いつか日本中がこの光景に…ルポ「太陽光発電の聖地」と呼ばれた町
折からの猛暑に伴い7年ぶりに「節電要請」が発出され、小池百合子都知事は新築建物への太陽光パネルの設置義務化を目指すなど、にわかに「太陽光発電」に注目が集まっている。前編に続き、いま「太陽光発電の聖地」となっている山梨県各地を歩いた。
車を走らせ山梨県北西部に位置する須玉町に向かった。この町には、平安から鎌倉にかけての武将・武田信光の開基と伝わる曹洞宗の寺がある。この寺の総門をくぐると、一帯が太陽光パネルで埋め尽くされているが、ここも静岡県の個人が事業者となっていた。
他にも、清里方面へ向かう山間部にある巨大な太陽光施設は、主に実用書を刊行している都内の出版社が事業者だ。設置された太陽光パネルからは眩しいほどの強い太陽の光が照り返していた。
北杜市で太陽光発電施設の問題などを提起している市民団体「里山連絡会」の坂由花氏はこう話す。
「たとえば市内の白州町では、6事業者が集まって太陽光発電施設を設置しましたが、その後、転売が行われて、いつの間にか事業者の数が15社に増え、今も更に増えている状況です。住民はこれらの業者と向き合う羽目になっています」
その北杜市から少し足を延ばした山梨県甲斐市にも、メガソーラーが幾つか点在する。
同市の菖蒲沢地区では、20年から工事が始まった東京ドーム約3・2個分の敷地面積を誇るメガソーラーがあるが、同発電所は、水害対策が不十分のまま工事が進められたことで県から指摘を受けていた。ところが昨年、この事業者が突然、発電所を別会社に譲渡してしまい、県知事は「人の命が係わる問題を放擲して逃げ去るのは無責任」と、事業者を批判。この事業者は名古屋に本社を置く中部電力のグループ会社だった。
同地区の発電所の近くには複数の太陽光発電所や住宅地があり、近くの道路では、破損や亀裂などがみつかっている。この地域でも、やはり東京に本社を置く三菱系企業などがメガソーラーの事業者として開発に関わっていた。
「この辺りでは今も発電所の工事をしていて、大型の車がよく通るし、やっぱり不安ですよね」(地元住民)
甲府盆地の東側に位置し、甲州ブドウや勝沼ワインで有名な勝沼町。ここに地元で有名な太陽光発電施設があると聞き車を走らせた。甲州街道から細い道に逸れると、ブドウ畑で作業をする年配の女性の姿があった。その頭上には、山肌を切り崩した部分から、たくさんの太陽光パネルが連なっている。まさに絶壁ともいえる急斜面にへばりついたパネル。
「土砂崩れが発生したら、いまにも崩れ落ちそうだろ」
その異様な景観は、地元でも有名だと話すのは近隣住民だ。
山梨県では、昨年10月にできたばかりの条例で、地滑りなどの恐れがある危険な傾斜地や森林伐採を伴う太陽光発電施設の開発は原則禁止された。
また、北杜市建設部まちづくり推進課の資料(今年5月)によれば、現在同市に占める森林の割合は76・5%で、2010年度以降、市の林地開発行為はほぼ太陽光発電設備の設置が目的だったそうだ。
県の条例が新しくできたことで、今後、開発が減少していくと思われるが、それでも、県条例の施行前に駆け込みで建設した抜け目がない業者もいたという。
「北杜市では既に山林や危険な場所に設置されている発電所もあり、これまで市が真剣に住民の声に耳を傾けてくれなかったという思いがあります」(前出・坂氏)
太陽光発電は本当にエコなのか――。国も自治体も、一度よく考える必要がありそうだ。
- 取材・文:甚野博則(ノンフィクションライター)
- 撮影:郡山総一郎
ノンフィクションライター
1973年生まれ。大手電機メーカー、出版社などを経て、06年から「週刊文春」記者に。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして、経済事件、介護問題などの記事を執筆。著書に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)、『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)など