昔とずいぶん違う「伝記本」人物選定の裏側を出版社に聞いてみた | FRIDAYデジタル

昔とずいぶん違う「伝記本」人物選定の裏側を出版社に聞いてみた

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「男女平等ランキング2021」で世界120位の日本だが…

子どもの頃、おそらく誰もが一冊は読んだことがあるだろう「伝記」。「伝記」と聞いて思い出す人物といえば、やはりエジソンやナイチンゲール、野口英世などだろうか。しかし、近年はそうした「伝記」のラインナップに女性が増えている。

例えば顕著なのは、ポプラ社の『コミック版 世界の伝記』シリーズだ。例えば2012年に刊行された第一期20冊の中で女性を挙げてみると、アンネ・フランク、ナイチンゲール、ヘレン・ケラー、キュリー夫人、マザー・テレサ、ジャンヌ・ダルク、樋口一葉、ココ・シャネルの8名。

現在までの既刊49冊の中には他に、エリザベス女王1世、クレオパトラ、マリー・アントワネット、グレース・ケリー、クララ・シューマン、マイヤ・プリセツカヤ、エカチェリーナ2世、アガサ・クリスティー、メアリー・アニング、マリア・テレジア、エメリン・パンクハースト、人見絹枝に加え、今月新刊として加わったサラ・ベルナールの13人。全49冊中21人、4割超が女性である。

これは「男女平等ランキング2021」で世界120位の日本の出版物として、結構すごいことなんじゃないだろうか。ポプラ社に“人選”の基準などを聞いた。

「第一期刊行当時の人間が部内にはもういないのですが、当時は他社から伝記コミックが出版されていましたが、ポプラ社からは出ていなかったのでチャレンジしてみようということと、『コミック版 日本の歴史』はあったことから、世界の偉人シリーズをコミックでやったらどうかということで立ち上がった企画だと聞いています。 

もともと文字の伝記本はポプラ社では1960年代くらいから10年ごとくらいで新シリーズが作られてきたなか、このシリーズのラインナップは『この人を見よ!歴史をつくった人びと伝』(2009年)などの既刊本を見て決めたそうです」(編集部・大塚訓章氏) 

売上ランキングから見る「世界の偉人ベスト10」で、ヘレン・ケラー(2位)、ナイチンゲール(3位)と並び、9位にランクインしたココ・シャネル
女性のファッションに初めてパンツスタイルを取り入れたココ・シャネルも登場(写真:アフロ)

「へレン・ケラー」「ナイチンゲール」と並び、人気の「ココ・シャネル」

特に第一期は女性の割合が多く見えるが、実際に伝記でよく売れるのは1巻エジソン、2巻アンネ・フランク、3巻ナイチンゲール、4巻へレン・ケラー、5巻野口英世、6巻キュリー夫人という「ド定番」に8巻マザー・テレサを加えたあたりだとか。そんな中、異色なのが、19巻目の『ココ・シャネル』だ。

「ポプラ社は、どうしても後発で伝記コミックに参入することから、うちの売りとして、他社と違う人物を入れようと。実際、ド定番の人物に次いで売れているのも『ココ・シャネル』です」(大塚氏)

少子化を背景に、限られたパイの奪い合いとなる「伝記」市場。その中では「他社に類書があるかどうか」「類書があっても売れる人物か」「類書が古いから、今新しく作り直したら古い本を駆逐して市場をとれる可能性があるか」などが人選の基準となると大塚氏は説明する。

また、続く2016年刊行の第二期では「『クリエイター』を中心にラインナップしたと聞いています」(編集部・鍋島佐知子氏)というように、円谷英二や石ノ森章太郎、グレース・ケリー、葛飾北斎、アガサ・クリスティーなど、作品はおなじみだが、「伝記」としてはちょっと新鮮な顔触れが並ぶ。ちなみに、ポプラ社が先んじて手掛けたのは『ウォルト・ディズニー』(25巻)で、その後も他社で出したのは角川書店だけだとか。

ところで、ちょっと気になるのは、2012年に刊行されたキュリー夫人の書名は『キュリー夫人』なのに2016年刊行のシューマンは『クララ・シューマン』であること。

「2012年刊行当時の人間がどう考えていたかはわかりませんが、一つには『キュリー夫人』という書名が定着していたこともあるでしょう。それに、2012年頃はまだマリ・キュリーという表記もあったし、キュリー夫人という表記も許容されていた時代だったのだと思います。今作るとしたら、キュリー夫人ではなく『マリ・キュリー』になるでしょうね」 

新刊は、「世界で最初の国際スター」とよばれる、19世紀フランスの大女優サラ・ベルナール

婦人参政権活動家、古生物学者…女性の生き方のロールモデルとして伝えたい 

また、第二期では、「マイヤ・プリセツカヤ」や「メアリー・アニング」「エメリン・パンクハースト」など、名前を聞いて誰もがすぐわかるわけではない人物も登場している。

「マイヤ・プリセツカヤを選んだ理由は、職業としてまだバレリーナを扱っていないなということでした。他社の学習漫画の伝記では、バレリーナというと、ほとんどがアンナ・パブロワを扱っていたので、後発で出すということで、時代がもっと近く、評価が高いバレリーナとして選んでいます。 

また、メアリー・アニングは化石採集者で古生物学者という職業の人として。エメリン・パンクハーストは女性の地位向上を意識し、女性参政権というテーマで教科書に写真も載っている人として選んでいます」(鍋島氏) 

また、アスリートでは唯一選ばれているのが、人見絹江だ。

「人見絹枝は、延期になってしまったものの、オリンピックに合わせて2020年4月に刊行しました。当時、女性がスポーツすることには偏見や差別的風潮があった中、必死で立ち向かい、女性の地位向上に貢献した人、女性の生き方のロールモデルとして伝えることが出来たらと思って選んでいます」(大塚氏) 

ところで、もう一つ気になるのは、どの作品もその人物が亡くなるまで描かれていること。何故なのか。

「他社さんでは松井秀喜さんや羽生善治さんなど、存命の方の伝記も出ていますが、当社は故人に限っています。 

何故かというと、こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、故人の方はすでに評価が定まった方という意味ですね。スポーツ選手が人見絹枝さんだけというのも、スポーツ選手の場合、人気があるのはどうしても現役の方々が多いということがあります」(大塚氏) 

また、ラインナップに女性が比較的多いことには、もう一つ「読者層」の影響もあるという。

「『日本の歴史』は戦国武将を中心に取り上げているため、おそらく『カッコいい』などの理由で男の子の読者が多いのに対し、『世界の伝記』は女の子の読者が多いんですよ」(鍋島氏)

では、今後取り上げてみたい人物やジャンルとは。

「女性に人気がある職業で偉人として取り上げられそうな人は探しています。その人が『女性初』とかであると、本としては作りやすいんですけどね。 

定番の人物はすでにやり尽くしていますので色々な人をリサーチしています。その人物が何をやったかを100ページで小学生にわかりやすくまとめるのが意外と難しく、業績があるから誰でも良い訳じゃないんです」(大塚氏)

■コミック版 世界の伝記(49)「サラ・ベルナール」(ポプラ社)の詳細はコチラ

コミック版 世界の伝記(19) ココ・シャネル

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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