金メダル・大橋悠依が必死で乗り越えた「学生時代の暗黒期」 | FRIDAYデジタル

金メダル・大橋悠依が必死で乗り越えた「学生時代の暗黒期」

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7月25日、五輪初出場の大橋悠依が女子400メートル個人メドレーで金メダルに輝いた

え、まさか。

このまま行っちゃうんじゃーー。

女子400m個人メドレー、大橋悠依は3泳法目の平泳ぎでリードを奪うと、そのまま逃げ切ってしまった。

日本女子にとって、この種目では初めての金メダルだ。

それにしても、スマートな勝ち方だった。最初のバタフライをのびのびと入り、好位置をキープすると、得意の背泳ぎでは2番手につけた。

ポイントは3泳法目の平泳ぎだ。実は、大橋は平泳ぎを苦手としていた。それでも、ここでリードを奪わないことには、最後の自由形でアメリカ勢が襲い掛かってくる。

ところがーー。

大橋が平泳ぎでどんどんリードを広げるではないか!

ライバルたちは焦っただろう。平泳ぎで大橋を射程距離に捉え、自由形で抜き去るつもりだっただろうから。

実際、銀メダルを取ったワイアント(アメリカ)は、背泳ぎが終わった時点で大橋との差は0秒23だった。ところが、平泳ぎが終わった時点では1秒99にまで差が広がっていた。

ここで勝負あった。

これまでの国際大会での大橋の泳ぎからは想像がつかない戦術で、これはコロナ禍で大会が少なかったことが大橋にはプラスに働いたと言える。誰も、新しいスタイルを想像できなかったのだ。

つまり、大橋はレース途中での“奇襲”に成功したのだ。

大橋悠依、一世一代の会心のレースだった。

引退を申し出たこともあった

大橋悠依は1995年に滋賀県の彦根市で生まれた。3人姉妹の末っ子だが、幼少のころは体が弱く、両親を心配させた。

風邪をひきやすく、アレルギーにも悩んでいたことから、イトマンスイミングスクールに入会し、そこから水泳人生がスタートした。

2014年に草津東高校を卒業すると、北島康介らを育てた平井伯昌率いる東洋大学に入学し、一気に飛躍が期待されたが、ここで伸び悩む。

大学2年、2015年の日本選手権では200m個人メドレーでエントリーした40人中、なんと40位。中学生にも負けていた。

大橋本人が「暗黒期」と呼ばれる時期で、チームにはリオデジャネイロ・オリンピックで金メダルを獲得する萩野公介ら、世界を目指す選手たちがいた。

「強い仲間と一緒にいるのもつらいほど、自分に自信がありませんでした」

記録が伸びないこともあり、平井コーチに「もう無理です」と競技からの引退を申し出たこともあったが、そこから大橋は自分に向き合う。

極度の貧血だということが分かり、食生活を改善。2016年のオリンピック選考会では3位となって代表入りは逃してしまったが、翌年、大学4年になってハンガリーのブタペストで行われた世界選手権で、200m個人メドレーで銀メダルを獲得し、花が開いた。

もう、仲間と一緒になっても視線を落としている大橋ではなかった。

2019年、韓国・光州で行われた世界選手権では400m個人メドレーで銅メダル。東京オリンピックでもメダル候補のひとりとなったが、コロナ禍でオリンピックは延期に。他のアスリートと同様、気持ちを作り直すのに苦労し、気持ちの波が大きいことも影響したのか、2020年の冬にはコーチとの葛藤もあったと聞く。

それでも4月に行われた日本選手権で代表権を獲得し、気持ちは前向きになったと思われたが、高地合宿のトレーニングの一環として6月26日に行われたタイムトライアルでのタイムは、4分38秒78。ゴール板にタッチした大橋は左肩に頭をもたげ、疲労困憊の表情だった。いくら合宿中で調整をかけていないとはいえ、厳しいタイムだった。

ここで平井コーチは神経戦を仕掛けた。

「チャレンジをやめるという選択もある」

オリンピックに出るのを諦めろとか、そういう話ではない。金メダルを狙って最後の追い込みを行うか、それとも安全なメニューを組んでメダル獲得のチャンスをうかがうか、という究極の選択だ。

「ひと晩考えました」という大橋はいばらの道の方を選び、「どんなメニューが来てもこなそうと思いました」と覚悟を決め、厳しい選択をしたことがオリンピック本番での、後半の見事な泳ぎにつながった。

父の忍さんによれば、

「勉強はよく出来た子で、通信簿には5が並んでました。でも、体育だけは3か4だったんですよ(笑)」

とのこと。水泳の道を選んでいなければ、教員になっていたのでは、と語る。

紆余曲折の末の金メダル。

大橋悠依の名前は歴史に刻まれた。

  • 取材・文生島淳(スポーツジャーナリスト)写真JMPA

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