恨みと嫉妬を越えて…W不倫「元夫婦と子ども」の新しすぎる生活
【実録シリーズ】「不倫にはワケがある」亀山早苗レポート
<そのとき妻は「言ってはいけない一言」を放った。結婚するとき、人はこの関係が「永遠」だと錯覚する。婚外恋愛から結婚に至ったふたりの意外すぎる展開…。【前編】「『死んでやる』と騒いだ妻の一言が決め手に…『W不倫』からの結婚」が、たどったのは…>
4人で話し合ったその後
テツロウさんは根気強く、3人に訴え続けた。カオリさんが言う。
「冷静に話し合っていたのですが、テツロウさんの妻が、『ヤリたいのはカオリだってことね』と言い放ったんです。それには私が傷ついてしまった。テツロウさんは妻に『どういう場合でも他者には敬意を払おうよ』と静かに言いました。彼女も、ごめんなさい、と。でも、一度放ってしまった言葉の破壊力は大きかった。そのあたりで話し合いは熟した感じがありましたね」
2組の夫婦は、この一言をきっかけに「離婚」を選んだ。結果、テツロウさんとカオリさんは晴れて同居、カオリさんの母と息子も一緒だ。カオリさんの元夫は近所でひとりで暮らしている。そしてテツロウさんの元妻と子どもたちも、近所に越してきた。そんな生活が1年半続いている。
「帰るとテツロウさんの子どもたちがうちで食事をしていることもよくあります。テツロウさんの元妻の仕事が忙しいときは、彼が行って子どもたちの宿題を見ていることもある。うちの元夫もなぜかテツロウさんの子どもたちと仲良くなっているし、元夫は結婚しているときより息子との関係がよくなりました」
全員が解き放たれた
関わった者全員が、「結婚」とか「家庭」とかの呪縛から解き放たれたから、すべての人間関係の風通しがよくなったのではないかとカオリさんは言う。
「最初は母も『こんなみっともないことになって』と嘆いていましたが、今は孫が増えたような感じみたい。子どもたち3人には、大人がたくさんいるから、好きな場所へ行けばいいと少しずつ伝えています。私とテツロウさんは結局、婚姻届けは出していません。やはり結婚制度に縛られずに、愛情だけを頼みに生きていこうと思ったから」
子どもたちに犠牲を強いていると知人に言われたこともある。そうかもしれないとカオリさんは思う。だが、嫌だと思うことはストレートに言えと子どもたちには常日頃から言っている。彼女の息子はむしろこういう生活を楽しんでいるようだという。カオリさんはテツロウさんの子どもたちにも、自分の子のように接している。
「元妻がけっこうきっちりした性格なので、彼の子どもたちはそれなりに窮屈さを感じていたようです。私とテツロウさんは『生きていく力強さ』が大事だという考え方なので、試験ができたかできないかはあまり問わない。元妻の考えも尊重するけど、子どもたちに関してはいつも4人で話すようにしていますね」
なんだかんだで4人で会うことも月に数回あるという。嫉妬や恨みつらみはないのだろうか。
「テツロウさんの妻はずっと離婚をしないと言っていたけど、何度も夫婦で話し合っているとき、もう僕たちの間に愛情はないと思うけどと彼が言ったそうです。しばらく黙っていた妻が『愛情はなくても責任はあるでしょ』と。彼は『子どもたちには責任がある。でもきみと僕は大人同士だから。大人として対応してほしい』と言ったら、最終的には『わかった』ということになったようです。元妻にとっても、今は時間を気にすることなく仕事ができる。私自身も、こういう生活に不安はありましたが、子ども3人に、大人が母も含めて5人いるというのは、案外、いいんじゃないかと思うようになりました。テツロウさんに対しては、恋愛感情と同志的な気持ち、いろいろな感情が交じり合いながらも“敬意”みたいなものがベースにしっかりあると感じています」
今後、元夫や元妻が恋愛するかもしれない。それはそれでいいと思うとカオリさんは言った。人を好きになったら一緒にいたいと思うのだから、それは自然なことなのだと子どもたちに伝えたい、と。
「子どもたちの誰かがグレたらどうするかという話もしたんですよ。そのときは親たちが4人がかりで、うちの母も含めて5人がかりで、子どもと向き合おうと決めたんです」
現在、テツロウさんの子は、17歳と15歳に、カオリさんの子は18歳となった。一時期、テツロウさんの下の女の子が家出をしかけたり繁華街をうろついたりしたことがあったが、カオリさんの母親が気づき、じっくり話を聞いたようだ。テツロウさんのところは祖父母が遠方にいるため、彼女にとっては初めての「祖母、のような存在」が心を楽にしたのだろう。
「法律婚」を選ばなかった理由
今のところ、この関係がなんとかうまくいっているのは、大人4人がそれぞれ仕事をもっていること、子どもたちの意思をきちんと確認しながら「助け合ってやっていこう」という共通認識があったこと、そしてなにより「話し合い」が重要だと意見が一致していたからだろう。カオリさんとテツロウさんが婚姻届けを出していないことも、元夫、元妻に「恨まれない」要因となっているのかもしれない。
「これからだっていろいろあると思いますが、私はテツロウさんと一緒になってよかったと思っているし、あのままの家庭だったらそのうち夫を恨んでいたかもしれない。誰も恨まず、子どもたちをみんなで見守っている今の環境は私にとっては理想的です」
世間がどう見ているかは気にしていない。穏やかに話をしてくれたカオリさんだが、とてつもない芯の強さが感じられた。人がやらないことをやり続けるには、そういう強さが必要なのかもしれない。
- 取材・文:亀山早苗
フリーライター
1960年東京都出身、明治大学文学部卒業後、雑誌のフリーライターに。男女関係に興味を持ち続け、さまざまな立場の男女に取材を重ねる。女性の生き方を中心に恋愛、結婚、性の問題に積極的に取り組む。『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)、『女の残り時間』(中公文庫)など、著書は50冊以上にのぼる