<figure id="attachment_258205" aria-describedby="caption-attachment-258205" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="03cfdf48"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/220714_kuro_0170.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258205" class="wp-caption-text">菊池雄星、大谷翔平を輩出した練習場の前で。「人が育つのは必然」の雰囲気を感じながら切磋琢磨の日々だ（撮影：黒澤崇）</figcaption></figure>
開幕まで４ヵ月を切ったサッカーワールドカップ（Ｗ杯）。開催地カタールで29年前、日本サッカー史を語るうえで外すことのできない出来事が起きた。いわゆる『ドーハの悲劇』。悲願のＷ杯初出場がラストプレーの失点によって潰（つい）えた悲劇。その日本代表をキャプテンとして引っ張っていたのが、柱谷（はしらたに）哲二だった。
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シャープな体形を保つ58歳の目の前に体重100㎏を超える生徒が挨拶に訪れた。



「こんにちはッス」



佐々木麟太郎（りんたろう）だった。まだ２年生ながら高校通算本塁打はすでに70本以上。４打数ノーヒットが全国紙の１面を飾る高校野球界の時の人。柱谷が目を細めながらこう明かす。



「可愛いやつだよ。麟太郎と初めて会ったのは彼が中学生になったばかりのころかな。家族ぐるみの付き合いで、一緒にバーベキューをやったこともあるんだよ」



そう、柱谷は今、花巻東高校サッカー部テクニカルアドバイザーとして生徒を指導している。



「彼の言動を間近にすると、人を育てるだけのものを持っていると思った。彼だから菊池（雄星）君も大谷（翔平）君も育った。これからも育つんだろうなと。彼のそばで人が育つのは必然だよね」



「彼」とは同校野球部の佐々木洋（ひろし）監督のことだ。麟太郎の父親でもある監督は、同校スポーツ課のトップという立場でもある。より魅力のある高校にするためにサッカー部を強化したいと考え、母校の国士舘大学に相談。そこで理事長の大澤英雄から紹介されたのが柱谷だった。



「大澤先生は僕が大学に入った時のサッカー部の監督なんですが、５年前に急に電話があって。実を言うと兄貴（幸一）と宮澤ミシェルさんに断られて僕に話が来たみたいで、最初は僕も断るつもりでした。でもその時に佐々木さんと初めて話をして、とても情熱と誠実さを感じる人だった。この人とだったら仕事をしてもいいかなと思ったんだよね」
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赴任が決まった柱谷が立てたのは５ヵ年計画。最初は練習時間の半分を割（さ）いて、生徒たちと一緒にバケツを片手にグラウンドに転がるこぶし大ほどの石ころを拾い続けた。



「まずは環境づくり。とくに最初の３年は基礎を作る３年だった」



そして３年が経ったころ、柱谷は学校に新たに粒の大きい砂を入れてほしいと要望した。そこに思わぬ援軍が入った。



「だったら人工芝のグラウンドにしましょうよ」。声の主は佐々木監督だった。



「それで人工芝のグラウンドがＯＫになったの。冗談だけど大谷君とか菊池君からお金出たの？　って聞いちゃったよ（笑）」
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着工から半年後の’21年11月にグラウンドが完成すると、何より生徒たちのモチベーションが上がった。同月に行われた新人戦で初の岩手県大会優勝を飾り、東北大会でもベスト４に大躍進。勢いは続き、５月のインターハイ県予選を圧勝して初の全国大会にも出場した。
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外部スタッフとして学校と関わっているが、教職は過去に志した職業だった。大学卒業後、日産自動車の契約社員となったが、現役を終えた後は、地元の京都に帰って教員になる予定でいた。しかしＪリーグ発足の機運が高まったことで、教員になる話はいつしかなくなっていった。学生を教えることは、心の奥底にしまっていたものを30年ぶりに取り出した感覚なのかもしれない。



柱谷は、日本サッカーリーグ創設に関わり、日本代表の基礎も作った「日本サッカーの父」、ドイツ人指導者のデットマール・クラマーの言葉を思い出す。



「『サッカーは人を子供から大人にさせるスポーツなんだ』と。サッカーはいろんな場面で正確な判断、先を予測することが求められるし、結局それが人生につながる。指導者になってクラマーさんが言っていたことが一段とわかった気がします。今は僕が教えているだけじゃなくて、生徒たちに教えられることも多い。これをもう少し早く経験しておけば、もっといい指導者になっていたかもしれませんね」
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５ヵ年計画の最終年。７月のインターハイで初めて全国の舞台を踏んだが、柱谷の目標はもう少し先にある。



「（冬の）高校選手権が一番の目標。僕も清水（康也）監督もプロの経験があるから、とにかく勝者の素晴らしさを見せてあげたい。でも勝つためには強くならないといけない。あと一歩を出せるかで勝負が決まるから、その一歩を出せるようなメンタリティにしてあげたい」



眼光が一瞬鋭くなった。「あと一歩」が出せれば柱谷はＷ杯に行けたかもしれなかった。教え子にそんな思いはさせたくない……。年齢を重ねて表情は穏やかになっても闘将の熱さは変わらない。
<figure id="attachment_258206" aria-describedby="caption-attachment-258206" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d2622035"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/0370707e01a38af9bae54fef460e6065.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258206" class="wp-caption-text">今年３月、選抜高校野球に出場した佐々木洋監督（右）と２年生ながら大物スラッガーとして注目される麟太郎（写真：産経新聞社）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_258207" aria-describedby="caption-attachment-258207" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="75e66203"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/220714_kuro_0151.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258207" class="wp-caption-text">初めてインターハイに出場した花巻東イレブン。人工芝のグラウンドに変わったことで戦績も目に見えて上がった</figcaption></figure>

『FRIDAY』2022年8月12日号より

1983年生まれ。三重県志摩市出身。スポーツ新聞社勤務を経て、2011年より講談社のサッカーサイト『ゲキサカ』の編集者として活動中

児玉幸洋

黒澤崇

日本サッカーの歴史で外せない「ドーハの悲劇」の闘将は今、大谷翔平の母校にいる。サッカー部テクニカルアドバイザーとして5年で初の全国大会へ導いた。意外な交友関係も判明した。

ドーハの悲劇の闘将・柱谷哲二「人を育てる情熱と誠実さ」

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