ウィシュマさん問題で「知る権利を問うクラファン開始」の背景
「過去の開示請求」への対応履歴が「不開示」に…
名古屋出入国在留管理局の施設で3月に死亡したスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさんの問題をめぐり、12月24日、死亡直前の様子を記録した施設内の監視カメラ映像2週間分のうち6時間26分の映像が、ウィシュマさんの遺族に対して、また、衆議院・法務委員会の理事などに限定的に開示された。
遺族の弁護団によると、ウィシュマさんがうめき声をあげたり、
こうしてウィシュマさんの死亡直前の様子が報道されると、SNS上には「酷すぎる」「なぜ救急車を呼ばないのか」「この国は墜ちるとこまで墜ちた」「こんなことが現代の日本で起きていて、私たちが無関心でいていいのか」などの声が続出。
遺族は「まだまだ分からないことがたくさんあり、これで終わりではない」と訴えている。
ところで、同問題について、同じ24日、日本初の社会課題の解決を目指す査証の支援に特化したウェブプラットフォーム「CALL4」において、「情報公開訴訟において問題提起する訴訟」のためのクラウドファンディングが立ち上がっていることをご存じだろうか。主導するのは「開示請求の鬼」こと開示請求クラスタのWADA氏だ。
かつて弊サイトのインタビューに対して、「
「ウィシュマさんの事件自体がまず人道上許されないことですよね。この事件に関しては、ご遺族により殺人で告発もされているほか、ご遺族が情報公開を求めた開示請求では、1万枚以上の文書がほぼ全部黒塗りにされたことがわかっています。
しかし、今回、私が開示請求をしたのは、ウィシュマさんに対してどんな開示請求が過去にされたかという『過去の開示請求』に対してでした。
これによって、入管庁がどんな基準で判断を行った上で不開示決定を出してきたのかがわかるというものであり、ウィシュマさんの個人情報を暴くものではありませんし、開示請求を行った個人の方の連絡先や氏名のみを黒塗りすれば良いだけで、誰も困ることのない開示請求のはずです。
しかし、さほど難しい内容ではない、ごく当たり前の開示請求に対し、入管庁は全部不開示の決定を出してきたんです」
全部不開示決定とされたのは、以下の開示請求である。
「本開示請求受付(8月20日)の日までに行われた、名古屋出入国在留管理局におけるスリランカ人女性の死亡事例に関する開示請求について、(1)その開示・非開示の決定をなすに至った検討・意思決定プロセスの分かる一切の文書(たとえば起案原義、決議書、会議記録、他省庁、内閣総理大臣、国務大臣等とのやりとりの分かる文書)(2)開示・不開示決定の日時・内容がわかる一切の文書」
簡単に言えば、「過去にどんな開示請求があったのか」「どんなプロセスで開示・非開示が決定されたのか」といった対応履歴を問うだけの開示請求だ。それがなぜ不開示とされたのだろうか。
「その理由として書かれていたのは、『率直な意見交換が損なわれるおそれ又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある』などでした。
しかし、今回のように、過去の開示請求を全部不開示にするようなことを許してしまうと、行政を監視する情報公開制度自体が成り立たなくなるんです。
実際に『桜を見る会』について、私が内閣府に対して同様に『過去の開示請求』に対する開示請求を行った際には、個人情報のみがマスキングされ、開示されました。その際、決裁書が開示され、誰が伺いを立て、誰が承認したかなども全て開示されたのです。
にもかかわらず、入管庁は一切開示しないというのは、ウィシュマさんの事件が特に入管庁にとって、よほど不都合なことがあるか、それとも開示請求には何一つ応じる気がないのか。
隠そうとしたものが一体何なのか、突き止める必要があると思います。いずれにしろ、人が一人亡くなっているにもかかわらず、情報は何一つ出さないという判断は許しがたいことですから、入管庁の秘密主義に一石を投じるため、提訴に踏み切ることにしました」
不開示にする理由が全くわからない…
また、本件の担当弁護士・渡辺輝人氏は、WADA氏による訴訟を引き受けた理由を、こう語る。
「WADAさんの求めたウィシュマさんに関する入管庁への開示請求は、“過去の開示請求に対するもの”であり、本来は積極的に開示せなあかんと思いました。
それが全部不開示というのは、あまりに酷いと思ったから、『ふざけるな!』ということで、訴訟を起こすしかないと思ったんです。『率直な意見交換が損なわれるおそれ』などという、普通は過去の分の情報開示において使用すべきでない言葉を駆使し、わけわからん理由で不開示としてきたわけですから」
また、本件の争点について聞くと。
「争点は正直、『ようわからん』としか言いようがないですね。何しろ不開示にする理由が全くわからない、あまり例のないことですから。
人が亡くなっているだけに、もしかしたら入管庁の職員が刑事事件に問われかねないような内容が書かれているのかもしれません」
「意思決定プロセスを明らかにする」ためのクラウドファンディング
WADA氏が訴訟で求めていることは、以下の通り。
「私が開示請求を行った2021年8月19日までに行われたウィシュマさんの事件に関する開示請求の内容と、これに対する決定をする際に入管庁で行われた検討内容・意思決定プロセスを明らかにすること、を求めています」
また、弁護団からのコメントを以下に記しておく。
「国民主義の国、民主主義の国である以上、行政文書は、国民に対して全て公開されるべきです。恣意的な理由で非公開とされる運用を許さないためには、『嵐のように』開示請求を行い、問題事例は訴訟にするのが大事です。この国に、そういう流れを作りたいですね」
このクラウドファンディング「過去の開示請求に対する意思決定プロセスを明らかに!~入管の秘密主義を問う~訴訟」の目標金額は、40万円。寄付金の使途は、「裁判費用、弁護士費用(成功報酬を含む)に使います」とある。
なお、この訴訟は「不開示の取り消しと開示の義務付けを求める」行政訴訟であり、損害賠償請求ではないため、全面勝訴しても「持ち出し」となる。そのため、赤木ファイル事件で、赤木俊夫さんの妻・雅子さんが真相解明のために起こした損害賠償請求訴訟に、国側が突然「認諾」して終止符を打ったような「認諾」という結論を出すことはできない。
はたしてこの訴訟を機に、新たな情報が開示されるのか、入管庁の諸問題の行方とともに見守りたい。
取材・文:田幸和歌子
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。