「日本型のヤバい組織」でサバイブする「3つのポイント」 | FRIDAYデジタル

「日本型のヤバい組織」でサバイブする「3つのポイント」

問題だらけの日本企業の暗部を抉った2人の著者が徹底討論する

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かんぽ生命の保険不正販売問題に関連して、会見する日本郵政の増田寛也社長(中央)ら
かんぽ生命の保険不正販売問題に関連して、会見する日本郵政の増田寛也社長(中央)ら

東芝の不正会計問題、財務省の公文書改ざん事件、そして東京五輪を巡る多数の騒動・トラブル……。近年巷をにぎわせてきた多くの騒動・事件の背景には、内向きで、閉鎖的な「日本型組織」の問題が潜んでいる。

今年、そんな日本型組織の問題に切り込んだ、2作の著書が刊行された。『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』の著者・藤田知也氏と、『保身 積水ハウス、クーデターの深層』の著者・藤岡雅氏の2人による対談の前編に引き続き、後編をお届けする。

●根深い問題

藤岡 積水ハウスと日本郵政という2つの組織は、ともに根深い問題を抱えていたことを改めて感じます。

藤田 日本郵政の場合は、「問題を改善する」ということより、「問題にならないようにする」ということに相当なエネルギーが注ぎ込まれてしまっていました。たとえば、保険営業で望んでもいない契約をさせられたとお客さんからクレームを受けると、「配慮が足りない部分があったかもしれない」などと言いながら、「口外しないこと」を条件に返金に応じていたケースが多い。不正とは認めず、金融庁にも報告せず、問題の改善にもつながらないが、「おカネを返せば、(悪い勧誘があっても)顧客は救済される」と語っていた幹部もいました。

藤岡 NHKの「クローズアップ現代プラス」が18年に最初に報じたのもまさにそうした例でしたよね。都内の70代後半の女性がかんぽ生命との保険契約で「騙された」と訴えると、不正とは認めないが「配慮が足りなかった」と言って11万円を返金しようとしていました。

藤田 はい。お金が戻れば「まあいいか」「仕方ない」と思う顧客も多いでしょうが、NHKが報じた女性は反発して和解はしませんでした。当然ですよね、何がダメだったのかを明らかにせずに、何もなかったことにしようというのですから。

しかし、NHKの報道が出たあとも、かんぽは新たな対策を打たず、報じられた女性には返金どころか、話を聞き直すことすらしていなかった。そうした状況を社外取締役も知っているはずですが、問題を正そうとはしなかった。

藤岡 しかもそれを報じたNHKには抗議をする始末でした。あげくに、本書によるとNHKへの攻撃材料の一つとなったのが、郵政側の抗議に対して回答したのが番組責任者の統括チーフ・プロデューサーだったこと…だそうですね。郵政3社社長名の文書に、NHK会長名の回答でないことに「失礼極まりない」と役所の論理を持ち出してくるところに笑ってしまいました。

藤田 かつての簡易保険は「貯金がわり」に利用されることが多かったのに、低金利が進み、保険の掛け金が満期で受け取れる保険金を上回る「掛けオーバー」となり、最大の魅力だった「貯蓄性」が失われていた。それにもかかわらず、末端の現場に毎月数十本の保険販売をノルマとして押しつけ続け、ニーズのない保険を売ろうとしたわけです。郵便局になじみのある高齢者をターゲットにだましだまし保険を売った例も多いが、ノルマを達成するために家族に保険を売っていた社員もたくさんいました。

藤岡 そうなると、現場はどんどん過酷になっていきますよね。

藤田 ええ、成績が悪いと「懲罰研修」と呼ばれる勉強会に送り込まれ、厳しく締め上げられるのが日常茶飯事でした。不正を理由にクビになった郵便局の課長は、上司から「とにかく数字を取ってこい」と圧をかけられ続け、「1日に何本もレッドブルを飲みながら耐えていた」「若い部下は泣きながら営業していた」と話していました。

●倫理まで見失った経営者たち

藤岡 こうした実態がありながら、放置されているのも異様ですが、経営陣にその自覚がなかったことも驚きです。半ば見て見ぬふりをしていたわけで、そこがまた不正営業を容認する原因になっていた。

藤田 一連の問題が発覚したあと、かんぽ生命では、不正が発覚した社員たちの懲罰研修として、渋沢栄一の『論語と算盤』を読ませてそのレポートを書かせていたんです。経営陣が非を認めないままでは、もはやコメディです。

藤岡 積水ハウスでは地面師事件の責任のある阿部氏がその責任から逃避してクーデターを起こし、会長に就きました。

その後、支店長に「インティグリティ(真摯さ)教育」というものをやらせるようになりました。当然、支店長たちは「経営者にインティグリティがないのに……」と腰を抜かしていましたが。

藤田 どちらの組織でも同じようなことが起きていたわけですね。

藤岡 『論語と算盤』はいわば経済を行うには倫理(道徳)観との両立が何より重要だと説いた日本の近代経済の祖の真摯な思いが綴られています。「論語と算盤」の研修を受けた郵政の社員の多くが、経営陣に対して「まずあなたたちが読むべきでは」と思ったでしょうね。

藤田 はい、マジメに読んだ人ほど、そう思うはずです。

藤岡 まさに積水ハウスも日本郵政も典型的な日本型組織の弊害が噴出している問題だと思います。こうした日本型組織は今後、どうなっていくのでしょうか。

藤田 郵政は首脳陣が交代し、いまは「異論を許さない組織風土を変えていかないといけない」と口をそろえています。ただ変えるのはなかなか難しいと思います。

藤岡 どういった理由からですか。

藤田 トップの顔は変わったものの、幹部の顔ぶれはほとんど同じ。「ねじ曲げられた事実」を前提に責任の追及を免れた人たちですからね。

上司の誤りを正せるような人は、すでに外に追い出したか、愛想をつかれて出て行かれて久しい。異論を唱えやすい風土を作る必要はありますが、残念ながら人材がいないというのが実態だと思います。

「赤木ファイル」問題で自殺した赤木俊夫さんの遺影を前に会見する赤木さんの妻
「赤木ファイル」問題で自殺した赤木俊夫さんの遺影を前に会見する赤木さんの妻

藤岡 なるほど。今は金融機関のほとんどが投資をしたことがない高齢者めがけて営業をかけて、投信や保険を売りまくっています。営業マンたちも、もとは「お年寄りは大事にしよう」という倫理観を教わってきたはずですが、いざ就職してみたらそれとは反対のようなことをやらされていることが多い。しかもノルマを課されてです。

そんな組織に新卒で入ったら、それまで教わってきた倫理観をのっけから全否定されてしまう。下手したらその後の社会人生活を、倫理観を投げ捨てたまま送ることにもなりかねません。そのような組織で倫理を重んじて行動しているときっと頭がおかしくなるから、結局、最後は保身にまみれた人間にしかならないような気がします。

●戦略的な「不服従のすゝめ」

藤岡 しかし、ステータスが高く、信用力のある日本の大企業が、今こんなことになっているのは大問題ですよね。万一にも、問題だらけの組織に間違って入ってしまったら、どうすればいいのでしょう?

藤田 不正を促されたとき、または「おかしいな」と思うことが社内で起きていて、それを告発したいと思うときには、3つのポイントを考えるようにしてほしい。一つは、「それがどれだけ重大なことなのか」。次に、「告発するだけの証拠の材料はそろっているか」、最後に、「自分がどこまでリスクを負って戦えるのか」。それらを検討して、しっかりと戦略も立ててから、行動に移してほしい。

藤岡 証拠をそろえるのは大事ですよね。「おかしいな」と思ったら、写真に納めたり、書類を保管したり、また日記をつけておく。

藤田 そうですね。反対にやってはいけないことは、その時の感情に身を任せて、短絡的に行動を起こしてしまうこと。証拠が不十分だったり、反論を許したりしてしまうと、すぐさま左遷されたり、組織内でいじめにあったりするリスクを増大させてしまう。大事なのは、冷静に状況を見極めながら、戦略的に行動すること。材料がそろわない間は、息を潜めて耐えることも選択肢の一つになる。その場合も、一人で抱え込んで悩み過ぎないように、誰かに愚痴ったり意見を聞いたりすることも役に立ちます。

藤岡 サラリーマン経営者の劣化が著しい今、彼らは保身にかられた小物にしか見えません。まとまった証拠を見せて告発をちらつかせれば、逆に部下にこびへつらうようになったりして(笑)。

しかし、こうして対談していると、本来、大きな責任を一身に背負って頑張っているはずの日本の経営者や幹部たちが、何かにとりつかれた「化け物」のように思えてくるのですから残念ですね。

一方で、上司に公文書改ざんを命じられ、赤木ファイルを遺した財務省近畿財務局の赤木俊夫さんは、最後まで倫理を貫かれた稀有な存在だったと思います。赤木さんの思いを継ぐためにも、心身を追いつめられる前に、藤田さんがおっしゃるようにまずは戦略的に行動してほしい。そうした真摯な行動に感化された幹部たちが、組織を良くしていくことを願ってやみません。

  • 話者藤田知也

    早稲田大学大学院修了後、2000年に朝日新聞社入社。盛岡支局を経て、02~12年、「週刊朝日」記者。19年から経済部に所属。著書に『強欲の銀行カードローン』(角川新書)など

  • 話者藤岡雅

    拓殖大学政治経済学部卒。編集プロダクションを経て、2005年12月より講談社『週刊現代』記者。福岡のいじめ自殺事件やキヤノンを巡る巨額脱税事件、偽装請負問題などを取材

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