SNSで大人気の末吉9太郎「アイドルオタクがアイドルをする訳」
幼少時から「モーニング娘。」になりたかった
「ずっと芸人だと思ってた」「芸人より面白い」「クセになる」などと評判の“アイドルオタクアイドル”で、ボーイズユニット「CUBERS」リーダーの末吉9太郎。れっきとしたアイドルながら、認知度が一気に高まったのは個人でTwitterやInstagram、TikTokに投稿している「アイドルオタクあるある」動画や、「それなー!」「沸いたー!」などのフレーズからだろう。
末吉9太郎がアイドルを目指したきっかけは、「幼少時からモーニング娘。になりたかった」から。しかし、彼がメジャーデビューを果たしたのは2019年。モーニング娘。を擁するハロー!プロジェクトでは長年「25歳定年説」と言われてきた25歳のときである。そんな彼が間もなく28歳を迎える今、目指す場所は? インタビューを敢行した。
――リアルすぎる「アイドルオタクあるある」動画の投稿を始めたのは2019年8月から。きっかけは何だったのですか。
末吉9太郎(以下 9太郎) 最初は「SNSでバズりたい」と思って、Twitterで毎晩9時に動画をあげ始めたんですが、当時は公園に行って一人で大福を食べる動画とか、わけのわからないシュールなものが多かったせいか、全然再生数が伸びなかったんです。
それを10ヵ月続けていって、「今日あげる動画がない」というときに、「特典会に並ぶファンの方達」という動画をあげてみたら、それまで200いいねくらいしかつかなかったのが、一気に2000いいねくらいになって、そこから味をしめて毎日「アイドルオタクあるある動画」をあげるようになりました。
【9太郎】握手会待機列で話しかけてくるオタクあるある
――当初の反応はいかがでしたか。
9太郎 最初は賛否両論でした。僕自身がアイドルなのに、ファンの人の真似をしていることで「オタクのこと、馬鹿にしてるんですか」というような意見もすごく多くて。でも、僕自身アイドルオタクだから、愛を持ってやっていましたし、1ミリも馬鹿にする気持ちはなかったので、そういう批判は全然気にしていなかったです。だって、推しを好きな気持ちって、素敵じゃないですか。
指原莉乃をはじめ、アイドルや芸能人がフォロー
――賛否両論の反応が好意的な方向に変わってきたのは、いつからですか。
9太郎 指原莉乃さんとか、僕が一方的に観ていたアイドルの方や芸能人の方がSNSをフォローしてくれたり、お会いしたときに「SNS見ています」とか言ってくれたりするようになったあたりからですね。
それこそ僕がちっちゃい頃から見ていた方に、自分が認知されるって、理解が追いつかない日々でした。お仕事も1人でさせていただくようになってからは、最初僕のことを批判していた人も「最近面白いと思って見られるようになってきた」と言ってくれるようになって。
たぶん「この人、本当にオタクなんだな」「自分たちと同じだ」と分かってくれたからだと思います。今はアイドルのライブの現場とかに行くと、ファンの方たちが普通に話しかけてくれるんですよ。グッズの場所を探して迷っていたら教えてくれることもあります。
――それにしても「アイドルオタクあるある」のリアルさはすごいですが、ネタはどのように探すんですか。
9太郎 僕がオタクだから、マインドは僕自身の部分もありますが、あとはInstagramのDMに、いろんな界隈のオタクの方から、現場で起こったことや「推しの新曲の衣装がめちゃめちゃダサかったです」「私の推しが女と(熱愛現場を写真誌に)撮られました」と言ったコメントが、毎日届くんです(笑)。ネタにしてくださいという方もいれば、単純に愚痴を送ってくる方もいます。
推しのライブで後輩グループが出てきて曲を披露してる時のオタクの違い
――動画はご自身で編集もするのですか。
9太郎 YouTubeは編集していただいていますが、TwitterやInstagram、TikTokは自分でやっています。最初の頃は意識的に息遣いを入れて、それも文字にしたりしていましたが、無駄に長くならないようにしていますね。尺が長いと途中で観るのをやめちゃう人も多いので、5~6回撮り直して無駄がないようにします。
――ネタのストックはどんな風にしているんですか。
9太郎 最初の頃はノートにまとめていて、ネタに困ると事務所に行って社員さんとかに「なんかないですか~」とか相談していたこともありました。でも、今は「新規・中堅・古参のオタクの違い」とか、いろいろなシリーズができているので、ネタに困ることはないですね。
――9太郎さんご自身がファンとしてアイドル現場に行くときは、どのパターンですか。
9太郎 僕は現場では「地蔵」。双眼鏡でじーっと観て動かないタイプ。一瞬のパフォーマンスも見逃したくないからです(笑)。
――もともとご自身が思い描いていた理想のアイドル像はどういうものでしたか。
9太郎 僕自身は、中学高校で学生生活をしながらアイドル活動をしていて「忙しくて学校行けない……」みたいなのが夢でした。
でも、中高生時代にずっとオーディションを受けまくってどこも受からず、それで音大に行って、武器を作ろうと曲作りをめっちゃ頑張って、ライブ活動をして、ブログを自分で作って。会場に行ったらお客さん0人だったこともありました。
その頃、オーディションを受けさせてもらったのが今の事務所(つばさレコーズ)なんですが、ブログに「今日もライブありがとうございました」とか書いて、自撮りをあげているのを見て、今のチーフマネージャーが人気者だと勘違いしたらしいんですよ(笑)。
しかも、最終的に落とそうとしていて、なんとか合格させるためには変な子にするしかないということから、当時まだプロジェクトに関わっていた事務所の取締役に100通りくらい変な名前を提案して「末吉9太郎」になったらしいです。
――当時はこのお名前をどう思いましたか。
9太郎 「やばっ、まじかよ! 数字入ってるじゃん」って思いました(笑)。他の候補には「セバスチャン2世」とか「それ行け〇〇」みたいなのもあったらしいですけど、もちろん嫌ですよね。今は「9ちゃん」って呼んでもらえるし、覚えやすいから良いですけど。
――本当はどういう名前が良かったのですか。
9太郎 本名ですよ! ハロー!プロジェクトはみんな本名ですから。僕が目指しているのは王道アイドルで、理想のアイドル像は鈴木愛理さんですから。
でも、今、僕をTikTokとかの動画で知ってくれて、CUBERSというグループで活動していることを知らない人が本当に多いんですよ。だから、YouTubeでCUBERSでの活動をアップしたら、「この人、推す側じゃなくて、推される側なんだ」っていう驚きのコメントがたくさんありました(笑)。
でも、そうやって動画から入った人などが、「最初は『何、この人?』って思ったけど、そのうちクセになって、いつの間にか沼にはまってました」と言って下さることがすごく多いのは、嬉しいです。
みんな一度は「9太郎、生理的に無理」っていうところを通過して、そのうちクセになってくれるんです。だから今、僕のことが「生理的に無理」という人も、ずっと見続けてくれたら、クセになるときが来ます!
――ご自身がアイドルとして大切にしているのはどんなことですか。
9太郎 僕がオタクしていたとき、「アイドルって、本当にファンのこと好きなのかな」とか「コンサートの次の日とかに楽しかったなぁって思いだしてくれてんのかな」って思っていたんですよ。
それで、自分が推していただく側になってみると、ファンの方が本当に大好きだと思うし、実際に悩みが来たり、「明日学校行くのが嫌です」というコメントが来たりするときには僕、めちゃめちゃ念を送るんです。「明日、学校が楽しくありますように!」とか。
――もうじき28歳の生誕祭もあります。今後の目標を教えて下さい。
9太郎 アイドルになれてすごく嬉しい気持ちはあるんですが、全然満足はしていなくて。僕が見ていたアイドルのように大きな会場でコンサートできるようなボーイズグループになっていきたいです。
それから個人としては、「応援していてよかったな」と思えたり、自慢できたりするようなアイドルでありたい。僕はステージに立つことも、バラエティー番組も、撮影も好きだし、苦手だと思った演技仕事も、すごく楽しかったから。
たぶん僕が何歳になってもアイドルとして応援してくれる人はいると思うし、芸能界にはなんだかんだずっといる気がしています。
- 取材・文:田幸和歌子
- 撮影:スギゾー。
ライター
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。