箱根駅伝の名門・日体大エース藤本珠輝が明かす「脱毛症との戦い」 | FRIDAYデジタル

箱根駅伝の名門・日体大エース藤本珠輝が明かす「脱毛症との戦い」

病をあえて公表してきた3年生エースは、髪がはえてきた

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10月23日、箱根駅伝予選会に出場した日体大・藤本(左から3番目)。

第98回箱根駅伝への出場権を懸けた予選会が23日、東京都の陸上自衛隊立川駐屯地内の周回コース(ハーフマラソン)で行われ、上位10人の合計タイムで1位の明治大、2位の中央大、3位の日体大ら10校が本戦への切符をつかんだ。日体大の3年生エース・藤本珠輝は小学校の頃から脱毛症に悩み、自らSNS上でも公表してきた。この春から髪が生えそろい、ウィッグをつけずに走れるようになるまでの心境の変化を語った。

5連覇を含む10度の優勝を誇る名門の日体大をけん引する黒いヘアバンドのエースは歯を食いしばり、チームトップの1時間2分55秒でフィニッシュし、74回連続出場に大きく貢献した。個人総合は日本人7位(留学生含む全体15位)。藤本珠輝はレース途中まで日本人トップグループの先頭付近を走り、終盤は集団の後方に下がりながらも必死で食らいついた。夏前までは日本人1位を視野に入れ、エースの重責を果たすことを誓っていただけに、3年生の表情には満足そうな笑みはなかった。

多くの汗をかいた藤本を苦しめたのは、レース当日の強い日差しだけではない。7月上旬から8月中旬までは右足の疲労骨折に苦しみ、9月頭にも再び故障していたのだ。夏の走り込みも思うようにできず、筋力トレーニングとエアロバイクをこぐばかり。予選会にエントリーできるかどうかも微妙な状況だった。正直、焦りがあり、痛めた右足の不安は消えなかったという。

「完全に治り切っていないなかでした。それでも、チームに迷惑をかけられないと。連続出場は絶対に途切れさせるわけにはいきませんから」

手負いの状態でも、大黒柱としての自覚は強く持っている。昨年、寮の同部屋で過ごした前エースの池田耀平(現カネボウ)からは多くのことを学んだ。尊敬する先輩が毎日、口にするものを見て、大好きなスナック菓子を控えている。その効果はてきめん。今季は不必要に体重が増えることはなくなった。食事から睡眠まで細かく気を使い、妥協することはない。

「生活の質をどこまで高めることができかどうか。練習時間よりも生活している時間のほうが長いです。大きな目標があれば、自分を律することはできます」

自らの足で引っ張る姿勢を受け継ぎ、エースと呼ばれる資格を持つ男の条件を深く理解している。本番で強さを見せてこそだ。藤本がコンディション不良のなかでも、しかめっ面で意地の走りを見せたのは、日体大のエースとしての矜持だろう。

1年時に箱根駅伝5区に抜てきされた藤本。この時は専用のウィッグをつけて走っていた(写真:アフロ)

レース後に黒いヘアバンドを外すと、短く刈り込んだ髪型が精悍な表情をより際立たせていた。1年前の姿を知る人たちは、大なり小なり変化に気づいたはず。トレードマークの白いハチマキを巻き、髪をなびかせていた昨年度までの姿とは違う。ヘアスタイルのチェンジは、ただの気分転換ではない。藤本は小学校5年生から脱毛症に悩まされ、走るときも必ずウィッグをかぶっていたのだ。白いハチマキを巻いていたのは、それを押さえるためでもあった。SNSでも自ら発信しており、高校時代から公で明かしていることである。

「昔は陰で言われて、変なストレスを感じることもありました。それならば、自分から伝えるほうが、周囲にも理解してもらえるかなと。同じ病気で悩んでいる人にも、隠さなくても、やっているんだよ、というところを知ってもらいたかったので。僕は結果として、プラスに働いています。脱毛症は治る人もいれば、僕のように繰り返す人もいますし、治らない人もいます。

でも、こうやって生きていけるんだぞって、知ってもらいたい。高校から周囲に発信しているのですが、大学になって、みんなに知ってもらった感じです。箱根駅伝の注目度はすごい。ここまで大きく広まるとは思っていなかったですね」

今年5月の関東インカレからはショートカットで登場。脱毛症が落ち着き、髪が生えそろってきたことで、ウィッグを外したのだ。自らのSNSで「紫外線治療も痒み治療も液体窒素治療もステロイド治療も行った」と発信しており、人知れず苦労もしてきた。そのウィッグの存在には感謝しつつも、かぶることで余計な時間が割かれていたのも事実。競技面に及ぼす影響も少なからずあった。

「一番大きいのは、気持ちにゆとりができたこと。手入れを含めて、面倒なところがありましたから。走る前にも外れないように10分から15分は準備に手間がかかっていたので。いまは、その時間をストレッチや補強に充てたりしています。1日のわずかな時間でも毎日となれば、大きなものになります。でも、いつも巻いているハチマキがないと違和感があるので、きょうは黒の目立たないヘアバンドをつけていました」

そしていま、ランナーが当たり前のように感じてきたものをあらためて体感している。10月23日の予選会でも、遮る建物が何もない立川駐屯地のコースで感じ取っていた。多くの選手たちを苦しめた風である。

「実際、ウィッグを外して走ると、じかに風を感じるがことできます。本当に気持ちいいなって。きょう(予選会)は余計に強く感じましたけどね」

口元をふと緩めた表情には、喜びがにじみ出ていた。自身3度目となる正月の大舞台は、名門校のエースとして臨む。求められている仕事は、肝に銘じている。

「泥臭くていい。ガッツのある走り。トップ集団で負けない走りをしていきたい」

冷たい”箱根の風”を感じながら、熱い走りを見せることを誓う。

  • 取材・文杉園昌之

    1977年生まれ。サッカー専門誌の編集兼記者、通信社の運動記者を経て、フリーランスになる。現在はサッカー、ボクシング、陸上競技を中心に多くの競技を取材している。

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