新春ドラマの戦略分析で見えた本当の「勝ち組」
フジ「月9」4本同時撮影という離れ業、『Netflix』で世界配信戦略、最強の指針はコア視聴率かネット配信か、秋元康の大躍進ほか 最新事情がすべてわかる!
’21年はドラマ業界の変革の年だった。田中圭(37)、永野芽郁(めい)(22)ら主演クラスの俳優らが新型コロナに感染して撮影スケジュールがメチャクチャになった作品があるかと思えば、『日本沈没』(TBS系)のように、放送の半年前にクランクアップして事なきを得た作品もあった。
『日本沈没』が撮影を前倒ししたのは、『Netflix』でほぼ同時に世界配信するためだった。放送開始までに撮影が終了していることが条件だったという。
「『日本沈没』は個人視聴率がとても良く、『Netflix』でもよく再生されていた。1月クールの阿部寛(57)の『DCU』(TBS系)のように、海外の制作会社を巻き込んで動画配信を視野に入れるドラマが増えていくと思います」(キー局プロデューサー)
撮影の前倒しに特化していたのがフジテレビだ。
「’22年1月放送開始の菅田将暉(すだまさき)(28)主演作、『ミステリと言う勿れ』を含む”月9”4本を’21年3月に撮っていましたからね。スケジュールに余裕があって演者には好評でしたが、放送までにキャストがスキャンダルや事件を起こした場合、大幅な編集をするハメになる。諸刃の剣ですよ」(民放幹部)
一方で独自の戦略でネット配信に注力していたのが、『来世ではちゃんとします』など深夜帯のドラマを定額制動画配信サービス『Paravi』で1週間早く観られるようにしていたテレビ東京だ。
「会員数を増やすのが狙いです。いま、広告業界が最も熱視線を送っているのは、民放各社らで共同運営する見逃し配信サービス『Tver』。リアルタイム配信も始まり、大手企業が続々とCMを出しています」(広告代理店幹部)
ネット配信で’21年に好成績を収めたのが『ハコヅメ』(日本テレビ系)だ。
「交番勤務の日常という地味な内容にもかかわらず、原作の良さを生かして丁寧に作られており、放送されるたびにニュースになっていました」(芸能プロ幹部)
名バイプレイヤーの江口のりこ(41)を主演に抜擢した『SUPER RICH』(フジ系)は視聴率では苦戦したが、「見逃し配信は同枠のトップを記録しました」と放送作家が言う。
「『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(略称・チェリまほ)でブレイクした赤楚衛二(27)と町田啓太(31)コンビも出ており、彼らへの期待値が高いことも証明されましたね」
各局がコア視聴率(13〜49歳男女の視聴率)を最重要視していることは既報の通りだが、’22年は配信がより存在感を増すと前出のプロデューサーは言う。
「いま、放送業界の広告出稿はコロナ前の水準にまで回復してきています。年末年始なんて売る枠がなかったですから。そこでも、単価の高い広告はコア視聴率の高い番組に行く。しばらくはコアが最重要視されるでしょうが、ネット配信の再生回数の重要性がますます高まっていくのは間違いない。これまで、制作費を回収する手段はスポンサー料と、DVDなどの物販しかありませんでした。
そこに動画配信が加わったのは大きい。テレビを持っていない若者が増えましたが、面白いコンテンツがあれば、彼らはサブスクを使ってスマホで観てくれる」
’21年のナンバーワン・コンテンツと諸氏が推すのが『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジ系)だ。
「あらためて”ドラマは脚本が9割”を認識した作品です。ストーリー設定、会話の妙、キャラクター、そのいずれも愉快で奇妙で能動的でリアル。名脚本家・坂元裕二の作品ですが、彼は、僕が思うに”上手い下手を超えて役者を自然に演じさせるホン”が書けるのかな、と」(ノンフィクション作家の細田昌志氏)
’22年の新春ドラマには著名脚本家、岡田惠和(よしかず)が手掛ける『ファイトソング』(TBS系)がある。
「オリジナル脚本に定評のある岡田さんと、『あさが来た』『なつぞら』そして『おかえりモネ』では主演を張るなど朝ドラで活躍した清原果耶(19)のタッグは期待十分。『ゴシップ #彼女が知りたい本当の〇〇』(フジ系)で主演する黒木華(はる)(31)は、ともすると現実味に欠けた話になりがちなメディアを舞台にした本作をどうエンタメに昇華できるか。真価が問われますね」(制作会社ディレクター)
複数の局と作品でクレジットされているのが秋元康(63)だ。ドラマウォッチャーの北川昌弘氏は「時代に合いそうな企画、アイデアが出せて、しかも実現させ、バズらせる力がある」と評価する。
「『真犯人フラグ』(日テレ系)には生駒里奈(26)、『ユーチューバーに娘はやらん!』(テレ東系)には若月佑美(27)と、自身がプロデュースしたアイドルを女優として起用できるのも強みです」
’21年に出演した舞台で、女優の才を激賞された佐々木希(33)。彼女の主演作『ユーチューバーに娘はやらん!』は必見だと、細田氏は言う。
「このドラマの成否が”のぞみん”の今後の方向性のみならず、人生をも変えるターニングポイントになるかもしれない。局にも放送時間帯にも縛りはなさそうなので、本気の演技が見られるはず」
キー局プロデューサーは浜辺美波(21)の『ドクターホワイト』(フジ系)に注目しているという。
「浜辺は若手女優では別格の存在。『タリオ 復讐代行の2人』(NHK)以来の主演とあって、どうステップアップに繋げるか、楽しみですね」
若手実力派と言えば、事務所移籍をめぐって騒動になり、’21年の出演作はオムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』(フジ系)1本に終わった森七菜(20)。彼女は『逃亡医F』(日テレ系)で連ドラに本格復帰するが「また物議を醸すかもしれない」と制作会社スタッフは訝(いぶか)る。
「森が演じる新米海洋観測士は、原作ではセクシーなシーンがあるキャラでしたが、大幅に変更されるでしょう。原作ファンの怒りを買わないか心配です」
だが、北川氏は「森のポテンシャルが炎上を凌駕(りょうが)する」と見ている。
「『獣になれない私たち』(日テレ系)で田中美佐子(62)のJK時代を演じたときのピュア感は衝撃的でしたNHK朝の連続テレビ小説のヒロインを担える存在ですよ。主役に抜擢された『この恋あたためますか』(TBS系)は原作なしで、有名脚本家がついているわけでもなかったのに大成功に終わりましたから」
今作でイメージを回復できれば、他局も黙ってはいないだろう。
「パッと見で華があるタイプではないけど、演じた途端に輝く女優ですからね。禊(みそぎ)が済んだ感が出て、気づけば移籍トラブル前の露出量に戻っているのではないか」(制作会社幹部)
コア視聴率、動画配信がどの作品を「勝ち組」と判定するかに注目しながら観ると、また違った楽しみがあるに違いない。
『FRIDAY』2022年1月21日号より
- PHOTO:近藤裕介 等々力純生(森) 柚木新平(高畑)