優しく素直で泣き虫で…俳優「相葉ちゃん」が拓いた新たな活路 | FRIDAYデジタル

優しく素直で泣き虫で…俳優「相葉ちゃん」が拓いた新たな活路

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相葉雅紀の俳優としての魅力が発揮された『和田家の男たち』

大石静のオリジナル脚本×相葉雅紀主演のテレビ朝日系金曜ナイトドラマ『和田家の男たち』の最終回が、12月10日に放送された。

新聞社の元社長・和田寛(段田安則)と、テレビ局の報道番組プロデューサー・秀平(佐々木蔵之介)、ネットニュース記者の優(相葉雅紀)と、異なるメディアに携わる3世代のマスコミ一家「和田家」のホームドラマ。 “ほのぼのホームドラマ”の香りや、アイドルの主役を達者な役者二人が盛り立てる構図という思い込みから、あまり食指が動かず、未見だったドラマファンも少なからずいるのではないかと思う。だとしたら、あまりにもったいない。

なぜなら、家族や「食」、恋愛、仕事、メディア、政治など、様々な要素が詰まった「コメディ」で「サスペンス」であり、非常に良質なホームドラマだったからだ。

新聞、テレビ、ネットというメディアの歴史や、メディアの現状に対する危機感、メディアに携わる人間たちの矜持が描かれる点において、同じく大石静が脚本を手掛けた吉高由里子主演ドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系)にハマった層には、セットで観て欲しい作品でもあった。

それでいて『和田家~』が秀逸なのは、サスペンス要素を丁寧かつシリアスに追いつつも、最後まで「コメディ」で「ホームドラマ」であり続けたこと。そして、その優しい世界観は、主人公を演じた相葉雅紀、通称「相葉ちゃん」の存在なくして成立しなかったと思うのだ。

(撮影:近藤裕介)
(撮影:近藤裕介)

「ホームドラマ×サスペンス」

物語は、コロナ禍で職を失った主人公・優(相葉雅紀)が、デリバリーサービスの配達で疎遠だった義理の父と祖父と再会し、同居するところから始まる。

秀平は、優の亡くなった母・りえ(小池栄子)の再婚相手のため、血のつながりがなく、寛とは優が幼い頃に数回会った程度。

序盤では、そんな三人が同居を始めるが、仕事が多忙だった親のために、家政婦がわりに家事を一手に引き受けてきた優が、和田家を「食」で支えるかたちで日常が紡がれていく。

メディアの第一線という激動の中で戦ってきた父や祖父と違い、「角を立てることはいけないことだと思って、流されて生きてきた」「話のつまらない男」優は、家事能力だけでなく、話し相手として、家庭の中の潤滑油としても機能し始める。恋に関しても常に”現役“の寛に至っては、優を猫のように可愛がったり、その一方で自身の恋人との関係修復のため、頼ったりする、不思議な相性の良さを見せる。

疎遠だった義父だけでなく、交流もほぼない義祖父と、37歳にして同居する優の「大の男3人の暮らし」が自然に成立するのは、相葉の雰囲気あってこそ。

ところが、ゆるやかに流れる和田家の時間が一気にギアチェンジする。きっかけは、26年前に亡くなった優の母で秀平の妻・りえが、実は事故死ではなく、現在国土開発大臣となっている清宮(高橋光臣)の犯行だったことを秀平が突き止めたことから。

実は、現在は報道番組プロデューサーに上り詰めたバリバリの仕事人間の秀平が、もともとはりえの後輩で、報道局の経験が浅い頃は頼りなかった様子が回想シーンで描かれる。それが、妻の死の真相を隠蔽されたことにより、一変。優を守るため、優を育てている間は事件からいったん手を引き、真相究明のために着実に力をつけ、会社の中で偉くなってきたことがわかり、胸が熱くなる。

さらに、「怖くて強い祖父」が、りえの取材があまりに芯を食った危険なものであることから、「メディアの人間」としてではなく「秀平の父」として、まだ報道経験の浅い自分の息子を巻き込まないよう、親心で、りえに進言していたことも。そこから、留守番が多く、独りぼっちで家事スキルばかり上がった孤独な少年が、実は家族みんなに守られてきたことが見えてくる。

りえの死の真相を優に話したと聞き、「可哀想じゃないか。あの子に背負い切れるのかな」と心配する寛と、「知らないのも可哀想」と返す秀平。そんな戦う義父・義祖父の姿を見ながら、「うちはみんなすごいなあ」「自分は怖くてビクビク。でもそれが普通」と自分に言い聞かせつつ、唐突にダンベルで鍛える優。その発想の幼さや単純さ、弱さの一方で、「りえさんを殺したのは私かもしれない」と自責の念に苛まれる寛に、あえて言葉を選んだ風もなく、即座にナチュラルに「母さんはやりたいようにやる人だったんでしよう。だったら、寛さんのせいじゃないよ」と返す優の素直さは、何よりの強さだろう。

しかし、秀平の決死の覚悟で臨んだりえの死の真相に関するVTRは、秀平を慕い、局にとどまらせたいと思う部下の手により、放送直前に差し替えられてしまう。結果、26年間の戦いに敗れ、帰路の上り坂をゆっくり上る秀平に「おかえりなさい。そろそろ帰ってくる頃かなと思って」と声をかける優。

「こういうときは、そっとしておくのが大人の対応だろう。わかってないなあ」と言う秀平の声色は、しかし、安堵や優しさにあふれていた。

(イラスト:まつもとりえこ)
(イラスト:まつもとりえこ)

「相葉ちゃん」のサスペンスとの相性の良さ…

現役感バリバリでパワフルで有能な祖父と、真面目で仕事のデキる父をつなぐ、「優しい」優。本作で改めて感じたのは、「相葉ちゃん」のサスペンスとの相性の良さだ。

思えば、池井戸潤原作のドラマ『ようこそ、わが家へ』(2015年)で相葉が演じたのも、臆病で気弱で争いごとが苦手な主人公だった。そんな弱い主人公が、ある事件に巻き込まれたことから、家族を守るために懸命に奮闘する姿に多くの視聴者は心打たれ、気づけば彼を、彼の守りたいものを応援していた。

本作の優もまた、人と争わず、角を立てず、「凪のような人生を送ってきた」が、劇的な人生を送る父と祖父の姿に巻き込まれ、感化され、自分なりの一歩を踏み出す。

そこには、アイドルとしてバラエティ番組などで見せる、優しく素直で泣き虫で、裏表のない “相葉ちゃん”というパブリックイメージも上手く働いているだろう。

自身の弱さを隠さず、子どものような純粋さを持ち続ける本人のイメージが、優しくほのぼのした日常と、それが壊れる怖さから必死に立ち上がろうとする“優しく弱き主人公”にドはまりする。「ホームドラマ×サスペンス」という異色作の方程式に欠かせない要素として、相葉雅紀が一つの活路を見出した気がする。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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