<h3>『アシガール』『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』…ユニークな作品誕生の裏側</h3>
意欲作を多数生み出すNHKドラマ。様々な作品を取材する中で、これまでときどき耳にするフレーズが、気になっていた。それは「おじさんたちは何が面白いのか全然わからないけど、若手スタッフがプッシュするから、やってみようかということになった」というもの。
例えば、黒島結菜×伊藤健太郎の土曜時代ドラマ『アシガール』（2017年）が生まれたのは、ドラマ制作数年目の若手スタッフの企画からだったこと。よるドラ『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』（2021年）は若手スタッフの企画で、それを猛プッシュしたのが当時入局1年目の女性だったことなど……。こうした若手の積極的起用が、もしかしたらNHKドラマの強みなのではないか。
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そこで、『アシガール』企画立案者で演出を務めたNHKエンタープライズの鹿島悠さんと、『阿佐ヶ谷姉妹のほほんふたり暮らし』の企画立案者で演出のNHK（クリエイターセンター）の津田温子さん、同作をプッシュした編成でNHK（メディア編成センター）の中西朝子さんに集まってもらい、鼎談を行った。
<figure id="attachment_260115" aria-describedby="caption-attachment-260115" style="width: 1922px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e4699a3e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/672126a189bc564dad76d9e0fa7ee532.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-260115" class="wp-caption-text">『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』（2021年）「これ、すごくいいと思います！」とプッシュしたのが入局1年目の中西朝子さん。「正直『やっちゃったな……大丈夫かな』と思っていたんですよ（笑）」</figcaption></figure>
<h3>若手や関連会社の社員も平等に応募できる、年2回の「提案募集」 </h3>
――『アシガール』の企画の経緯を改めてお聞かせ下さい。
鹿島悠（以下　鹿島）：私はNHKエンタープライズの社員なのですが、NHKでは提案募集が年2回あり、そこにはNHKの社員だけでなく、関連会社の社員も、若手もベテランもキャリアも関係なく、全員平等に企画を出せるんですね。 
それで、当時、若い世代にも楽しんでもらえる時代劇というテーマで提案募集されていた「土曜時代劇ドラマ」に当てはまる作品だったこと、原作者の森本梢子先生が『ごくせん』シリーズなども描かれている若い人にも人気の漫画家さんだという点から、プレゼンを進めていきました。 
ただ、すんなり通ったわけではなく、当時の上司が企画を面白がってくれ、サポーターとしてマンツーマンで提案書の書き方など教えてくれ、何度も企画書をブラッシュアップしながら、最終的に企画が通ったかたちでした。
――鹿島さんが『アシガール』を提案されたのは、ドラマ制作何年目でしたか。
鹿島：ドラマ制作の部署に所属したのが入社5年目で、その年か翌年ぐらいですね。ドラマ化できそうな良い原作は探していて、個人的に大好きな作品でもあったので、何が面白いのかというポイントや、作者の知名度と原作自体の人気や売上などの具体的な数値を提案書に書き、ドラマ部部長など、採択者の前でプレゼンしました。 
「基本的に提案は通らないものだから、落胆せず、頑張って出し続けようね」と言われていたので、私自身通るとは思っていなかったんですよ（笑）。最初に提案書を出してから1年半ぐらい、3回連続で提案の機会があるたびに提案書を書き直して正式に決定しました。 
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<h3>入局1年目のスタッフの猛プッシュで誕生した『阿佐ヶ谷姉妹…』</h3>
――津田さんは『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』を、どういう経緯で企画を出されたのですか。
津田温子（以下　津田）：私も年2回の企画募集で提案したのですが、当時、名古屋局に転勤することが決まっていたので、名古屋局で制作するドラマの企画も考えている中で『阿佐ヶ谷姉妹～』を提案しました。 
2020年にコロナ禍に突入し、在宅が増える中、「家に誰かがいるっていいな」と思ったんですね。そんなときにこの原作本を読んで、何も起こらないけれど、確かな日常がある感じにすごく惹かれて。 
私はいつもドラマ制作をする中で「見えない世界が見えるといいな」と思っているのですが、阿佐ヶ谷姉妹のお二人が一緒に住んでいることは知っているけど、部屋の中は見たことがないから、それが見えたら楽しそうだなと思ったんです。 
きっと心地良いドラマになると思いましたし、2人で一緒に暮らしている関係性も新鮮で、特に『よるドラ』枠はチャレンジ作の多い枠なので、これまでとは違った新しいドラマができるのではないかと思いました。 
<div data-friday-nextpage-lead="中高年上司の「何が面白いかわからない」に…"></div>
――そして、それをプッシュされたのが、編成の中西さんだったと。
中西朝子（以下　中西）：私は入局1年目で編成センターに配属されました。当初はラジオの編成を担当していましたが、後に番組をジャンル別に管理するよう方針が変わる中で、ドラマジャンルも担当することになりました。多くの提案から制作する作品を採択する業務にも携わらせていただきました。 
そのとき、「これ、すごくいいと思います！」とプッシュしたのが『阿佐ヶ谷姉妹～』で。まだ入ったばかりの1年目の私が意見して、正直「やっちゃったな……大丈夫かな」と思っていたんですよ（笑）。 
ちょうどその頃、YouTubeで阿佐ヶ谷姉妹のモーニングルーティンの動画が出ていて、謎の中毒性にハマってしまっていた時期で。大きなことが起こるわけではなく、素朴な暮らしの中にお二人の関係性が見えたり、敬語を使った喋りにも心地良さを感じたりしていました。そうしたときにドラマ化の提案があり、企画書の段階ですでにキャスト案まで挙げられていて。 
具体的に面白いエピソードも表で添えられていたことで、映像がすぐ目に浮かび、「絶対面白い、見てみたい！」と思ったところもあります。 
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<figure id="attachment_260116" aria-describedby="caption-attachment-260116" style="width: 1920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1a4a0c02"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/ashigirl-B_ec.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-260116" class="wp-caption-text">『アシガール』（2017年）「『なんで面白いの？』と質問されるので、それを言語化するために分析し、ブラッシュアップしていく過程で、自分の中でもその作品の面白さの本質がよりクリアになっていくんですね」と企画立案者で演出を務めた鹿島悠さん</figcaption></figure>
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<h3>NHKのドラマだからできること…</h3>
――NHKドラマだからできることはありますか。
鹿島：NHKの定期の企画募集では、キャスティングも脚本家さんも決まっていない、そもそも新人が出す提案なので、完全に妄想として候補者の脚本家さんやキャストを提案書に書くんですね。 
キャストや脚本家が誰かではなく、誰の企画だからというのもなく、シンプルに企画そのものの面白さで見てもらえる土壌はあるなと思います。 
それに、『アシガール』については、原作出版社に相談した際、ドラマ化の話はまだない、ということでした。
時代劇パートが大部分を占める作品なので、実現が難しいこともあり、ラッキーなことに手がつけられていなかったのだと思います。 
NHKの場合、大河ドラマの経験が豊富にあるから、時代考証の先生とのお付き合いもたくさんありますし、衣装さんや小道具さんも基本的な知識を持っている人が多いのは強みですね。その一方、視聴者の目が厳しいところもあるので、時代考証などに関してもNHKがやるから間違ってはいけないという自負を持って仕事をしているスタッフは多いと感じます。
津田：私が思う「NHKならでは」のポイントは、NHKは全国組織なので、ドラマのディレクターもドラマだけをずっとやってきたわけではなく、地方局に転勤になり、自分でネタを取ってニュースのリポートを作るなどしてきた経験の延長線上で携わる人が多いことですね。日々起こっていることなど、社会と接点がある企画が提案しやすい土壌があるというか。 
例えば、ドキュメンタリーとドラマが融合したＮＨＫスペシャル未解決事件などは、報道のディレクターとドラマのディレクターがいて、ドラマのディレクターも調査報道などの経験があるので、共同で作りやすい文化はあるかもしれないです。
中西：現在はドラマジャンルを担当していないのですが、定期的に編成にあがって来るドラマ提案を「ちょっと読んでみて」「どう思った？」と上司が頻繁に聞いてくれるんですね。 
上司は「若い人の感覚はわからない。自分の感覚を信じていないから」「若い人の意見は貴重だから、率直に意見を聞かせてほしい」と言います。若手の提案を広くすくいあげ、それについて若手の意見を募って、積極的に共有していく態勢がドラマジャンルだけでなく、全体にある気がします。
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<h3>中高年上司の「何が面白いかわからない」へのプレゼンテク…</h3>
――「何が面白いかわからない」という中高年の上司へのプレゼンテクニックもありますか。
鹿島：私の場合は、もし原作のある作品であればどれだけ読まれているかなどの客観的な数字と同時に、主観の部分「自分がなぜ面白いと思うのか」を分析し、言語化し、提案書に書くようにしています。 
「なんで面白いの？」と質問されるので、それを言語化するために分析し、ブラッシュアップしていく過程で、自分の中でもその作品の面白さの本質がよりクリアになっていくんですね。 
津田：とにかく楽しそうに喋ろうということですかね。それとこのドラマを観たときにどういう気持ちになってほしいかを伝えるようにしています。 
それを観た人がどう感じるのか、どんな気持ちになるのかというのは、番組の最終的な出口だと思うので、そのイメージをきっと採択する側も知りたいんじゃないかと思い、できるだけイメージを共有できるようにしています。
中西：自分が感じた魅力を、率直に自分の言葉で伝えることでしょうか。正直、『阿佐ヶ谷姉妹～』に関しては、それしかできていなかったと思います。ただ、より説得力をもたせるためには、ターゲットとする視聴者層や、コンテンツに関するデータの裏付けがあると理想的だと思います。今後はそのような知識も習得していきたいです。

1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）、『KinKiKids　おわりなき道』『Hey!Say!JUMP　9つのトビラが開くとき』（ともにアールズ出版）など。

田幸和歌子

『アシガール』はドラマ制作数年目のスタッフの企画、『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』も若手スタッフの企画で、それを猛プッシュしたのが当時入局1年目の女性だったとか。NHKドラマの裏側を聞いた。

ヒットの裏に…ドラマ界に風穴をあけるNHK若手スタッフの存在感

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