吉本の養成所・NSC東京潜入!講師が語る「いま売れる芸人像」 | FRIDAYデジタル

吉本の養成所・NSC東京潜入!講師が語る「いま売れる芸人像」

講師・桝本壮志氏インタビュー

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そこは生き方を学ぶ場所だった 

「ぼる塾」がお弁当やお菓子などを食べながら普通におしゃべりするYouTubeなどを見るにつけ、芸人の発信方法の多様化をしみじみ感じる昨今。

実はNSC(吉本総合芸能学院)の指導法も変わってきているという話を耳にした。

いったい今、どんな指導法が行われているのか。『ぐるぐるナインティナイン』『今夜くらべてみました』(共に日本テレビ系)や『ナニコレ珍百景』(テレビ朝日系)など、数々の人気番組を手掛ける放送作家で小説家、人気講師の桝本壮志氏に取材を申し込むと、桝本クラスの選抜オーディションを見せてもらえることになった。

自身もNSCの出身で、放送作家、コラムニスト、小説家の肩書を持つ人気講師・桝本壮志氏(撮影:安部まゆみ)

16歳と69歳のコンビや、会社の忘年会の罰ゲームで入学した生徒も…

某月某日、会場となる廃校舎を利用した吉本興業東京本部を訪れると、すれ違う人たちが一様に「おはようございます!」と大きな声で挨拶してくれる。彼らは皆、オーディションの参加者たちだ。芸人というと、人見知りしたり、目を合わせずにボソボソ喋ったりするイメージもあるが、”芸人の卵“たちは、意外なほど明るく爽やかである。

オーディションの参加者は計129組。朝から晩まで休憩なしのぶっ通しでオーディションが行われ、この中から25組が選ばれるそうだ。

「NSCには今、大学生や主婦の方、社長などもいるほか、16歳と69歳がコンビを組んでいるような例もあります。昔は中学生の頃から芸人さんを志して吉本の門を叩くというのが普通のルートでしたが、一度社会人経験をしてから吉本に入ってくる方々も増えている印象です。忘れもしないのは7年くらい前に、会社の忘年会の罰ゲームでNSCに入った生徒もいたことですね」と桝本氏。

これまでに育ててきた芸人は6000人超の人気講師だが、実は講師を始めた2010年当時は、指導法もずいぶん違っていたという。

「僕が講師になった頃、番組を18本くらいやっていたこともあり、俺はこんなにすごいんだぞということを生徒にひけらかすみたいな態度をとっていたんですね。すると、生徒の反応がどうも悪い。 

僕自身、NSCの出身で、バツイチなんですけど『俺、人生で2回失敗しているんだよ。1コは芸人を廃業して、もう1コは結婚もダメになっちゃったこと。でも今、けっこう楽しいんだよ』と言ったら、生徒たちの聞き方が前のめりになって。 

自慢するよりも自分の傷口を見せたほうが、生徒は関心を持って聞いてくれることがわかったんです。 

実際に指導者という立場になってみると、教えることよりも生徒から学んだことのほうが多いですし。教える仕事は、自分が無知であることを知っている人間のほうが向いているんだろうなと気づきましたね」

桝本氏はフレンドリーで「親しみやすいお兄ちゃん先生」のようで、生徒たちは礼儀正しく、治安の良い学校のようでもある。

「芸人は、貧乏だとかいじめられていたとか、荒くれ者だったとか、特殊な環境でこそ育つという時代も確かにありました。 

でも、芸人の前に人間やぞ、と。だから、礼儀正しくしていたほうが得だよねと僕は言うんですよ。 

例えば目上の人に対するとき、挨拶という文化がなかったら、『阪神、勝ちましたね』とか『ガソリン高いですね』といった世間話やちょっと気の利いた会話をしないといけなくなるけど、挨拶があるから、『おはようございます』『お元気ですか』などでやり過ごせる。礼儀や敬語は、上の世代とうまく付き合うためのアイテムなんだよと伝えると、そこから礼儀正しくなる子もいます」 

NSC(吉本総合芸能学院)東京の授業は、新宿にある廃校舎をリノベーションした吉本興業東京本部で行われている

SNSが浸透してから変化した指導法

NSCといえば、かつてはジャズダンスやフラメンコなど、よくわからない授業があったという話がしばしばネタにされてきた。

しかし、現在は大きく様変わりしており、桝本氏のほか、NON STYLE・石田明(東京校・大阪校)、パンクブーブー・佐藤(東京校)、笑い飯・哲夫(大阪校)といった現役の芸人も講師を務めるという贅沢な布陣になっている。

しかも、授業の4割はネタ見せで、他には発想や発声、演技、笑いの伝統を学ぶ授業などが行われているそうだ。

「特に指導法が変わってきたのは、SNSが浸透してからですね。 

僕はテレビで育ちましたから、芸人界とテレビ界には恩返しをしたいと思っている人間ですが、生徒たちが今後お金を稼いでいけるということを考えると、1つの場所にいついちゃダメだと思っていて。 

僕がよく言うのは『4つの暖簾をつくってください』ということです。 

たとえばインスタでは写真的な会社を作ってください、ツイッターでは140字の文章的な世界を、ティックトックでは音楽的なビジネスを、Facebookでは人脈を作ってくださいといった具合に、SNSだけでも4つの性格が作れるんですね。 

それはつまり、4つのコミュニティを形成できるということです。 

これは僕自身の人生経験からのアドバイスでもあるのですが、いくつか自分の居場所を作っておくと、どこかのコミュニティが不全になったときでも、別のコミュニティで蘇生できるんですよね。 

芸能界で自分がやりたいことをしっかり持っていることは大事だけど、そのコミュニティが不全になったとき、居場所がなくなったり、そこで詰んでしまったりする人たちもいっぱいいるからです」

また、かつては芸人が活躍する場は演芸・ネタ番組だけだったが、EXITが歌手デビューしたり、又吉直樹が芥川賞作家になったり、品川祐が映画監督になったりしている時代だ。また、『アメトーーク!』でも「○○芸人」として、様々な切り口で芸人が自分のフィールドを広げている。

「もし、ネタという暖簾が1つできているのなら、ほかに3つ暖簾を作っておくと、あなたは声がかかりやすいタレントになりますよ、と言うんです。 

たとえば僕と一緒に住んでいた同期のチュートリアル・徳井(義実)くんは『アメトーーク!』でも猫芸人や家電芸人やチョコレート好き芸人、広島カープ大好き芸人、若い女の子大好き芸人、バイト芸人など、いろいろなテーマで呼ばれやすいんですね。おまけに、最近はキャンプを始めて、そうするとキャンプ関係の雑誌などの仕事が増えますよね。 

我々は人気商売ですから、自分の商店を1つだけじゃなくて複数の暖簾を掲げないと、誰も呼んでくれない。コミュニティの蘇生と居場所づくりが一つ、もう一つは声がかかりやすくなるということで『4つの暖簾』が生き残るために必要だということです」 

8割がネタで、2割は伸びしろとタレント性 

桝本氏はこの日のオーディションの合否基準として、「8割がネタで、2割は伸びしろとタレント性」と語っていた。伸びしろやタレント性は、どんなところに見えるのか。

「“意識高い”という言い方はよくありますが、僕は“意識広い人”が伸びしろのある人で、売れる人だと思っています。 

1つのテレビ番組を作るときには、自分を映してくれるカメラマンさん、ライティングしてくれる照明さん、使ってくれるディレクターさんがいる。絶対に一人で売れるわけではなくて、人の話をちゃんと聞き、相手の意見を受け入れて、自分なりに反芻して消化しようとする心構えがある人が売れている人には圧倒的に多いんですよ。 

それと、『タレント性』はやっぱりルックス。EXITの兼近くんなどがまさにそうですが、可愛い顔だとかオシャレだということももちろんありますが、何より“時代をとらえている感覚”がルックスに見えるんです。 

例えば、漫才やコントでも、『刑事と犯人』というのはたぶんこれまで1万通りくらいあると思うんですが、同じ警察と犯人でも、警視庁の中にできた『サイバー課』を取り上げるようなリテラシーを持っているヤツがいると、トレンドをつかむ力があると思うわけです」 

これからの時代に求められる芸人とは

では、今後はどんな芸人が求められる時代になるのだろうか。そう聞くと、桝本氏はこんな持論を語ってくれた。

「歴史は繰り返していて、たとえば来年は『R-1グランプリ』の20周年になるんですが、その間に『爆笑レッドカーペット』や『エンタの神様』が流行り、そうした流れが最近では『千鳥のクセがすごいネタGP』などまで続いているんですよね。 

そうした中、そろそろ本格的なネタを欲している人も多いのではないかと思います。『キングオブコント』を振り返っても、どぶろっくの歌ネタが優勝したり、にゃんこスターの縄跳び芸みたいな音楽芸があったりしましたが、今年の決勝は全員が本格派でした。 

これも揺り戻しですね。また、世代的な傾向もあって、『爆笑レッドカーペット』の時代に育った芸人さんはショートネタはうまいけど、長尺ネタを作るのが下手だったんです。 

ところが、霜降り明星が『M-1グランプリ』で優勝し、その同世代や少し下の世代が本格的なネタにシフトチェンジしている感がある。おそらく本格的な芸が揺り戻しとしてくるのではないかという気がしています」 

自身もNSCの出身で、放送作家、コラムニスト、小説家の肩書を持つ人気講師・桝本壮志氏(撮影:安部まゆみ)

桝本壮志(ますもと・そうし) 1975年広島県生まれ。人気放送作家として多数の番組を担当。AbemaTVをはじめ、社会現象となるネットコンテンツの企画にも携わる。母校である吉本総合芸能学院の講師を務める。 著書に『三人』(文藝春秋)等がある。チュートリアルの徳井義実とスピードワゴン小沢一敬が、ルームシェアをしていた「第3の同居人」としても有名。ツイッター @SOUSHIHIROSHO

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

  • 撮影安部まゆみ

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