<figure id="attachment_267462" aria-describedby="caption-attachment-267462" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cc3e3223"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/fb95767ffd047977ee083a9d4ba94a7e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267462" class="wp-caption-text">ウクライナ独立記念日に、キーウで展示されたロシア軍の戦車にまたがる子供。ブチャで回収された戦車もある</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「子供たちが遊ぶテントで取材をしていたら、近くで大きな爆発音が聞こえました。びっくりしていると、子供が無言で、地雷が描いてあるポスターを指差したんです。子供たちが地雷の爆発音に慣れてしまっている異様な状況でした」</span></p>
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<p>今年２月末、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャに侵攻したロシア軍は、１ヵ月にわたって街を占領した。フォトジャーナリストの小野寺翔太朗氏が現地に入ったのは、今年６月。それから３ヵ月間、戦禍の傷跡が生々しく残るブチャの街と人々をカメラで捉え続けた。</p>
<p>市街地で小野寺氏が目撃したのは、共同墓地に身元が特定できない遺体を埋葬する男たちの姿だった。名前がわからないため、墓標には３桁の通し番号が記載されている。掘った穴に複数の棺(ひつぎ)が納められると、ブルドーザーで土を被せた。</p>
<p><span class="strongInContent">「『ブチャでの虐殺はなかった』というプロパガンダは、今でも世界中に蔓延(はびこ)っています。だとしたら、これだけの身元不明の遺体が街中に埋葬されているわけがありません。占領下で、義母をロシア兵に銃殺されたイエレナさんの話を聞きました。ロシア兵は、イエレナさんが義母の遺体を墓地に埋葬することすら許さなかったそうです」</span></p>
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<p>ロシア兵の残忍な行動について、現地では次々と悲痛な証言が上がった。息子と一緒に暮らしていたイリーナさんは、我が子と同い年くらいのロシア兵に突然家に上がり込まれた。二人が地下室に逃げると、ロシア兵に「女だけ出てこい」と要求されたという。イリーナさんが表に出ると、ロシア兵は彼女が隠し持っていた１０００ドルを強奪したうえ、「周囲を案内しろ」と隣の空き家に彼女を誘導し、性的暴行を加えた。</p>
<p><span class="strongInContent">「暴行した後、ロシア兵は逃げるように去っていったそうです。地下室で息子と再び顔を合わせたイリーナさんは、『無事だったか』と聞かれても、息子と同い年くらいのロシア兵に犯されたなどと答えることができなかった。彼女は今でも悪夢にうなされる日があると言います」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="拷問で息子を失った母親は…"></div>
<h2>「まだ運が良かった」</h2>
<p>ブチャの人々は、愛する家族を喪(うしな)い、心と身体に深い傷を負った。ロシア軍がキーウから撤退して半年が経っても、それは癒えない。「明日何が起こるかわからないから、とにかく毎日を生きるのに必死だ」と、住民は口々に言う。</p>
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<p>ブチャの隣町・ホストメルには空軍基地の置かれた空港があったため、ロシア軍の猛攻を受け、民間人にも大きな被害が及んだ。この街に住む一家の住宅は砲撃を受け、外壁を残して瓦礫(がれき)と化した。祖父が避難させようと乗り込んだ車は、ロシア兵の攻撃を受けて全焼。それでも一家は同じ場所で暮らすために再建を決意した。</p>
<p>ガレージの外壁のレンガを自力で積み上げ直し、妻は無事だった土地を耕し、厳しい冬に備えて畑を作り始めた。「家が壊されたくらいで、私たちは新しい生活ができる。まだ運が良かった」と、この夫婦は語ったという。一方で、「ロシア軍が何をしたいのか、本当にわからない」、とも。</p>
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<p><span class="strongInContent">「息子の一人が拷問で命を落とし、もう一人の息子も重傷を負ったという母親を取材しました。息子たちは民間人のボランティアをしている最中に攻撃に遭ったそうです。なにもしていなければ無事だったかもしれない。でも、母親は『悲しんでいる場合ではなくて、いつか病床から戻ってくる息子を世話するためにも、私が強くならなければならない』と言っていました。前を向いているというより、前を向かざるを得ない住民もいます」</span></p>
<p>ブチャの街に灯りや子供たちの笑顔が戻ってきている。一方で、プーチン大統領は兵の増員や核の使用をちらつかせ、戦況は長期化の様相を呈する。懸命に復興の道を歩んでいる住民を脅かす権利が、いったいどこにあるというのか。</p>
<figure id="attachment_267463" aria-describedby="caption-attachment-267463" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9affe859"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/0602390825c3baa083dcad2cb0f675fe.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267463" class="wp-caption-text">市街の共同墓地で、身元不明の遺体を埋葬する男性たち。ロシア占領下では自由に埋葬することも許されなかった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267457" aria-describedby="caption-attachment-267457" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="057c2289"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/dd044f173cada83b4ef0bd3c9173b63a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267457" class="wp-caption-text">ブチャの隣町・ホストメルに住む家族は、ロシア軍の砲撃で住宅を破壊された。瓦礫になった家を直し、再び住むと言う</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267458" aria-describedby="caption-attachment-267458" style="width: 1898px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="da5e7d60"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/4d3a202ad16ad8d2de7922e1f8de315c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267458" class="wp-caption-text">ホストメルの一家の祖父が車を移動させようとした際、ロシア軍の砲撃を受け全焼。幸いにも祖父は救助され無事だった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267455" aria-describedby="caption-attachment-267455" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5a32176a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/5c14a486664927b5b36688e1a1ffb8a4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267455" class="wp-caption-text">イリーナさんは息子を地下室に閉じ込められ、隣の家でロシア兵に性的暴行を加えられた。今も悪夢を見るという</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267454" aria-describedby="caption-attachment-267454" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="28e19f00"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/d782372a23d205de0ca7ed99ecaed56a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267454" class="wp-caption-text">イエレナ（左）とアリャッグさん夫婦は、別の村に住む娘を占領時に亡くし、アリャッグさんの母も射殺された</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267461" aria-describedby="caption-attachment-267461" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7236e864"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/52dcd815f3578054cc0e25f7ae236294.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267461" class="wp-caption-text">150体以上の遺体が埋められていた聖アンデレ教会で、ウクライナ正教の聖三位一体記念日に祈りを捧げる人々</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267456" aria-describedby="caption-attachment-267456" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="35134345"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/e2325fb3c5fce24c0088f2e59528047d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267456" class="wp-caption-text">ロマンさんはロシア軍の攻撃で負傷し、16回の手術を重ねた。元通りの生活に戻れるまで、まだ治療が必要だ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267460" aria-describedby="caption-attachment-267460" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4120076a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/c990d42ffbda7a1f0d33a53741a8bbae.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267460" class="wp-caption-text">ブチャ中央広場。10歳の少女（左）は、自分より年下の子供たちの世話をするため、ユニセフのボランティアを始めた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267459" aria-describedby="caption-attachment-267459" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3766599b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/c8705bc5dcadd8e167f5237cbae38d1a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267459" class="wp-caption-text">ユニセフのテントで遊ぶブチャの子供たち。警報が鳴ったら、子供は地下シェルターか家に避難しなければならない</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2022年10月14日号</p>


小野寺翔太朗（フォトジャーナリスト）

復興に向けて前進しているキーウ近郊の街、ブチャ。だがいまだ人々の心身の傷は癒えないままだ。埋葬地で身元不明の遺体を運ぶ人々、性的暴行を受けた女性、家族を殺された夫婦…。この街の現状を追った――。

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