<p><span class="strongInContent">「もう一度、もう一度だけ、満員の東京ドームのリングに上がってもらって、猪木さんの名前をコールしたかった。今年の3月にお会いした時も元気そうだったので、これはリングに上がっていただくこともできるんじゃないかと思っていたのですが。もう、その夢が永遠にかなわなくなった。残念で仕方がありません」</span></p>
<p>プロレス界の枠を超え、世界に元気を与え続けたアントニオ猪木が亡くなった。享年79。「燃える闘魂」の消失に日本中が悲しみに暮れたが、リングの中央を照らすライトが突然消えたかのような寂しさを感じている男がここにもいた。</p>
<p>リングアナウンサーの「ケロちゃん」こと田中秀和氏。新日本プロレスリングに入社して以来、40年近くにわたりアントニオ猪木を間近で見続けてきた田中氏が、ここに猪木との秘話、そして猪木への想いを明かす――。</p>
<figure id="attachment_269662" aria-describedby="caption-attachment-269662" style="width: 4000px" class="wp-caption aligncenter"><a href="#" data-ident_hash="a49306d3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/KIN_0258.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269662" class="wp-caption-text">「いまも自分の体には猪木イズムが染みついている」と語る田中秀和氏</figcaption></figure>
<p>〈田中秀和　1959年1月6日生まれ。新日本プロレスに社員として入社し、1980年8月22日、ジョージ高野×荒川真戦でリングアナウンサーデビュー。リングコールで独特の前口上を披露し、リングアナとして絶大な人気と存在感を誇った。2006年に新日本プロレスを退社後はフリーに転向し、現在も数多くの団体・イベントで美声を響かせている。〉</p>
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<h2>「猪木さんはここまで考えるのか……」</h2>
<p>猪木さんに初めてしっかりと挨拶をさせていただいた日のことは、今でもよく覚えています。1980年8月22日の「品川プリンスホテル・ゴールドホール大会」の控室でした。プロレス的な言い方をすれば、8・22。この日が、私の運命のターニングポイントとなりました。</p>
<div data-friday-gold-link-url="https://friday.gold/article/133550" data-friday-gold-link-title="さようならアントニオ猪木「燃える闘魂よ、永遠なれ」秘蔵写真公開" data-friday-gold-link-excerpt="いつまでも燃え続けると信じていた「闘魂」が、ついに消えた――。数々の死闘を繰り広げたその姿を通じて、日本中に勇気と活力を与え続けたアントニオ猪木。将星の消失に、多くの人が悲しみに暮れている。当時16歳" data-friday-gold-link-thumbnail-wide="https://media.friday.gold/image/upload/c_fill,dpr_2,f_auto,g_faces,h_144,q_auto:eco,w_256/v1/assets/2022/10/2a0a0866d28913ee8ff5b1e5731a1762.jpg?__cld_token__=exp=4102444800~hmac=0af1cae41b6a98b95f2394e769ac01a0c9dbc2d77d3de8f8efff22c845c248c0" data-friday-gold-link-thumbnail-square="https://media.friday.gold/image/upload/c_fill,dpr_2,f_auto,g_faces,h_105,q_auto:eco,w_105/v1/assets/2022/10/2a0a0866d28913ee8ff5b1e5731a1762.jpg?__cld_token__=exp=4102444800~hmac=631d913249bb4b271ffb5711c229f0ff6e5d9619b900d7bebc5c55980c50cbcd"></div>
<p>もともとプロレスファンだった私は、「新日本プロレスがリングアナを探している」という情報を聞きつけ、履歴書を持って新日本プロレスを訪ねました。幸運にもリングアナになれた私は、8・22のジョージ高野×荒川真戦でリングアナデビューを果たしました。このデビューの日に、新間寿さん（新日の要職を歴任）に案内されて猪木さんの控え室に挨拶に行ったのです。</p>
<p>「おお、頑張れよ」</p>
<p>たった一言ですが、リングアナデビューを報告した時の、猪木さんのこの一言が忘れられません。いわば、私の原点となった言葉です。想像していたよりも大きな猪木さんの顔と目に、ちょっと驚きましたが（笑）。</p>
<p>以来、今日に至るまでリングアナをやってきました。猪木さんの名前も何度もコールさせていただきましたが、「やり方を変えろ」とか「それじゃダメだ」と言われたことはありませんでした。</p>
<p>むしろ、新しいことや、お客さんが面白がることはどんどんやれというのが猪木流。それまで選手の体重を読み上げるときは「パウンド」で表すのが業界の慣習だったのですが、私は、それでは日本のファンには伝わりづらいと思い、「キロ」で呼ぶことに変えたんです。「190センチ110キロ、○○～！」というように。</p>
<p>また、選手の名前をコールする際に、お客さんを盛り上げようと短い前口上を入れたのですが、こうした変化についても、猪木さんはなにもネガティブなことは言いませんでした。お客さんが喜んでくれているかどうかが基準の一つで、幸いこうした演出はウケていたので、私のやることを認めてくれたのでしょう。</p>
<p>そう、猪木さんは常に新しい刺激を求めている人でした。マンネリになると、その文化や現象は終わってしまうと考えていたんだと思います。</p>
<p>たとえば地方巡業に行くと、よくご飯を食べに連れて行ってくれたのですが、そこで、対戦カードについての感想をよく求められました。私は、いち社員です。決定権があったわけではないのですが、カードがマンネリ化しないように、と思っていたのでしょう、「おい、今日のこのカードだけど、お前なら誰と誰が対戦すればファンは喜ぶと思う？」と尋ねてくるのです。</p>
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<p>猪木さんからの問いだから、私も真剣に答えました。その答えが反映されたかどうかはわかりませんが、どこまでも新しいことを考え続けているんだな、と襟を正す思いでした。</p>
<p>「この人には何を言ってもダメだな」と思わせる人がトップにいると、組織は変わりません。「猪木さんが新しいことを求めてるんだから、自分ももっといろんなことを考えよう」。下にいる人たちがみんなこう考える組織だったからこそ、新日本プロレスは成長し続けたのだと思います。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="子供たちのために"></div>
<p>そうそう、地方巡業といえば、猪木さんは遠征先でのファンとの交流もおろそかにしませんでした。巡業に行くと、どこで聞きつけたのか、地元の子供たちがサイン色紙を持って、猪木さんが泊まる旅館やホテルにやってくるんです。猪木さんはその日も試合があるわけですが、子供たちに向かって「色紙の裏に君たちの名前を書いて、また明日ここに来なさい」と言うんですね。</p>
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<p>すると、どんなにその日の帰りが遅くなっても、猪木さんは自筆で子供たちへのサインを書いていました。サインを後輩やスタッフに代筆させるレスラーもいた中で、これはなかなかできることではありません。翌朝、サインを受け取った子供たちの笑顔は忘れることができませんよ。</p>
<p><a href="#" data-ident_hash="58b29f7b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/KIN_0096.jpg" alt=""></a></p>
<p>猪木さんはファンの前では常に「アントニオ猪木」であり続けましたが、私たちには時々、「人間・猪木寛至」の顔を見せることがありました。</p>
<p>いわゆる「両国暴動」が起きた日の夜のことです。</p>
<p>（注：両国暴動　1987年12月27日、両国国技館で長州力がアントニオ猪木に挑むシングルマッチが組まれていたが、ビートたけし率いる「たけしプロレス軍団」が、軍団の刺客ビッグバン・ベイダーと対戦することを猪木に要求。猪木がこの挑戦を受けると表明したため、猪木・長州戦を楽しみにチケットを買ったファンを中心に会場に不満が渦巻いた。その後、もろもろの展開を経て、猪木がベイダーと対戦するも3分弱で敗北したため、ファンの怒りが暴動に発展。田中リングアナがリング上で土下座するも観客の怒りは収まらず、客席の一部が破壊されるなど、社会問題となった）</p>
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<p>あの試合の後、私は文字通り這々の体で家に帰ったのですが、その直後に猪木さんのマネージャーから「会長（猪木）が、田中さんと飲みたいと言っています」と電話がかかってきたんです。どんな狙いがあったのかはわかりません。リング上で頭を下げた私を慰めようとしたのかもしれません。とにかく、猪木さんの自宅まで飛んで行ったら、猪木さんがお酒を飲みながら、「ケロ、誰も暴動を起こしたいなんて思ってやってるわけじゃないんだよ」と漏らしたんです。あ、初めて自分の前で猪木さんが本音を言った……と動揺したことを覚えています。</p>
<p>あの闘いも、猪木さんはファンを楽しませようと思っていろんな試みを仕掛けたこと。ところが、珍しくファンにその意図が伝わらなかった。それが猪木さんにとってはショックだったんでしょうね。</p>
<p>それでも、あれは偉大な挑戦でした。常に新しいことに挑戦し続けると、どこかでハレーションが起こるのは当然です。でも、そこで猪木さんは歩みを止めようとはしなかった。まるで引退の時に読み上げた詩のように、危ぶむことなく、迷わず進んだわけです。「to be continued」、常に先へ先へ物語を続けるのが、猪木さんの原動力であり、私たちのエネルギーの源だったんです。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="俺たちの猪木イズム"></div>
<p>その連続する物語に、ついにピリオドが打たれてしまいました。もちろん、悲しいです。悲しくて仕方がありません。</p>
<p>でもね、こうも思うんです。猪木さんをそばで見続けてきたことで、私の中にも猪木イズムが根付いています。</p>
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<p><span class="strongInContent">常に新しいことを考えること。</span><br>
<span class="strongInContent">常に行動し続けること。</span><br>
<span class="strongInContent">常に目の前の人を喜ばせること。</span><br>
<span class="strongInContent">予定調和で生きないこと――。</span></p>
<p>猪木イズムは私のなかで生き続けています。レスラーだけでなく、猪木ファンにも、そのイズムは根付いていると思います。このイズムを絶やさずに、次の世代にも伝えていく。それが、猪木さん亡き後に、自分たちができることなんじゃないかって。</p>
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<p>悲しみに暮れてばかりはいられません。猪木イズムを広めるためにも、私自身、これからも新たな挑戦を続けていきたいと思います。</p>


鬼怒川毅

「もう一度、もう一度だけ、満員の東京ドームのリングに上がってもらって、猪木さんの名前をコールしたかった。今年の3月にお会いした時も元気そうだったので、これはリングに上がっていただくこともできるんじゃな

田中ケロリングアナが明かす「猪木イズムに学んだ人生の本質」

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