木村草太氏に聞く「都立高合格最低点の男女格差報道」に欠けた視点 | FRIDAYデジタル

木村草太氏に聞く「都立高合格最低点の男女格差報道」に欠けた視点

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都立高校の合格最低点の男女格差は、最大243点!

  • 「女子の方が高い点数をとらないと合格できないのは不公平」
  • 「男女別定員はなくすべき!」
  • 「東京では男に生まれるだけで人生イージーモード」

 こんなつぶやきがSNSに溢れたのは6月末~7月初旬のこと。都立高校の合格最低点の男女格差について、最大243点差もあり、8割の高校で女子の方が高くなっていると報じられると、それが一気に拡散された。

この報道を見て、近年の医学部入試の女性差別問題と重ね合わせ、「男女別の定員なんてなくして、公平に点数だけで決めたほうが良い」「女子のほうが高い点数をとっているのに不公平だ!」と思った女性は多いだろう。自分もそんな一人だ。

しかし、待てよ? 本当にそうだろうか。

なぜなら、日比谷、国立、西、戸山といった都立高校の「進学指導重点校」と言われる学校を見ると、例年、受験倍率は男子のほうが高い学校が多いし、男女別の偏差値を出している塾やプロ家庭教師会社などのデータではやはり男子のほうが概ね高い。

都立進学指導重点校に通っていた我が娘の高校の実績を見ても、東大・京大などのトップ大に受かった子はほとんどが男子だった。学校から配布されるデータでは、成績超上位層と下位層を男子が占め、中間層に女子が固まっている印象があった。そう考えると、あの報道には欠けている視点がありはしないか。

そんな疑問を感じていたときに出会ったのが、東京都立大学法学部教授で、憲法学者の木村草太氏のTwitterでのつぶやきだ。

「都立高入試においては、どうしても偏差値70を超えたくらいから、男性比が非常に高くなる傾向は否定できないところがあります」と木村氏(写真:共同通信)

男子・女子のどちらかが一方的に得をしている・損をしているという単純な問題ではない

<都立高校の男女定員で男女どちらが『下駄をはいている』かは、学校(もっと言うと偏差値帯)で違います。男性だけが/女性だけが損している、という単純な問題ではない。男女定員撤廃は、端的に言うと、東大等の高偏差値大への進学実績の高い高校の女子を減らす意味を持つ政策です>

<男女別定員撤廃は『男女平等政策』というより、『点数一本主義政策』であり、その事実を直視して議論すべきです。なお、参考になるのが、男女別定員のない神奈川県立トップの翠嵐の男女比です。興味のある人は調べてみてください>

なぜこうしたつぶやきを連発したのか。木村教授に聞くと、こんな回答があった。

「私がTwitterで発信してきた理由は、報道に欠けている視点があったと考えるためです。最初の報道では、単純に女性差別がひどいという話で、出ている数字も日本の女の子がすごく損をしているというメッセージをセンセーショナルに取り上げている印象がありました。 

しかし、内容を見ていくと、そんな単純な話ではなくて。男女どちらの合格点が高くなるかは学校によるため、男子・女子のどちらかが一方的に得をしている・損をしているという単純な問題ではないということに、注意を向けてほしいと思ったのが1つ目の動機です」

木村教授はもともと差別や人権問題に精通する憲法学者で、むしろ女性差別撤廃を考える人でもある。そのため、これらのつぶやきは当然ながら「男性優位」という主張ではない。

「もともと私は女性の社会進出ということを考えたときに、社会的に地位の高いとされる仕事や立場に多くの人材を輩出している大学という意味で、例えば東大の女子比率がずっと低いままであることを改善すべきだと思っていました。 

私の専門分野でいうと、最高裁判事の男女比率では女性がすごく低いんですが、これは東大法学部の男女比率がそのまま反映されたようなもので、東大の男女比率が悪影響を与えているだろうと思っていたんです。 

東大も、女子が地方から進学しやすいように家賃補助金を出すなど、いろんな試みをやってはきていたようですが、残念ながら女子2割の壁を越えていかない。では、東大入試が非常に不公平なのかというと、そうではなく、単純に点数主義を採用しているんですね」

単純点数主義を採用すると、トップ校ではむしろ男性比が高くなる

男女比において、よく例に挙げられるのは「オックスフォードやハーバードなどのトップ校で男女比が半々になっている」という話。しかし、そこにはあまり語られない実情がある。

「オックスフォードやハーバードは、試験場での点数1本でやる入試ではなく、面接やエッセイを取り入れることによってダイバーシティを考慮できる入試になっているんです。 

その点、東大は一部の例外を除き得点しか見ないので、そういう意味では諸外国の大学に比べても『公平』なんですが、単純点数主義になってしまうんです。 

都立高入試も同様で、どうしても偏差値70を超えたくらいから、男性比が非常に高くなる傾向は否定できないところがあります。実際、神奈川県のトップは翠嵐で、大阪府のトップは北野高校ですが、いずれも点数主義一本で入試をやった結果、男女比6対4くらいになっているんですね。 

単純点数主義を採用すると、トップ校ではむしろ男性比が高くなり、多様性が低くなってしまうという課題があることを知って欲しかったというのが、二つ目の動機です」

個別にはもちろん男子を上回る女性も多数いるし、東大の首席が女性であることも珍しくないという。しかし、マクロで見ると、偏差値70超では男性比が高くなる傾向は否めない。

では、なぜ超上位層だと男性比が高くなるのか。その問いに対し、木村教授は2つの見方を提示する。

「一つは、『ペーパー試験での一発勝負』という、ある種アスリート的な競技のような試験では、マクロで見た時、男性のほうが得意とする人が多くなる傾向があるのは否めないと思います。 

また、試験問題を作る側、評価をする側も男性が多いため、一発勝負の試験内容が男性に有利な、あるいは男性が評価したがるような項目が多くなっていないかを考えたほうが良いですね。 

例えば高校入試で、偏差値70を超えるトップ校の勝負になると、男子のほうが得意な数学の問題はある気がしますし、理科、社会など、暗記勝負になったときには、ゲームに徹することができるのも男子のほうが得意かもしれません。男女比を平等にするためには、そういった問題作りや試験の方法に関する研究もしたほうが良いと思います」

では、オックスフォードやハーバードのように、面接やエッセイを取り入れる方法を日本でも採用するのは?

「そこは非常に難しい問題です。日本人の感覚では、オックスフォードやハーバードの面接やエッセイが多い入試を不公平に感じる人も多いと思うからです。 

何故かというと、面接やエッセイの質には、その人の属する社会階層がもろに出るからです。子どもの頃から海外旅行にバンバン行って、有名人とたくさん会っているような良家のご子息と、経験の幅が狭くなってしまう層では、エッセイや面接、ボランティア活動の体験などで語れる内容には大きな差が出てしまうわけですね。 

それに、面接はおそらく好感度の高い雰囲気のある人が有利という傾向があります。そうなると、たぶん『不公平』という声がたくさん出るのではないかと思います」

つまり、オックスフォードやハーバード入試方法を取り入れると、男女比とは別の社会階級の格差や雰囲気の格差が出てしまう可能性があるということだ。「平等」はなかなか難しい。

東京大学の2021年度・一般入試で合格者に占める女子の割合は20.0%だった。ちなみに、全国の大学の学生全体に占める女子の割合は45.5%(2020年度・文部科学省「学校基本調査」より)(写真:アフロ)

動機付けや可能性を見せてくれる友達は、すごく大事な存在

そんな中、木村教授が勧めるのは「同じ目標を持って競い合える・一緒に目指せる仲間を作ること」だ。

「例えば筑波大学附属駒場高校(筑駒)など、昔から東大に行こうと思っている人が多い高校は別として、一般の東大受験生は、『自分が東大なんか受けていいのだろうか』と思っているところからスタートする人が多いと思います。 

そんな中、『私は東大を受けるよ』『受けて受からない大学じゃないよね』というような先輩や友達がいるのはすごく大きいことだと思っています。私自身、高校は東大にたくさん行くような学校でもなかったので、最初はあまり考えていなかったんですが、一緒に生徒会をやっていた先輩や当時お付き合いしていた女性が東大を受けると言ったこともあって、東大の受験も選択肢に入れて良いんだと考えることができました。 

こういう動機付けや可能性を見せてくれる友達は、すごく大事な存在だなと思うんです。おそらく日比谷高校などで男女比が半々であることにより、ポジティブな影響を受けた女子も結構いるんじゃないかと想定されるので、そういった面は大事にしてほしいです。国立最難関の筑駒も女子に門戸を開いてほしいですね。」 

ちなみに、東大の2018年の学生実態調査を見ると、東大入学の動機として、男子では「親のすすめ」を挙げたのが6.5%だったのに対して「高校の先生・友人のすすめ」が16.8%だった。また、女子の場合は「親のすすめ」が13.2に対して、「高校の先生・友人」が20.3%となっていた。

足の速い子と一緒に走ると、引っ張られて自然と良い記録が出ることが多いのにも似ているだろうか。その例が適切かはわからないが、自分で自分を値踏みしてしまわず、可能性を広げる手段として、先生や先輩、友人の存在が重要なのは確かだろう。

木村草太(きむら・そうた) 憲法学者。1980年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業、同助手を経て、現在、東京都立大学大学院法学政治学研究科法学政治学専攻・法学部教授。専攻は憲法学。

著書に『憲法の急所 第2版』(羽鳥書店)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)、『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』『自衛隊と憲法』(共に晶文社)、『木村草太の憲法の新手』『木村草太の憲法の新手2』(共に沖縄タイムス社)、『憲法学者の思考法』(青土社)など。共著に、『憲法の条件』(NHK出版新書)、『憲法という希望』(講談社現代新書)、『憲法問答』(徳間書店)、『ほとんど憲法 上・下』(河出書房新社)などがある。

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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