月に5500万稼ぐ人も!ゲーマーを支える「配信ビジネス」のいま
eスポーツの現場から 第2回:ゲーム配信プラットフォームTwitch社 中村鮎葉
2018年、流行語大賞のトップテンに入るほど大きな注目を集めた「eスポーツ」。日本国内でも、数々のイベントが開催され、競技人口も右肩上がりだ。その熱狂のど真ん中、eスポーツの「現場」にいる当事者たちはこの盛り上がりをどう感じているのか。
第2回目は、ゲーム実況を中心とした動画配信サービス「Twitch」の日本人社員第一号である中村鮎葉氏。Twitchの月のアクティブユーザー数は全世界で1億人を超え、配信を行うストリーマーの数は200万人ともいわれる。配信者と視聴者の間にいる中村氏に、日本eスポーツの現況を訊いた。
Twitchとeスポーツは一緒に成長してきた
――ゲーム配信プラットフォームとして、世界でも筆頭に挙げられるTwitchですが、日本ではまだまだ知名度は高くありません。まず最初に、他の動画配信サービスとの違いを教えていただけますでしょうか。
中村鮎葉氏(以下中村):Twitchは「Justin.tv」という配信プラットフォームを母体に、ゲームに特化したプラットフォームとして2011年に誕生しました。当時はゲーム実況しか配信されていませんでしたが、最近では「ゲーマーが集まる場所」をテーマに、ゲーマーが料理をしたり、雑談をしたり、散歩したり、そういった「ゲーマーの生活に関わるすべての動画」を配信するようになりました。実際、現在の日本のTwitchだと、雑談やトークの配信が多くなっています。日本での視聴者は右肩上がりで、いまでは全世界でトップ3に入る急成長ぶりをみせています。
――配信サービスを運営する立場から見て、現在の日本eスポーツに関してどういった感想を持っていますか。
中村:ご存知の通り、世界ではすでにeスポーツが盛んな国が多く、ポジティブなニュースも年々増えています。ゲーム会社以外の企業が参入するケースもよく耳にしますね。日本ではようやくムーブメントの第一波が来た感じですが、海外では次の段階、第二波ともいえる波が来ています。日本はそれに比べると遅れを取っているのは確かですが、ここ数年の急成長はかつてない速度感だと感じています。
eスポーツとTwitchは一緒に成長してきました。eスポーツ大会がストリーミング配信を後押しし、ストリーミング配信がeスポーツ自体の知名度を上げている。良い関係性と相乗効果が表れているのだと思います。
――Twitchにはゲーマーをサポートする様々な機能があると思いますが、その一つにストリーマーがゲーム配信で生計を立てられるシステムがありますよね。
中村:はい。Twitchは視聴者が配信者を直接支援できるようなシステムを設けています。一つが「サブスクライブ」です。特定のクリエイターが配信するチャンネルに月額でお金を払うことで、それがクリエイターの収入になり、支援することができます。無料で視聴することも可能なのですが、応援したいという気持ちから能動的に支援する人も少なくありません。
もうひとつは「ビッツ」と呼ばれるTwitch内のデジタルグッズを利用したもの。ゲーム内で何か素晴らしい結果を残したり、視聴者のリクエストに応えるプレイをした配信者に、都度ビッツを贈るシステムです。
Twitchはサブスクライブやビッツの一部をロイヤリティとしていただいていますが、基本的にはクリエイターにお金が回るように考えています。Twitch自体はあくまでプラットフォームで、コンテンツを提供しているわけではありません。なので、配信者などのクリエイターのみなさんが最も大切。「クリエイターファースト」を大事にしています。
自分の支援が、面白い動画に繋がる
――海外のNinjaというストリーマーは月50万ドル(約5500万円)を稼いでいるというニュースを見たこともあります。ちょっと信じられない金額です。一方で、視聴者側がTwitchを使う利点はあるんでしょうか。
中村: クリエイターがマネタイズできるシステムがあることで、才能豊かなクリエイターがたくさん集まってきます。すると、視聴者にとっても面白い動画を見られるプラットフォームになる。視聴者にとって自分たちの支援が、自分たちの満足のいく動画に繋がるのです。それは他にない魅力ですよね。
Twitchは2014年にAmazonに買収され、傘下に入りました。なので「Amazonプライム」に加入すると「Twitchプライム」に追加料金なしで加入でき、Twitchで様々な特典を受けられます。日本ではあまり知られていませんが、海外ではTwitchの特典目当てでAmazonプライムに入る人も多いんですよ。
――Twitchはゲーム企業からの信頼も厚いですよね。
中村:ありがたいことに、色々な大会の配信も担当させてもらっています。例えば、『ストリートファイターVアーケードエディション』のツアー大会である「カプコンプロツアー」、その決勝大会で毎年12月に開催されている「カプコンカップ」は、もともとカプコンUSAとTwitchが一緒にはじめた大会だったんです。現在は、カプコン単体で行っていて、Twitchはメディアのみとなっています。
他にも『ロケットリーグ』というゲームタイトルの大会や配信も行っていますし、eスポーツイベントに関してはもっと大きな取り組みもやっています。先ほど言った通り、Twitchはコンテンツをあまり作らないのですが、クリエイターや企業がコンテンツを作る時にサポートできることがあれば、最大限協力させてもらっています。
日本にはそもそも「ゲーセン文化」がある
――eスポーツの話に戻りますが、2018年はeスポーツに大きな注目が集まった年でした。ずばり中村さんは、eスポーツが日本で定着していくと思いますか。
中村:eスポーツという括りではわかりませんが、ゲーム大会と考えると、日本では1990年代からずっと行われている、歴史ある文化なんです。それこそ、街のゲームセンターでは小規模ながらゲーム大会が頻繁に開催され、多くの聴衆を集めて盛り上がっていましたよね。オンライン、オフライン関わらず、ゲーム大会に参加して盛り上がるという経験をすでに日本人は体感しているわけです。なので、どんな形であれ、ゲーム大会とその文化自体は残り続けていくと思います。
――中村さん自身、『大乱闘スマッシュブラザーズ(スマブラ)』のプレイヤーとして活躍しており、eスポーツ大会の現場によく顔を出していますよね。オンラインプラットフォーマーの中村さんにとって、オフラインイベントについてはどのようにお考えですか。
中村: オフラインイベントって、同じゲームを好きな人同士が一つの場所に集まるので、間違いなく盛り上がるんです。オンライン大会だと、それぞれの家のゲーム機で参加できますし、会場も要らないので簡単に開催できるのですが、やはり盛り上がり方が違いますよね。ゲーム画面だけなく、プレイしている選手の表情や様子まで見せられるのはオフラインイベントならではですから。
ただ、開催までの敷居が高い。「スマブラ」のようにコミュニティ主導で大会を行う場合、ゲーム機やモニターなどの機材の用意や搬入、会場のレンタルから当日の運営、ゲームメーカーへの許諾といった、実施するまでにさまざまなハードルがあります。コミュニティによってはなんとかクリアできていますが、そうはいかないゲームタイトルも多い。こういったインフラ的な課題をもっと楽に解決できるようにしなければいけないと感じています。
――最後にTwitchと今後のeスポーツとの関わりについてお聞かせください。
中村:ゲームプレイヤーが気軽に動画配信でき、そこでマネタイズができることで、彼らがクリエイターとして活躍できるように支援し続けていきます。eスポーツの発展にはコミュニティの醸成がなにより重要。配信者と視聴者の架け橋になれるよう、今後も努力していくつもりです。
なかむら・あゆは/東京都生まれ。Amazonが提供するライブストリーミング配信プラットフォーム Twitch の日本第一号社員。『大乱闘スマッシュブラザーズ』のプレイヤーとしても活躍
- 取材・文・撮影:岡安学