”瀕死”の業界で「次世代ファミレス」が爆進している訳
トッピング乗せ放題パスタが話題のイタ飯チェーン「VANSAN」社長に聞く
いまだかつてないピンチに見舞われている外食産業。帝国データバンクによると、ファミリーレストラン業界では、不採算店舗の閉店や業態変更が加速しており、上場する主な外食チェーン16社の累計店舗数は、コロナ前に比べて810店、実に約1割が減少しているという。
さらに、不安定な世界情勢や円安を背景にする食材の価格高騰も加わり、絶体絶命ともいえる状況だ。
そんな中で、着実に新店舗オープンを続けているのが「Italian Kitchen VANSAN」だ。「次世代のファミリーレストランモデルを作りたい」という株式会社VANSANの代表・相原希氏に、コロナの向かい風に耐えて乗り切った秘策、新店舗オープンを続けられた理由を聞いた。
「今日は何を食べる?」と聞かれて、「ファミレスに行こう」とは言わない…
「VANSAN」とは、名物の生ハム、しらす、チーズの乗せ放題パスタで、コロナ前から様々なメディアから注目を浴びていたイタリアチェーン店。コロナ禍でも新店舗オープンを続けて、現在は全国に67店舗を展開している。
――様々な業界でコロナによるダメージを受けていて、特に外食業界またファミリーレストランでは、コロナの影響が顕著に出ていると思いますが…。
相原希(以下、相原):今後、コロナ前の状況に戻ることはない、ウィズコロナは前提とした上で、ファミレスが生き残るには「専門性」が必要になると思っています。
これまでファミレスの良さって、和食・洋食・中華など、いろんなジャンルの料理がひとつのお店で食べられることでした。でも、駅前を見たら、ラーメン屋にハンバーガーなどの専門店が並んでいます。
家族の中で、「今日は何を食べようか?」といった話が出た時に、誰かが「ピザがいい」と言ったら「じゃあ、ピザ屋に行こう」となるはずです。「ファミレスに行こう」とはなりにくいですよね?
幅広いジャンルのメニューがそろうファミレスは、選ばれにくくなってきているんです。そのため、焼き肉やお寿司といった様にジャンルを決めることは、生き残る上で重要だと思います。これが、僕の考える「次世代のファミリーレストランモデル」です。
「次世代のファミリーレストラン」を目指したきっかけ…
――そもそも、外食業界に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
相原:子どもの頃、家族と行く外食は特別なイベントで、特にファミレスはいろいろなメニューがそろっていて、好きなものを自由に選べる。ワクワクの詰まった場所でした。
そして、幼いながらに漠然とですが、「お金持ちになりたい!」「社長になりたい!」っていうのがあったんです。
でも、やりたいことが見つからなくて、大学卒業後いろいろ模索していた時に、友人がバイトする「牛角」が1000店舗を目標に拡大することを知ったんです。
身近にある飲食店が1000店舗になるっていうのは夢がありますし、「自分も頑張れば同じようなことをできるんじゃ?」というのがあって、牛角を運営していた株式会社レインズインターナショナルに入社しました。
土間土間の副店長として働きはじめたんですが、順調に店長・エリアマネージャーっていう風に昇進していって、マーケティングやフランチャイズ展開なども学んで、29歳で最年少の本部長事業責任者を任されました。
社長になるという夢を持ちながら責任のある立場になり、この先について悩んでいたら、2014年に会社が売却されることになりました。そのタイミングで独立を決めました。
――なぜ、イタリアンに?
相原:女性の多くがイタリアンを好きだからです。居酒屋をしていてわかったのは、男性メインの商売は一人客が多いけど、女性メインの場合は二人以上での来客が多いんです。なので、必然的にターゲットは女性で、ジャンルはイタリアンになりました。
一店舗目は新宿に出した「ビオディナミ」というお店です。この時のメインターゲットは近辺で働く20~30代の女性で、彼女たちが好きそうなものをコンセプトにしていました。
狙うのは「郊外」というブルーオーシャン
――現在は、郊外に店舗が多いイメージです。
相原:最初は都心でのフランチャイズ展開を狙っていたので、1店舗目は新宿にしたんですが、基本的に都心ってどのジャンルも、競合も多く競争が激しいレッドオーシャンなんです。全国展開することを考えた時に、レッドオーシャンな都心よりも、ブルーオーシャンな郊外に出した方が効率がいいと思ったんです。
そこで、メインターゲットを地元に暮らす子育て世代のママに設定したり、改めてコンセプトを見直して、「VANSAN」という名前で鷺沼に出しました。そうしたら、都心に出す何倍もの利益が生まれたんです。
この成功例があったんで、全国の郊外に出店したい加盟店を募集しました。はじめは苦戦しましたが、2~3年くらいかけて少しずつ増えていく中で、コロナがやって来ました。
このままじゃマズイ…「思いつくことを全部やりました」
――やはりダメージはありましたか?
相原:ものすごくありましたね。特にコロナがはじまってすぐのタイミングでオープンした店舗は大打撃でした。1日に100人の来客を見込んでいたのに、実際には1/3にも満たなかったりとか……。家賃などの固定費に加えて、見込み来客数に合わせてスタッフや食材も揃えていますし、本当にこのままじゃマズイと思ったので、すぐに対応策を講じました。
――具体的にはどんなことを?
相原:テイクアウト、セルフオーダー・セルフレジ、スタッフの人数調整など、とりあえず、思いつくこと全部です。
その結果、2020年の4月に緊急事態宣言が出されましたが、5月には直営店全店で黒字に転換しました。驚いたのはテイクアウトですね。1日に200個売れる店舗もありました。そして、お客様から「頑張ってください」という温かいお言葉もいただきました。
従業員の努力だけじゃなく、お客様の応援があったから、今も続けられているんです。
――最近は、ファミレスの中で配膳ロボットを見ることも増えました。
相原:当社でも、最近オープンしているお店では、配膳ロボットを導入しています。ただ、飲食店の良さには、スタッフのサービスが大きく関わると思っています。
「VANSAN」のコンセプトは「笑顔をつくろう」なので、すべてをロボットに頼ることが正しいとは言えません。飲食店の良さを残す方法を見つけることが、今の課題のひとつですね。
まずは年内に75店舗越え! やがてはイタリアンの1番に!
――コロナになってからの2年間も出店が続いていますね。
相原:コロナ前から出店が決まっていた店舗もありますが、当社はコンセプト・メニュー・出店地など、マーケットを様々な角度から分析した上で運営しています。そこに結果がついて来たので、コロナ禍の厳しい中でも、加盟店さんが決断してくださったんだと思います。
コロナになってからは約20店舗が出店していますが、90%がロードサイド店です。競合が少ないんで、初月の売上が1000万円を超える店舗もあります。
もちろんフォロー体制もしっかりしています。無駄の少ない、ランチ・カフェ・ディナーの三毛作業態を取っていますし、スタッフの研修や就業中のサポートにも力を入れています。そうやって、内外の問題を丁寧にフォローしている点も、安心要因になっているのかもしれません。
――VANSANの今後の目標は?
相原:まずは年内に75店舗、来年中に100店舗、そして2027年に200店舗を超えるのが目標です。そして、いつかは誰もが認めるイタリアンの1番になりたいですね。
- 取材・文:安倍川モチ子
- 撮影:番正しおり
WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。