泣ける…50代女性ライターが書いた「政治対話本」が今売れる背景 | FRIDAYデジタル

泣ける…50代女性ライターが書いた「政治対話本」が今売れる背景

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『そうか、みんなも私と同じように不安なんだな』と思ったんです

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)が発売後たちまち4刷決定、1万3000部を売り上げる好調ぶりを見せている。

和田靜香氏(写真中央)と小川淳也氏(同左)、作家の星野智幸氏(同右)/刊行記念のトークイベントより

これは相撲・音楽ライターの和田靜香氏が、ドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(通称 なぜ君)の被写体で主人公・衆議院議員の小川淳也氏に正面から様々な疑問をぶつけ続けた8ヵ月にわたる「対話」の本である。

取り上げているテーマは、人口減少問題、税金、社会保険料、移民問題、環境、エネルギー、原発問題などに至るまで幅広く、難解なはずなのに、その熱量に飲み込まれるように一気読みしてしまった。

「実はこの本を読んでくださった方のコメントで多かったのは、『一気に読みました』というものなんです(笑)。取り上げているのは簡単な話ではないだけに、これを一気に読むのは凄いなと思いますよ。 

それに、なぜか『泣いた』という声も多いんです。最初は『泣く? どこで?』と不思議に思ったんですよ(笑)。でも、『自分の中にもこんな不安な気持ちがあるということに気づかされた』といった感想を読んで、この本を読んだことで自分の不安が言語化された、不安に気づいて泣いたという思いを知り、『そうか、みんなも私と同じように不安なんだな』と思ったんです」 

そう語るのは、同書の著者・和田靜香氏だ。

著者・和田靜香氏が、『なぜ君』の小川淳也氏に疑問を8ヵ月ぶつけ続けた「対話」の本だ(撮影:岡田こずえ)

国会議員と作る本というと、一般市民の疑問に国会議員が答える「先生と生徒」の講義形式や、Q&A方式になりそうなものだが、本書は全く異なる。

最初は和田氏の質問に小川議員が丁寧に説明するやり取りからスタートするが、そこにわかりやすい「正解」はない。そこで、和田氏は必死で猛勉強しながら、小川議員に懸命に食らいつき、モヤモヤした思いを率直にぶつける。小川議員もまたその思いに耳を傾け、新たな提案を示す。パワーバランスは拮抗していき、ときには二人の意見が食い違う。

これは「政治」の本じゃなく、和田氏の冒険譚であり、和田氏と小川議員との邂逅から絆が生まれるまでのドラマのようにも思える。類書もなければジャンル分けもできない、エネルギーに満ちた不思議な本なのだ。

「最初に、小川さんと本を作りたいという思いで手紙を書いたときは、本当にノープランでした。とにかく小川さんの言葉が良いから、それを聞きたい、書きたいという漠然とした自分の気持ちがあっただけで、企画書も書けなかったくらいですから」

出発点の「自分の気持ち」について、和田氏はこう補足する。

「もともと小川さんのところに行く前から、行っている間もずっと、自分の悩みや苦しみ、葛藤がすごく大きかったんです(笑)。だから、その悩みや苦しみ、葛藤を書かなければ意味がないなと。 

でも、何がわからないかすらわからない。それで、小川さんが『和田さんが何に困っているか、不安に思っているかを、まずはゆっくり考えて具体的に書きだしてください』と言ってくれたんですよ」

そこで、「財政」「労働問題」などと大まかなテーマを決め、あらかじめ調べた資料を共有用として送り、面談(小川氏は「デスマッチ」と呼ぶ)に臨んだ。しかし、最初はまだどんな本になるのか、やはり全く見えていなかったという。

「最初の方は私も緊張して、黙って小川さんのお話をありがたく聞く講義のような感じでした。でも、やっぱり『これじゃ読者としても絶対につまんないな』と思ったんですよ。 

自分も悩んでいるし、不安だし、それをちゃんと伝えたいという思いが断然強くなっていって。でも、自分の思いを伝えるためには、自分も勉強しなくてはいけない。 

それで、3回目くらいの面談のときに、統計不正問題の資料を作ったんです。時系列で追ったものと小川さんの国会質疑のときの言葉を組み合わせたような馬鹿みたいな資料で、何の意味があるのかわかんないけど、とりあえず徹夜して作っちゃった(笑)。そしたら、それまで難しくて全然わからなかった統計の問題が、資料を作ったことによって、自分自身の人生で最もつらかった時期と重なり、自分の中にスッと入ってきたんです」

和田氏の言う「馬鹿みたいな資料」を見た小川議員の反応は「すごいなぁ、ようやるわ」。そして、それを機に小川議員の本気度ももう一段高まり、面談が熱を帯びてきたと言う。

日本が今、こんなに切迫した病状でも…

ところで、『なぜ君』を観た人の多くが「こんなに真面目で誠実な政治家がいたとは」と驚き、感動した。と同時に「こんな政治家がなかなか選挙で勝てない政治って何なのか」と絶望し、「自分にできることは選挙に行くことだけ。でも、それがなかなか報われない」と落胆した人も少なからずいただろう。

そうした絶望感に大きな風穴を開けるのが、和田氏のこんな言葉だ。

「小川さん一人が何とかしてくれると思うと、そんな絶望感を抱くこともあるかもしれませんが、私は『絶対自分も一緒にやるもんね』と思うんですよ(笑)。 

これは小川さんも言っていることですが、みんなが『これ、マズイよね』という問題意識を持って『どうしようか』と考え始めたら、その時点で解決に向かっている。そうした一人一人の問題意識はすごい力になると思うんです。 

絶望に立ち止まらず、ときに立ち止まってしまったとしても、まずは問題があることを理解すること。そこから、解決方法があり、提案もされているということを知って選挙に行くのと、絶望したまま行かないのでは全然違います。 

政治のことは私もいまだにわからないですが、これまで『わからない』で放置してきたよな、と。もし自分が大きい病気をしたら『わからない』で放置しないじゃないですか。それなのに日本が今、こんなに切迫した病状でも、私たちが放置したまま治療しようともしないのは、違うと思うんです」

和田氏のすごさは、勉強量や根気強さばかりではない。わからないことを隠さず「わからない」と言い、納得できないモヤモヤは言葉にして伝えること、周囲を巻き込んでいく力だ。

「小川さんは笑いながら私のことを『ど厚かましい』と言うんです。自分でもそう思いましたもん(笑)。 

そもそも最初から小川さんを信頼しきって安心感を抱いていたわけじゃないんです。だから、最初は友人である作家の星野智幸さんにも『小川さんのことをどこまで信用していいかわからない』と言っていたくらいで(笑)、本当にど厚かましいんですが、それだけ自分自身が本当に苦しくて、その思いを伝えたかったんだろうなと思います。もちろんそれができたのは、小川さんのオープンでフラットな人柄があったからですが」

本書は、ライター業の傍ら時給最低賃金でコンビニのバイトもしてきた和田氏だからこそ書けた本であり、多くの人々の苦しみの声を和田氏が代弁する役割も担っている。しかし、声をあげることができない人、声のあげ方もわからない人たちは政治とどのように向き合っていけば良いだろうか。

「TwitterなどSNSで声をあげることも大切だと思うし、街で演説しているときに声をかけてみるのも良いと思います。 

でも、ハードルは高いですよね……。だからこそ、普段の生活の中で家族や友達同士でちょっと政治の話をしてみるのが良いんじゃないかと思います」

コロナ禍により、政治が否応なく私たちの生活に身近なものとなった。そんな中、国会を見ると、寝ている議員や動画を観たり本を読んだりする議員ばかりではなく私たちの生活に関わる重要な問題点をわかりやすく指摘している議員もいる。コロナ禍で困窮している飲食店の声を地道に集めたり、生活困窮者たちのために炊き出しをしたりしている国会議員の姿も見かける。

実は誠実で優秀で「市民の声に耳を傾けてくれる議員」は小川議員だけでなく、他の国会議員にもいるだろうし、きっと都議会議員・県議会議員、区議会議員・市議会議員、各首長にもいるはずだ。

甘えることは全然恥ずかしいことじゃないと思うんですよ

一人一人が和田氏のように、誰かに自分の「苦しい」「辛い」を伝えること、周りを巻き込んでいくことは、今の時代に最も必要なことではないか。 

「私の場合、家を見まわすと、自分で買った家具は2個しかなくて、テレビも冷蔵庫も洗濯機も、みんな友達がお古でくれた物ばっかり(笑)。常に助けてと言い続けていますが、甘えることは全然恥ずかしいことじゃないと思うんですよ。 

新しいものを買ったから、古いものが邪魔になるときとか、結構あるじゃないですか。捨てるはずだった物をもらうから、『もらって申し訳ない』とか卑屈になることもないし、『やったー!』とめちゃくちゃ喜んで、お礼するお金はなかったから、猫の絵とか手紙を書いて終わり(笑)。 

でも、いつも困っていると、常に誰かが『洋服いっぱい捨てるけど、欲しい?』『これ、余ってるけど要る?』と声をかけてくれるんですよ」

実は和田氏は共著『コロナ禍の東京を駆ける:緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(岩波書店)もあるように、生活困窮者支援の手伝いもしている人だ。だからこそ、そうした経験を踏まえたこんな言葉が、強く深く心に刺さる。

「みんな『助けて』って本当に言えなくて。『あなたは生活保護申請をして良いんですよ』と言っても『いや、それは迷惑をかけてしまうから』と、受け入れることができない人の話を本当にたくさん聞いてきました。 

生きるのが難しいとき、大変なときは誰にだって訪れる可能性があるし、そういうときは甘えて良いし、何かをもらったとしても『迷惑かける』『申し訳ない』じゃなく、『やった~!』で良いんですよ。 

本当は先に『公助』があるべきだけど、今はそれが得られず、『人に迷惑をかけてはいけない』『自助』ばかり。だからこそ、『共助』は大事だと思うんです。困ったときはお互い様。そうやって世の中は回っていくんだと思います」 

「わからない」ことは「わからない」と言うこと、苦しい、辛い思いを誰かに伝え、「助けて」と言えること――本書には今の時代を生き抜くために必要なことが、きっとたくさん詰まっている。

 

和田靜香(わだ・しずか) 相撲・音楽ライター。千葉県生まれ。著書に『世界のおすもうさん』、『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共に共著、岩波書店)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)などがある。猫とカステラときつねうどんが好き。

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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