両親が明かす巨人の新守護神・大勢「鋼のメンタル」誕生秘話

「大学４年の時に右肘を骨折して、治療費やらパーソナルジムでのリハビリ代やら、ものすごいお金がかかったんです。治療して野球を続けるかどうか迷った時に、ジムのトレーナーに『やるなら徹底的にやる、覚悟してやれ』と叩き込まれたようです。親としては、ケガを経てさらに変わった印象がありますね」

こう語るのは、巨人のドラ１ルーキー・大勢(たいせい)（22）の母、翁田(おうた)いずみさんだ。５月８日のヤクルト戦で初黒星を喫したものの、デビューから７試合連続セーブを挙げるなど、巨人の新守護神にすっかり定着した大勢。最速159㎞の直球や「魔球」と称されるスライダーが彼の武器だが、打者を絶望させるのは、サヨナラのランナーを出しても眉(まゆ)ひとつ動かさない「鋼(はがね)のメンタル」に違いない。ルーキー離れした不動心をどう培ったのか。

大勢が生まれ育ったのは、兵庫県多可郡の山あいの町。小学校１年生の頃に『八千代少年野球クラブ』に入団し、軟式野球を始めた。その後、中学では硬式野球チーム『氷上(ひかみ)ボーイズ』に進んだ。

氷上ボーイズ時代のチームメイトの井上拓哉さんは次のように語る。

「ボーイズではムードメーカーでしたね。キャプテンではなかったけど、仕切り屋的なポジションでした。最初はショートを守っていたんですが、球がすごく速いんで、ピッチャーに起用されていましたね。チームにキャッチャーが二人いたんですが、一人が『僕、翁田の球が怖いんで受けられないです』って監督に言うくらいです。もうあの頃から130㎞台は出てたんじゃないですかね」

中学時代からすでに大物の片鱗を覗かせていた大勢。野球を始めたきっかけについて、父・八寿男(やすお)さんはこう振り返る。

「僕も野球をやってましたけど、大勢が始めたのは（大勢の）兄の影響が大きいと思います。よく兄弟で、家の前の道でキャッチボールしていました」

４学年上の兄は、大勢と同じく氷上ボーイズを卒団した後、兵庫県立西脇工業高校に入学。’13年にはエースとして同校を夏の甲子園初出場に導いた。ちなみに姉も西脇工ＯＧで、現在は天満屋(てんまや)所属の陸上選手である。大勢も兄姉と同じ西脇工に進学し、片道約20㎞の山道を自転車で通った。氷上ボーイズの代表・永井豊さんはこう語る。

「嘘をつけない性格なんで、『プロのマウンドで投げても緊張しない』って言ってるのも本当なんでしょうね。ボーイズの卒団式でも、『神戸国際（大附高校）に行きたかった』と言って泣き出したくらいですから。それでも西脇工に進学した大勢にとって、兄貴の存在は大きいと思いますね。

彼は、一人で西脇工を甲子園に導いたようなもので、地元のヒーローです。同じボーイズ、高校と進学した大勢にとって、最大のライバルは兄貴だったはずです。『お前の兄貴は凄かったのに』と言われるのがすごく嫌で、その反骨心から強くなったのかもしれませんね」

結局、大勢は西脇工を甲子園に導くことはできなかった。だがその後、関西国際大学を経て巨人に入団、４月17日の阪神戦で甲子園初登板初セーブを挙げ、悲願をプロの舞台で叶えた。前出・井上さんは大勢との最近のやりとりを教えてくれた。

「３月頃、（地元から近い）『甲子園に観に行こうか』と翁田に聞いたんですよ。そしたら、『オールスターに来てくれたらええから』と言われました。開幕前から、プロでやっていける手応えを感じていたんじゃないですかね。いまどき珍しい、肝っ玉の太い有言実行タイプです」

単なるビッグマウスではない。確固たる自信が大勢のピッチングを支えているのだろう。

『FRIDAY』2022年6月3日号より