元マラソン女王・原裕美子被告を2度の万引きに追い込んだ病 | FRIDAYデジタル

元マラソン女王・原裕美子被告を2度の万引きに追い込んだ病

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2010年、北海道マラソンで優勝した時の原裕美子元選手
2010年、北海道マラソンで優勝した時の原裕美子元選手

かつてマラソン女王と呼ばれた原裕美子被告(36)が、万引きにより「2度目」の裁判を受けている。

1度めの裁判(2017年11月)では執行猶予付きの有罪判決が下されていたが、2018年2月に再び万引きで逮捕。現在「2度目」の万引き裁判が前橋地裁大田支部で行われており、12月3日に判決が言い渡される。執行猶予期間中の再犯ということもあり、今回は実刑判決も視野に入ってくる。「2度目」の裁判の前に、原被告の経歴と、「1度目」の万引き裁判についてお伝えしたい。

原被告は高校卒業後に京セラに入社。2005年、初マラソンの名古屋国際女子マラソンで優勝。その翌々年の大阪国際女子マラソンでも優勝し、世界選手権代表にもなったマラソンランナーだ。2010年にはユニバーサルエンターテインメントに移籍するが故障に悩み退社。事件当時は故郷である栃木県足利市に住んでいた。

原被告に対する窃盗の公判は2017年11月8日、宇都宮地裁足利支部で開かれた。これは同年7月、栃木県足利市のコンビニで飲料水や化粧品など8点、約2700円相当を万引きしたという事案である。

だが、原被告が万引きをしたのはこれが初めてではなかった。2014年、2015年に「窃盗」で罰金刑に処せられた前科が2件あったのだ。万引きを繰り返し、ついに公判請求されたというのが実情だった。

彼女にとって「摂食障害」「万引き」はリンクしている。

被告人質問で原被告が答えたところによると、自身が摂食障害になったのは2000年以降。体重制限のストレスから食べては吐く、を繰り返すようになったという。厳しい体重管理からの過食や嘔吐に苦しみ通院治療を始めたが、2015年2月以降は通院していなかったという。

そして事件の日。「嘔吐してしまう食品に金を使いたくないと、飲み物を買おうとコンビニに入店。化粧品を見てバッグに入れた。さらに食料品などを次々と……1つくらいはお金を払わないと店に申し訳ないと、パン1個の代金を支払い店外へ出た」(検察官冒頭陳述)のだという。

「食べ吐きをすると気持ちが落ち着くんです。通院をやめ、ほかの病院を探すこともしなかった。気分が落ち着かないと食べ吐きをする。(今回)捕まってもかまわないと投げやりな気持ちになってしまった」

また、万引きを働いた“きっかけ”については、次のように語る。

「去年、結婚詐欺のようなことに遭い、約400万円を失った。2017年2月以降ずっと自分の頭の中にあり……つらい思いが頭の中をぐるぐる回っていて……」

原被告は2016年10月末、地元の男性と結婚式をあげたが、入籍はせずに破局している。この詳細は明かされなかったが、少なくとも原被告は“騙された”と感じており、その傷が癒えていなかったようだ。

「今回初めて、食べ物以外(化粧品)をバッグに入れようとしたとき、右上にカメラがあるのは分かりました……。捕まったら逮捕される、早く楽になりたい、カメラがある、店員さんと目が合った、早く捕まって楽になりたい……どれだけの人に迷惑をかけるか頭が回らずほんとに……あの頃の自分に戻れるのであれば、そんなことしたらダメだよと、言い聞かせたい……深く心に刻んで、一生しないよう、信頼を回復したい……」

黒のパンツスーツに身を包んだ原被告は、こう涙ながらに語っていた。実は「女性の被告人」による「窃盗」(万引き)裁判で、摂食障害の話題が出ることはかなり多い。原被告も、そうだった。このように万引き行為を繰り返す者のことを最近は「クレプトマニア」または「窃盗症」とも呼ぶようになってきた。

原被告は保釈後、入院をしており、退院してからも通院して治療は続けると述べた。この日は結審後、休廷を挟んですぐに判決言い渡しに。中村海山(かいざん)裁判官はこの日「摂食障害が背景にあったことが窺われる。店と示談が成立しており、犯行後自ら積極的に入院治療している。このように被告人にも有利な情状が多数ある」と、原被告に懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡した。

公判を見届けた、傍聴ジャーナリストの今井亮一氏は語る。

「こういった裁判の多くは、摂食障害であることを被告人が主張しても『病気のせいにするのか』と責められてしまうのですが、原被告の裁判ではそんなことは全くなく、裁判官も『窃盗症という病気は、簡単に治る病気じゃない』と原被告に言い含めていました。つまり万引きという行為が病気からくるものだと認識していたのでしょう。万引きは利得のために行う、ヤメようと思えばヤメられる、と一般に思われていますが、窃盗症の場合は大間違いです。利得とは関係なく、もう万引きは絶対しないとどんなに本気で誓っても、何度刑務所へ行っても、病気ゆえに万引きをくり返してしまう、そういう女性が続々と裁判の法廷へ出てきます」

結局、原被告はこの判決の日からわずか3ヵ月後、今度は栃木県ではなく、群馬県太田市のスーパーでキャンディ1袋など3点、販売価格計382円を万引きして逮捕起訴されている。

この「2度目」の逮捕後は、公判まで専門の医療機関に入院。退院後は関連施設に住み、仕事を始めたという。

この治療に原被告は手応えを感じていたようだった。10月29日に前橋地裁太田支部で開かれた公判において「治療の効果を実感しています。万引きは全くしていなくて、欲求自体もありません」と語ったからだ。とはいえ前回も同様に入院を経て通院治療をしていたが、再犯に至ってしまった。前回と今回とで、何が違うのか。原被告によれば前回は大きなふたつのストレスがあったのだという。それは“報道による不安”と、前回の公判でも語っていた“婚約破棄”だ。

「前回は逮捕後、自分のことが大きく報道され、すごく不安な毎日を過ごしていました。知られているのはわかっているけど、それでも隠したかった自分がいて、怖いと感じながら日々を過ごしていましたが、今回は自分から、病気を皆に知ってもらいたいと、いろいろな人に会う中で前向きになれました。婚約破棄は、前回の万引きの時もそのことが一番の原因だと思っています。今回もその気持ちが続いていましたが、でも先週やっと、お金を支払ってもらうことで解決した。また一つ、自分自身前向きに進めそうな気がしています」

隠れることなくインタビュー取材にも応じ、婚約破棄については民事訴訟で和解となったことで、彼女が感じていた大きな2つのストレスも軽減されたそうだ。摂食障害も「前は1日2回ぐらい吐いていたんですが、いまは1週間に1回あるかないか」と食べ吐きの頻度が下がったと語った。

この日の論告で検察側は「摂食障害による万引きではなく規範意識の低さからの犯行」と断じ、懲役1年を求刑。対する弁護側は「マラソンによる激しい体重制限の結果、摂食障害になり万引きを繰り返した。犯行当時、行動制御能力が著しく減退していた」と、保護観察付きの執行猶予を求めて結審した。判決は12月3日に言い渡される。

原裕美子被告の今の姿とインタビューはコチラ

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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