猫に噛まれてICUに!? 「敗血症」の身近すぎて危険すぎる話 | FRIDAYデジタル

猫に噛まれてICUに!? 「敗血症」の身近すぎて危険すぎる話

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”何らかの感染症”で40度の高熱が…

「猫に噛まれて(引っ掻かれて)敗血症ショックになった話」

というツイートが5月末につぶやかれるや、9.2万件のいいねを獲得していた。

その症状の深刻さもさることながら、衝撃なのは、「猫に噛まれる」という、ごくありふれたきっかけから起こったこと。

なぜそんな事態に? ツイート主で通販会社のサイト運営をする「いちのせ」さん(32歳男性)を取材した。

「5月11日朝4時ぐらいに目覚め、微熱とだるさを感じ、さらに朝7時頃に体温を測ったら38度くらいありました。コロナではないかと思い、相談センターに電話して、PCR検査を受けたんですが、夕方に出た結果は『陰性』でした。 

しかし、熱は39度くらいに上がり、腰痛もひどくて眠れない状態で、なんとか翌朝まで我慢しましたが、やはり耐えられず、救急相談センターに連絡して、大学附属病院に朝5時に行ったんです」

腰痛を訴えたためか、足の曲げ伸ばしなどをやらされ、昼前に出た診断結果は「何らかの感染症」だった。しかし、詳細はわからず、翌日受診することになったが、症状はさらに悪化。夕方には熱が40度を超えたことで、家族が救急車を呼んでくれたと言う。

「救急車で行ったのは同じ病院でしたが、今度は対応が大きく変わり、血液検査やレントゲン、CTスキャンなどを行い、自分や親族の既往歴を聞かれました。 

そこから夜9時頃に『原因がわかりました。猫が持っている菌です』と言われ、発症1~2週前に飼っている猫に強く噛まれ、出血したことを思い出したんです」

いちのせさんは現在3匹猫を飼っているが、猫を飼い始めたのは8年前。噛まれたことも引っ掻かれたこともたくさんあるため、原因として全く思いつきもしなかったという。それにしても、なぜ今回発症したのか。

「理由はよくわからないのですが、最初に血液検査したときの結果では、免疫の数値が通常の半分以下に下がっていて、血圧も上が70mmHg台と、異常に下がっていました」

「敗血症」とわかってから、急遽ICUに入り、両腕と首に2本、鼻にも1本管をつけ、口は挿管で酸素吸入をし、全身麻酔で眠ることに。

「そのあたりの記憶は全然ないのですが、翌日起きたら『一命を取り止めた』と言われて驚いたんですよ。家族にも『今夜が山です』という説明があったようでした」 

一般病棟に移動したのは、5月16日。しかし、微熱は続き、肺に水がたまってしまっていたことが分かったという。

「腎臓の数値(クレアチニンの基準値)が基準範囲では男性の場合、1.00(mg/dL)以下ですが、最初に測ったときが1.7で。その値が下がるまで入院という話で、治療を続けましたが、最終的に1.5までしか下がらず、5月25日に退院となりました。 

今は特に症状はなく、内服薬などもなく、3ヵ月後にまた診察に行く予定になっているだけです」

とはいえ、退院時に言われた、ある言葉がひっかかっている。

「敗血症で重症化したのは日本でこれまで100人もいないくらいで、そのほとんどが高齢者だから、僕のように30代で持病もなく、重症化したのは、非常にレアだと言われました。 

それと、『家に帰ったら猫に引っかかれますか』と聞かれたこと。こんな状態になったので、最初は怖くて、あまり自分から猫に触れないようにしていたんですが、徐々に恐怖心が薄れてきて。先日、実は猫に引っ掻かれてしまったことがあり、めちゃくちゃ怖かったですね」

世界中で年間1100万人が「敗血症」死亡している(写真:アフロ)

世界中で年間1100万人が「敗血症」死亡…

いちのせさんが敗血症になったのは、たまたま運が悪かったのか。千葉大学大学院医学研究院・救急集中治療医学の中田孝明教授は言う。

「敗血症(Sepsis)は実は近年増加していて、2017年には世界中で4890万人が敗血症を発症し、そのうち1100万人が死亡していることから、WHOが敗血症を世界が取り組むべき課題に指定しています。全世界の死亡原因の20パーセントが敗血症に関連していると推定されているんですよ」

中田教授らは、国内の入院患者の大半をカバーした保険診療のデータベース「DPC」を活用し、医療機関が2010年から2017年に登録した5千万人以上の入院患者から敗血症の患者を抽出。患者の背景や感染の詳細などを分析している。

「その結果を見ると、入院患者のうち敗血症になった人は、4%の約200万人で、そのうち約36万人が亡くなっています。 

また、年ごとの推移では、2010年時に年間の入院患者全体の中で敗血症患者は3%、約11万人でしたが、17年には5%の36万人に急増しています。その一方で、入院期間や死亡率は下がっています。 

つまり、医療は良くなっているけれども、高齢化によって敗血症になる人は増えているということです」

2016年に改訂された「敗血症」の定義では、「感染症による生体反応がコントロールできなくなり、自らの組織や臓器を障害することで起きる、生命にかかわる病気」とされている。

「細菌やウイルスによって感染症が起きると、それを排除しようと体の中の免疫機能が働きます。しかし、この免疫機能が制御不能となり、暴走すると、自らの臓器や組織を傷めてしまうことがあるのです。 

敗血症によって損傷を受ける臓器・組織は感染症の種類や感染した部位によって異なり、例えばCovid-19(新型コロナウイルス感染症)で重症化して、呼吸不全になった人も『敗血症』に含まれるんですよ」

猫などのペットに噛まれて起こる「敗血症」も、よくあることなのだろうか。

「ネットで検索すると、『猫 噛まれる 敗血症』などでたくさん出てきます。『動物咬傷(こうしょう)』というんですが、動物の口の中は菌の巣窟なので、噛まれると体内に菌が入り、敗血症の原因になることは十分ありえます。 

それに、ケガが原因となる場合もあります。ニューヨークで当時12歳だったローリー・スタウトンという少年が、バスケをしているときに肘に引っかき傷を作った後、容体が悪くなり、ニューヨークの大病院から家に帰ったものの、敗血症とわからず、4日後に亡くなるという事例がありました。また、西武の森慎二コーチが42歳の若さで急死したのも、非常に毒性の強い溶連菌がちょっとした傷から皮膚の軟部組織に入り、感染を起こしたことによる敗血症が原因でした。 

持病などがなく、若い人であっても、菌の種類などにより、死に至る危険性もある病気だということです」 

動物に噛まれたとき、ケガをしたときに重要なのは、やはり「傷を即座に洗うこと」だという。

入院患者1000人当たりの敗血症の発症割合および敗血症による死亡数は年々増加傾向に(5,000万人以上の日本の入院患者のデータをDPCより抽出)
「重症であれば救急車を呼ぶこと。敗血症は、臓障害が起こり、後遺症もあり、死亡率も高いものだと知っておきましょう」と、中田教授(写真:アフロ)

後遺症が残ることも…

また、早期発見・早期治療を行えば、多くの人が助かるとも言う。どんな症状が見られたら敗血症を疑ったほうが良いのか。

「敗血症.com」で挙げられた症状は、「発熱(38度以上)、体温が低い(36度以下)、脈が速い(90回/分以上)、呼吸が速い(20回/分以上)、様子がおかしい、全身がむくんでいる、血圧が普段より低い、手足が異常に冷たい」で、この中から2項目以上ある場合は医療機関を受診したほうが良いという。

ちなみに、いちのせさんのように、噛まれて敗血症になった人が、次にもう一度噛まれたら危険ということは?

「アナフィラキシーの場合、1度刺された人がもう1回刺されると、大きなアナフィラキシーが起こるというメカニズムはありますが、敗血症については特にないと思います。 

ただし、敗血症になると、何らかの後遺症があったり、認知機能や運動機能、免疫系など、全身の機能が落ちたりすると言われていますので、また何かのきっかけで感染し、敗血症を起こしうる可能性はあります」

敗血症か疑わしい症状があるときは、どこを受診すればよいのだろうか。

「敗血症の場合は、早期発見・早期治療が何より重要ですので、大学病院や大きな総合病院にかかるのが良いと思います。 

完全に脳卒中なのに、歩いて病院に行こうとするのが危険であるのと同じように、重症であれば救急車を呼ぶこと。臓障害が起こり、後遺症もあり、死亡率も高いものだと知っておきましょう」

中田孝明 医学博士。千葉大学大学院医学研究院・救急集中治療医学教授。1999年、千葉大学医学部卒業。同大学救急集中治療医学講座に所属。ブリティッシュコロンビア大学医学部ポスドクなどを経て2019年より現職。

■「敗血症.com」はコチラ

 

 

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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