高血圧の真実 トップドクターが教える「降圧剤の飲み時、止め時」 | FRIDAYデジタル

高血圧の真実 トップドクターが教える「降圧剤の飲み時、止め時」

市原淳弘・東京女子医大主任教授が誌上診断

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市原医師は患者の生活環境を考慮し、ホルモンをどうコントロールするかで最適な治療薬を導き出している
市原医師は患者の生活環境を考慮し、ホルモンをどうコントロールするかで最適な治療薬を導き出している

高血圧の治療といえば、ただ血圧を下げるために降圧薬を処方され、それを服用するだけだと思われがちです。ですが、実際はそうではありません。実は高血圧こそ、患者さん一人一人に合わせて治療法を変える、まさに”オーダーメイド医療”が必要なんです」

こう語るのは、東京女子医科大学病院高血圧・内分泌内科主任教授の市原淳弘医師(57)だ(以下、「 」内はすべて市原医師)。

高血圧は、いまや全国の総患者数が4300万人以上にのぼる”国民病の王様”。放置しておくと脳卒中や心筋梗塞、腎不全などを引き起こす恐ろしい病だ。市原医師は、その高血圧を治す”攻めの医療”で世界を牽引するトップドクター。市原医師の外来には、日々、降圧薬を飲んでも効かず、思い悩む患者が全国からひっきりなしに訪れている。

「一口に高血圧と言っても、共通しているのは『血圧が高い』という症状だけ。高血圧は、ストレスや睡眠不足、食生活、家庭環境、個人が抱えている悩みなど、複合的要因から起きるものなんです。つまり、血圧上昇の背景にあるものは、人それぞれ異なっている。だから降圧薬の種類も、血管を広げたり、尿の出をよくして塩分や水分を体外に出したりと、まさに多種多様。その数は、組み合わせも含めると実に数百種類にものぼります。さらに、それらの薬をどう組み合わせて服用するのかによっても、作用が変わってきます。われわれ専門医は患者さんのお話を聞きながら、それぞれのケースに合った治療を進めていくのです」

高血圧の治療は、やみくもにクスリの効果を妄信し、ただ飲み続ければよいというものではない。市原医師は、なるべくクスリを使わずに高血圧を治すために、生活習慣の見直しも治療の大きな柱に据えている。

「生活習慣の改善をきちんと治療に取り入れることで、それまで処方されていたクスリが一層効果を発揮するケースもあります。患者さんの中には、『別の病院ではまったく症状が改善されなかったのに、市原先生の外来に来たら、同じクスリで血圧が下がった!』と驚かれる方もいらっしゃいます。このように、一人一人の状況に応じて生活習慣の指導にバリエーションを持たせ、使う薬剤も替える。高血圧の治療は、決して『このクスリを飲んでいれば安心』という単純なものではないんです」

東京女子医大病院は動脈硬化やホルモン異常に注目し、画像診断・核医学や泌尿器科と連携して高血圧の治療を行っている
東京女子医大病院は動脈硬化やホルモン異常に注目し、画像診断・核医学や泌尿器科と連携して高血圧の治療を行っている

動脈硬化がカギになる

高血圧の人が何より気になるのは、一体自分はどの段階になると降圧薬を飲み始めなければならないのか、ということだろう。たとえば、会社の健康診断で高血圧と指摘されたとしても、「一度クスリを飲み始めたら、一生飲まなければならない。それが嫌だから、高血圧をそのまま放置している」という人も少なくない。また、クスリの副作用を恐れて服用をためらう人も多いだろう。

「大切なのは、血圧を下げる目的を履き違えないことです。降圧薬を使うのは、血圧の数字を低くすることが目的ではありません。高血圧を放置していれば、脳卒中や心筋梗塞の可能性が高まる。それを予防するためなんです。高血圧を放っておけば、その元凶となる動脈硬化は確実に進んでしまいます。将来、寝たきりにならないためにクスリの力を借りて血圧をコントロールする。ずばり、それが降圧薬を飲む意味なんです。高血圧と診断されても、どうしてもクスリを飲みたくないという人は、まずは動脈硬化の状態を調べるといいでしょう。140/90というガイドラインの数値(5枚目)は、あくまでひとつの目安に過ぎません。降圧薬を使い始める判断要素としては、ある日の血圧の数値よりも、その患者さんの血管の状態を診ることのほうが大事なんです。私自身は、動脈硬化がどの程度あるかでクスリを処方するかを判断しています」

この言葉通り、市原医師の外来では、まず初回の診療時に必ず患者の全身の動脈硬化をチェックする検査を行っている(4枚目)。

「もし上の血圧が150と少し高くても、動脈硬化がない若々しい血管であれば、いきなり降圧薬を使い始めるという治療はしません。患者さんのお話をじっくりと聞きながら対応を考えます。たとえば、有酸素運動で身体の中の体組成を脂中心から筋肉中心に変え、食事制限や低糖質ダイエットをして体重を落とす。十分な睡眠を確保するため睡眠時無呼吸症候群の検査・診断をする。さらに、ストレスをなくす生活習慣のアドバイスをする、といった具合です。逆に、すでに脳に直接つながる血管にプラーク(瘤)ができ始めていたり、手足の血管が硬くなっているなど動脈硬化が進んでいる場合は、クスリの力が必要です。一度進んでしまった動脈硬化の血管は、いくら生活習慣を改善しても修復できないのです」

頸動脈エコーを使って首の血管の動脈硬化を調べる。この検査で脳卒中のリスクがわかる。画像は市原医師より提供(下画像も同)
頸動脈エコーを使って首の血管の動脈硬化を調べる。この検査で脳卒中のリスクがわかる。画像は市原医師より提供(下画像も同)
高血圧の診断をする際は、さまざまな検査で全身の血管をチェック。動脈硬化が起きているかを調べ、クスリの必要性を判断する
高血圧の診断をする際は、さまざまな検査で全身の血管をチェック。動脈硬化が起きているかを調べ、クスリの必要性を判断する
血圧が高い状態を放置していると、将来、心筋梗塞や脳卒中、腎不全を誘発することに。上の血圧が180を超えていると、そのリスクは正常値の人より約9倍高くなる。「日本高血圧学会HP」より
血圧が高い状態を放置していると、将来、心筋梗塞や脳卒中、腎不全を誘発することに。上の血圧が180を超えていると、そのリスクは正常値の人より約9倍高くなる。「日本高血圧学会HP」より

血管を柔らかくすればいい

このように、市原医師はクスリを飲み始めるタイミングを決めるには、まずその人の動脈硬化の進行度合いを探ることが重要だと語る。さらに、一度クスリを飲み始めたからといって、絶対に一生飲まなければならないというわけではないというのだ。

「動脈硬化がある場合は、早めにクスリを飲んで、できるだけ血管を弾力のある柔らかい状態に戻します。同時に生活習慣を見直して、降圧薬がいらない身体を目指すことをお勧めしています。血圧が高いにもかかわらず何も対策を取らず自分の身体を放置している人は、動脈硬化も高血圧も悪化していく可能性が高まる。それは得策ではありません」

また、市原医師は高血圧の数値が正常な場合でも、親が心筋梗塞や脳卒中を起こしたことがある人は、一度、動脈硬化のチェックをしたほうがよいと言う。

「たとえば130/80という一般的には正常だとされる数値でも、その人の血管の状態によっては、高血圧と同じように動脈硬化が出ていることがある。逆に、上の血圧が140を超えていても、血管の中はキレイなまま、という人もいます。血管の状態は、人それぞれ。それを知ることができるのが動脈硬化のチェック検査なのです。また、血圧の数値の上下幅が大きい人も要注意。下の数値が高くても、上の数値が正常の範囲内という場合は、まだ血管が若い証拠。その逆であれば、動脈硬化が進んでいる可能性があります。なので、まずは上の血圧の数値を気にしてください。上の血圧をしっかり下げていけば、少しずつ血管の弾力性が戻ってくる。それに伴い、下の血圧も半年〜1年遅れで正常化が期待できます」

市原医師が先に語ったように、高血圧の改善に重要なのは、生活習慣の見直しだ。たとえば、夜型の生活は血圧を上げることがわかっている。そのため、太陽の昇降に合わせた規則正しいリズムで睡眠を取るのも有効な手段だろう。深夜は体内で分泌されるホルモンが変化し、血圧を上げやすい体内環境に変わる。それによって、肥満と高血圧が起きやすくなってしまうのだ。さらに、毎日の食事で効果的なのが減塩だという。

「薄味には少しずつ慣れてくるものですが、食事が味気ないと減塩生活は長続きしません。飽きがこないようにするには、減塩のバリエーションを持つのがポイントです。たとえば、月曜日は料理に牛乳を足すだけの減塩レシピ(6枚目)。火曜日は塩をレモン汁で代用し、水曜日は出汁の濃さを2倍にして塩気を控える……など、手を替え品を替えて塩分を控える工夫をしてみる。それを楽しめるようになったら、しめたものです。美味しく、楽しみながら減塩生活を送ることが長続きするコツでしょう」

これまで見てきたように、高血圧には動脈硬化の予防と生活習慣の改善が欠かせない。降圧薬の飲み時、止め時も、その2つがいかに維持できているかで決まる、というワケだ。

市原医師が監修した『牛乳たすだけ減塩レシピ』。ミルク納豆は納豆のタレ半分に牛乳小さじ2杯を加える
市原医師が監修した『牛乳たすだけ減塩レシピ』。ミルク納豆は納豆のタレ半分に牛乳小さじ2杯を加える

ホルモンが”犯人”だった

だが、実は高血圧の中には、特殊なタイプもある。副腎にできる良性腫瘍からホルモンが大量に分泌されることで血圧が上がる、というホルモン由来の高血圧だ。これに当たるのは全高血圧患者の1割ほど。つまり、400万人以上がこのケースに該当するのだ。

「副腎は腎臓の上にあり、そのサイズはわずか1.5cmほど。それほど小さな臓器なので、ときには副腎にできた腫瘍のほうが、臓器の大きさを超えてしまうことすらあります。また、腫瘍の大きさと、そこから分泌されるホルモンの量には相関関係がありません。中には肉眼で見えないレベルの微小な腫瘍から大量のホルモンが放出され、高血圧が引き起こされているケースもあります」

現在わかっているホルモン由来の高血圧は、15種類ほど。副腎にできる良性腫瘍から「アルドステロン」というホルモンが大量に放出されることで心肥大や腎障害が起こる「原発性アルドステロン症」や、「カテコールアミン」というホルモンによって血圧が上がり、突然死すらある「褐色細胞腫」などが挙げられる。

「私たちの外来では、副腎にできる腫瘍を腹腔鏡手術によって切除することで、高血圧を治すという取り組みも行っています。一般的な高血圧だと思って何年も降圧薬を飲み続けているのに、血圧が下がらない人もいる。そんな人の中には、このホルモン由来の高血圧が隠れている場合が多い。手術で治る高血圧もあるということを是非知ってほしいのです」

長年、降圧薬を飲んでいるのに、一向に効果が出ない――。そんな悩みを持つ男性患者が、副腎にできた腫瘍を腹腔鏡手術で切除したことで高血圧が治ったケースを紹介しよう。

高血圧の真実[体験告白]手術で高血圧が治った患者が続出中!

  • インタビュー青木直美

    医療ジャーナリスト

  • 撮影浜村菜月(1、6枚目)写真時事通信社(東京女子医大)

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