オランダで52店舗!ダウン症の人が働くカフェチェーン人気の背景 | FRIDAYデジタル

オランダで52店舗!ダウン症の人が働くカフェチェーン人気の背景

12月4日~10日は人権週間 発達障がいの人も働く「ブラウニーアンドダウニーズ」がオランダ国内に52店舗まで広がったワケ

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「ブラウニーアンドダウニーズ」は2010年にはじまった、発達障がいを持つ人たちがスタッフを務めるカフェレストラン。創業者によると「(サービスの)ターゲットとは顧客や消費者ではなく従業員だ」(撮影:了戒美子)

マクドナルドやドミノピザなどもしのぐ「高い顧客満足度」

サッカー取材のために訪れたオランダのアムステルダム郊外アルクマールという街で、ブラウニーズアンドダウニーズというカフェに入った。店内は広くて電話をしても気にならないし、パソコンを広げる大きなテーブルがあり電源もWi-Fiも使わせてくれた。音楽は静かに流れ、内装も一見して素敵で快適だった。

席に座ると、なんと車椅子に乗った女性が注文を取りに来た。彼女はオランダ語が話せない私の英語の注文を難なく聞き取った。だが、顔や手足に麻痺があり会話は難しく手足も思ったようには動かせないようだった。それでも、車椅子の手元に設置されたタブレットを操作しあらかじめ録音された音声を流すことで注文を確認し、厨房に戻って行った。

彼女の後ろ姿を眺めながら、広い店内は車椅子でもすいすい通るためで、音楽をうるさくしないのもスムーズな会話のためだろうと合点がいった。ほどなくして彼女は、頼んだコーヒーを持って現れた。“持って“といっても手に持っているわけではなく車椅子の手元にトレーが置かれており、そのトレーを客が自ら持ち上げ、テーブルに運ぶという受け取りシステムだった。

コーヒーを飲みながらテーブルに置かれた店案内の冊子を見てやっと気づいた。店名のダウニーズは、ダウン症のことだ。店内をよく見ればダウン症らしきスタッフが何人もいた。いかにも社会福祉をしていますというクリーンすぎる雰囲気でもなく、かといって何かを隠すでもなく、いたって普通のカフェでこんなにいろいろな障がいを持った人が自然に働いている。初訪問の2年前、とても驚いたことを今でも鮮明に覚えている。

ブラウニーアンドダウニーズは2010年にオランダ・フェーヘルから始まったダウン症などの発達障がいを持つ人たちがスタッフを務めるカフェレストランだ。創業者のタイス・スウィンケルス氏は「行政からの補助金や寄付金に頼らない介護を目的としており、我々は営利企業だ」と言い切る。「(サービスの)ターゲットとは顧客や消費者ではなく従業員だ」と一風変わった方針を打ち出して。

つまり発達障がいを持つ従業員が安心して働き、正当な対価を得られる場所の提供そのものをビジネスとし、運営費90%を補助金や寄付などに頼らず運営する。発達障がいを持つ人たちを積極雇用しており、ダウン症が多くを占めるが限定しているわけではない。

2021年現在はオランダ全土とベルギーに1店舗、合計52店舗を構える大きなチェーン店となっている。以前は南アフリカ・ケープタウンにもあったが、コロナ禍で助成金がなくなったことをきっかけに閉店せざるを得なかった。それでも店舗が増えて一般にも浸透し、なおかつ高い満足度を得ていることがわかるのは、2020年21年と連続してオランダ国内の外食産業を対象にした「フードサービスアワード」でのグランプリ獲得だ。

21年のこのアワードには26社が参加し、マクドナルドやドミノピザ、サブウェイといった世界的なチェーンも名を連ねた中での連続受賞となった。特に今年は価格やサービス内容だけでなく、コロナ禍における対応も評価対象とされており、約17000人というかなりの人数ユーザーが匿名で投票を行ったという。いかに、”特別な”カフェではなくて、“普通な”カフェとして訪れる客を満足させているかがわかる。

スウィンケル氏がこだわるフードやドリンクの質の高さと、福祉でありつつビジネスとして割り切っていること自体を特徴とし「だからこそオランダの大手コーヒーチェーンとも競合できるのだ」とスウィンケル氏は言う。だが、なぜこのカフェがここまで大きなチェーン展開をし受け入れられたのか考えてみると、あくまで体感ではあるがオランダの風土とでも言おうか、そもそも偏見のなさや寛容さ、少々の失敗も許せる緩さもブラウニーアンドダウニーズが受け入れられた要因なのではないか。完璧な接客を求めるときっと成立しなくなる。

オランダ国内のコロナ感染状況が少し落ち着いていた8月の店内の様子。車いすに座る手前の女性がタブレットを使って手足の消毒を促し、名前や連絡先の記入を依頼していた

ドイツやベルギーからも店に見学に訪れる

さて、コロナが鎮まっていた今年8月のある日、アルクマール店に取材を申し込んだ。店を訪れると車椅子の彼女は入店の受付をしていた。タブレットを操作し音声を流すことで、入店する客に手指のアルコール消毒を促し、名前と連絡先の記入を依頼する。補助のスタッフが付いている時間帯もあれば彼女が一人になる時間帯もあった。

取材に応じてくれたアルクマール店の共同経営者バーバラ・シャーパーさんが教えてくれる。

「彼女はコロナ禍ですっかり人と会うこととか接客が怖くなってしまったの。でも少しずつ人に慣れて、今はああやって受付をできるようになった」

私もいまだに人混みは避けるし混んでいる店にはいかない。リスクを多く背負う彼女たちにとってはなおさらだろう。

バーバラさんがこのブラウニーズアンドダウニーズのフランチャイズに参加したのは2016年のことだった。彼女は、弟が脳に障がいを持っていることがきっかけでケアワーカーとなり仕事をしてきた。だが、公共サービスの限界を感じカフェ経営に転じた。理念に共感できたブラウニーズアンドダウニーズの一員となることにしたのだ。

「障がい者たちは非常に限られたコミュニティで生きていて、一般の人たちと触れ合う機会がほとんどない。だから、その機会を提供したいと思った。さらにビジネスとして成功させれば、彼ら彼女らが経済的にも、精神的にも自立することができる。その手伝いは公的なサービスでは限界があるから自分たちの手でビジネスとして成立させたいと思って」

カフェで働けば多くの客と触れ合うことになる。また、障がいがある人とも、自分とは普段接点のない障がいの種類の人とも触れ合うことができる。責任を持たせることで成長と学びの場にもなる。バーバラさんは義理の妹と、運河沿いの倉庫跡地を借り上げ、店を始めた。弟も、一緒に働いている。

私が訪れた日は、ケアワーカー要請スクールの学生たちが社会科見学の一環で訪れていた。ダウン症のスタッフらと談笑し、歌を歌っている。福祉意識の高いオランダとはいえ、このようにごく自然に障がい者とともに働けるような業態の店、職場は多くないという。そのため、オランダ国内はもちろん、ドイツやベルギーなどから多くの見学者が店を訪れるのだそうだ。

開店から5年。今後の目標は、障がいのあるスタッフを外に出していくことだ、とバーバラさんはいう。最近では前出の車椅子の彼女には一人で運河の対岸まで行きクリーニングをひきとってくるお使いを頼むようになったのだという。ほとんど喋れないし歩くことのできない彼女の車椅子が転んでしまったら、信号にひっかかったらと考えてしまうが、「できないことはない」というのがバーバラさんの考えだ。単にビジネスと割り切っていたらそんな手間と労力のかかることはできないはずだ。やはりあくまで、従業員目線で彼らのための職場であることがよくわかる。

バーバラさんとの話を終え、荷物を片付けつつコーヒーを飲んでいるとダウン症のスタッフが人懐っこく話しかけてくる。「コーヒーはどうだった?」「あなたパソコンが使えるのね?私は使えないんだよね」などなど。いつ訪れてもコーヒーも食事も美味しく、スタッフは親切。その上なんだか、優しい気持ちになって店をあとにするのだ。そして、パラリンピックも開催し終えた今だからこそ、日本にもこんなカフェを作ることも可能なのではないか、などと無責任に思ってしまうのだった。

オランダ国内に広がった52店舗の一覧。地域に偏りなく、まんべんなく広がっている
ゆっくり味わうコーヒーは美味しい。それ以上に、店を後にするときに優しい気持ちにさせてくれる独特の雰囲気がある
  • 取材・文・撮影了戒美子

    1975年、埼玉県生まれ。日本女子大学文学部史学科卒。01年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース(現・U-20W杯)UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯4大会、夏季オリンピック3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住

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