朝ドラを支える特殊すぎる仕事 「スケジューラー」って一体なに? | FRIDAYデジタル

朝ドラを支える特殊すぎる仕事 「スケジューラー」って一体なに?

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キャスティングから、撮影スケジュールまで…

ドラマや映画の「スケジューラー」という仕事をご存知だろうか。

朝ドラ収録スタジオに行くと、入り口にはたいていとんでもなく細かな情報ぎっしりの香盤表が貼られている。それを作り、管理しているのが「スケジューラー」だ。

いったいどんな仕事なのか。連続テレビ小説『ちむどんどん』に取材依頼したところ、プロデューサーの高橋優香子さんが取材に対応してくれた。

「私は『ちむどんどん』のプロデューサーチームで、メインの業務としてスケジュール作りやキャスティングなどを行う、いわゆる『スケジューラー』を担当しています。 

作品によってはスケジュール業務に特化したスケジューラー専門のフリーランスの方などを一定期間迎え入れる場合もありますが、大河ドラマ『青天を衝け』や『鎌倉殿の13人』など、私のようにNHK職員がスケジュールを担当している作品も多いです」(高橋優香子さん 以下同)

外部の専門スケジューラーと、プロデューサーなどがスケジューラーを行う違いとは。

「私は以前、全8話の『きれいのくに』(2021年4月からNHK総合で放送)のスケジュールを担当したんですが、そのとき、台本作りや内容作りにも密に関わる仕事だということがわかりました。 

クランクインからクランクアップまでのおおよその見取図が頭に入っていると、例えばキャスティングでどれぐらいスケジュールをもらえれば成り立つかがわかり、『忙しいあの役者さんにもアタックできるかな』といった目算が立つんです。 

ストーリーの中身を膨らましていくという作業とスケジュール作りは密なので、中身作りの一環としてプロデューサーがスケジューラーをやるのもありだな、と」

高橋さんは、ドラマに携わって8年目。これまでは現場の助監督業務などに携わってきて、スケジューラーの仕事も見てきた。

「でも、自分自身が実際にやってみると、考えなきゃいけないこと、やらなきゃいけないことが、本当にたくさんあることに驚きました。 

スケジューラーは逆算でスケジュールを考えるのが基本ですが、特に『きれいのくに』はVFXを駆使する作品だったので、通常とは違ったフローで編集や合成の作業を進める必要があり、オンエア時期を睨んで逆算するのが特に大変でしたね」 

一番大変だった大変だったという「料理のシーン」
一番大変だった大変だったという「料理のシーン」

「全125話」を「約1年間」で撮りきるためには…

一方、朝ドラは15分×毎週5日×半年(125話分)という膨大な物理量があることが特徴だ。

「『ちむどんどん』のスケジューラーとしては昨年4月、台本を読むところからのスタートでしたが、最初のうちは『きれいのくに』との掛け持ちで、『ちむどんどん』に正式に合流し、専任となったのが昨年6月。その時点で台本は6~7週目までできている状態でした。 

そこから、秋にクランクインし、約1年かけて全125話を撮りきるためには1日にどれぐらい撮り進めなければいけないのかがまず見えてきて、さらに1日のスケジュールを決めていきます。 

また、朝ドラの場合、大部分をスタジオのセットで撮影するのですが、基本的には土日にセットの建て替えをして、しばらくしたらまた別のセットを建てます。一度建てたときにどこまで撮り進めておくべきなのか。次にそのセットを建てるのはいつ頃にすべきか。来週は何のセットを建てるか、など、必要な要素を漏れなく考慮し、キャストのスケジュールとの兼ね合いで、セットをどんどん入れ替えながら撮っていくかたちになります。 

今週メインとなるセットはこれ、サブセットはこれとこれなどと決め、美術さんに組み合わせとして可能かどうかを相談します。1つのスタジオにいくつもセットがあって、セット同士を容易に行き来しながら撮影できるときもあれば、そうではなく休憩や深夜の飾り替えを挟まないと駄目な場合もあります。 

例えば、ヒロインが働いているレストラン・フォンターナのセットを2週間建てるとしたら、2週間で台本の第6週から第9週まで出てくるフォンターナ部分は全部撮りきるスケジュールを組み、その中で撮影の順番を決めます。 

物語の流れに沿って順番に撮れるほうが良いですが、キャストのスケジュールや指導の先生のスケジュールなどがあり、確認事項、調整事項が多いため、細かく順番を入れ替えて調整します」 

「屋外で撮影をおこなうロケでは天候に左右されることが多く、晴れ間を待ちながら撮るか、諦めて今日は撤退するか、どのシーンなら雨設定に変更して撮れるかなどを現場の監督やプロデューサーが判断します」と高橋さん
「屋外で撮影をおこなうロケでは天候に左右されることが多く、晴れ間を待ちながら撮るか、諦めて今日は撤退するか、どのシーンなら雨設定に変更して撮れるかなどを現場の監督やプロデューサーが判断します」と高橋さん

コロナや天気の状況で、スケジュール変更も…

1日の撮影スケジュールは、働き方改革の影響から「朝9時開始→夜9時頃終了」が定番。しかし、コロナや天気の状況で、スケジュール変更を余儀なくされることもしばしばだ。

「屋外で撮影をおこなうロケでは天候に左右されることが多く、晴れ間を待ちながら撮るか、諦めて今日は撤退するか、どのシーンなら雨設定に変更して撮れるかなどを現場の監督やプロデューサーが判断します。様々な天気予報アプリを使って雨雲の流れや降水量などを確認しながら、どの場所なら撮れるか、どことどこのシーンの順番を入れ替えればスムーズかなど、考えます。変更箇所が出るたび、全体周知を行うという追いかけっこ状態です」

それにしても、同時進行で各所とやりとりする確認や依頼、調整作業の多さは凄まじいが、「このシーンを撮り忘れていた」「連絡し忘れた」などのミスは起こらないのだろうか。

「正直、『あ! この人をおさえておくの、忘れていた』みたいなことはありましたが、急いでリカバリーしました(笑)。 

多忙な役者さんが多ければ多いほど、『この日までに撮り切らないといけない』という制限が多くなり、きついスケジュールになることも。現場で演出家や美術、技術、キャストさんも含め、なんとかスケジュール通りに行くようチーム力で頑張りつつ、私は私で、現場が少しでも楽になるよう、効率良く進める方法を考えます」 

『ちむどんどん』の収録は予定通りに進むと、残り約1ヵ月…
『ちむどんどん』の収録は予定通りに進むと、残り約1ヵ月…

一番大変だったのは、料理のシーン

スケジューラーとして、今まで一番大変だったシーンとは?

「料理部分がやっぱり大変ですね。登場人物が一人で料理をしているシーンであれば、どれぐらい撮影に時間がかかるのかが読めるのですが、フォンターナのように厨房内で何人もが料理している場合、台本のト書きでは『ランチの準備をしている』とあり、映像では1秒2秒で終わるところも、実際に撮影する際には『〇〇さんが何をしているとき、△△さんがここで話しかけ』みたいな動きを現場でつけることになります。 

すると、『1時間で撮れるかな』といった通常の計算方法が通用せず、多めに見積もっておかなければいけない。NGになったらその手順を戻さないといけないですし、料理の工程では復旧作業も必要になります。湯気のカットが必要な場合は、加熱時間も必要になる。だからといって、闇雲に多めに見積もっておくと、日々の収録効率が悪くなるので、その兼ね合いは難しいですね」

ちなみに、高橋さんのスケジュールの作り方は、最初に「どの週に何のシーンがあるか」「何のセットが必要か」といった大まかな情報をノートに書き出し、「このセットを一度建てたら、ここまでのシーンを全部撮りきる」と頭の中で整理する。そこからPCでどのシーンに何分かかるのか、誰が必要なのかといった要素をどんどん入力していくという。

分単位の計算に日々追われていると、日常生活の過ごし方やスピード感、効率も変わっていきそう。スケジューラーをやったことで何か変化を感じることは?

「もともと段取りを考えること自体が嫌いじゃないので、そこは性に合っているのかもしれません(笑)。 

それに、助監督をやっていた頃から、スケジュール通りに進めるために、事前にシミュレートするのが基本になっているので、確かに日常でも『家から歩くのが15分で電車が30分、でもコンビニに寄るかもしれないし、この時間帯だと並ぶから………』みたいなことは考えますね。カレンダーを見る機会が本当に多いので、何月何日が何曜日ということがすぐわかるという、意味のない特技もできました(笑)」

収録は予定通りに進むと、残り約1ヵ月。この膨大な情報処理の「スケジューラー」というお仕事から解放されたら、何をやってみたいかと聞くと、高橋さんはこう笑った。

「それはもう、のんびり時間を気にせず、旅行に行きます(笑)」

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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