ヤフコメも改竄「ロシアのネット工作」に私の記事も利用されていた | FRIDAYデジタル

ヤフコメも改竄「ロシアのネット工作」に私の記事も利用されていた

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ロシアメディア「報道」の現実。筆者が体験した転載とコメント利用の実態をレポート
ロシアメディア「報道」の現実。筆者が体験した転載とコメント利用の実態をレポート

1月1日、毎日新聞が「ロシア政府系メディア、ヤフコメ改ざん転載か 専門家『工作の一環』」と題した興味深い記事を掲載した。

ロシアが西側メディア・サイトの読者コメント欄を利用してネット世論の誘導を試みていることは、2021年9月にイギリスのカーディフ大学犯罪セキュリティ研究所が発表したレポートで明らかにされ、情報関係者の注目を集めていた。

ロシアによる「不正利用」が発覚

日本では当時、平和博・桜美林大学教授がその内容をレポートしているが、それによると、各メディアの読者コメント欄にロシアにとって都合のいいコメントが書き込まれ、それをロシアのメディアが紹介するかたちで信憑性をもたせ、拡散するのだという。その工作の中心となるのが、ロシアの政府系ネットメディア「イノスミ」で、日本のメディアも利用されており、なかでも各報道機関の記事をYahoo!ニュースに転載したページのコメント欄が使われていたとのこと。いわゆるヤフコメ(Yahoo!ニュースのコメント)の不正利用ということになる。

前述した毎日新聞の記事は、そのヤフコメの記述を、元の「日本語コメント」とイノスミ掲載の「ロシア語翻訳版コメント」の内容を比較し、ロシアに都合よく改竄されている疑いのある具体例を示している。

じつは筆者も、2021年9月、平教授のレポートが出た直後に、自分の記事がこうした工作に利用されていないか確認したことがある。結果、はっきりした工作の証拠は見つからなかったが、その可能性がある事例はあった。

なんと…自分の書いた記事も「利用」されていた

自分の記事の流用は、主に北方領土問題での日露外交の話についてだった(筆者はモスクワに2年居住したことがあり、日露交渉についてロシア政官界の取材経験がある)。

たとえば、その一例がこちらの記事である。

▽プーチンは一度も「2島を引き渡す」とは言っていない~絶対に言質を与えないよう計算されているプーチン語法の読み方

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54717

これは日本のニュース解説メディア「JBpress」で2018年11月21日に掲載された拙稿だが、これをイノスミは2日後に勝手に翻訳し、そのまま掲載している。

2018年11月21日「JBpress」に掲載された記事を、その2日後、イノスミが勝手に翻訳し、そのまま掲載
2018年11月21日「JBpress」に掲載された記事を、その2日後、イノスミが勝手に翻訳し、そのまま掲載

こちらは元記事に読者コメント欄はないが、イノスミの読者コメント欄にロシア語のコメントがついている。そのほとんどは、領土返還に否定的というロシア政府の立場に近い。ただし、ロシアの一般読者にも同意見は多いと思われるので、ロシア側のヤラセ投稿が入っているのかどうかは不明だ。

また、この記事が他のロシア語のサイトや掲示板に投稿されて議論が行われた形跡も複数あったが、それが「工作」なのか否かは確認できない。

他方、ロシア情報機関の工作についての筆者の記事翻訳は少ないが、まったくないわけではなかった。その一例が以下だ。

▽中国、ロシア、イランが米国批判の情報戦で連携プレー~敵の敵は味方、ネット上で米国批判を互いに拡散

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60866

これも「JBpress」で2020年6月11日に掲載した拙稿だが、イノスミは5日後に文面を翻訳し、掲載している。

これも、2020年6月11日「JBpress」→「イノスミ」
これも、2020年6月11日「JBpress」→「イノスミ」

この記事はロシアの裏工作を批判する記事で、これをそのままロシアの読者が信じると、ロシア政府にとってはマイナスになる。だが、その点でロシアは巧妙だ。まず独自のリード文をつけ、あくまで筆者の黒井文太郎が独自に信じ込んでいる「私論」であることが強調されている。

私は日本の「陰謀論者」!?

さらにロシア語読者コメントのほとんどが、この記事を批判している。つまり、ロシアの読者がこの私の記事を読むと「日本の陰謀論者が書いた記事」との印象を持つように巧妙に仕組まれているわけだ。

さらに最近の記事になると、前述したような、いわゆるヤフコメの利用もあった。

▽領土交渉をスルーして「平和条約」プーチン・ロシアの本当の狙い~駐日ロシア大使の会見でわかった「日本懐柔戦略」~黒井文太郎レポート

https://friday.kodansha.co.jp/article/168833

これは現在はYahoo!ニュースとのリンクが切れているが、もともとはFRIDAYデジタルに2021年3月16日に寄稿した記事で、当初はYahoo!に転載されていた。それをイノスミは7日後にYahoo News Japanからの転載として、以下のように翻訳・掲載している。

FRIDAYデジタルに2021年3月16日に寄稿した記事で、当初はYahoo!に転載されていた。それをイノスミは7日後にYahoo News Japanからの転載として、このように翻訳・掲載している
FRIDAYデジタルに2021年3月16日に寄稿した記事で、当初はYahoo!に転載されていた。それをイノスミは7日後にYahoo News Japanからの転載として、このように翻訳・掲載している

イノスミではこの記事に「日本の読者コメント」として11本を翻訳・掲載している。Yahoo!記事の読者コメント数としては少ないので、イノスミ側がおそらく「選別」している。ただし、恣意的な改竄・創作があるのか否かは、元のページが消失しているので現在は確認できない。

そのうえで、それらのコメントをみると、意外なことに、必ずしもロシア政府に有利なものばかりではなかった。

以下はあくまでイノスミ掲載の日本側記事コメントだが、たとえば「ロシアは島を手放すつもりはないのだから、あとは何らかの関係を築くしかない」「ロシアの狙いは明白だ。したがって、安倍首相の要求に明確な回答はしていない」といった、領土返還せずに日本の取り込みを狙うロシア政府に有利なコメントもたしかにあった。

しかし、一方では「日本はアプローチを変えるべき。ロシアは日本からの経済援助が欲しいだけ」「”北方領土″の価値を高めるような共同経済活動が行われれば、ロシアは間違いなく島を返さない。なので、日本が南クリル諸島に興味がないと明言すべき(※北方領土はカッコ付きで、平文では南クリルと記述)」「ロシアと交渉するのは時間の無駄でしかない。簡単に協定を破るような国とは、平和協定を結べない」といった日本側の態度の転換を求めるものもあった。

さらには「ロシアは中立条約を破り、日本領土を占領し、日本人をシベリアに送り、多くの死者を出した。攻撃者とどのように和解できるだろうか」「経済協力や人道支援をすべて打ち切るべき。領空侵犯などにはミサイルで対応すると警告すべき」「ロシアを経済的に疲弊させ、第二次ロシア革命に持ち込まなければならない」といったきわめて敵対的なコメントも載せていた(※以上はいずれも一部抜粋)。

これだけを見ると、イノスミ側がこのケースでのヤフコメ改竄・創作誘導を行ったか否かを推測するのは難しい。ただ、これらに対し、イノスミ記事についたロシア側のコメントは、ほとんどがロシア政府側を正当化し、島の返還を主張する日本側を批判するコメントばかりである。

これらを通してナショナリズムが強いロシアの読者が読めば、日本人にはロシアを敵視する人も多く、甘い顔を見せてはいけないという気になるのではないだろうか。

なお、この記事を受けて、いくつかロシア語サイトで引用記事が確認できる。たとえばREGNUM通信は2021年3月23日、日本の有力メディア「Yahoo News Japan」の記事だと紹介したうえで、「存在しないクリル問題は完全に終わらせるべき」との記事を掲載した。

また、「Ytro news」というサイトでも同日、この記事を引用して「ミサイルで威嚇~クリル諸島に関してロシアへの厳しい対応を東京(※日本政府という意味)に要求」と題した記事を掲載した。元記事の日本側の読者コメントに「ロシアとの貿易に意味はない」「略奪者とは交渉しない。国交断絶は当然」「領空侵犯などにはミサイルで対応すると警告すべき」などとあることを紹介し、日本に“ロシアをミサイルで威嚇せよと主張する人々がいる”ことを強調している。

このサイトは明らかに、ロシア側のプロパガンダ情報を発信しているサイトだが、日本のWEBニュースのYahoo!転載についたコメントから、イノスミが選別翻訳して掲載し、それを他のサイトが引用して特定の印象操作を拡散するという工作パターンに合致している。

ロシアのサイト「Ytro news」より
ロシアのサイト「Ytro news」より

ロシア語でエゴサしてみた

最後に、ロシア語でエゴサーチして気づいたのだが、ちょっと問題のあるサイトのページがあったので紹介しておく。ロシア語版ウィキペディアの「レフチェンコ事件」の項目だ。

レフチェンコは70年代に日本で活動していたソ連の情報機関「KGB」のスパイで、1979年に米国に亡命し、日本人の協力者など秘密情報を暴露し、大きな騒動になった。スパイ事件史もカバーしている筆者は、たしかに同事件については多くの調査記事を書いてきた。しかし、世代も違い、もちろん事件そのものとは無関係だ。

ところが、同項目内の「一部のエージェントおよび無意識の協力者」の11人のリストに、筆者の名前が記されているのだ。他の10人には実際にレフチェンコが暴露した人物が5人、噂はあるものの確定的な証拠がなく、おそらく違うと筆者(黒井)は判断している大物財界人1人がいるが、それ以外の4人はいずれもKGBエージェントとは考えられない人物である。

たとえば笹川陽平・日本財団会長や大物右翼の故・児玉誉士夫氏などで、ちなみに児玉氏の説明文には日本語発音のまま「クロマク、ヤクザ」と書かれている。筆者の名前も含め、英語版ウィキペディアに不正確に書かれた記述を、さらにとんでもなく誤認したまま転載したものとみられる(※英語版ウィキペディアのレフチェンコの項では、そもそも筆者が旧ソ連時代の対日工作責任者を取材したことを、筆者がその人物の「友人」だと誤って記されている)。

所詮は玉石混交のウィキペディアではあるのだが、それでももしもロシア人が筆者の名前をネット検索すると、筆者は「レフチェンコが暴露した日本人エージェント」になってしまう。勘弁してほしい。

▽ロシア語版ウィキペディア「レフチェンコ事件」

いちばん下にあるのが、筆者の名前(ロシア語表記)だ…
いちばん下にあるのが、筆者の名前(ロシア語表記)だ…

黒井文太郎:1963年生まれ。週刊誌編集者、軍事専門誌特約記者、諜報機関・情報戦(インテリジェンス)専門誌編集長などを経て軍事ジャーナリスト。専門は外交・安全保障、国際紛争、情報戦など。ロシアによる情報工作に関する調査レポートも多数発表している。また、ゴルバチョフ~エリツィン政権時代に2年間モスクワに居住し、ソ連崩壊を取材。旧ソ連の対日工作責任者だったイワン・コワレンコ元共産党国際部副部長のインタビューなどを手掛けた。ロシア側から日露交渉の内情を取材しており、以来、北方領土問題の調査・分析も続けている。

  • 取材・文黒井文太郎

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