<figure id="attachment_269823" aria-describedby="caption-attachment-269823" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="51058564"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/2021062208758.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269823" class="wp-caption-text">アメリカ・ニューヨークで配送カートを引くアマゾン配達員。ひとりでものすごい量の荷物を運ぶ姿は日本だけではない（イメージ画像、写真：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>AIに「助け合い」は読み取れない</h3>
通販大手企業のアマゾン・ドット・コムは、売上高や商品受注から配達までの迅速さで「世界一」を目指し、「地球上で最もお客様を大切にする」ビジネス精神で、質の高いサービスを実現し顧客をとりこにしてきた。
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一方で、問題も生じているようだ。元アマゾン社員に聞いた。
「外部から優秀な人材をとってくるだけで、あそこまで成長したことは、本当にすごい。そういう意味でもアマゾンは立派だと思う」
こう素直に驚くのは、国内各地にあるアマゾンの物流拠点（FC）や配送拠点（DS）で働いた経験がある西野加津子さん（仮名、50代）。
かくいう西野さんも、外資系食品企業で働いていたところを引き抜かれた一人だ。
前職は、「（食品を）作る会社ではなく、人を作る会社」として社員育成を企業理念の中心に据える職場で、目標に到達するまでのロードマップを明確に提示していた。店舗で働く仲間との間では、「いっしょにがんばろう」というチームワークの精神が醸成されていた。
当時と比較すると、アマゾンへの転職は「『180度違う会社に来てしまった』という感じでした」
そして西野さんはこう続ける。
「（アマゾンは）人を褒めないで成り得る企業があるんだろうか、と不思議に思うくらい人を褒めなかった。前職で大事にしていた『助け合いの精神』はむしろ邪魔になる感覚でした。アマゾンでは自分はお荷物だったのかもしれない」
社員同士でも「いかに（他人より）のしあがっていくか」が重要視されていた、ということだろう。申し訳なさそうに振り返る西野さんが言っていることは、いったいどういうことだろうか。
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前職の外資系企業で従業員それぞれの力を引き出し、チーム一丸となって業績をあげていた腕と能力を認められ、アマゾンではFCにおける出荷工程の管理者として採用された。
FCでは、従業員がカスタマーから受注した商品を棚から選んで箱に詰め、トラックに乗せるまでの業務がある。西野さんは、レールの上を流れてくる荷物を、間違いのないように配達先エリアごとのカートに乗せるという工程を管理した。
担当部署では冷蔵庫や洗濯機などの重量品を扱っていたため、動きはそれほど早くないが、一人で作業するのが危険なこともあった。小型冷蔵庫とはいえ、縦に２台積んだ高さのカートを一人で移動するため、体力がなければ務まらない。それでも重量のあるものは、従業員に一人で運ばないよう声をかけたり、自分でも手を貸すこともしばしばあった。
だが、ことアマゾンにおいては、「助け合いの精神」は業績に邪魔になるだけだった、と感じたという。
FCでの労働は、すべてAIによって秒単位で記録されている。毎日、出勤時にはタイムカードを押すが、出勤から作業開始までの時間や、商品を一つずつ処理する間の所用時間、作業終了と退勤時にタイムカードを押すまでの時間などが細かく時間管理されている。迅速さが求められる中で他人を手伝っていれば、グループ全体のスピードアップのために手伝ったとしても、自分の作業は遅くなる一方。「時間内に求められた仕事量を消化できない」という理由で、マイナスの評価に直結する。残念ながら、AIに「助け合い」は読み取れない。
しかも、各人の記録は計算して割り出され「生産性」の優越として、最上位から最下位まで全員分が職場に貼り出されるという。機械的にはじき出された数字をもとにして、ある一定数の人が毎年、職場を去っていく。その理由には「人事担当にも人切りノルマ があるからだ」と西野さんは聞いた。会社側は「新しい知見を得るためには（人を）入れ替えることが必要」だ、という方針のようだった。
<div data-friday-nextpage-lead="「アマゾニアンはブレーン」でも…"></div>
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<figure id="attachment_269824" aria-describedby="caption-attachment-269824" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c381073b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/2022062009868.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269824" class="wp-caption-text">西日本にあるアマゾンの物流拠点で行われる仕分け作業（イメージ画像、写真：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>アマゾンを辞めた元正社員の苦境</h3>
「遅いなら遅いなりに何かしらの理由があるはず」と考えた、西野さんのような人間的な感覚は通じない。元アマゾン労働者たちが、FCやDSでの仕事がきつい理由のひとつとして、「人間扱いされないこと」とインターネット上にコメントを書き込むのは、そのせいかもしれない。
西野さん自身、DSに配属された当時、新しい作業についての手順を教えてもらえないか同僚に頼んだところ、「きみに言っても理解できない」と軽くあしらわれたことがあるという。
マニュアルはあるが、スピード感ある作業と同様、業務工程が日々、目まぐるしく変化するためマニュアル化ができず自分たちで作って教え合うしか方法がないのだ。ところが現場では、西野さんのようなマネージャーでなければ、「自分で考えて」と突き放されるばかりだという。これではできない人が改善して、できなかったことができるようなことにはならない。仮にパフォーマンスがあがらなくても、ネームバリューの高いアマゾンへの応募者は後をたたないため、かわりはいくらでもいるという、考えてみれば残酷な仕組みだ。
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アマゾンでは常に生産性と効率性の向上を目指していることから、西野さんは荷物を運ぶバッグの占有率を高める施策を編み出したことがある。配達員が、効率よく荷物を運んでトラックに積むことができるようにと考えた。
西野案にもとづいて実行されたのは、たった一晩。西野さんが現場にいない間に、夜勤シフトでうまく事が運ばず、次の朝には施策自体が破棄されていた。何度か試した上で改善を重ね、より良いものとして活かしていこうという雰囲気ではなかった。「みんなで力を合わせる」ことを重視してきた西野さんにとっては衝撃的だった。
こうした努力もむなしく、気が付くと告知もされずにコーチングプランが始まってしまった。<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/263826">前回10月14日付で公開した大江さんの記事</a>内でも紹介した、個人の業績改善を目的とする指導プログラムのことで、西野さんは上司から「できないことが多すぎる」と指摘されてしまった。
しかし西野さんからすれば、覚える前に新しい業務の引き継ぎがなく、何も教えてもらえない上に、学ぶ機会さえ与えられていない。それ以前に、コーチングといえどもコーチできる人材がいないことが問題だ、とも感じていた。
コーチングプランをはじめ、その他の改善プログラムを実施すると告知がある場合は、承諾するか拒否するかの二択が提示され、拒否すれば退職金の説明を受ける。実施を承諾しても目標が未達であれば、そこで退職金の話があり、再挑戦することもできるが、再挑戦して未達なら、職場を去らなければならない。
「一度目をつけられた社員は、圧迫とも思える面接を続けられ、こうして自主退職するまで追い詰められる。とにかく会社は、自分で辞めるまで社員を追い詰めているようにさえ感じた」（元アマゾン社員）
コーチングプランを通して心身ともに追い詰められた西野さんは並行して、相次いで開設されたDSの準備に追われた。管理職だったため、立ち上げたばかりの24時間サイトが順調に稼働しているかを確認するために、早朝２時、３時に出勤していた。そんな過酷な労働を続けるうちに、５カ月連続で、残業時間数は「過労死ライン（100時間）をとっくにぶっ飛ばしているレベル」に達した。
幸いにして過労で倒れずに済んだが、「丈夫に産んでくれた親を恨むべきか感謝すべきか悩みました」。そう言って西野さんは苦笑した。
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このような元社員が訴えた現状について、アマゾンジャパンは「職場の安全性と働く方の健康のためにテクノロジーを活用していますが、AIによって働いている方の一つひとつの動きをすべてモニターしていることはない」と反論した上で、こう返答する。
「働く方々の健康と安全は、常に最優先事項です。Amazonはテクノロジーを活用して、作業を効率的にするだけでなく、誰もが安全に働ける環境づくりを目指しています。Amazonの文化は“リーダーシップ・プリンシプル”を軸に築かれており、お客様を起点に考え、コラボレーション、チームワーク、地域貢献を促すものです。お客様のご要望に応えるためにテクノロジーを活用しますが、働く方々の健康や安全、ウェルビーイングよりも優先するものではありません」
お客様の要望に精一杯応えるためにより高みを目指そうとするアマゾンジャパンの方針のもと、西野さんは会社からの執拗な退職勧奨に精神的に耐えられず転職した。
「みんなに気持ちよく働いてもらえるにはどうしたらよいか」——。今の新しい職場からはそういった西野さんの人間味ある管理者としての特性が見込まれた。
しかし、西野さん同様にアマゾンを去った元正社員（アマゾニアン）たちは、転職に苦労していると聞いている。
なぜかーー。働いているうちに感じられた「アマゾニアンはブレーン、派遣労働者は手足である」との考えが、派遣労働者などに対する偏見や上から目線の対応、年齢差別などにつながっているのではないか、その積み重ねによって「人との接し方を知らない、学ばないままだからだ」と西野さんは言う。
アマゾンは、クリックすることを惜しまない顧客に対して感謝の意を述べる。だが、残念ながら、（働く）人への感謝の気持ちは十分とはいえないのではないだろうか。

ジャーナリスト。人権や労働など社会的正義に関する問題を主に取材する。共著に『マスコミ・セクハラ白書』（文藝春秋）、『マンガでわかるブラック企業』（合同出版）など、共同翻訳には『ストする中国』（彩流社）があり、２０２１年１月に共同翻訳『世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』（明石書店）を出版

松元ちえ

インターネット通販大手のアマゾン・ドット・コムのHPには「地球上で最も安全な職場を提供することを目指す」と書かれている。しかしお客様の期待に応えようとするあまり、職場の安全が危ぶまれている実態があった

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