<figure id="attachment_262159" aria-describedby="caption-attachment-262159" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d90b9674"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/aflo_191472139.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-262159" class="wp-caption-text">６月18日、代表デビュー戦となったウルグアイ戦でトライを奪った根塚（写真：アフロ）</figcaption></figure>
ラグビーのリーグワン元年に新人賞を獲得した根塚洸雅。今年、デビューした日本代表でも長年の主力組から高く評価された笑顔のランナーは、少年時代に不整脈を患っていた。辛さを乗り越えた「原点」に迫る。
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<h3>試合に出なくてもリーチの目に焼き付いた「インパクト」</h3>
対フランス代表２連戦を終えた７月９日。東京は国立競技場のエントランスで、リーチ マイケルはその日の試合に出なかった若者に触れた。
「コウガ選手。そう、根塚選手は、練習ですごくインパクトを残していた」
記者団に囲まれ、今夏のツアーで印象的だった選手について聞かれた。まずは坂手淳史主将、辻雄康といった試合出場組について語り、スタンドでの観戦組からは唯一、根塚を推した。若者の繰り出すランが、よほど記憶に残ったのだろう。
根塚は今年５月までの国内リーグワンで、４強入りしたクボタスピアーズ船橋・東京ベイのウイングとして新人賞を獲得した。勢いそのままに、代表予備軍にあたるナショナルディベロップメントスコッド（NDS）に抜擢された。
根塚はそのグループの一員として、６月18日にテストマッチ（代表戦）デビューを飾った。ウルグアイ代表戦でトライを奪い、勝利した。
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リーチのいる主力組へ合流したのは７月１日。フランス代表戦に向けた活動のさなか、既存の選手に新型コロナウイルスの感染者が続出したためだ。その頃、すでに解散していたNDSからの追加招集が相次いでいた。
身長173センチ、体重82キロ。トップレベルの舞台にあっては小柄な部類に入る根塚だが、タックルから逃れて前に出るスキル、加速力があり、ひとたび転んでもすぐに起き上がってプレーに参加できる。キャンプ地の宮崎で、その持ち味をアピールできたという。
「代表となるとフィジカルを求められると、重々、承知しています。ただ、自分はそこでの勝負はしない。正面衝突ではなく、どれだけスピードでいなすか…。そこで魅せられたし、自信に繋がりました。これからの自分にとって大きい。思い切ってできる」
繰り返せば俊敏性、さらには機動力を長所に根塚は駆け上がってきた。ただし少年時代は、その活発さを支える心臓に疾患を抱えていた。
「改めて、あの時期はきつかったですね――」
小学校４、５年生の頃だったか。病院で不整脈と診断された。脈のリズムが一定でなくなる状態だ。
一時はペースメーカーをつけて学校へ通ったようで、極端に脈拍数があがる激しい運動は禁じられた。幼稚園児の頃に入った尼崎ラグビースクールの活動はもちろん、体育の授業に出られなくなった。
自宅でも兄で現三重ホンダヒートの聖冴と一緒に壁をよじ登ったり、階段を飛び上がったりしていた男子にとっては、辛い状況だった。
たまったうっぷんは、母の朋美さんにぶつけた。心臓のトラブルに現実味を持てないなかで動くなと命じられていたため、つい、辛く当たった。
＜どうして動けないんだ！＞
＜何でこんな身体なんだ！＞
いまとなっては、親に向かって随分なことを言ってしまったと贖罪の念にかられる。申し訳ない気持ちが増すのは、その時の母が本当に明るく振舞ってくれたからだ。
＜ごめんな＞
＜治療、頑張ろうな＞
<div data-friday-nextpage-lead="当時母親にかけた言葉をどう感じているのか"></div>
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<figure id="attachment_262160" aria-describedby="caption-attachment-262160" style="width: 1280px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3e92c990"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/aflo_189900509.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-262160" class="wp-caption-text">リーグワン終了後の５月下旬、根塚は年間表彰式でベスト15に選ばれた（写真：アフロ）</figcaption></figure>
<a href="#" data-ident_hash="9e9cd9ca"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/aflo_190012250.jpg" alt=""></a>
根塚は述懐する。
「結構、やんちゃな方だったので、運動ができないのがしんどすぎた。だから色々と言ってしまったのですが、いまとなっては親にとっては辛い言葉だったと思います。それに対して親は明るく接してくれましたが…」
<h3>「親への恩返しをしたいな……」</h3>
中学に入る前には治癒が確認され、ラグビー人生を謳歌するに至る。ただし、この世界で有名になるにつれ、少年時代の記憶をより深くかみしめるようになる。ブレイクした若手選手として、取材を受けることが増えたからだ。
メディアやファンと意見をかわすうち、「その時期があったからここまでどん欲にラグビーに取り組めている。辛い過去だとは見ていないです」。一方、不整脈に苦しんだ日々が、アスリート人生のスターティングポイントだったとも再認識する。
「今年に入って昔の話を聞かれることが増えて、思い出すことが多くなりました。当時の写真を見返すと、その時の思いについて改めて考えました。そのことを忘れちゃいけない、それがあったからこそ頑張らなきゃいけない…と。いまから代表で活躍することで親への恩返しになるかな、恩返しをしたいな、と思います。自分が一番、輝ける場所に行って、それを見てもらえたら、一番いいですね」
代表活動は８月26日から段階的に再開した。競争で絞り込まれたメンバーはこの秋、ニュージーランド代表、イングランド代表、フランス代表と戦える。
2023年のワールドカップフランス大会に家族を招待したい根塚はまず、目下の激しいサバイバルレースに挑む。走りたくても走れなかった経験を糧に、活力満点の走りを連発する。
◆根塚洸雅（こうが）プロフィール
1998年９月15日、兵庫県出身。尼崎ラグビースクールでラグビーをはじめ、東海大仰星２年時に全国制覇。同高卒業後は「同窓生の多い環境で甘えたくない」という理由で法大へ進学し、４年時に共同主将に。2021年にクボタスピアーズ船橋・東京ベイに入団し、リーグワンで新人賞を獲得。６月18日のウルグアイ戦で代表デビューを飾り、この試合で１トライも奪った。173㎝、82㎏

スポーツライター　1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』（双葉社）がある

向風見也

初夏の日本代表最終戦を終えた直後、大黒柱を担うリーチは注目選手として試合に出ていなかった人物をあげた。彼は心臓に抱える疾患を乗り越えてひのき舞台にたどり着いた苦労人だった。

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