<figure id="attachment_258854" aria-describedby="caption-attachment-258854" style="width: 5472px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="097eaca9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/aflo_124944093.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258854" class="wp-caption-text">車上生活者は職務質問を受けることが多い（画像：ロイター／アフロ）</figcaption></figure>
日本の地方において、生活困窮者が車上生活者になるリスクを見てきたが、車の中で彼らはどのように暮らしているのだろう。前編【尻に膿が…妻の虐待や闇金でやむなく「子供との過酷な車上生活」】に続き、実例を紹介したい。
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車上生活者のいる車とそうでない車とを見分ける方法がある。車の窓につけられているカーテン、段ボール等でつくられた「目張り」だ。
車上生活者の多くは、車にこれでもかというほど荷物をつみ込んでおり、外からは所持品が一目瞭然だ。それゆえ、車上荒らしや、いたずらをされるリスクがあるし、駐車場を追い出されることもある。そうしたことを少しでも避けるために、窓に目張りをつける傾向にあるのだ。
彼らは日中は低賃金の仕事についていることがほとんどだが、住所がないため、社会とのつながりには携帯電話が欠かせない。道の駅、スーパーのフードコート、コンビニ（ファミリーマート）などはWi-Fiの使用が可能だ。車で充電した携帯で、それらをつかってネットに接続するのである。
<h2>屋根にはソーラーパネル</h2>
元車上生活者の言葉である。
「僕はガソリン代を少しでも節約したかったので極力動かさず、電源はソーラーパネルで取っていました。そうすると、車の中でケトルでお湯を沸かしたり、簡易用コンロで簡単な料理をしたりすることができるんです。かなり長い間、車で暮らしている人は、自然と車にいろんな装置がつくようになってきて、中には屋根やボンネット一面にソーラーパネルやアンテナがついていたりします」
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ホームレスも路上生活が長くなれば、河川敷にベニヤ板やトタンで小屋を建て、ソーラーパネルをつけたり、猫を飼ったりして暮らす者がいるのと同じだろう。車そのものが「住居化」していくのだ。
ただ、車上生活者が路上生活者と大きく異なるのは、「ホームレス」という感覚が乏しいことだ。車上生活者は仕事をしている者が多い上に、なまじっか寝泊まりする空間がある。そのため、２年、３年と車で生活をしていても、自分がホームレスという自覚がない。これもまた、彼らが支援とつながりにくくなる理由の一つだ。
ＮＰＯ法人「ＰＯＰＯＬＯ」の鈴木和樹事務局長は言う。
「本来は、車上生活になる前に支援をしなければなりません。生活が破綻して家を失った時に、生活保護を受けさせるとかですね。しかし、車という『財産』があることで、行政が誤った対応をしたり、本人が自分には生活保護を受ける権利がないと思ったりして、支援につながらないのです」
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<figure id="attachment_258866" aria-describedby="caption-attachment-258866" style="width: 1366px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3a382d70"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/wam.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258866" class="wp-caption-text">駐車場を夜回りする支援団体（写真は一部加工しています。画像：ＮＰＯ法人「ＰＯＰＯＬＯ」提供）</figcaption></figure>
生活保護の規定では、車の所持は原則的に認められていない。ただし例外があり、地域の特性があったり、生活困窮が一時的なものであったりする場合は、所有が許されるのだ。また、受給から１年ほどは車の処分を保留してもらえる期間がある（新型コロナウイルスが収まるまではこの期限も解除されることになっている）。
しかし、生活困窮者は「車があるから受給できない」と考えて車上生活をはじめてしまう。行政も案内や判断を誤って、生活保護を希望するなら車を手放してくださいと告げてしまうことがある。それで支援の網からこぼれ落ちる。
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鈴木はつづける。
「民間団体の方も、車上生活者の受け入れはハードルが高いのです。理由は、彼らが車を所有していることです。民間団体はお金がないので、駐車場を持っているところは稀です。生活困窮者を一時的に住まわせる宿泊施設を所有していても、駐車場まで用意していることがほとんどないのです。でも、車上生活者を支援するということは、車も一緒に受け入れるということで、駐車場分の予算が別途必要になるということなのです」
たとえば、こんなことがあった。ある日、１人の男性からＰＯＰＯＬＯの事務所に連絡が入った。生活に困って自殺をしようと思ったが死にきれなかったので、助けてほしいという内容だった。
話を聞いたところ、男性は車を所有していたばかりか、その車は車検が切れているという。やむをえず、車は置いて、男性だけを保護したものの、車をどうにかしなければならない。そこで男性には働いて稼いでもらうことにして、車検代を支払って車ごと引き取ることになったという。
<h2>支援団体が車上生活者を受け入れ難いワケ</h2>
<figure id="attachment_258867" aria-describedby="caption-attachment-258867" style="width: 595px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4d7cbd70"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/chirashi.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258867" class="wp-caption-text">生活に困ったら一人で悩まず支援団体に相談することが大切だ（画像：ＮＰＯ法人「ＰＯＰＯＬＯ」提供）</figcaption></figure>
鈴木は言う。
「うちの団体は、３台分の駐車場を借りています。ただ、１、２台は職員や来客用なので、車上生活をしていた人に貸せるのは１台分だけです。そうなると、車上生活者を支援したくても、同時にだと１人が限界ということになります。うちみたいに駐車場を持っているところは少ないので、民間団体のほとんどは車上生活者の受け入れが難しいといえるでしょう」
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車を預かるには別のリスクもある。
もし受け入れた人物が車を置いて失踪したらどうなるか。車はその人物の所有物なので、民間団体が勝手に処分するわけにいかない。それをしたら後々裁判を起こされるとも限らないのだ。そういう意味では、車を預かるのは、費用がかかるだけでなく、余計なリスクまで背負うことになる。
「うちは年間に100～120人くらいを受け入れており、宿泊施設で暮らす場合は半年間のうちに自立するようにお願いしています。６割が自立しますが、４割は自主退去や失踪です。そう考えると、リスクの高さがお分かりになるかと思います」
こうした状況の中、車上生活者をはじめとした生活困窮者は若年化しているという。ＰＯＰＯＬＯの支援を受けた人であれば、コロナ禍の前の19年の平均年齢が55歳だったにもかかわらず、21年は11歳若年化し44歳にまで下がっている。これは路上生活者を含む数字であるため、車上生活者だけで見れば、おそらくさらに若返っているのではないか。
鈴木は言う。
「国とこの問題について話すこともありますが、現状では車上生活者をどう発見して支援していくかという道筋は見えていません。路上生活者やネットカフェ難民であればなんとかできても、車上生活者は夜にしか現れないし、次々に泊まる駐車場を変えています。行政が自ら発見して支援するというのは現実的に不可能でしょう。だからこそ、車上生活になる前に、本人が『助けて』と言える仕組みをつくることが求められているのです」
車上生活者は、現代のもっとも見えにくいホームレスの形態の１つといえるだろう。そこに若者ばかりでなく、子供までいることを考えれば、私たちはもっと危機感を持ってこの問題と向き合わなければならないはずだ。
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シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10～40代の人を探しています。家出経験者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、社員寮を転々とする人、ホテル生活者、簡易宿泊所の住人、各種支援施設で暮らしている人などです。現役の方でも構いませんし、過去にそういう経験をしたということでも構いません。多くの声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。
石井光太（作家）
ツイッター　@kotaism
メール　postmaster@kotaism.com

77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

ＮＯＰ法人「ＰＯＰＯＬＯ」提供　ロイター／アフロ

生活に困窮し車の中で生活する若者が増えている。連日、不自然な姿勢で寝起きし背中を痛め歩行困難になる人も。背景にはそれぞれの事情が。ノンフィクション作家の石井光太氏が「車上生活者」の実態に迫る！

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