『格付け』でお馴染みの「ほぼ○○」開発者が語る驚きの歴史 | FRIDAYデジタル

『格付け』でお馴染みの「ほぼ○○」開発者が語る驚きの歴史

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ほぼカニは美味しく食べられるんですよ…

3月22日放送分の『芸能人格付けチェックBASIC〜春の3時間スペシャル〜』(テレビ朝日)にも、イカにそっくりな練り製品として「(仮称)ほぼほぼイカ」が登場したカネテツデリカフーズ(以下 カネテツ)。

開発成功の理由は「本物に忠実に作る」のではなく、「思い出の味に寄せる」ことだった…(カネテツデリカフーズHPより)
開発成功の理由は「本物に忠実に作る」のではなく、「思い出の味に寄せる」ことだった…(カネテツデリカフーズHPより)

カネテツの「ほぼ〇〇」シリーズでは、2022年の新商品として「ほぼいくら」が発売され、話題になったばかり。カネテツの公式サイトを見ても、「ほぼか、ほぼ以外か」というコピーがいきなり登場するほど力を入れている大きな柱だが、なぜ、いつから「ほぼ〇〇」の会社になったのか。カネテツに聞いてみた。

「2012年に『世界一ズワイガニに近いカニカマを作ろう』という、社内をあげたプロジェクトが立ち上がりました。 

練り製品の業界全体として、売上は秋冬が好調な中、夏場によく売れ、幅広い年代の方に食べられる『カニカマ』に注目しました。 

さらに、当時、ズワイガニの不漁が目立ち始め、高級食材のカニが将来的にますます食卓に上がりにくくなるだろうという予測から、本物のカニに近いカニカマを作ることができたら、お客様の隠れたニーズに応えられるのではないかと考えました。そこで、設備投資を行い、本格的プロジェクトとして始動したのです」(マーケティング部 加藤さん)

大規模な設備投資が行われた巨大プロジェクトだが、「ほぼカニ」の味を開発したのは、実は一人。

生産部門で魚肉練り製品の製造経験を経て、「もし、ダメだったらクビにして」と自ら志願し、開発部に異動、5年目で「ほぼカニ」を大ヒットさせ、現在開発部長にまで出世したという宮本裕志さんだ。  

「『簡単にできるだろう』と思ったのですが、かなり苦戦しました(苦笑)。 

まず既存のカニカマと、本物のカニの味をそれぞれ知るため、他社のカニカマと本物のカニをとにかくたくさん食べました。 

本物のズワイガニのうまみ成分となるアミノ酸成分を理化学分析で調べつつ、試作を重ねるんですが、その間、刻一刻と設備の話が進んでいって、孤独かつ焦りながらの作業でした。 

しかも、化学的な数値が割り出せても、その数値に忠実に作ったところで、本物のような美味しいカニの味にはなりませんでした。 

カニって実はあまり味が強いものではなく、磯の香りや海の風味みたいなところが特徴なんですよね。それを数値に忠実に人工的に作ると、苦味や生臭さといったカニの悪いところが際立つようになってしまったんです」(宮本さん) 

2014年、カニカマ第3世代「ほぼカニ」誕生! 写真は、発売当時のパッケージ
2014年、カニカマ第3世代「ほぼカニ」誕生! 写真は、発売当時のパッケージ

データに忠実に復元して作ると……マズかった!?

そこで大きく路線変更を思いついたのが、「思い出の味に寄せる」ことだった。

「旅行に行ったときに食べた思い出の味ってあるじゃないですか。初めて食べたときのインパクトや、思い出によって美化されたイメージの味に近づけるため、単純に言うと、うまみ成分を誇張させていきました。 

ただ、これもスムーズにいったわけではなく、しばらくは思い出の味に近づけようとするあまり、ひとりで暴走する期間もありました。そこで改めて客観的な理化学分析をベースに置きながら、「みんなが思う美味しい味とは何なのか」を知ることにしました。周囲の仲間たちに協力してもらい、答えを明かさず食べて意見を言ってもらうブラインドテストを重ねました。『カニに近づいた』『遠ざかった』というやり取りを繰り返し、作りあげていきました。 

さらに、私が試作で手作りした味と実際に工場の機械で作った味は最初は全然違うため、それを近づけていくことにも時間がかかりました。2014年に完成するまで、僕はたぶん一生分のカニを食べてしまっているので、今はもうあまりカニを食べたくないですが、ほぼカニは美味しく食べられるんですよ」(宮本さん)

カニカマ第3世代「ほぼカニ」…最初は全く売れなかった

ところで、カニカマには実は「世代」があることをご存じだろうか。

真っすぐな棒状のタイプが第1世代で、ほぐせるタイプが第2世代、「ほぼカニ」は第3世代だという。カニカマは、先行する他社企業があったが、後発メーカーながら、カネテツの「ほぼカニ」は、キャッチーなネーミングが話題となり、本格カニカマタイプの中で売上もトップになったという。

ネーミングの重要性を改めて感じるが、これはプロジェクト会議の中で出た案を、現会長で当時社長の村上健さんが即決で採用したという。

「このネーミングも、社内では各部署で波紋がいろいろあったんですよ。 

そもそも『ほぼカニなんて、そんなこと言って大丈夫か』という声がたくさんありましたし、営業からは『ふざけていると得意先様から怒られるのではないか』や、品質保証部からは『お客様にカニと誤解されるのではないか』などなど。 

しかし、様々な工夫をして、結果的にそれを許してもらえたことが、ヒットにつながったわけで、それが弊社の文化なのかなと思いますね(笑)」(加藤さん) 

「最初は売れなかった」理由には、実はこんな裏話もある。

「発売3か月くらい前までに商品のサンプルが出来上がり、営業担当者がそのサンプルを持って商談に行くのが通常なのですが、3か月前にまだサンプルがなかったんですよ。 

新しいカニカマを発売します、『ほぼカニ』と言います、乞うご期待というようなほとんど情報のないチラシを持って、営業担当者は商談に行っていたのですが、当然、門前払いも多かったですね。そういった状況でしたので、発売当初は、懇意にしていただいている一部の得意先様だけがお取り扱いをしてくださいました。 

売れなかったというより並ばなかったというのが正しいんです」(加藤さん) 

新商品が登場するたびにSNSで盛り上がる「ほぼ〇〇」シリーズ。写真はすべて「ほぼ〇〇」
新商品が登場するたびにSNSで盛り上がる「ほぼ〇〇」シリーズ。写真はすべて「ほぼ〇〇」
2022年の新商品は「ほぼいくら」
2022年の新商品は「ほぼいくら」

ほぼホタテ、ほぼエビフライ、ほぼいくら…「次の“ほぼ”は?」

ところが、キャッチーなネーミングがSNSで独り歩きし、そこから問い合わせが増え、注文が増えていったというから、何があるかわからない。さらにほぼカニが2014年に発売されて以降、ほぼホタテ、ほぼエビフライ、ほぼカキフライ、ほぼうなぎと、1年に1個のペースで新製品が作られる人気シリーズとなる。

「ほぼカニを作った時点ではシリーズになるとは思っていなかったんですよ。 

でも、あまりにも反響がすごくて、お客様から『次のほぼは何?』と聞かれて、『これで終わりだと思っていたのに、また地獄の日々が始まるのかな』というプレッシャーが……(笑)。 

それで、ほぼシリーズは、ほぼカニの最初のコンセプトが『高騰したカニを安価で誰でも食べられるようにしたい』だったので、それと同様に、お客様の食のお困りごとを解決するシリーズにしていこうと決めました。 

ほぼホタテが出た頃は、ホタテ貝が高騰していた時期で、ほぼエビフライはエビアレルギーの方でも食べられるエビフライにしたいという思いから、ほぼカキフライはあたらないカキを提供できないか、といった形で広がっていったのです」(宮本さん)

商品化に向けて準備を進めていても、途中で計画が頓挫したケースも過去に何回もあるという。実は「ほぼいくら」も2回差し戻しになり、立ち消えになる危険も乗り越えて生まれたものなのだ。

商品化に向けて準備を進めていても、途中で計画が頓挫したケースも過去に何回もあるという
商品化に向けて準備を進めていても、途中で計画が頓挫したケースも過去に何回もあるという

開発にはかなりの手間暇がかかるだけに、本物を買った方が安いという逆転現象もあるのでは?

「ありますよ。ほぼうなぎがまさにそうで、中国産などの本物のウナギの方がお求めやすい値段になることもあるのですが、そこは絶滅が危惧されている実際のウナギを使わずに、ウナギの食感、風味を出したこと、本物のウナギを食べるよりも自然に優しいこと、資源の保護という点が大切なことであり、私たちの思いでもあります。 

ほぼうなぎは、すり身を調合して成型し、一度蒸したあと、ウナギ工場でタレをつけて焼いています。本物のウナギの蒲焼の倍以上の行程と手間がかかっているので、必然的に本物よりもコストが上がってしまうところがあるんです。 

ただ、ウナギの独特の風味の泥臭さが苦手だという方も、ほぼうなぎなら食べられる、好きだと言ってくださることはあります」(ほぼうなぎ開発担当 井口さん) 

確かに高級食材だが、苦手な人もいることを思うと、その代替品「ほぼうなぎ」というよりも「ウナギ超え」というネーミングでもよかったのでは?

「確かに、それも良いですね。実際に、ほぼカニもカニより美味しいと言ってくださる方もいらっしゃるので」(加藤さん)

さらにかつては1製品1担当者制だった開発が、現在はチーム制になっている。その発起人も宮本さんだ。

「まずは全国で調査をかけて、お客様のニーズやお悩みを探ったうえで、次の『ほぼ〇〇』に何が良いかを、チーム対抗戦で決めるという取組みをスタートしました。僕が『ほぼシリーズを定期的に出します』と宣言してしまったからですが(笑)。 

開発メンバー全員がほぼシリーズの開発を行うので、ほぼシリーズの新しいアイデアがたくさん出ますし、普段事務作業を担当するメンバーも、全員試作室で商品を作ったり、企画立案や、プレゼンテーションをしたりとチームの結束力も高まるんです。このような楽しい取組みをカネテツの開発の良き伝統にしていけたらと思っています」

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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