最速予測 次のノーベル医学賞に一番近い日本人はこの二人! | FRIDAYデジタル

最速予測 次のノーベル医学賞に一番近い日本人はこの二人!

祝・本庶佑特別教授 ノーベル生理学・医学賞受賞!〔寄稿・塚﨑朝子〕

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2018年ノーベル生理学・医学賞 本庶佑氏、ジェームズ・アリソン氏が受賞 (2014年9月資料写真)。写真:AFP/アフロ
2018年ノーベル生理学・医学賞 本庶佑氏、ジェームズ・アリソン氏が受賞 (2014年9月資料写真)。写真:AFP/アフロ

2018年12月10日夕刻(日本時間11日未明)、スウェーデン・ストックホルムで、ノーベル賞の授賞式が行われる。我々は、2年ぶりに生理学・医学賞を授与される、凛々しい和装姿で臨む日本人研究者を目にして、きっと喜ばしく誇らしく思うことだろう。

今年の同賞は、新たながん免疫療法を切り開いた功績により、京都大学特別教授の本庶佑(ほんじょたすく)氏と、米国テキサス大学のジェームズ・アリソン氏に贈られる。

実は、拙著『世界を救った日本の薬』(講談社ブルーバックス 3月刊行)で取材させていただいた研究者がノーベル賞を受賞するのは、大村智氏(北里大学特別栄誉教授)に次いで本庶氏で2人目。いずれも受賞前に書き進めていたものが、思わぬ“二冠”の栄に浴することになった。本庶氏、大村氏のインタビューと共に、それぞれの業績についても本書で解説させていただいている。本稿でも、本庶氏らの業績をできるだけ分かりやすく解説するので、お付き合い願いたい。

晩餐会が行われるストックホルム市庁舎
晩餐会が行われるストックホルム市庁舎
ディナーが供される「青の間」
ディナーが供される「青の間」
ダンス会場となる「黄金の間」
ダンス会場となる「黄金の間」

さて、本年の受賞者2人は、リンパ球のうち、免疫の“司令塔”となるT細胞上に、それぞれ別の免疫チェックポイント分子を発見した。ちなみに本庶氏が1992年に発見したのがPD-1、アリソン氏が1995年に発見したのがCTLA-4と呼ばれる分子である。

我々の免疫系は、がん細胞があると、それを攻撃しようと働くが、これらの免疫チェックポイント分子は、がん細胞上のある特定の分子と結合してしまい、免疫系にブレーキをかける(つまり、免疫によるがんへの攻撃が弱くなる)。

であれば、その特異的な結合をブロックして、免疫活動にかかったブレーキを解除しようと発想されたのが、「免疫チェックポイント阻害薬」で、それぞれ本庶氏が手がけたオプジーボ(一般名ニボルマブ)とアリソン氏が手がけたヤーボイ(同イピリムマブ)として結実した。

「がん治療における“ペニシリン”が見つかった」
――2016年に英科学誌『New Scientist』誌で、米国のバイオベンチャー企業、ジェネンテック社にいたダニエル・チェン博士は、こう評している。

1920年代に、英国の細菌学者アレクサンダー・フレミングが、青カビの中から見つけたペニシリンは、世界最初の抗生物質となった。ペニシリンひとつだけでは、すべての感染症を治すことはできない。だが、かつて人類の命を奪っていた多くの感染症を歴史の彼方へ追いやり、それに続いて次々と抗生物質が生み出され、医学を変革した。

――そしてフレミングは、1945年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

そうした意味で、免疫チェックポイント阻害薬は、ペニシリンに匹敵する可能性を秘めている。それまで半世紀余りにわたって試みられていた、がん免疫療法は、アクセルをふかす(免疫力を高める)方向一辺倒だったのを、“逆転の発想”をすることでブレーキを外してみせたのだ。

肺がんに罹り、2016年に「せいぜいもって、今年いっぱい」と宣告されていた森喜朗・元首相が、オプシーボ投与により、その年の春頃から急激に回復。今では見違えるように生き生きと、ラグビーワールドカップや東京五輪を先導している姿を目にすると、期待は膨らむ。

しかし、残念ながら、現在の免疫チェックポイント阻害薬は、万能ではない。奏功率(がん縮小効果の得られた割合)は、3割弱にとどまる。そして、逆に約1割では急速に病状が悪化するという報告があり、効果のほどは事前に予測できない。

それでも、世界中で年間900万人以上もの命を奪う難敵、がん治療の選択肢が広がったことは、朗報だ。日本で発売当初は、皮膚がんの一種である悪性黒色腫だけが保険適用だったが、その後、肺がん、胃がん……と保険が適用されるがんの種類が広がっている。また、PD-1やCTLA-4の働きを抑えようとする薬は、世界中で続々と開発されている。

日本免疫学会理事長の坂口志文氏(大阪大学特任教授)が、「免疫でがんを治せることに脚光が当たったことは、非常に喜ばしい」と語る通り、扉を開いた功績は極めて大きい。

実は、その坂口氏自身も、ノーベル賞候補としての呼び声が高い。坂口氏は1990年代、T細胞の中に、体内で免疫系を抑制するように働く「制御性T細胞(Treg)」の存在を発見した。

Tregを減らして、その免疫系を抑制する働きを弱めるような薬剤が見つかれば、がん治療薬につながる可能性がある。すでに既存の薬の中から、こうしたTregを減らす可能性のある薬剤の候補が見つかっている。

一方で、過剰な免疫反応であるアレルギー疾患は、Tregの減少で起こると考えられており、こちらはTregを増やすことが治療になる。坂口氏はアステラス製薬との共同研究で、体内のT細胞からTregを作り出すことができる新規化合物を見いだし、2018年に特許を国際出願した。マウスの実験では、耳の腫れや引っ掻き行動が減少するといった効果を確認している。

ヒトの薬になるまでにはまだいくつも壁を越えなくてはならないが、新しいアレルギー治療の飲み薬として期待がかかる。坂口氏は、「薬をある短期間だけ飲んで、免疫系を軌道修正できるようになれば理想的だ」と語る。

日本人で初めてノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏の研究も免疫に関するもので、“お家芸”である免疫学からは、世界に伍するような成果が続々と生まれており、その一部は、『免疫が挑むがんと難病―現代免疫物語beyond』(岸本忠三ら著、講談社ブルーバックス)でも紹介されている。

中でも、坂口氏は、2015年にTregの発見の功績によりガードナー国際賞を受賞している。同時に受賞した大隅良典氏が、2016年のノーベル賞を受賞していることもあり、ノーベル賞に近い位置にいると言えるかもしれない。

もう一人、睡眠研究の分野で、ノーベル賞級の研究者として世界を牽引するのが、文部科学省の世界トップレベル研究拠点の1つ、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)の機構長・教授を務める柳沢正史氏だ。睡眠制御機構の解明と創薬への応用に関して、慶應医学賞の受賞が決まった(2018年9月)。1996年に創設された同賞は、歴代受賞者43人のうち、8人が後にノーベル賞を受賞している。

柳沢氏は1988年、血管内皮由来で血管を強力に収縮させる物質「エンドセリン」を発見、1998年には、脳内で睡眠・覚醒のスイッチを制御する物質「オレキシン」を発見した。オレキシンを強める薬は2014年に睡眠薬として発売され、また弱める薬は過眠症(ナルコレプシー)の薬として開発途上にある。また、エンドセリンを弱める薬も、肺高血圧治療薬として開発された。

IIISからは、睡眠の本質に迫るような研究成果が続々と生み出されている。2018年には、“眠気の正体”と見られる80種類のタンパク質が同定され、『Nature』誌に発表された。「SNIPPs(スニップス)」と名付けられたそのタンパク質群は、眠らない時間が長引いて眠気が増すにつれて、リン酸化という化学的変化が進行していることが分かった。

柳沢氏は、「睡眠は、“ししおどし”のような仕組みで起こり、眠気が一定量を超えると、覚醒状態からスイッチが切り替わる。その一瞬のメカニズムを解き明かしたい」と語る。

人生の3分の1を占めながら、謎だらけだった睡眠の仕組みが、徐々に解明されようとしているのだ。

一部では、日本人はもうノーベル賞を獲れないのでは、という意見も出ている。トップレベルの研究者が、一様に嘆くのは、国の基礎研究への支援だ。

例えば、PD-1発見から、オプジーボが出るまでには、22年かかっている。最初は、海の物とも山の物ともつかないシーズから、芽が出てくるのだ。本庶氏は、拙著の中で述べている。「基礎研究に幅広く根気強くサポートして、芽が出てきたら育てるという長期的な戦略できちんと調整してもらいたい」。

私が、これまで取材させていただいた、主として生命科学分野の日本の叡智の中から、3人目、4人目のノーベル賞受賞者が出ても、決して不思議ではない。ただし、それは、昭和から平成の時代までに種がまかれた研究の成果だ。私は、卓越した科学の業績を紹介し続けるのは、手に取っていただいた人の中から、あさっての患者を救う研究者が出てくることを夢見ているからだ。そして、それをサポートする、国の長期的ビジョンを望みたい。

『世界を救った日本の薬』に登場する大村智・北里大学特別栄誉教授は2015年、本庶佑・京都大学教授は2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。著者の塚﨑朝子氏が両氏を取材したのはいずれも受賞前。その眼力の鋭さには医学・薬学業界でも定評がある。本書の中には、次のノーベル賞の有力候補と目される柳沢正史氏も登場する。二度あることは三度あるかもしれない。
『世界を救った日本の薬』に登場する大村智・北里大学特別栄誉教授は2015年、本庶佑・京都大学教授は2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。著者の塚﨑朝子氏が両氏を取材したのはいずれも受賞前。その眼力の鋭さには医学・薬学業界でも定評がある。本書の中には、次のノーベル賞の有力候補と目される柳沢正史氏も登場する。二度あることは三度あるかもしれない。

塚﨑朝子氏の著作や関連書籍をネット書店で購入する

『世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか?』

『iPS細胞はいつ患者に届くのか』

『新薬に挑んだ日本人科学者たち』

『免疫が挑むがんと難病―現代免疫物語beyond』

  • 塚﨑朝子

    (つかさきあさこ)ジャーナリスト
    読売新聞記者を経て、医学・医療、科学・技術分野を中心に執筆多数。国際基督教大学教養学部理学科卒業、筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修士課程修了。専門は医療政策学、医療管理学。著書に、『iPS細胞はいつ患者に届くのか』(岩波書店)、『新薬に挑んだ日本人科学者たち』『世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか?』(いずれも講談社)など。

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