『なぜ君』監督に聞く「小川議員は、立憲の代表になれるのか?」 | FRIDAYデジタル

『なぜ君』監督に聞く「小川議員は、立憲の代表になれるのか?」

大島新監督がみた「香川1区」場外乱闘

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映画を巡って起こった大激論…!

2021年衆議院選挙で最注目区の一つと言われてきた「香川1区」。

その選挙戦を盛り上げた要素の一つに、小川淳也氏が被写体かつ主人公となった大島新監督のドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(通称 なぜ君)があった。

なぜなら、同選挙区のライバルであり、前デジタル担当相の平井卓也氏が選挙活動中に『なぜ君』について「PR映画」「あれが選挙活動だとしたら、日本中の国会議員が映画を作るようになる」などと批判し、小川氏へのネガティブキャンペーンを展開。大島監督がTwitterで反論するという“場外乱闘”が起こっていたからだ。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)
(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

ちなみに、四国新聞10月6日の「『小川氏主役』の映画を上映 県教委、『不適切』と謝罪 高3生の世界史授業で」と題した記事では、大島監督のコメントとして「映画については、『結果的に映画によって小川さんの知名度が上がった』(同監督)」と書いてある。

これはフライデーデジタル(9月2日公開)で、『なぜ君』続編の『香川1区』について大島監督にインタビューした記事「『なぜ君』大島新監督はなぜいま『続編』を撮り始めたのか」の一文にそっくりだ。四国新聞は、大島監督本人に取材もしていなければ、弊サイトについての言及もない。

しかも、平井氏は大島監督の取材に対し、「映画は観ていません。ただ、とてもキャッチーなタイトルで良いですよね」と語っていたというが……。

知らず知らずのうちに弊媒体も巻き込まれた気分だが、香川1区ではどんなことが起こっていたのか。現地で選挙戦の模様を取材し続けた大島監督は、この結果をどう見たか。改めてお話を伺った。

「小川さんが勝つだろうとは思っていました。ただ、日本維新の会の候補者(町川順子氏)が出たことにより、小川陣営は少しナーバスになっていて、維新の候補者に出馬を取りやめてほしいと小川さんが交渉したといった報道がされたことにより、風向きが少し厳しくなるかなとは思ったんですね。 

その一方、平井陣営への取材は途中から塩対応になり、個別取材ができなくなりました。それでも、公示日などオープンな場所で行われた演説は撮影しました。岸田総理が駆けつけた応援演説には、ホールに2500人もの人、それも小川陣営に来る人とは明らかに違うタイプの黒いスーツの人などが大勢集まる様子を見ると、これはこれですごいな、と。 

ただし、小川陣営の熱は特に終盤には非常に高まっている感がありました。選挙戦最終日などは4年前とは比べられないくらいの人数が集まり、20時のマイクおさめの時などは、ちょっとした祭りみたいな熱気があったんです。ここまで盛り上がっているのだから、小川さんが勝つだろうと思っていました。とはいえ、20時当確、いわゆる『ゼロ打ち』とは驚きましたね」

当日夕方には、地元メディアの知り合いなどから「意外と(当確が出るのは)早いかも」と耳打ちされたり、NHKのアナウンサーがインタビューの段取りをしていたりと、4年前には見られなかった光景もあったという。とはいえ、4年前は午前1時過ぎまでかかり、大島組のカメラマンは決定の瞬間をおさえるため、トイレに行かずに済むよう、昼間から水分を控えておくなどの準備もしていたほどだった。 

「それで、今回もてっぺん(深夜0時)くらい覚悟した方がいいですかねと言っていたら、『もしかしたら21時とか22時に出るかもよ』という話がまわってきて、ほんまかいなみたいな感じで。 

そしたら、まさかの20時当確で、最終的に2万票近い差が出たんです。前回は2183票差の負けで、今回は勝つだろうとは思っていましたが、ここまで差がつくとは。しかも、野党がもともと弱い島しょ部でも完勝したという結果には、驚きました」 

(撮影:安部まゆみ)
(撮影:安部まゆみ)

平井氏が負けたのは映画のせいなのだろうか…

ところで、大島監督が『香川1区』で取材した際には、正面から応じ、余裕すら見せていた平井氏本人とその陣営が、いったいどのあたりから「塩対応」に変わっていったのだろうか。

「私が平井氏を取材したのは8月24日でした。つまり、デジタル庁発足の1週間前で、菅前首相もまだ辞めるタイミングではなく、ある種平井さんの絶頂期のタイミングだったんですよね。それで、取材の帰り際には秘書の方にデジタル庁の会見に入れてもらえないかとお願いし、便宜を図ってもらって、9月1日のデジタル庁発足時の取材もできているんです。それはある種余裕というか、大人の構えだと感じました。 

ところが、10月4日に岸田総理が誕生し、平井氏はデジタル大臣を外れ、わずか1ヵ月程度の大臣となったわけですよね。しかも、平井氏は岸田派で、総裁選のときも真っ先に岸田さんの支持を打ち出した方なのに、大臣を外されたのは、朝日新聞や週刊文春による『脅し発言報道』や、その後の『NTT接待疑惑報道』などで叩かれまくった影響があったのではないかと思います。 

実際、朝日新聞の香川県内版に出ていた出口調査では、自民党支持層の約26%、公明党支持層の約37%を小川さんが食っているんですよね。自民公明の支持層の2割強から3割強食われているということは、平井氏の一連の報道が、特に女性層から嫌われたんじゃないかなと。 

平井氏が負けたのは映画のせいではなく、ご自分のスキャンダルの影響も大きかったと私は思います。いや、映画かスキャンダルか、ということ以上に、小川さんが有権者との間で積み重ねてきた信頼関係が一番大きかったのではないかと」

大臣を外れたあたりから、平井陣営は取材に対して「個別対応はしかねる」などとピリピリした様子を見せ始め、次第に「なんで撮っているんだ?」などという対応に変わっていったという。さらに、戦略にも変化が現れ始める。

「平井さんの演説を聞いていると、選挙戦前半は、一つはデジタルを自分がしっかりやったということと、もう一つは“立憲共産党”で良いのかという2本柱でした。 

しかし、四国新聞(10月21日)に『小川先行』と出たり、他の新聞でも『小川やや優勢』みたいな論調が出たりしてから、24日に瓦町という繁華街の駅前で演説をするとき、突然映画に絡めて『PR映画』だなどと、小川さんの批判を始めたんですね。 

私もびっくりしまして、たまたま撮影もしていたので、演説が終わった後、距離はあったのですが『平井さん! PR映画っていう言い方はないんじゃないですか』と声をかけました。もちろん平井さんは無言で去っていかれましたが、その後も閉ざされた会場で映画の批判をし、Twitterにあげていたんですね。 

それで岸田総理が香川に応援に来たときが28日で、そのときはホールだったので、報道受付で取材依頼をしたところ、担当の方から帰ってくださいと言われました。理由を聞くと『映画は報道じゃない』の一点張りで、それが平井さんサイドの取材の最後になりました」

小川氏サイドは、映画きっかけで関連本が多数生まれ、SNSチームが作られ、芸能人をはじめとした著名人が次々に応援の声をあげ、県外からもボランティアの人が大勢集まっていった。利害関係にない支持者たちが集う場はまさしく「祭り」のようだったのだろう。

一方、強大な地盤・看板・カバンを持つ平井氏は、映画は観ていないと言い、タイトルを褒める余裕を見せていたにもかかわらず、途中から明らかな矛盾をさらけ出し、露骨に批判した挙句、敗北する。その対比には、つい寓話的な哀愁すら感じてしまうほどである。

(C)ネツゲン
(C)ネツゲン

代表選の行く末はわかりませんね…

ところで、衆院選が終わるや、公示前勢力に届かなかった責任をとって枝野幸男氏が立憲民主党の代表辞任を表明。そこで、小川氏はいち早く代表選に意欲を示している。衆院選での圧勝を考えると、その可能性はやはり……?

「いや、どうでしょうね。小川さんが当初『代表選に』と言っていたのは、規定の任期を終えた後のことでしたが、枝野さんが辞任を表明されたのは選挙の2日後ですから、この展開はまたすごいなと。 

それに、党内の力学などいろいろあると思うので、代表選の行く末はわかりませんね。また、知名度が上がったり、階段を上がったりすればするほど、批判の数が増えるのは間違いがないので、自分の信念・政策をきっちり話していくしかないと思います」 

『香川1区』は12月24日公開が決定しており、立憲民主党代表選の結果が、映画のエピローグになるだろう。今後も大島監督は小川氏を撮り続けるのだろうか。 

「そこはまだなんとも言えないですね。『なぜ君』はこんな風に注目されるとも思っていませんでしたし、被写体が小川さんとその周辺だったこともあり、そこまで悩まなかったのですが、『香川1区』は平井さん側も取材しようということになり、そこに難しさを感じたことはありました。

18年に及ぶ付き合いの中で、私は小川さんに対して深い友情を感じています。しかし、『何事も51対49』という小川さんの言い方を借りると、たぶん映画を撮っている間は私にとって小川さんは被写体としての存在が51で、友人の部分は49なんです。そこに難しさ、しんどさはやっぱりありました。まず今は『香川1区』をどう編集するか。その先を考えるのは、その後です」

 

大島 新(おおしま・あらた) ドキュメンタリー監督。1969年神奈川県藤沢市生まれ。1995年早稲田大学卒業後、フジテレビ入社。『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などのディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、以後フリーに。2007年『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞)を監督。2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。2016年『園子温という生きもの』を監督。プロデュース作品に『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018/文化庁映画賞 文化・記録映画大賞)など。

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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