<h3>全話無料！？　いったいなぜこんな“魔”の広告戦略を…</h3>
「Twitter広告の『ザ・ファブル』、100パーセント面白い」「Twitter広告が全部ファブルになればいいのに」など……。
実写映画化も2回されている、南勝久さんの漫画『ザ・ファブル』のTwitter広告にハマる人が、この夏、大量発生していた。
『ザ・ファブル』は、伝説的な強さゆえに裏社会でも「ファブル」（寓話）というあだ名のみ知られる天才殺し屋が、ある日、ボスから1年間殺し屋を休業して大阪で一般人として暮らすことを命じられるという物語。「佐藤明（アキラ）」という偽名を与えられた主人公は、パートナーの「佐藤洋子（ヨウコ）」（偽名）と平和に暮らそうとするが、次々にトラブルに巻き込まれ……。
正直、バイオレンスや裏社会系を描く漫画に興味がない層は、手にとらない作品かもしれない。しかし、twitter広告の中身をのぞいてみると、そこにあるのは、酒豪ヨウコが男を酔い潰して遊ぶ酒シリーズや、殺しの天才が描く幼児のような無邪気なイラストシリーズなどなど……。「何これ、ギャグ漫画じゃん！」「ほのぼの、キュートすぎる！」という驚きから、試し読みを始め、深みにハマってしまう人が多いのだ。
いったいなぜこんな魔のTwitter広告を？　作者・南勝久さんのデビュー時からの担当編集・ヤングマガジン編集部の田坂清志さんに聞いた。
<figure id="attachment_265161" aria-describedby="caption-attachment-265161" style="width: 800px" class="wp-caption alignnone"><img loading="lazy" class="wp-image-265161 size-full" src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/0_049288_0800x0800_220609163410.jpg" alt="" width="800" height="800" data-expapp-watermark-gravity="none"><figcaption id="caption-attachment-265161" class="wp-caption-text">全話無料…いったいなぜ！？　最新第5巻『ザ・ファブル the second contact』11月4日発売予定！</figcaption></figure>
<h3>凄まじい反響だったTwitter広告…今までとは違う読者層も</h3>
「Twitter広告はマガポケをはじめ、各社で出してもらっていて、僕は最終的に監修としてチェックするだけなんですが、相当な宣伝費をかけてもらい、良いチョイスをしていただいていることで、ありがたいことに若い世代や女性など、今まで届いてなかった読者層に届いていることを感じます」（田坂清志さん　以下同） 
実は連載開始当初は、売上がいまひとつ伸びなかったという。ところが、徐々に評判になり、映画化やTwitter広告の影響もあり、今では紙よりデジタルのほうが圧倒的に売れる状態に。 
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「宣伝が始まったばかりの頃は、どこも内容がかぶっていたんですね。本当はものすごく強いのに弱いフリして、殴られて泣くというシーンばかりで、それは非常にキャッチ―なんですが、正直、『またここかよ（笑）』みたいな。 
でも、時間をかけてバリエーションが増えていく中で、ヨウコのお酒やアキラのイラストなどのシリーズが出て来た。 
面白いと言っていただける一番の理由は、週刊連載18～20ページの構成が、ざっくりと３シーンか多くても5シーンぐらいの積み重ねで続いていくため、Twitterでワンシーンを切り取りやすいんだろうなと。 
主人公兄妹が普通を目指して暮らすほのぼのパートや、ほのぼのから派生するギャグパート、そこから一転してヤクザや裏社会の人たちのバイオレンスパートもあって、キャラクターのバリエーションがありつつ、それぞれ3種類の風味が重なりあって、それらから切り取りやすい形になっていることがある気がします」
Twitter上では「Twitter広告きっかけで全巻買いしてしまった」というつぶやきも散見される。その一方で、９月末まで全話無料という大盤振る舞いで商売になるのか不思議なほどだが。
「当初はデジタルでの無料試し読みは、これまで買ってくれた人たちに申し訳ないと思ったところもありました。でも、営業担当者は『絶対やったほうが良い』と言うので、南先生の了解の上、制限を持たせず、どんどんやってくださいということで全話無料にしました。 
実際、『（無料で）見せれば見せるだけ売れる』という結果が明らかにステータスにも出てきていますので、やはり知ってもらってなんぼだなと。 
びっくりしたのは、期間限定で1日数話ぐらいしか読めないのに、ポイントを獲得しまくったり、デバイスを分けたりしつつ、すぐに全話読み終えた猛者もいること。 
正直、絵柄からしても、コンビニのレジ横にあるスイーツみたいに、必ずみんなが取って食べるようなものじゃなく、どちらかというと油っこかったり、パンチが強かったりするのに、まず無料で読んでもらえたらハマっていただけた。漫画の売り方はいろいろありますが、『ザ・ファブル』はtwitterと相性が良かったのだと思います」 
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<img loading="lazy" class="alignnone size-full wp-image-265162" src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/B1_044543_0800x0800_211126181630.jpg" alt="" width="800" height="800">
<h3>リアリティを追求するために…作者・南勝久さんの徹底した「準備」</h3>
南勝久さんは、中学を卒業後、職人系の職を転々とし、1999年に『ナニワトモアレ』で第41回ちばてつや賞準大賞を受賞し、デビューした漫画家だ。田坂さんはちばてつや賞受賞の際に自ら手を挙げ、担当になった。
「お父さんとの約束で、『30歳までに漫画家になれなかったら諦めろ』と言われていたようで、30歳目前に夢が叶ったと言っていました。若い頃に漫画家になりたくてチャレンジしていたけど、結果が出ず、いろいろな仕事をしながら、もう1回チャレンジしたのでしょう。 
デビュー作に惹かれたのは、ヤンチャな不良たちが非常にリアルで生々しかったから。今でもときどき、漫画を読んでいるはずなのに、生きている人間たちのドキュメンタリーを見ているような錯覚に陥るんです」
自身が環状族だったことや様々な職を転々としてきた異色のキャリアなどもあり、３～４シーンの構成で思いがけない組み合わせが生まれてくるという。例えば、バイオレンスが続き、しんどくなりそうなときに、ギャグやほのぼの日常が挟み込まれる塩梅は絶妙だ。
「読者の方がちょっと重い展開が続いてきて辛いなと思う感覚は、おそらく作者も同じように感じていると思うんですね。計算ではなく、そうした本能的感覚で硬軟織り混ぜて描けるのは、天性の勘というか。とぼけた味わいの面とハードの面と両方あり、ハードの中に笑いがちょっと入るからこそ、人間のリアリティが出るんですよね」
リアリティの追求のために、南さんがやっていることは多数ある。例えば、主人公・佐藤アキラが２日ほど山籠もりし、蛇を捕まえて食べる描写は「やってみなきゃわからない」ということで、実際にやってみたことの一つだ。
「サバイバルは僕もよく誘われていたんですが、僕は行く行く詐欺で、全然行かないから、もう誘われなくなりました（笑）。 
もともとは漫画を描くためにサバイバルしたそうですが、意外に面白く、そこから趣味になってきたそうで、いまだに年に２回ぐらい、連載にお休みが入る時期に２泊３日などで仲間たちと定期的に山にこもってらっしゃいます。キャンプというにはかなりハードで、食材も現地調達で山や海でいろいろとって食べるそうです」
もともと『ナニワトモアレ』で圧倒的に強く、人を惹きつけるキャラ・ゼンちゃんが発想の元になり、殺し屋の設定ができ、そこから「殺し」を封じられる物語が生まれていった。
「佐藤アキラの場合は強くなろうと思ってなったわけではなく、幼少時から鍛えられ、職業として命じられて人を殺してきたわけです。ある意味純粋で殺ししか知らない人だから、何か欠けていたり、歪んでいたりするだろうということで、一般の暮らしの部分を描くと面白いだろうと。 
それでも根本的に感度も高いし、適応力もあるし、何でも突き詰めるプロなので、お世話になった人への思いが生まれてくると、そこに可愛らしさが感じられるんですよね」 
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作者の南さんもやはり、佐藤アキラ的なのだろうか。
「佐藤アキラ成分はあると思いますよ。『プロとしてー－』は南先生自身の口グセで、原稿を落としたことは一度もないですし、そもそも毎週締め切りに合わせて原稿をあげてくる漫画家さんがほとんどの中、南先生は不都合な点が見つかったり、もっと良い方向が見つかったりしても対応できるように、1週分前倒しで原稿を準備されているんですね。
仕事をしていてもルールをしっかり守られる方ですが、一般社会の中で常識とされることに対して、良い意味で疑問の目をいつでも持っているところも似ています。それに、実は南先生もデジタルが苦手なんですよ。何度か引っ越されながらも、デビュー時からずっと大阪に住んでいらっしゃるので、打ち合わせもデビュー時から今までずっとFAXで、直接お会いするのは1年に4～5回くらい（笑）。もちろん電話はよくしますが、電話の声を聞いただけで先生の体調がわかります」
また、特異な点は、リアリティを追求するための徹底した「準備」だ。
「南先生はご自身であらゆるジャンルの本を読んで、下調べを徹底的に行います。例えば、毒キノコを使う殺し屋のエピソードでは、ターゲットの普段の行動パターンや脱出経路等を探りつつも、ひたすらキノコ栽培をする様子を描いています。このトリックが非常にリアルで、実際にあるヒトヨタケという毒キノコを食べた後にアルコールを摂取すると嘔吐や眩暈を引き起こす性質に着目し、毒キノコとオリジナルの毒カビを合わせて毒性をあげた上で、その成分を食べ物に噴射。しかし、その時点では何も起こらず、アルコールをとった瞬間に発症するというのは、事実にフィクションを混ぜ合わせた技ですよね」
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さらに、リアリティを追求するために本物を実際に作ってしまうという驚きのエピソードも。
「実際に登場する車を作ったり、『ザ・ファブル』に登場する大きな倉庫も、実際に作って、仲間たちの秘密基地みたいになっています。面白かったのは、宇津帆というキャラを作るとき。 
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様々な社会的タブーを犯すキャラということで、だったらどんなところに住んでいるのだろうと考え、実際に不動産を探して部屋を借りて、内装もいろいろ設えて、その上でキャラクターをイメージして描かれていました。 
それで、そのエピソードが終わり、必要がなくなったりしたら、部屋の契約を解約するとか、不要になったものは売るんです。たぶん不動産探しを実際にしているときの気持ちなどもキャラクター設定につながっていくんでしょうね」 
ちなみに、現在連載中の第二部では、コロナ禍の現在が舞台となり、殺し屋を廃業した佐藤たちが生活費を稼ぐために「レンタルおっちゃん」などをするという意外な展開に。
「長期連載をしていたので、第一部終了後に1年くらい何もしないぞと先生が決められた矢先にコロナ禍がやってきて。それで、取材や移動などができなくなり、当初思い描いていた構想ができなくなって生まれた物語ですが、そこにも数々のリアリティが詰め込まれていますので、どうぞ今後の展開にご注目下さい」
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1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）、『KinKiKids　おわりなき道』『Hey!Say!JUMP　9つのトビラが開くとき』（ともにアールズ出版）など。

田幸和歌子

「Twitter広告の『ザ・ファブル』、100パーセント面白い」…。南勝久さんの漫画『ザ・ファブル』のTwitter広告にハマる人が、この夏、大量発生していた。いったいなぜこんな魔の広告を？

ハマる人続出！『ザ・ファブル』のTwitter広告が最強なワケ

『ザ・ファブル』第１話

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