コロナから日常を取り戻した英国と日本の「決定的な差」
エディンバラ大学に留学中の医学生に聞く
「日本は何がしたいんだ?」と言われます…
「『来週末はどこの国に行く~?』
上のような会話が普通に繰り広げられているのがイギリスの現状です。ヨーロッパでは格安航空を使えば、片道1万円を切る値段で他のヨーロッパ諸国を巡ることが可能であり、多くの留学生が週末の海外遠征を楽しんでいます。これは、デルタ株が流行していた先学期(9~12月)では見られなかった特徴です」
これは、北海道大学医学部4年で、エディンバラ大学に留学中の金田侑大さんが、医療ガバナンス学会が発行するメルマガに「エディンバラにおけるオミクロン株の状況について」と題して寄稿したもの。
冒頭の一文を読むだけで、日本の現状との違いに愕然とするが、なぜイギリスではコロナ対策がこうも緩和されているのか。エディンバラ在住の金田さんにリモートでインタビューを敢行した。
「僕がエディンバラ大学に留学に来たのは昨年10月ですが、最初から大きな違いを肌で感じていました。
入国二日目にPCR検査を受けて、その検体を提出しなければいけなかったんですが、提出方法が自分で近くの郵便局に提出しに行くかたちで。日本では帰国したらまずホテル隔離となりますが、こちらではコロナ陽性の可能性がある人間が、結果が出る前に外に出られるような状況で、『自分で考えてやってください』という感じなんです。
外では少なくとも誰もマスクをつけていないし、週末になると周りの同級生達はクラブとかに出かけてはちゃめちゃにやっている。正直、僕自身はすごく不安でした。
大学の寮に住んでいるのですが、一緒に住んでいる人から陽性が出てしまうと大変だから、寮の中でドンパチやらないでくれと何回かケンカをしたこともあります。
でも、周りの学生たちは、『自分たちは感染してもリスクが大きくないでしょう』という感覚で。自分がコロナを持っていた場合、周りにうつしてしまうかも、という感覚は、こっちの人はあまり持っていないみたいです。寮でパーティーを開いて、そこから感染したみたいな話も出ています」
コロナに関する認識の違い
コロナに対する認識がそもそも異なり、学生同士では「先々週コロナ陽性になったから、もう大丈夫だと思うけどね」などと、かかる前提で、「自分がどうしたら重症化を防げるか」という話になるそうだ。
日本の新規感染者が全国で8万人超だった2月12日時点で、スコットランドは5500人程度、イギリス全体では4万5000人程度。死者数がピーク時には1日に900人程度だったところから、1日200人程度に落ちていたと話す。死者数が1日200人でも多いと思うのは、日本人ゆえか。
「スコットランドのスタージョン首相は、1月第1週の時点でピークアウトしているし、死者数も1日200人程度まで抑えられている、という認識でした。
ブースターワクチンを予約なしで、公共のいろいろな場所で、無料で受けられることから、感染しても重症化リスクを下げる対策があるということも、緩和につながっていると思います。
また、イギリス全体で、感染時の隔離に際し、薬を届けてくれるサービスや精神的なカウンセリングのサービス、補助金などが充実しているのに対して、日本は『不要不急の外出は控えてください』という言葉が象徴的であるように、かかった人の自己責任という突き放した印象があります」
政策のフィードバックと隔離期間の補助金
さらに、大きな違いを感じるのは政治のあり方だとも漏らす。
「イギリスが凄いと思ったのは、自分達が行った政策に対してきちんとフィードバックを行っているところです。
最初は『コロナは風邪と同じように過ごして大丈夫』としていましたが、後にそれは間違いであったという分析を国家としてフィードバックし、次の対策に生かそうとしています。その結果、ブースターワクチンの接種やPCR検査を、面倒な手続きなしに気軽に無料でできるようになっているのです。
でも、日本ではこれが有効だった、これは誤りだったというフィードバックって、国からは出ないですよね。
厚生労働省で8カ月の期間を置いてワクチンを接種するよう勧めていたのも、根拠がどこにあるのかわかりませんし、海外渡航者の入国に関しても、ビジネス目的の人なら隔離は3日でいいとか、その場しのぎで全然科学的じゃないですよね」
また、大きく異なるのは、陽性が判明したとき。
「日本ではコロナにかかると、会社を休まなきゃいけないとかアルバイトができなくなるとかいう状況にもかかわらず、サポートが行き届いておらず、感染したことを公表することって大きな壁があると思うんですよね。周囲の目も厳しいですし。
でも、イギリスでは“感染するのは当然”という感覚で、陽性が判明した際に『NHS』という国民健康サービスから10日間隔離するように言われる一方で、申請すれば約500ポンドの補助金をいただけます。現在のレートで7万5千円程度をもらえるので、そこまで窮地に追い込まれない。
大学側からも、検査で陽性が確定されるまでに必要な約2日間の自己隔離に際し、50ポンドの補助金やその間の食料をいただけます。
実際大学では、教授やチューターがコロナになってしまったことで、今週の授業は休みにします、みたいなことが結構あるくらい、コロナになったときの心理的障壁が低いと感じます。そうした感染者に対する充実したサポート体制がもたらす心理的障壁の低さは、隔離等の緩和という流れにつながる大きな要因ではないでしょうか」
さらにショッキングなのは、国民性の違いという指摘だ。
「正直、国民性は大きいのかなと思います。というのも、500ポンドいただけると言っても、こちらでは全員が申請するわけじゃないんですよね。
すごく意外だったんですけど、『もっと困っている人がいるから』と、断る人が結構な割合でいます。エディンバラ大にいる学生のように、比較的恵まれている人たちは、『別に補助金をもらわなくてもやっていけるから』と辞退するんです。
日本ではもらえるならもらっておこうという人が多いと思いますが、そこはイギリスの教育の部分に根ざした考え方なのかなと感じます」
なかなか耳が痛い指摘である。
ちなみに、日本ではコロナの診療に、雇用契約も労災も出ず、大学院生が従事させられている現状などが問題視されていたが……。
「イギリスでは逆に、『こういう経験を積めるのは今だけだから』と、医学生などもボランティアなどで病院に出たい人は参加できるようになっています。もちろん出たい人だけが出るかたちです」
感染してしまった人を自己責任論で追い込んでいる日本のコロナ対策…
イギリスに住む金田さんには、今の日本はどのように見えているのだろうか。
「個人的には、科学的に動いていないということと、感染してしまった人を自己責任論に追い込んでいることが気になります。
例えば、コロナに感染してしまったとすると、回復後も90日間はPCR検査で陽性判定が出てしまう可能性があることから、『回復証明書』を提出すれば、だいたいどこの国も入国できるようになっています。
でも、僕が今日本に帰ろうとすると、72時間以内に実施したPCRの、陰性の証明書を提出しないと入国できなくて、日本では回復証明書を認めていないので、回復しても90日間は入国できない可能性があるんです。
厚生労働省のサイトを見てみると、『真にやむを得ない場合は、入国を認めることがあります』となっていますが、“真にやむを得ない場合”って何だろうって思っちゃいますよね。
できるだけリスクを減らそうというのが日本の方針だと思いますし、それは悪いことではないですが、感染症はどんなに気をつけていてもかかるときはかかりますし、それをかかった人の自己責任、みたいな感じで突き放すのはおかしいんじゃないかと感じてしまいます」
ちなみに、日本のコロナ対策は他の国の人たちにどう見られているのかと問うと。
「『日本は何がしたいんだ?』と言われます。日本は前も1回鎖国したから、慣れているんだよという話はしますが(笑)。
同じ島国でも、人の行き来はイギリスのほうが頻繁にあるので、全然違いますよね。
世界的なコンセンサスがあると一番良いですが、残念ながら国によって状況が全然違うので、日本でもコロナにかかった人に対するサポートにはもっと目を向けてほしいです」
- 取材・文:田幸和歌子
ライター
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。