修善寺。その修善寺から、さらにバスで山を越えて50分。山塊がそのまま海に落ち込んだような景観にポチっと見えてくる小さな漁港が、戸田(静岡県沼津市)だ。

とだ、ではない。「へだ」と読む。
コンビニなし。電車の駅なし。魚の口のような形の戸田湾をぐるりと取り囲む県道17号線の周囲に20軒ほどの民宿兼食事処がならぶ。漁協の直売所と道の駅がひとつ。

修善寺から山越えをしてきて40分あまり。両側から迫る山の先に戸田が小さく見えてくる
修善寺から山越えをしてきて40分あまり。両側から迫る山の先に戸田が小さく見えてくる

ところが人口3000人たらずの「HEDA」は、ある分野の人々には世界中で知られている。それは「水族館」「海洋博物館」に関係する人たちだ。

小さな戸田湾の外は、水深2500mに切れ込んだ駿河湾が広がる。戸田の漁師たちは、ここにトロール(底引き網)船を繰り出し、生きた化石とも言われる世界最大のタカアシガニ(一尾1万円以上する高級ガニ)を獲るのだが、その時、世界でも稀な深海魚たちが網にかかってくるのだ。

戸田の特産・タカアシガニ。足にも身が詰まっており、だいたい一尾で4人前のボリュームがある
戸田の特産・タカアシガニ。足にも身が詰まっており、だいたい一尾で4人前のボリュームがある
帰港したトロール船から荷揚げされる、戸田ではとろぼっちとよばれるメヒカリ。水深200~600mに棲息する深海魚だ。後ろの樽に満載されている赤いエビはヒゲナガという深海エビ(地元の呼び名は本エビ)
帰港したトロール船から荷揚げされる、戸田ではとろぼっちとよばれるメヒカリ。水深200~600mに棲息する深海魚だ。後ろの樽に満載されている赤いエビはヒゲナガという深海エビ(地元の呼び名は本エビ)

「だから、世界中の水族館が、深海魚の展示標本を手に入れたい時、戸田に頼んでくるんです。トロール船にはよく海洋学の研究者が一緒に乗って標本を獲っていますし。深海ザメが網にかかってるなんてあたりまえの光景だし、地元の漁師たちは別になんとも思ってなかった。だけど、これってウリになるんじゃないか、と思いはじめまして」

こう話すのは、戸田で割烹民宿『丸吉(まるきち)』を営む中島寿之さん。深海魚で町おこしをと思いついたのは、2011年、隣の沼津に「シーラカンスミュージアム」ができた時だったという。

隣町に深海魚で先を越されちゃいかん、と町の有志に声をかけ、パンフレットなどを作った。そこに降って湧いたのが、NHKのダイオウイカ番組を契機とした深海ブーム。2013年、東京・国立科学博物館に60万人もの観客をあつめた『深海展』を中島さんも見に行った。

「ん~……正直言って、これなら戸田に来たほうがいいんじゃないかなぁと思った(笑)。展示されてるだいたいの魚をウチの港で見たことあったし、そもそもここから納めた標本もあるし、戸田の漁船に乗ったことがある監修者の先生も多くて。展覧会のお客さんがホルマリン漬けになった標本に目を輝かせているのを見て、『それなら、ガラス越しじゃなく海から揚がってきた本物に触れてもらって、写真も存分に撮れるイベントをやろう』と考えたんです」

こうして始まったのが、今年は10月27日(土)に開催される『深海魚まつり』だ。

9月6日に深海底引き網漁が解禁され、現在、まつりに出される深海魚たちが続々と集められている。(太陽光が届かない深海でも産卵と自然保護のため禁漁期があるのだ。まぁ、たしかに陽光の熱い季節に水揚げすると深海魚は腐りやすいだろうし)

上のトロール船に「深海魚積んでます?」と聞くと、「ほいよ」と、深海ザメやアンコウの仲間、タコなどがゾロゾロ出てきた。『深海魚まつり』では、来場者がこうした魚を手に取れる
上のトロール船に「深海魚積んでます?」と聞くと、「ほいよ」と、深海ザメやアンコウの仲間、タコなどがゾロゾロ出てきた。『深海魚まつり』では、来場者がこうした魚を手に取れる
港を歩いていたら、網をほどく漁師さんの傍らににょろりとしたものが……うへっ!? 「網にかかったカサゴに食いついたウツボだよ~」。こんなものが普通に落ちているのだ、戸田には
港を歩いていたら、網をほどく漁師さんの傍らににょろりとしたものが……うへっ!? 「網にかかったカサゴに食いついたウツボだよ~」。こんなものが普通に落ちているのだ、戸田には

『深海魚まつり』は、じりじりと噂が広まって参加者が増え、いまでは全国から深海ファンが集まってくるという。

「お子さん連れが多いですね。というか、〝ミニさかなくん〟みたいな熱烈愛好家の少年たちに親が引きずられて来ている感じ。おかげさまで開催後アンケートで、満足度は99%。意外と大人の女性の参加者も多いです」

今年の出し物は「深海ザメを食す」。どのように調理するか、地元であれこれとトライしているところだ。

戸田湾を閉じるように伸びる御浜海岸の突端にある「駿河湾深海生物館」にも立ち寄ってみよう。世界で始めて発見されたオロシザメの標本をはじめ、奇怪な深海魚の数々は大人にも見応え十分。入館料200円
戸田湾を閉じるように伸びる御浜海岸の突端にある「駿河湾深海生物館」にも立ち寄ってみよう。世界で始めて発見されたオロシザメの標本をはじめ、奇怪な深海魚の数々は大人にも見応え十分。入館料200円

そもそも深海魚とは、水深200mを超える海域で棲息する魚を称する。たとえば今、流行ののどぐろも深海魚の一種。彼らは餌の少ない深海で棲息しているせいなのか、見た目はグロテスクでも、生臭さがなく上品な味の魚が多い。

ふだんは太陽光が届かず、低酸素、低水温、高水圧の環境で暮らしているため水揚げされると痛みやすく、漁獲量も少ない。だから安定的に戸田から外に出荷するのは難しいのだという。

逆にいえば、深海魚はここでしか味わえない、ということになる。中島さんの店は、そんな深海魚料理を目玉にしている。

「戸田に揚がる象徴的な深海魚としては、ゲボウ(トウジン)があります。先端がとがっていて一見悪魔じみた魚だけれど、刺身にもできるし、天ぷらにするとふわ~っと溶けるような食感がする。また、深海エビをダシにとった味噌汁は、濃厚で甘い。フレンチの高級食材としてアカザエビが使われますが、戸田で何種類も揚がる深海エビも、そんな味わいです」

『丸吉』の深海魚の刺身盛り(税別2000円)。右下から時計回りにカガミダイとその肝のバター焼き、メギス、ハシキンメ、シマエビ、上半分がゲボウ。ゲボウは生臭さがまったくなく優しい味わい。外見と正反対だ
『丸吉』の深海魚の刺身盛り(税別2000円)。右下から時計回りにカガミダイとその肝のバター焼き、メギス、ハシキンメ、シマエビ、上半分がゲボウ。ゲボウは生臭さがまったくなく優しい味わい。外見と正反対だ

1日あれば十分散策できてしまう、小さく小さく閉じた漁港。竜宮城に舞い込んだ気分で、浮き世離れした一日を過ごしてみよう。

 

●『深海魚まつり』 2018年10月27日(土)14時~16時 御浜岬公園エントランス広場 問い合わせ:戸田観光協会(tel 0558-94-3116)
●『駿河湾深海生物館』(沼津市戸田2710-1 tel0558-94-2384)
●割烹民宿『丸吉』(沼津市戸田566-2 tel 0558-94-2355)

取材・文・撮影 花房麗子

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