売上120万枚超!今井美樹のヒット曲に感じる懐かしさの秘密 | FRIDAYデジタル

売上120万枚超!今井美樹のヒット曲に感じる懐かしさの秘密

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91年のドラマ「あしたがあるから」制作発表で会見する今井美樹と仙道敦子 (産経ビジュアル)
91年のドラマ「あしたがあるから」制作発表で会見する今井美樹と仙道敦子 (産経ビジュアル)

ちょうど30年前のヒット曲について、30年後の今さら、詳細に語り尽くす連載です。今回は1991年11月7日発売の、今井美樹『PIECE OF MY WISH』。

大ヒットしました。何と125.4万枚(オリコン)。ヒットの理由は、後に触れる曲そのものの魅力がまずありますが、加えて、ドラマとのタイアップ効果が大きかったでしょう。今井美樹自身が主演した、91年10月から始まったTBSドラマ『あしたがあるから』。

――結婚を控えた普通のOLが、社長の企みで特別企画室の部長に就任。様々な逆境に悩み傷つきながらも自力で運命を切り開いていく。「想い出にかわるまで」(1990年)に続くTBSドラマ主演となった今井美樹と、「クリスマス・イヴ」(1990年)で人気急上昇した仙道敦子の初共演も見もの(TBSチャンネル公式サイト)でした。

当時の、今井美樹主演のTBSドラマとしては、『あしたがあるから』よりも、前年の『想い出にかわるまで』を思い出す方が多いと思います。今井の気持ちが、石田純一と元チューリップの財津和夫の間で揺れ動くという、何とも奇抜な配役が話題となったドラマ。

実は、最高視聴率は『あしたがあるから』が22.1%、『想い出にかわるまで』が21.4%と、『あしたが~』の方が微差ながら高いのですが、今井美樹の妹役=松下由樹の鬼気迫る演技もあり、『想い出~』の方が印象深くなったのでしょう。ちなみに『想い出~』の主題歌は、ダイアナ・ロスの『IF WE HOLD ON TOGETHER』。

この『あしたがあるから』、記憶がおぼろげだったので、Paraviの配信であらためて見てみました。今井美樹を中心に、石橋凌、仙道敦子、中嶋朋子、そしてドラマ初出演の福山雅治が、浜松町シーバンスにある設定のオフィスを舞台に、いかにも91年なパッキパキのスーツに身を包んで、くっついたり離れたりするストーリー。

今井美樹の演技は、正直、めちゃくちゃ上手いという感じではないのですが、ふわっとしたソバージュの髪型(写真参照)や、手脚の長さを活かしたファッション、そして独特の甘い声質によるセリフ回しが何とも魅力的で、当時「OL」(これも半ば死語ですね)のカリスマになった理由も、よく分かる感じがします。

気持ちよく懐かしいサビに埋め込まれたユーミンの名曲

そうです。声質――今井美樹の甘くてやわらかい、物質に例えればクリーム状のような声質が、『PIECE OF MY WISH』という曲の魅力の本質だと思います。

音楽評論家の小貫信昭は、サイト「Uta-Net」内の記事において、「ジャズの世界でボーカリストを“ホーン・ライク”と称えたりするが、それはつまりサックスやトランペットのように歌う、ということなのだが、今井美樹はJ-POP版のそれである」と分析しています。

その声質によって魅力が最大限に活かされるのは、上田知華による上品で流麗なメロディです。

上田知華と言えば、我々世代には「上田知華+KARYOBIN」名義の名曲『パープル・モンスーン』(80年)です。KARYOBIN(かりょうびん)はバンドではなく弦楽四重奏団。ストリングスをバックにした絶妙なメロディは、当時中学生だった私のハートをわしづかみにしました。

91年当時、かなり普及し始めていたカラオケボックスで、画面に映る作曲クレジットを見て、「あ、あの上田知華だ!」と気付いた「1991年の元ニューミュージック少年」が、当時、何百人かはいたはずです。

そう、この曲、私は男性ながら、カラオケボックスでよく歌ったのです。何といっても「♪どうしてもっと自分に素直に生きれないの~」から始まるサビが、歌っていて実に気持ちよくて、どこか懐かしい感じがする。

今回、この原稿を書くに当たり、『PIECE OF MY WISH』を聴き込んで、その気持ちよさと懐かしさの理由が判明しました――『PIECE OF MY WISH』の向こう側に荒井由実(松任谷由実)『ひこうき雲』が聴こえる!

無論、「盗作」「パクリ」とかのレベルの話ではないのですが(メロディは根本的に異なる)、両曲とも、キーがE♭で、またサビが(ほぼ)ド・レ・ミ・ソ・ラのみで出来ているシンプルな五音音階(別名:演歌によく使われる「四七(ヨナ)抜き音階」)で出来ていて、そのシンプルさが気持ちいい。

また、それぞれのサビの「♪どうしてもっと自分に素直に生【きれ】ないの~」(『PIECE OF MY WISH』)と「♪空に憧れて 空をか【けてゆ】く」(『ひこうき雲』)が、(キー:E♭における)「B♭m7」という特異なコードで、ラからドに下がるメロディも含めて、ここは聴感上かなり似ている。

ちょうど30年前、『PIECE OF MY WISH』を歌っていた「元ニューミュージック少年」は、カラオケ画面の向こうに、かつて耳なじんだ荒井由実『ひこうき雲』を感じて、気持ちよく、そして懐かしくなっていたのです。

そう言えば、今井美樹もユーミンが大好きで、13年にはユーミンのカバーアルバム『Dialogue -Miki Imai Sings Yuming Classics』をリリースするほど。ということは、当の今井美樹自身も、この曲の向こうに尊敬するユーミンを感じながら、気持ちよく、懐かしい思いで、歌っていたのかもしれません。

  • 執筆スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『恋するラジオ』(ブックマン社)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』(集英社新書)

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