現地ライターが解説!インド「コロナ感染が劇的減少の背景」 | FRIDAYデジタル

現地ライターが解説!インド「コロナ感染が劇的減少の背景」

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1日あたりの死者が4000人以上だった「第2波」…今は10分の1に減少

新型コロナウイルスによる感染拡大で、特にインドでは今年5月、多数の新規感染者そして死者が連日相次いだことが、世界各国そして日本でも大きく報道された。インドでのこの「第2波」当時、1日の新規感染者数が40万人超ペース、1日あたりの死者も4000人を超えた。ちなみに、インドの人口は13.6億人で、日本の10倍以上だ。

その後、新規感染者数は減少し続け、現在、1日平均3万人から4万人ほど。最近再び増加はしているものの、ピーク時と比べるとその数は10分の1ほどまで減っている。インドから広がった変異「デルタ株」が、今も世界各地で猛威をふるって感染拡大に歯止めがかからない中でも、インドでは以前のような感染爆発は起きていない。一部では「インドの国民に集団免疫ができたのでは」との報道もある。

インドでは、三輪自動車でワクチン接種を呼び掛ける光景も(画像:アフロ)
インドでは、三輪自動車でワクチン接種を呼び掛ける光景も(画像:アフロ)

ワクチン接種1日1000万回ペースで進行中。未接種者の6割以上が抗体保有との報告も

最悪の感染状況から瞬く間に劇的改善したインドで、いったい何が起こったのか。

その1つが、ワクチンの接種が進んだことにあるのは間違いない。「Our World in Data」によると、9月上旬の段階で、ワクチン接種回数は約7億2400万回、1回のみ接種が約5億5000万人、必要回数のワクチン接種完了は約1億7100万人。インドの人口が13億人、そのうち成人が約11億人であることを考えると、1回のみ接種が約4割、接種完了はそのうちまだ1割超に過ぎない。それでも、感染爆発時からワクチン接種を積極的に進め、インド保健省が8月下旬、1日当たりの接種回数が1000万回を超えたことを発表するなど、急ピッチに進められている。

インドのワクチン接種回数のグラフ推移(データ提供元:Our World in Data)
インドのワクチン接種回数のグラフ推移(データ提供元:Our World in Data)

集団免疫に関しては、インド医学研究評議会(ICMR)が7月、約3万人を対象に行った抗体調査で、ワクチン未接種者の6割以上が新型コロナの抗体を保有したことを発表したと、インドのメディアなどが報じた。これに加え、ワクチン接種済みの人数を加味すると、さらにその割合は増える。一概に断言はできないものの、感染済みとワクチンの効果も感染抑制の理由の1つと指摘する専門家もいる。

インド・チェンナイ郊外のタンバラム鉄道駅に、ワクチン接種呼び掛ける壁画が設置(画像:アフロ)
インド・チェンナイ郊外のタンバラム鉄道駅に、ワクチン接種呼び掛ける壁画が設置(画像:アフロ)

官民の「スピード感」ある対応で感染爆発のピークから減少へ

この数ヵ月、インド現地で生活しながら感じたこと、身の周りに起きたことなどを、インド在住16年、現在もインド・バンガロールから新型コロナを含むインド情報を発信するライター/NGO主宰者の坂田マルハン美穂さんに聞いた。

「昨年の3月下旬にロックダウンが実施されたころ、モディ首相の号令による『国を挙げての』対策が目立ちました。しかし、昨年半ばに第1波が到来したころには、各州の感染状況などが異なることから、実質的なガイドラインは逐次、州政府から発布されはじめ、今日に至ります。

爆発的に感染者が増えた第2波の際には、州政府の対応を待っている時間はありませんでした。数日のうちに各地で近隣コミュニティの有志、あるいは各種宗教団体や慈善団体などによる支援が始まりました。感染者の家族に無償で出来立ての家庭料理を届けたり、食糧品の配給を始めたり……。 

また、自治体だけでなく、私企業や慈善団体が、医療関係者と連携し、感染者のケアセンターやワクチン接種会場を次々と設置するなど、一刻を争う状況の中で、自分たちができることに尽力する人の多さに感嘆しました。元来、インドは、人々が助け合いながら暮らす土壌がある国。こうした民間による積極的な活動によっても、多くの命が救われました」(坂田マルハン美穂さん 以下同)

インドにおける新型コロナの感染者数のグラフ推移(データ提供元:ジョンズ・ホプキンズ大学)
インドにおける新型コロナの感染者数のグラフ推移(データ提供元:ジョンズ・ホプキンズ大学)

約3週間で開発され、昨年4月にリリースされたインド政府による、国内12言語対応の新型コロナ用アプリ「アローギャ・セツ(Aarogya Setu)」(ヒンディー語で「ヘルスケアへの架け橋」を意味)は、現在地周辺から、各都市や各州の感染状況まで即座に確認できるほか、ワクチン接種情報や証明発行など多彩な機能が網羅されている。40日間で1億人以上がアプリをインストールし、現在では2億人以上が利用する。

第2波の際には、Aarogya Setuに連携して最寄りのワクチン接種情報などが得られるアプリなども開発され、政府が数日で承認するなど、官民連携しての対応の速さも印象的だったと、坂田さんは当時の様子を振り返る。 

「インドの強みの一つに、海外とのネットワークが広いことも挙げられます。NRI(Non-Resident Indian)と呼ばれる海外在住インド人は、経済面においても、頭脳においても、祖国に「還元」し続けてきました。パンデミック下においても、各国での事例がたちまちシェアされ活用されました。NRIからの支援金は相当の額に達したはずです」

インドでは8月20日、世界初のDNAワクチン、ザイダス・カディラが開発した新型コロナウイルスワクチン「ザイコブD」を緊急承認した(画像:アフロ)
インドでは8月20日、世界初のDNAワクチン、ザイダス・カディラが開発した新型コロナウイルスワクチン「ザイコブD」を緊急承認した(画像:アフロ)

インド人の新型コロナ対策、衛生観念は変わったのか?

また、インドと言えば、衛生面での問題が昔からよく取りざたされ、感染爆発の際はその点を指摘した報道も見られた。感染のピークからその後、インド人の衛生観念についてなにか変わったのかも聞いてみると、「インドは多民族国家であり、国土も広く、貧富の差も著しいことから、一概には言えない」と前置きしたうえで、次のような体験を紹介してくれた。

「例えば、都市部のショッピングモールや飲食店などでは、ソーシャルディスタンスが励行され、マスク着用は基本。スーパーマーケットなどでも入店時に体温をチェックされ、手指の消毒が促されます。州によってルールは異なりますが、バンガロールでは車中でもマスク着用が要求されます。うっかり外していたら、警察から罰金を取られたこともありました」

特にコロナ以降、ホテルやレストラン、カフェなどが、風通しが良いレイアウトに大きく改装したり、野外のテラス席を多く設置したりという動きが目に見えて増えたとのこと。サービス業では、スタッフが“ワクチン接種済み”であることを明示するなど、「ウィズコロナ」の姿勢が、あらゆる面で見られるという。

バンガロール市内の店舗に掲げられたワクチン接種済みの看板(坂田さん提供)
バンガロール市内の店舗に掲げられたワクチン接種済みの看板(坂田さん提供)

速やかに「ウィズコロナ」を新たな基準に取り入れている様子に、「2008年11月のムンバイ同時多発テロ後を思い出す」と、坂田さんは言う。「あのテロを契機に、高級ホテルやショッピングモールの入口で、手荷物検査などセキュリティチェックが普及、一般化しました。今では見慣れましたが、それ以前にはなかった光景です」

インドのほぼ全土がロックダウン(都市封鎖)の状況は、感染者数の減少によって段階的に解除。いまだ感染者が多い「封じ込めゾーン」指定エリアでのロックダウン、結婚式などイベント開催の人数制限などは残るものの、外出や買い物などはほぼ普通にでき、飛行機や鉄道などでの国内移動も可能となっている。

インドのホテルでのチェックイン風景。アクリル板や消毒液、デジタルQRコード決済など(坂田さん提供)
インドのホテルでのチェックイン風景。アクリル板や消毒液、デジタルQRコード決済など(坂田さん提供)
昨年のロックダウン時に大改装したバンガロールのレストラン。ウィズコロナを展望して大きな窓を増やし、テラス席を拡充(坂田さん提供)
昨年のロックダウン時に大改装したバンガロールのレストラン。ウィズコロナを展望して大きな窓を増やし、テラス席を拡充(坂田さん提供)

「第3波も起こり得る」と想定したインドの先を見越した対応策

インドの医療関係者は、第2波が収束傾向にあった6月の段階で、すでに第3波の到来を予見。ワクチン未接種の子供たちが感染する可能性が高まるとし、対策を促す資料や動画などが出回った。今後、また感染状況が悪化する事態となれば、ロックダウンに入る可能性もある。 

「現在のインドでは、ウィズコロナ、あるいはポストコロナを念頭に、ビジネス、教育、ライフスタイルなど、従来の価値観から次世代への移行が見られます。 

人口の半数近くが25歳以下のインドでは、若者が活躍できる土壌がある。昨今のインドは、変化に対して非常にフレキシブルです。オンライン・スクールはすでに一般化。都市部においては、食材や料理のデリバリーも選択肢が多く、配達も速やか。外出せずとも、必要なものがすぐに入手できる、極めて便利な環境です」

インドでは官民ともに、感染爆発した第2波の経験を活かし、第3波さらにその先をも見据えている。コロナとともに生きていくという考えは、インドでは先行して定着しつつある。

インド・バンガロールで学校が再開。教師が入口で生徒の体温を測定(画像:アフロ)
インド・バンガロールで学校が再開。教師が入口で生徒の体温を測定(画像:アフロ)

■記事中の情報、データは2021年9月13日現在のものです。

坂田マルハン美穂さんのホームページはコチラ 

シカマアキさんのウェブサイトはコチラ 

「コロナ感染爆発インド「報道で見えない真実」を在住ライターに聞く」の記事はコチラ

  • 取材・文Aki Shikama / シカマアキ

    旅行ジャーナリスト&フォトグラファー。飛行機・空港を中心に旅行関連の取材、執筆、撮影などを行う。国内全都道府県、海外約40ヶ国・地域を歴訪。ニコンカレッジ講師。元全国紙記者。

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